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「殺します。」
さっきまでおどおどしていた彼女が、確かに、はっきりと言った。
その純粋な殺意にエレスト達はゾッとした。
「私の日常を、『私の答え』を見つける前に、あいつは壊したのだから。当然私に殺されるべきです。」
殺意に溢れているのにも関わらず、彼女は笑顔でそんなことを言う。
「私は『神に愛されし者』であって、神の紋章を使える訳では無いし、神の紋章を使えるからと言って、『神に愛されし者』ではない…」
ふと、独り言のように言う。
「…?どういうことだ?」
「…そんなことも分からない、理解できない知性の無い馬鹿共と同じ場所に送ってやる…!!!」
「お、おい…?」
そのトーラスの困惑の声に彼女は元の声色に戻る。
「!!…失礼しました。少し熱が入ってしまいました。…あ、あの…皆さん、私は今から人を殺してくるので、もう皆さんは私と関わらない方がいいと思います。…ち、治療ありがとうございました。」
また彼女は、再びオドオドした姿に戻った。
「…治療するのは神聖魔法を使う者なら当然だから気にしなくていい。」
トーラスからにしては珍しい言葉を言う。
それにしても、ここで彼女を放っておいていいのだろうかという不安がエレスト達の頭をよぎる。
このままにすれば、悲劇が起きる気がした。
彼女は勝てるのだろうか?
神の紋章に。
神の紋章を持っているエレストでさえ、神の紋章の使い手に苦労した。
「…ちょっと待ってくれ。」
「…はい?」
トーラスが珍しく止めた。
「…氷結の紋章の子は…どこにいる?」
トーラスが他人の面倒ごとに自分から突っ込もうとしている。
「…そうですね。…場所は分かりませんが…でも、私なら、奴を探し出せる気がします。」
「…神の紋章を、君は殺せるのか?君の力だけで?」
「…さあ。それでも…殺さなくては。」
「…復讐か何だか知らないが、それは何も生まれない。」
「止めるつもりですか?」
「いや。それでも良いのか?と、聞いてるんだ。その覚悟が君にあるのかと。」
「勿論です。」
即答だった。
「…じゃあ、何も止めない。…むしろ。手伝ってやる。その復讐を。」
「…おお、珍しいな。」
「明日雨が降るのかしら。」
「お前ら、俺が嫌だって言ってもいう事聞かないんだから、俺の言う事をたまには聞いてくれよ。」
「いや、別にいいんだけどさ。」
「…いいんですか?」
「ああ。」
「俺たちは構わないぞ。」
「神の紋章はもう慣れてるし良いわよ。」
「…え?」
彼女のその反応は妥当である。
寧ろ、彼女の普通の部分がこれが初めてかもしれない。
「取り敢えず、近くの村に行くか。ここでは何もできないしな。」
「ああ。それがいい。」
「お腹もすいたし、そうした方がいいわね。」
「…ありがとうございます。」
そうして、4人で行動することになった。
「ロディ…君こそが『神に愛されし者』だ!」
私は選ばれた。
神に。
どうやら私は神に愛されているらしい。
(神を信じていない私が神に愛されているなんて…皮肉そのもの。)
しかし、色々な人から祝福されるのは嫌な気がしない。
「おめでとう、ロディ!」
「ありがと!リーレン。」
彼女は私の親友だ。
それにしても、神に愛されているというのはどういう事だろう?
別に元々運がいい訳では無いけど、良い事が起きまくるということだろうか?
(そんなわけないか。)
村では、『神に愛されている者』を祝福する風習がある。
特有の伝統的なものだ。
魔法国なのに、神を重視するのも少しおかしい話ではないかとは思うが。
「神…か。まあ、別に悪いことではないからいっか。」
そう呟いた。
悲劇まであと1ヶ月。
「おい?」
「あ、はい?どうしました?」
「いや、君の名前を聞いているんだ。」
彼女は少し考えた。
「……秘密です。」
「え…?」
「…私の名前は……知るべきではありませんから。」
何か事情があるのだろうか。
エレスト達はそれ以上は聞くのを止めた。
「じゃ、じゃあ…ご飯食べるか。」
「お腹空いただろ?」
「は、はい。」
「そうなら…食べに行きましょう?食べないと始まらないわ。」
「分かりました。」
少し近い場所にあった村に辿り着き、酒場に寄る。
「四人座れる席ある?」
「ここならありますー」
「どうもー」
トーラスが席を取り、雑談をする。
「そういえば、この中で一番食べるのは誰なんだろう?」
「うーん、誰かしら?」
「俺かトーラスだよな。多分。」
「そうね。」
「早よ座れ。」
トーラスが三人を呼ぶ。
「ごめん、ごめん。」
「で?何の話だ?」
「いや、誰が一番食べるのかなっていう話をしてたのよ。」
「そんなもん、エレストだろ。」
「そうなんですか?」
「そうか?」
「まさかの自覚無いパターン?あ、酒飲むやつ何人いる?」
「俺飲まない。」
「私飲む。」
「の、飲まないです…」
「おっけー、発泡酒を二つくれ。あとジンジャーエール二つ。」
「かしこまりましたー」
秒で提供される。
「はや…」
彼女も驚いているようだ。
「他にご注文は?」
「変わったモンしかねえな。じゃあ、トカゲの唐揚げ、だし巻き卵、磯虫の竜田揚げ、一旦それで頼む。」
「かしこまりましたー」
提供されてから再び食べる量の話をする。
「俺達も今日あまり食べれてないからな。」
「そうね。」
「だけど、何でも食えるエレストが、一番食べると思うんだよな。」
「確かに。干し肉簡単に食べてるものね。」
「俺は何でも食べれる環境に居なかったからな。何でも食ってた。」
「トカゲの唐揚げも…?」
「トカゲの丸焼きなら食ったことあるけど、不味かったなぁ。これはそれと比べたら美味い。」
「……トカゲの…丸焼き…これも結構変わった味しますけどね…」
変わった味と言うが、おそらくこれも不味い。
淡白な味であるが、少し生臭い。
「あと、ついでに、俺は食べた後、腹を壊した。人生で腹を壊したのはあの時だけだったな…」
「馬鹿だろ…」
「え、これは…」
「大丈夫だろ、俺が食べた奴と違うし。」
「ええ…」
他にも色々なものを食べ(そのうち半分不評)、酒場を出た。
「お酒…強いんですね。」
「ああ。俺は神聖魔法に使う魔力が勝手にアルコールを分解するんだ。やばいのはエウルだな。ただの体質でこれだ。」
「神聖魔法を使えるんですか?」
「ああ。」
「…凄いですね。羨ましいです。」
「まあ、使えることに越したことは無いな。」
「エウル…大丈夫か?」
「…え?ウフフ、大丈夫よ。何も問題は無いわ。少しくらくらするけれど、お酒ってこういうのが良いのよお。」
「酔ってるな…」
宿屋を取り、四人で暇な時間で少し雑談をする。
「まあ、俺達に遠慮しなくても良い。俺達だって、つい最近同行し始めたものだからな。」
「…そうなんですか?」
「ああ。」
「そうね、トーラスに関しては、私達よりも遅いし。」
「そ、そうなんですね。……!?」
その瞬間、彼女は飛び出した。
「あ、おい!?」
エレスト達は追いかける。
すると、異常をトーラスが気付いた。
「魔力が…おかしい…!?」
「まさか…」
その瞬間、空気が凍った。
「…!?」
周りが氷漬けになるのと、エレストが雷撃で三人の周りの氷を破壊したのは同時に起こった。
「フー…!フー…!」
「助かった…のか?」
「エレストの左手が!!!」
エレストの左手は凍っている。
「俺の左腕自体は無事だ。義手もな。…おっさんが作ってくれたこの義手が頑丈過ぎて助かった。」
「確かに…何者だ?」
「…今はそこじゃないわ!あの子は!?」
「取り敢えず、俺がその氷を解かす。それをしながら進むぞ。」
「私も手伝うわ。」
全く解けない氷を二人で必死に解かしながら、先に進んでいく。
すると、二人の声が聞こえた。
さっきまでおどおどしていた彼女が、確かに、はっきりと言った。
その純粋な殺意にエレスト達はゾッとした。
「私の日常を、『私の答え』を見つける前に、あいつは壊したのだから。当然私に殺されるべきです。」
殺意に溢れているのにも関わらず、彼女は笑顔でそんなことを言う。
「私は『神に愛されし者』であって、神の紋章を使える訳では無いし、神の紋章を使えるからと言って、『神に愛されし者』ではない…」
ふと、独り言のように言う。
「…?どういうことだ?」
「…そんなことも分からない、理解できない知性の無い馬鹿共と同じ場所に送ってやる…!!!」
「お、おい…?」
そのトーラスの困惑の声に彼女は元の声色に戻る。
「!!…失礼しました。少し熱が入ってしまいました。…あ、あの…皆さん、私は今から人を殺してくるので、もう皆さんは私と関わらない方がいいと思います。…ち、治療ありがとうございました。」
また彼女は、再びオドオドした姿に戻った。
「…治療するのは神聖魔法を使う者なら当然だから気にしなくていい。」
トーラスからにしては珍しい言葉を言う。
それにしても、ここで彼女を放っておいていいのだろうかという不安がエレスト達の頭をよぎる。
このままにすれば、悲劇が起きる気がした。
彼女は勝てるのだろうか?
神の紋章に。
神の紋章を持っているエレストでさえ、神の紋章の使い手に苦労した。
「…ちょっと待ってくれ。」
「…はい?」
トーラスが珍しく止めた。
「…氷結の紋章の子は…どこにいる?」
トーラスが他人の面倒ごとに自分から突っ込もうとしている。
「…そうですね。…場所は分かりませんが…でも、私なら、奴を探し出せる気がします。」
「…神の紋章を、君は殺せるのか?君の力だけで?」
「…さあ。それでも…殺さなくては。」
「…復讐か何だか知らないが、それは何も生まれない。」
「止めるつもりですか?」
「いや。それでも良いのか?と、聞いてるんだ。その覚悟が君にあるのかと。」
「勿論です。」
即答だった。
「…じゃあ、何も止めない。…むしろ。手伝ってやる。その復讐を。」
「…おお、珍しいな。」
「明日雨が降るのかしら。」
「お前ら、俺が嫌だって言ってもいう事聞かないんだから、俺の言う事をたまには聞いてくれよ。」
「いや、別にいいんだけどさ。」
「…いいんですか?」
「ああ。」
「俺たちは構わないぞ。」
「神の紋章はもう慣れてるし良いわよ。」
「…え?」
彼女のその反応は妥当である。
寧ろ、彼女の普通の部分がこれが初めてかもしれない。
「取り敢えず、近くの村に行くか。ここでは何もできないしな。」
「ああ。それがいい。」
「お腹もすいたし、そうした方がいいわね。」
「…ありがとうございます。」
そうして、4人で行動することになった。
「ロディ…君こそが『神に愛されし者』だ!」
私は選ばれた。
神に。
どうやら私は神に愛されているらしい。
(神を信じていない私が神に愛されているなんて…皮肉そのもの。)
しかし、色々な人から祝福されるのは嫌な気がしない。
「おめでとう、ロディ!」
「ありがと!リーレン。」
彼女は私の親友だ。
それにしても、神に愛されているというのはどういう事だろう?
別に元々運がいい訳では無いけど、良い事が起きまくるということだろうか?
(そんなわけないか。)
村では、『神に愛されている者』を祝福する風習がある。
特有の伝統的なものだ。
魔法国なのに、神を重視するのも少しおかしい話ではないかとは思うが。
「神…か。まあ、別に悪いことではないからいっか。」
そう呟いた。
悲劇まであと1ヶ月。
「おい?」
「あ、はい?どうしました?」
「いや、君の名前を聞いているんだ。」
彼女は少し考えた。
「……秘密です。」
「え…?」
「…私の名前は……知るべきではありませんから。」
何か事情があるのだろうか。
エレスト達はそれ以上は聞くのを止めた。
「じゃ、じゃあ…ご飯食べるか。」
「お腹空いただろ?」
「は、はい。」
「そうなら…食べに行きましょう?食べないと始まらないわ。」
「分かりました。」
少し近い場所にあった村に辿り着き、酒場に寄る。
「四人座れる席ある?」
「ここならありますー」
「どうもー」
トーラスが席を取り、雑談をする。
「そういえば、この中で一番食べるのは誰なんだろう?」
「うーん、誰かしら?」
「俺かトーラスだよな。多分。」
「そうね。」
「早よ座れ。」
トーラスが三人を呼ぶ。
「ごめん、ごめん。」
「で?何の話だ?」
「いや、誰が一番食べるのかなっていう話をしてたのよ。」
「そんなもん、エレストだろ。」
「そうなんですか?」
「そうか?」
「まさかの自覚無いパターン?あ、酒飲むやつ何人いる?」
「俺飲まない。」
「私飲む。」
「の、飲まないです…」
「おっけー、発泡酒を二つくれ。あとジンジャーエール二つ。」
「かしこまりましたー」
秒で提供される。
「はや…」
彼女も驚いているようだ。
「他にご注文は?」
「変わったモンしかねえな。じゃあ、トカゲの唐揚げ、だし巻き卵、磯虫の竜田揚げ、一旦それで頼む。」
「かしこまりましたー」
提供されてから再び食べる量の話をする。
「俺達も今日あまり食べれてないからな。」
「そうね。」
「だけど、何でも食えるエレストが、一番食べると思うんだよな。」
「確かに。干し肉簡単に食べてるものね。」
「俺は何でも食べれる環境に居なかったからな。何でも食ってた。」
「トカゲの唐揚げも…?」
「トカゲの丸焼きなら食ったことあるけど、不味かったなぁ。これはそれと比べたら美味い。」
「……トカゲの…丸焼き…これも結構変わった味しますけどね…」
変わった味と言うが、おそらくこれも不味い。
淡白な味であるが、少し生臭い。
「あと、ついでに、俺は食べた後、腹を壊した。人生で腹を壊したのはあの時だけだったな…」
「馬鹿だろ…」
「え、これは…」
「大丈夫だろ、俺が食べた奴と違うし。」
「ええ…」
他にも色々なものを食べ(そのうち半分不評)、酒場を出た。
「お酒…強いんですね。」
「ああ。俺は神聖魔法に使う魔力が勝手にアルコールを分解するんだ。やばいのはエウルだな。ただの体質でこれだ。」
「神聖魔法を使えるんですか?」
「ああ。」
「…凄いですね。羨ましいです。」
「まあ、使えることに越したことは無いな。」
「エウル…大丈夫か?」
「…え?ウフフ、大丈夫よ。何も問題は無いわ。少しくらくらするけれど、お酒ってこういうのが良いのよお。」
「酔ってるな…」
宿屋を取り、四人で暇な時間で少し雑談をする。
「まあ、俺達に遠慮しなくても良い。俺達だって、つい最近同行し始めたものだからな。」
「…そうなんですか?」
「ああ。」
「そうね、トーラスに関しては、私達よりも遅いし。」
「そ、そうなんですね。……!?」
その瞬間、彼女は飛び出した。
「あ、おい!?」
エレスト達は追いかける。
すると、異常をトーラスが気付いた。
「魔力が…おかしい…!?」
「まさか…」
その瞬間、空気が凍った。
「…!?」
周りが氷漬けになるのと、エレストが雷撃で三人の周りの氷を破壊したのは同時に起こった。
「フー…!フー…!」
「助かった…のか?」
「エレストの左手が!!!」
エレストの左手は凍っている。
「俺の左腕自体は無事だ。義手もな。…おっさんが作ってくれたこの義手が頑丈過ぎて助かった。」
「確かに…何者だ?」
「…今はそこじゃないわ!あの子は!?」
「取り敢えず、俺がその氷を解かす。それをしながら進むぞ。」
「私も手伝うわ。」
全く解けない氷を二人で必死に解かしながら、先に進んでいく。
すると、二人の声が聞こえた。
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