雷撃の紋章

ユア教 教祖ユア

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8章 呪いは浸食する

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薄暗い海の中に放り込まれているような感覚で、意識が漂っていた。

まあ、そんなことはどうでもいいのだが、一番の懸念点としては、彼が助かっているか否かである。

「どうでもいい訳無いだろ…!」

誰かの声が聞こえる。

「お前らの為に、隠したいこの魔力を出してるんだからな…!」

誰だろう、でも聴いたことがある。

「お前ら二人ともクソみたいなぶっ倒れ方しやがって。」

自分にとっては、そんなこと言われても。である。

神よ、我らを救い給へ。『神秘の朝露』Oh Gott, rette uns, die verloren sind. geheimnisvoller Morgentau。」

神聖の中級魔法。

これが使えるのは限りある人しかいない。

「あとはハシモトだけだな。」

呼ばれたのだろうか。

「本当に腹が立つ…!」

なぜそんなに怒っているのだろうか。

よく分からないまま、また意識が暗い海の中に消えた。

と、思われたが、誰かに腕を引っ張られた感覚に襲われた。

「死ぬなよって言っただろ馬鹿!!早く起きやがれ!!!」

「すみません!!!!起きます、起きますから!!!!」

師匠の馬鹿でかい声量に叩き起こされる。

「うわああ!!!!」

橋本は勢いよく起き上がると、よく分からない部屋のベットにいた。

「夢やんけ…なんやねん、焦ったわ…」

元の方言が出てきてしまった。

辺りを見渡す。

(ここはどこだ…?)

すると、同じベッドで浅村が寝ていた。

橋本はギョッとし、つい言ってしまった。

「え、私ら死んだ?」

「死んでねえよ。馬鹿。」

橋本は声をした方向に顔を向けると、トーラスがいた。

「…トーラスさん?」

それでようやく理解した。

「あ、私生きてる?」

「アサムラとお前は俺が治療した。治療班は魔力切れを起こしかけてたからな。」

「…あ、ありがとうございます。…じゃなくて!!!!!」

「うるせえ…」

トーラスは片耳を塞いだ。

「え、何で同じベッドなんですか!?二つで良いじゃないですか!!」

「負傷者をわざわざご丁寧位に二つのベッドに分ける余裕なんてねえよ。ここはいわば集中治療室的なものだが…それがあるだけありがたいと思え。お前らレベルの負傷者はお前ら位しかいねえよ。ほら、ベッドもでかいだろ?感謝しろよ。」

「…ええ…」

トーラスは扉を開け、声をあげる。

「おーい、ハシモトが起きたぞー」

その言葉を聞いた瞬間、ものすごい足音が聞こえた。

「愛ちゃんが!!!!!!?」

奏道だった。

「み、耳が…」

奏道は橋本に走り寄り、抱き付いてきた。

「愛ちゃんが死んだと思ったわよおおおお!!!!!」

「む、胸でく、苦しいんぐっ…」

「何であんな無茶をしたのおおおおおおお!!!」

「い、いひゃそれふぁあしゃふらはんがしにはへへははら…!」

「何言ってんだコイツ聴こえねえ…」

「ぼふっ…!で、浅村さんは…」

「ああ…優は普通にさっき起きたわよ。今は寝てるけど。」

その言葉を聞いて、橋本は安心した。

「それなら良かったです。エレストさん達は?」

トーラスが答える。

「俺とエウルは怖い位無傷。エレストは紋章の使い過ぎで疲弊して寝込んだくらいだな。次の日には元気だったよ。」

橋本は考え込む。

「次の日にはってことは…あれ今…あれから何日…?」

「3日。昨日にようやくアサムラが一瞬起きて、今日は数十分起きてまた寝た。」

「…マジですか…」

「ま、お前がアサムラを魔力枯渇症が起きるほど魔力を供給したおかげで、ある程度は延命されて助かったわけだし、少しでもそれをするのが遅かったら、出血多量で死んでたかもしれないし、ハシモトはよくやった方だな。」

「結果的になんとかなっただけで、全く良くないわよ!」

奏道はプンプンである。

「いくらそれしか思いつかなかったからってそんな…!!」

「綺麗ごとじゃなんにもならないぞー」

「綺麗事でも!してほしいの!お願い…そんな自分を簡単に気付つける真似はもうよして…」

「…すみません。」

すると、閃撃が入ってきた。

「おーおー。起きてるー。顔色やっぱり悪いな!!」

「は、はあ…」

橋本は困惑した。

すると、更に足音が猛スピードでこっちに来ているのが分かる程聞こえた。

「アイ!!!!!起きたの!?」

「…」

橋本は露骨に鬱陶しいそうな顔をした。

まあ、目が覚めたと思ったら、騒がしい奴らがそろいもそろって現れたらそうなるだろう。

「おおー、目が覚めたんだな。」

エレストも顔を出した。

(寝させてほしいなあ…)

と思いながら、橋本は笑顔で接する。

「おかげさまで…」

「お前らうるせえなあ。」

トーラスはぶっきらぼうに言う。

「コイツ病人。分かる?騒がしい過ぎる。寝させてやれ…」

「あ。」

「ご、ごめんなさい…」

「元気なら去れ去れ!」

トーラスによって、全員追い出された。

「これで寝れるか?」

「気付いてたんですか。」

「俺は魔法使いであり、治癒師だ。気付かない訳無い。で?何であんなことをした?お前が死ぬ前提で浅村を助けようとしたろ。」

「…」

「お前はそれでも良かったのか?」

「…仮に私が死んでも助けられるなら。」

トーラスは溜息を吐いた。

「自己犠牲は止めとけ。変なところで覚悟を決めるな。自己犠牲の先にはろくなことは起きないからな。」

トーラスは魔法具を橋本に投げた。

「お前は俺らが観光して満足するまで魔法禁止。あと、紋章の使用もよほどのことが無い限り使うな。」

「これは…」

「観光するまでの間、魔物がいた時にこれを使って魔法を使え。短剣型だから、わざわざ分けなくても戦えるだろ。」

「あ、ありがとうございます…」

「じゃ。」

トーラスは静かに部屋を出た。

その後、談話室で全員と合流した。

「で?大元は殺せてるのか?」

「和の国最強さんが一発で殺したらしいわよー」

エウルがウキウキで言った。

「何処情報だよそれ…」

「防衛隊から聞いた。滅茶苦茶ペラペラ喋ってたぞ。「流石和の国最強ー!」ってな。」

「なんだそれ。」

「結構防衛隊の中でも怪我人が多いらしいよ。防衛隊の皆はそいつを目指してるんだと。」

「ハッ…まるでヒーローみたいだな。」

「実際それみたいなものだよ。」

閃撃はそう言った。

「和の国の中で最強と呼ばれた男だぜ。どんなことがあっても、その男なら何とかしてくれる。」

「そんなに強いんだな。」

「最強と呼ばれた男が見掛け倒しじゃ世話ねえぜ。」

「確かにな。」

「…優達が回復してから、温泉街に行きましょ。」

「ああ。そうだな。」

全員は解散した。

トーラスだけが部屋に取り残された。

(いつぶりだ?神聖の中級魔法を使ったのは。)

中級魔法なら疲れはするが倒れそうになる程ではない。

(ハシモトが僅かでも神聖魔力の適応者で良かった。魔力の譲渡が俺の神聖魔力で誤魔化せる。)

ビックリするほど彼女の魔力は空っぽだった。

当分、身体が魔力を使う事を拒否するだろう。

あの時、中級魔法でなくても、下級でもいいから神聖魔法が使えたら、妹を救えただろうか。

(というか、お父様あいつは生きてるのか?氷漬けにしたけど。)

故郷は捨てたはずだ。

もう考えてはいけない。

命からがら、地獄から抜け出したはずだ。

故郷から帝国に続く大陸に行くためには大量の魔物や魔獣から潜り抜けなければならなかった。

当然、幼いトーラスにそれが出来る訳がなかった。

だから、下級の魔物から順に魔物を殺しその血を被って魔物の気配が少ないところを這って抜けた。

今でも同じことをしないといけないだろうし、もう大人のような体形になったから、それも難しいかもしれない。

「戻れないんだから…今更だ。」

妹もどうせ実質的に死んでいる。

紋章は呪いじゃない。

紋章の使いが死んだからって、元に戻る訳でもない。

「生きるのに必死過ぎるだろ…俺。」

トーラスは軽く笑った。
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