雷撃の紋章

ユア教 教祖ユア

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「そういえば、この乗り物は何だ?」

「これは『車』だ。隣の魔法国の魔法機構の町であったんだよなあ!俺、それ見て感動してよお!俺は魔法使えないから、悔しくて酒を飲みまくってたら、それが原因で死んじまって。」

「死因が急性アルコール中毒なんてウケる。」

アレイは酷い言い様だ。

「それで自分が不死人だって気付いて、靄で車にできるじゃんって思ってな。はっはっはっはっは。不死人でよかったと思ったね。」

「まあ、あんたがそれでいいなら…いいんじゃないか?」

「やれやれ…」

「あとどれくらいで着くの?」

「あと小一時間くらいだな。」

「早いわね。」

「それが車だからな。」

「そんなドヤ顔でこちらを見ないでよ…もう、結界なんてボコボコね…」

「全部破壊されたと思ってたが、そうでもないのか?」

「そんなことになったら、こんな冷静じゃないわよ。一部分が破壊されただけ。でも一部分でも破壊されてしまったら、結界の強度なんて一気に弱くなる。」

「結局、状況はまずいのには変わりないな。」

「そうね。」

少しすれば、もうエルフの領地に入った。

本来ならば部外者を警戒したエルフの姿を視れる筈だが、全くそんな姿は見えない。

「ここにエルフがいないのが、エルフの里がまずい証拠だな。」

「そうね…!」

クレイアは弓を構え矢を放った。

魔物の蟀谷に命中した。

「この乗り物に乗っても命中するのか。」

「舐めてもらっては困るわ。」

「あれか?エルフの里は。」

何か禍々しい空気が中心部に囲むようにある。

「そうね。普通はこうはなってないのだけど…!」

「やれやれ。これはまずいなあ。」

グルーも冷や汗を流している。

「後数分で着くぞー!降りる用意をしな!」

「分かった。」

エレストは剣の準備を終わらせた。

「着いたぞ!俺は戦闘民じゃないんで、後方支援に回るが、お前たちは気をつけろよ!」

「ああ、ありがとうな!」

全員は直ぐに降りる。

「さあ、ここからは戦闘だ!」

「取り合えず、皆を避難させながら出良いんだよね?」

「ええ!エルフの伝達は私がするわ!」

「じゃあ、モンスター共をしばくか!」

全員はエルフの森に入っていった。



エレスト視点


「入った途端にこれかよ!」

エレストは魔物と既に戦っていた。

「もしかしてアンデットか!」

ちゃんと息の根を止めないと、ずっと動き続ける厄介な存在だ。

恐らく、呪術師がいるのだろう。

「脳天焼け切れろ!『雷撃』!」

魔物の脳天に直撃し、倒れた。

(俺は非難の誘導とか大っ嫌いだ!どうにかして大本を叩きたい!今自分がいる場所は!?…子供のエルフは居ない…結界の中でも最初に壊れた方か…!どこにいる!結界を破壊した張本人は!何が目的だ!)

また魔物が現れる。

「ああもう、鬱陶しいな!」

首元に剣を突き刺し、そのまま力ずくで斬り付ける。

ちゃんと息の根を止めておかないと、後で挟み撃ちになる可能性がある。

「魔物が沢山いる方向にいるのか?」

エレストは音が大きく聞こえる方向へと向かった。

魔物やそれらから逃げているエルフを見つけた。

(クレイアからある程度の地図は教えられた筈だ。考えろ……ここは居住区じゃない…誘導されたのか?なら…)

「あっちか!」

エレストは今まで来た反対方向に走っていった。



エウル視点


「エレストが早々に行ってしまったせいで、皆とはぐれちゃった…」

エウルは杖を持ちながらずっと一人でぶつぶつと言っている。

「魔導士は絶対に一人にさせちゃいけないってー……」

魔物が蔓延っている。

油断なんてできない。

油断をせずともやられる可能性があるから、今絶賛ピンチだ。

「ううう…しかも迷ってしまった…」

エウルは基本的に自分で行くことが無く、誰かの後ろについていくような人生だった。

自分で何かをすることはあまりなかったようにも思える。

(あれ?)

エウルは人影を見つけた。

(エルフじゃあ…無い?じゃあ、誰?)

エウルは警戒する。


パキッ


(…しまった!?)

人影はふとこちらを見た。

そして何故か笑った。

「いけないよ。覗き見は。」

エウルは背筋が凍った。

「エルフではないみたいだけど、僕の敵みたいだから…死んでもらおうか。」

「その言葉、後悔しないで頂戴ね…!」

その言葉が強がりであることはエウルが一番分かっていた。

(多分この人が、エルフの里の結界を壊した…だけど一人?きっとこの人だけじゃない筈…)

「貴方が、エルフの里ここの結界を破壊したの?」

「ああ。」

「目的は?」

「それを言ったら面白くない。頑張って推理してみてくれ。」

「じゃあ、せめてヒントを頂戴。」

(…時間稼ぎをしないと、魔導発動まで保たない…!)

「ヒント?じゃあ、そうだなあ、俺達は虐殺できるほどの力を持ってる。」

「…はぁ!?」

「じゃあ、ヒントは終わり。時間稼ぎも終わりだよ!」

「ば、バレ…」

相手は剣を取り出し、エウルに急に走り寄った。

「凍てつけ。『魔導・氷槍アイススピア』!」

「魔導士か!ハハ、面白い!『魔法』の下方互換如きがどこまでできるか、見ものだな!」

直ぐに氷の槍が破壊される。

「下位互換ですって?上等よ!」

エウルは覚悟を決める。

「お仲間何人いるのかしら?聞かせてもらうわよ!誘導せよ。『光矢《ライトアロー》』。」

光の玉がエウルの周りを浮遊する。

(激しい音が聞こえるわ。魔物がきっと沢山いるのでしょう。だけど、魔法の音クレイアとアレイの魔法は無い…エレストの雷撃の音も。でも、結界を破壊したのが一人な訳無いし、きっとどこかに隠れてる。それとエレストの座標が分かったら簡単にテレパシーを飛ばせるんだけど…!今の状態では間に合わない。)

「俺に一撃でも与えたら答えてあげる。」

「言ったわね?」

エウルは魔導を起動させた。


クレイア・アレイ視点


クレイアはクレイアの父と口論していた。

「お前はまた勝手なことを!」

「何よ!私の話を無視したくせに!結局は私の言った通り、結界が壊れたじゃないですか!みんなが信じてくれないから、私は私の話を信じてくれる者に協力を依頼しただけ!」

「結界が破壊されたとしても、我らエルフだけで勝つことはできる!」

「いい加減にしてお父様!!エルフとしての誇りとこの国の民の命はどちらが大事だと思っているのですか!」

「それは…」

「我らが誇り高きエルフで居れるのは!誇り高き存在で居れるのは!すべて!守りたい存在を守れるほどの力があるからです!守れるから誇り高い存在なのです!森の守人だから守れるんじゃない、守れるから森の守人と呼ばれているんです!」

クレイアは父に背を向けた。

「アレイ、行くわよ。」

「分かりました。お姉様。」

「お父様。貴方に考えを改めよなんて言いませんが、どちらが正しいのかはいずれ分かることです。私達は戦場に赴きます。」

「待て、アレイも行くのか!?駄目だ危険だ!お前はまだ…」

アレイは笑った。

「ウフフ、お父様、私はもう守られるだけの存在じゃあありませんわ。この里に住むか弱きものの私を呼ぶ声がしているのです。それを無視はできません。」

二人は部屋を出た。

「さあ、行くわよ!アレイ!」

「勿論、お姉ちゃん!」

二人は高速で飛び出した。

クレイアは索敵魔法を使う。

「皆はあっちにいるみたいね!」

「…ねえ、お姉ちゃん。分かってくれなかったね。」

「良いのよ、どうせそんなことだろうと思ったわ。頭でっかちだもの。」

クレイアは弓を引いた。

「悪しき魔物よ!我が国の民を傷付けさせないわ!!!」

一発でこめかみを穿つ。

「地ならせ。『地弾ランドショット』!」

アレイも魔法で魔物を仕留めた。

「クレイア様とアレイ様!?お帰りになられたのですか!?」

「ちょっと遅くなって悪いわね!魔物を倒しに来たわ!」

「そうだから、早く安全な場所に行って!」

すると、剣がアレイに向かって飛んできた。

「アレイ!青の厄災から逃れよ。『 土壁ランドウォール』!」

土の壁に剣が突き刺さる。

「誰!?」

「あーあー。残念でしたと。僕は結界を壊した悪い人だよ。」

「…あなたが…!!」

「ちょっと骨のありそうなエルフだねえ。魔物じゃ、君たちを殺せそうにないし、僕が直々に倒すよ。さあ、皆を守りながら僕を倒せるといいね。」

その男は余裕綽々と笑っていた。
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