雷撃の紋章

ユア教 教祖ユア

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エレストは呪術師を睨みつける。

アンデットは普通の魔物や魔獣よりも弱くなる。

理由は簡単。

頭で考えられないからだ。

だから、エレストでも勝てる。

これが普通の魔獣なら、結構まずい状況になってただろう。

「森の守人がお前達に何かしたか?」

「いやあ?」

「そうだろうな。呪術師に人の心って無いのはもう知ってるよ。」

「呪術師を知っているだけのにわかが、呪術師を語るんじゃない。」

「俺の知り合いは、呪術師に殺されてる。それも何人も。」

産まれて捨てられて直ぐの赤ん坊。

自分が平民だと信じて疑わない何も知らない子供。

ずっと精神的に発達してない青年。

「…仲が良かった訳じゃないが、不愉快だったよ。呪術師なんかに殺されるなんてさ。」

例外無く彼らはエレストが帰ってきた時には無惨に死んでいた。

「でもお陰で、呪術師お前らの事はよく分かる。」

エレストは少しだけ怒りの混じった声で言う。

「…呪術師は…全員死ぬべきだ。それで俺と同じ身分無しの死んだ奴らが初めて報われる…!」

生きた者に、せめて生きた意味を。

報われず産まれて、報われずに死ぬなんてあまりにも残酷だ。

「生きた理由を…!俺が今から付けてやる。」

精神に障害のある男が俺に呟いた最期の言葉は、『何で俺は生きてるんだろう』だった。

それも分からないまま彼は死んだ。呪術師に殺された。

「まるで主人公の様に言うじゃないか。だが、そんな上手くはいかないよ。」

「別に上手くいかなくて良いんだよ。」

エレストは雷撃を放った。

「俺は最後に勝つ。ただそれだけで良いんだから。」

呪術師は結界を張って守っていた。

「勝利に貪欲なものは嫌いじゃない。」

呪術師は余裕そうに笑っている。

「しかし、私には勝てない。」

黒い玉が現れる。

すると、森が徐々に枯れていった。

「使えるものはボロ雑巾のようになるまで使う。これが鉄則さ。」

「ゴミのような理論だな!」

魔力の弾幕がエレストに降り注ぐ。

魔法が使えないからこんな乱雑な攻撃になるのだろう。

「…この野郎…」

(このままじゃ、エルフの里が魔力の無い荒野になっちまう…早く止めないと、!)

すると耳の辺りが痺れた。

「…エレスト…!」

どうやらエウルが座標を突き止めたらしい。

「…うおっ…何だ!?エウルか!?」

「ええ!ボスの場所が分かったんだけど…」

「ああ、俺も知ってる。というか、今戦ってる!」

「……はぁ!?」

エレストはそんなに驚かれても困るという感じだ。

「一人で戦ってるの…!?」

「ああ。」

呪術師の攻撃を避けながら言う。

「…誰と会話をしてる…?それほど暇じゃないだろう…!」

大きな魔弾が降り注ぐ。

(エウルならいけるか…?)

「魔力の奪う技を何とかできないか!」

「流石に呪術の解析は無理よ!呪文じゃないんだし!」

「魔力を吸い取ることを防ぐだけで良いんだ!」

呪術師は不機嫌そうにエレストに攻撃する。

「私達の技を防ぐなんて考えは捨てるんだな!」

「どわぁ!?」

エレストは爆発に吹き飛ばれた。

「……何とかするわよ…!もう!ヤケクソでやってやるわ!」

「頼む!」

「……ハイハイ。」

テレパシーが消える。

エウルの事だからどうせ直ぐに何とかなるだろう。

「…直撃するとこだったぜ…」

エレストは口に入った土を吐き捨てる。

「生贄になった時の人だった姿を見たことがあったのだろう?」

「……」

「お前もそうしてやる。紋章持ちは力を稼げる存在だからな。」

左手を掲げる。

すると、左手が光った。

「お前もかよ…!!!」

左手から刃が産まれる。

「この『刃の紋章』で斬り伏せてやる。」

魔弾が降り注いでいるなか、突撃される。

「チッ…!」

剣の激しいぶつかり合いが聞こえる。

紋章で作られた刃の方が圧倒的に硬い。

下手したらエレストの剣が壊れてしまうかもしれない。

(マオの時と違って変に振り回せないな…別に俺が使ってる剣技は、まだ極めれてないんだから…)

しかし、呪術師は待ってはくれない。

「このクソジジイめ…!」

「そこまで老けてはない!」

エレストの頬に黒い角のような形の物が掠る。

呪術だ。

魔弾と同時並行に攻撃される。

掠った傷がジリジリト焼くような痛みを伴う。

「本当に呪術師ってクソだよ!」

「そう悪態をつきながら生贄になって死ぬがよい!」

上からも下からも攻撃され、躱すので精一杯だ。

呪術師が攻撃を仕掛け、後ろに退く。

すると、エレストは魔弾に囲まれていた。

「鬱陶しいなあ!『天空雷音』!」

魔弾をすべて破壊する。

「しぶといのは本当のようだ!」

強撃をかまされ、エレストはバランスを崩す。

「だが、私に勝てるという訳では無い!」

エレストは魔弾をもろに受けてしまった。

吹き飛ばされ、木に強くぶつかる。

「ゴフッ…!」

大量の血が口から溢れるように出た。

「ってえ…」

「まだ生きているのか。もしや……雷で僅かに威力を殺したか。しかし…もう終わりだな。」

呪術師は手を天に翳す。

呪術と魔力が混在した大きな球体が生みだされる。

「お前のお仲間も私の術には勝てなかったようだ。」

「はぁ…はぁ……それはどうだろうな。」

球体はエレストの元へ放り投げられる。

俺の連れエウルはギリギリ最後で間に合う奴だ。」

今球体が爆ぜようとしたその時。

地面に異常な大きさの魔導陣が浮かび上がる。

すると球体は霧散し消えた。

木々に魔力が戻り始める。

「貴方の言う通り……やって…やったわよ…!」

エウルの声がテレパシーとなって聞こえる。

しかし、負担が大きかったのだろう。

死にかけのような声で話しかけてくる。

「これで…勝てるかしら…?」

「ああ、勝つよ。」

「……そう。なら良いわ。」

荒々しくテレパシーが切られた。

(エウル…相当頑張ったみたいだな。それにこの魔導陣の異常なほどの大きさは……さては呪術師を逃がす気ねえな?)

エレストは嘲笑う。

「残念だったな。使えるものも一つ無くなっちまって。そしてどうやら、誰にも…求められてない様だぞ?クソ呪術師。」

血を吐きながら立ち上がる。

「あぁ…可哀想になあ。」

「魔力が消えたからと言って、私が負けるという話ではない。」

呪術で辺りが黒くなる。

「数で圧倒すればよいのだ。」

エレストは最高火力で紋章を光らせる。

義手では隠し切れないほど左手は雷光に包まれている。

「その紋章でどこまで戦えるのか見物だな!」

霧が現れると同時に魔物たちが召喚される。

縦横無尽に呪術の攻撃も来る。

もうめちゃくちゃだ。

空は少しづつ明るくなっている。

「まるで戦いの終わりを言っているみたいだ。」

エレストの足に雷が宿る。

「俺に喧嘩を売ったこと後悔しろよ。俺は『雷撃の紋章』の選ばれた者だ。お前らみたいなカスと一緒にするな。」

「雷撃の紋章…まさか、神の紋章…!?」

「駆け抜けろ。『雷撃・閃光』!」

目にも見えない速さで、戦場を駆け抜けていく。

「お前に!明日なんて無いんだよ!」

呪術師にまずは一発、鳩尾に拳をくらわす。

「…!」

魔物がエレストに襲い掛かる。

「邪魔だ。」

即座に頭を撃ち抜く。

太陽の日がこの世界を照らし始める。

「お前は…地獄で殺した奴らに…謝りに行ってこい!」

「私が…負けるはず…!?」

呪術師は刃を振りかざすが、エレストによって太腿を撃ち抜かれ、体勢を崩した。

その瞬間を狙い、エレストの剣は呪術師の首を貫いた。

エレストは躊躇いもなく、剣を引き抜く。

魔物も黒く染まり、砂のように消えていく。

「危ねえ…命を捧げられてたら、残りの魔物も倒さないといけないところだったぜ。」

太陽は完全に姿を現し、森を美しく照らしていた。







エウルは木にもたれかかっていた。

鼻血が止まらない。

しかし、襲撃の音が止まった。

「終わったのね。」

すると魔導陣が壊れてしまった。

回路の紋章も限界を迎えたみたいだ。

「さあ、有終の美を飾りましょうか。」

エウルは震えた声で言いながら立ち上がる。




「これで!」

「最後だ!」

魔獣が倒れる。

静寂がクレイア達のもとに訪れる。

突如、大地から魔力を吸い取れなくなったときは新たな攻撃かと思ったが、敵を何とか殲滅することができた。

「終わったーーーー!」

不死人が歓喜に包まれている。

「アレイ…皆の生存確認を急ぐわよ。」





全員が寝たのは昼過ぎで、全員が泥のように眠っていたらしい。

そして……

負傷者五名。

死者零名で、この戦いは幕を閉じた。
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