雷撃の紋章

ユア教 教祖ユア

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9章 彼女の存在を証明する為に

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「もう仕方ねえな…」

エレストは渋々話を続けた。




色々教えてもらって、割と日数が経った日位に思ったんだよな。

アクアは逃げてこっちに来たから、いつかまたここを去ってまた逃げるのかなって。

スラムには逃げてきてる奴も多い。

隠れるには確かにもってこい。

でも、だからこそ、追手は絶対に此処を探す。

数か月くらい探す追手もいる。

ただの勘違いで殺されてる知り合いもいたよ。

だからこそ、俺は誰であっても、身分がある奴は会わない様に避けてきた。




「エレストさんって、凄い所で、生きてきたんですね…」

「でも、身分の持って無い奴は大抵こんなもんだ。って、思うが、それでも、エレストがこれを経験していると思うと、何でこんなまともに育ったのか、分かんねえな。」

「トーラス、余計なお世話だ。俺はそれでも恵まれてる。死なずに生きて、こうやって外に出れるんだから。」

「まあ、でも…犯罪者の下民は兎も角して、無戸籍故の下民は減らしたいわね。」

「政治的観点ですね。」

「私は貴族だからね。一応。」

「一応どころか、大貴族だろ…いいのか、一応なんか言って…」

「で、この後はどうなったんです?アクアさんは今どこに?」

「…死んだ。」

「え…まさか、追手に…?」

「いや…?…病気だよ。ただの、病気。普通によくある病気で…死んじまった。」

「…」

まあ、でも、という言葉を言いながら、エレストは続ける。

「楽しかった。アクアと居た時間はとても…楽しかったと思う。」






傷は完璧に治った頃。

アクアは皆の人気者だった。

明るかった。

花壇の花みたいな子だった。

優しかったし、賢かった。

剣技もある程度できたから、敵わないって一目で分かったから、体目的の野郎なんて寄りつけなかった。

ある時、アクアの追手が来た。

追手にアクアを差し出すなんて、皆嫌だった。

何か…気に食わなかった。

だから俺達は…アクアを隠した。

そして、結構な人数殺された。

そうなると、若干分かってたから、残りの俺達は追手を、追手に殺された人数分殺した。

奇襲だよ。

死角から、足をナイフで投げつけて、倒れた瞬間全員で殴り殺した。

学習されたら、今度は砂を目に投げつけた。

それもまた学習されたら、高度から重い石を落とした。

そうやって、七人殺した。

最後に俺が脅した。

紋章無しで、痩せこけている俺を気味悪がって、もうあの場所に現れることが無くなった。

俺達はアクアがここに居れる理由を作ることが出来た。





全員無言になった。

「お前は…屍だらけの場所で過ごしてきたんだな。」

「ああ。残念ながら、俺は奴らを殺す為の腕が足りなかったから、あんまり貢献できてないけどな。」

「殺したことの罪悪感は無いの?」

「同士が殺されてるから、報復さ。俺達が唯一出来る報復。脅しだって、俺を殺したらお前も殺されるって言っただけだ。殺さなかったら、強がりだと嗤われて殺される。」

「…そう。」

「ま、こんなもんだろうな。」

「恐ろしい世界です…」

「そっからなんやかんや、アクアはいてくれて、ワイワイして…病気で死んだって訳だ。」

「へー…なるほどな。」

「じゃあ、そのロケットペンダントは形見って事ね。」

「ああ。アクアに託された。」

「託された…ですか。」

橋本は少し目を下に向けた。

再び目線を前に向きなおし、笑顔でエレスト達に告げた。

「さあ、もう直ぐですよ、皆さん。私の師匠のいる村です。」

「ようやくだな…と、言いたいところだが…あんまり遅く感じなかったな。」

「ええ、そうね。早く感じたわ。物理的に距離が近いってこともあるでしょうけどね。」

エレスト達は村に入る。

見慣れない姿に奇異の目で見る人もいる。

橋本はお構いなしに、三人を案内した。

「私に着いて来てください…と言いたいですが、もう目視できる場所にあるんですよね。アハハ…」

あからさまに、一つだけ道場の見た目がある。

先に橋本が入った。

「…すーはーすー…失礼します!!!!橋本です!!」

エレストはそれに続いて入る。

「だあああああれだ!!!こいつらは!!!!!」

怒号が聞こえる。

「師匠、お久しぶりです!!!!!この方々はエレストさん、エウルさん、トーラスさんです!」

「そういう意味じゃねえ!」

「師匠なら、知っているかもしれない事をエレストさんが聞きたいそうです!!!!」

(耳がキーンとするくらいうるせえ…)

師匠は事情を理解すると、元の声量に戻った。

「そうか。概ね分かった。エレストさんで合ってるね?」

「はい。」

「後で聞こう。」

すると、橋本に視線を変えた。

その瞬間、橋本に冷や汗が出始めた。

「何故…お前の魔力はグズグズになってる…?」

「スーーーーーー…えー、あのー、それはですね…」

「魔力切れは論外。枯渇症など…もってもほかと…!最初に言った筈だぞ…?」

「はい!!!!とても!承知、してます…」

「では何故…?」

橋本は諦めて全てを喋った。

怒号の開始と共に二時間ほど説教を食らっていた。

「後で!!!!!!!みっちりと!!!!!!!!稽古してやるからな!!!!!!!!!」

「ハイ…………ご教授感謝します…………」

ほぼ消えかけの声で橋本はがっくりとしていた。

「お待たせした。」

「い、いや…」

トーラスは眠そうにお茶を啜った。

エウルも退屈さを優雅さで誤魔化しているようにも見える。

「私達は、ここにいるから、エレストだけで行ってきなさい。」

「ええ…これ見た後は嫌なんだけど…」

「つべこべ言ってる暇があるなら、聞いて来い、エレスト。」

「二人だって嫌そうじゃないか…」

エレストは仕方なく、一人で橋本の師匠の元へ行った。

「申し訳ない。安易に命を捨てることは一番あってはならぬ事だからな。」

「まあ、そうだと思う。仕方ないよ。」

「もう少し生きることに貪欲になるべきだと思うが…まあ、貴殿には関係の無い事だな。さあ、質問は何だったかな?」

「エネディート剣術について知りたいんだ。」

「ほぉ…その言葉を若人から聞くことになるとは。」

「俺はエネディット家からその剣術を教わった。」

「……これは…驚いた。あの禁忌と言われる存在に…」

「俺はエネディット家の事を一切知らない。唯一、何も教えてくれなかった。」

「…つまり君は…帝国出身ではないのか。」

「俺は王国だ。」

「一番魔王国から遠い国…か。王国の中でも一部の人間しか知らないであろう?」

「大貴族が名前だけ知ってたくらいだな。」

「そうか。…エネディット家は…いや、その生き残りは帝国にいるらしい。」

「…生き…残り…」

「儂とて、よく知らん。だが、エネディート剣術は帝国発祥であることは間違いない。沢山のエネディットの名を持つ貴族達は禁忌を犯し、殺された。逃げた者も今も追われとる。」

「…」

「エレストさん、エネディット家を追ってどうする。」

「…」

エレストは、特に何も考えていない。

やることと言ったら、強いてだが、ロケットペンダントとアクアについてだろうか。

「俺に教えてくれた子について、聞きたいことがある。」

何故追いかけられていたのか、このロケットペンダントは何なのか。

あの時倒れていたアクアの手荷物は殆ど無かった。

あっても古汚いものだったし、その中でロケットペンダントだけは綺麗まま持っていた。

あの時のエレストは聞けなかった。

「エレストさんにとってその子はなんだ?」

「俺にとって…アクアは…」

彼女は忘れてはいけない。

忘れたら…あまりにも可哀想だから。

死んだ彼らにとって、アクアは希望そのものだった。

「俺にとって、アクアは光だった。紋章無しでも…まともに生きれるかもしれないって思わせてくれた。今、此処に俺がいるのは、アクアに人と関わるための術を教えてくれたからなんだ。」

「特別なんだな。」

「ああ。…そうだと思う。」
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