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2 出会い
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カストル大陸、人間領ヘンキトン。
昼前にもかかわらず、空は真っ暗だった。
空を覆う黒い雲、荒廃した土地。
先ほどいたボルックス大陸とは全く異なる風景を目にしたロディユは、思わずため息をつく。
『環境悪化が未だ止まらないカストル大陸のために何ができるだろうか?』
ロディユはその答えを探すため、一年前に孤児院を出てから世界中を旅している。
亡くなる前に告げられた母親の言葉を励みにしながら。
『いつか、あなたは世界を変えるわ。英雄竜マスターエルダーのように。それまではたくさん学びなさい』
——そうだよね、お母さん……頑張るよ。
ロディユは自分を奮い立たせ、市場へ向かった。
*
市場に到着したロディユは、装飾品を見て回っていた。
アクアは食料品を勝手に食べる可能性があるため、予めカバンの中に入ってもらっている。
「——お姉さん、これ買うよ」
ロディユは路面店の台に置かれた革製装飾品——厚手のヘアバンドを指差す。
「それは、銅貨二枚だよ」
「はい」
ロディユはカバンから貨幣が入った小袋を出し、銅貨二枚を手渡した。
「ありがとよ~」
ロディユはその足で裏路地へ向かった。
誰も近くにいないことを十分に確認した後、建物の陰に隠れて額の布を外す。
買ったばかりのヘアバンドを額の石が見えないように当て、しっかりと後頭部で結んだ。
カバンから手鏡を取り出して確認してみる。
——これなら石が見えないな。
厚めの生地のおかげで、石の盛り上がりは気にならない。
ロディユは鏡をカバンに戻し、闘技場へ向かった。
*
闘技場前掲示板。
ロディユが眺めている掲示板には、本日の大会スケジュールが貼られていた。
今日は昼・晩に一回ずつ、計二回行われる予定だ。
簡単なルールや賞金額が書かれている。
『第一部(昼):魔法のみの個人戦(対象種族は人間)。優勝賞金:銀貨三十枚、——。
第二部(夜):制限なしの団体戦(対象種族は人間)。優勝賞金:銀貨百枚、——』
第一部の内容を見て、ロディユは口角を上げた。
魔法力にかなりの自信を持つロディユにとって、都合のいい試合だ。
——三位でも銀貨五枚なら、十分かな。
生活費を稼ぎたいロディユは、すぐに登録へ向かった。
*
大会第一部、予選。
舞台上には、ロディユを含めて十人が立っていた。
ロディユは顔をあまり晒したくないため、大会専用の服——黒いローブ、目以外の顔と頭を覆う白い布を着用している。
しばらくすると、審判員の女性が舞台上に上がってきた。
参加者は説明を聞くため、側による。
「——只今から行われる試合は個人戦ですが、最初の試合だけは全員まとめて戦ってもらいます。誰と対戦してもらっても構いません。四人が残った時点で終了とします。その後の試合は、完全な個人戦です」
参加者は黙って頷いた。
「では、指示があるまで舞台上で待機していてください」
審判員は説明を終えると、舞台側の審判台へ向かった。
ロディユは待っている間、対戦相手の様子を窺う。
——四人一組のチームが二つか……。僕とお兄さんの二人が溢れたみたいだね。僕は上位常連だから一人でも問題ないけど……あのお兄さんは可哀想だな。
『では、第一部の試合を開催します——』
審判員の言葉に、十人がそれぞれ構えた。
『——第一試合、始め!』
男女二人のチームがロディユの方へ、一斉に向かってきた。
四人は手に持っていた杖をロディユに向ける。
軽く笑みを浮かべたロディユは、手足を全く動かさないまま、誰よりも先に魔法を発動。
「うわっ!」
「きゃー!!!」
「ゔっ!」
「なにっ!?」
ロディユに向かってきていたはずの男女四人は、途中で体が浮かび上がり、舞台の外へ勢いよく飛んでいった。
『舞台外は失格~!』
ロディユに敵対していた四人は、審判員から失格を言い渡される。
彼らは何が起こったのか理解できないようで、その場で呆然としていた。
その頃——。
ロディユと同じく単独行動を余儀なくされた青年は、男四人に四方を囲まれていた。
青年は全くその場から動こうとしない。
男たちは諦めたのだろう、と思い、卑しい笑みを浮かべている。
その四人は互いに視線を送って頷き合い、各自の得意属性の魔法——氷・風・土・植物魔法を青年に放った。
その直後、四人は恐怖の表情を浮かべる。
それぞれの目の前には、『大きな氷の拳』が現れたからだ。
突然のことで誰も対処できず……。
強烈な打撃を受け、うめき声とともに舞台外へ飛ばされてしまった。
——へぇ。今日の対戦相手は手応えがありそうだね。
青髪青年の戦いぶりを舞台の隅から眺めていたロディユは、感心していた。
『だ、第一試合、終了!』
終了を宣言した審判員は、予想外の終わり方に驚きを隠しきれない様子だ。
観客も同じように驚きの歓声や落胆の声を上げている。
『早すぎる!!!』
『嘘だー!』
『予想が外れたー!』
『今日はついてないなー!』
観客のほとんどが賭けに外れたのだろう、と思ったロディユは苦笑する。
青年に攻撃を仕掛けた四人チームの中に、少し名の知れた人物がいたからだ。
舞台に上がってきた審判員は、「こっちへ来てください」とロディユと青年を呼び寄せる。
「今回は初戦がすぐに終わりました。すぐに決勝戦を開催しようと思いますが、よろしいですか?」
「僕は構いません」
「我もそれでいい」
審判員は頷くと、その場で観客席へ向かって声を発する。
『お知らせします! 決勝戦は休憩を入れず、このまま開始します!』
観客もそれを予想していたようで、ほとんどが席を離れていなかった。
『では、決勝戦を開始します。……始め!』
先に攻撃を仕掛けてきたのは、青年だった。
先ほどと同様の巨大な氷の拳を出し、ロディユの正面へ勢いよく殴りかかる。
——水属性なら、負ける気がしないよ。
ロディユはその拳が当たる前に霧散させた。
そして発生した水蒸気を利用し、青年の体を氷漬けにする。
——よし! これで動けない。
睡眠魔法も同時発動していたロディユは、そう確信した。
そのすぐ後——。
青年を覆っていた分厚い氷にヒビが入る。
——え!?
ロディユが驚いている間に、その氷は砕け散った。
青年は笑みを浮かべていたので、ロディユは苦笑する。
——余裕ってことね。
青年は舞台上に落ちていた大量の氷の欠片を一度に浮かせ、矢のように放ってきた。
ロディユは青年が放ってきた氷を溶かし、青年の体全体を太い水柱の中に閉じ込める。
その中は空間がないため、呼吸困難になる予定だ。
青年は風魔法で顔から水を払ったり、氷にして破壊しようとするが……。
ロディユは気流と水流を操作し、青年を水で覆い続ける。
——今度こそ、終わりだよ。
ロディユは水柱を一方向に急速回転させ、その中に氷刃を作り出す。
まもなくして、危険を察知した審判員が試合終了のカウントを始めた。
『——3、2、1……試合終了! そこの君、魔法を解除してください!』
ロディユは言われた通りに魔法を消去した。
『優勝者はこちらです!!!』
審判員はロディユを指し示した。
その勝利宣言に観客たちは歓声の声を上げる。
『すげーな!』
『もう終わりかよー』
『もっと見たかったぞー!』
ロディユは勝利宣言を受けても、訝しげな表情を浮かべていた。
青年が無傷だったこからだ。
——この攻撃で傷一つけられなかった人間は、今までいなかった。この人、もしかして人間じゃないのかな……? でも、人間以外は登録できないようになっているはず……。
その間、青年は考え込むロディユを笑顔で見つめていた。
この青年に関わらない方がいい、と考えたロディユは、急いで舞台から降りて出口へ向かった。
「——待ってくれ」
ロディユは背後から、呼び止める男の声を耳にした。
昼前にもかかわらず、空は真っ暗だった。
空を覆う黒い雲、荒廃した土地。
先ほどいたボルックス大陸とは全く異なる風景を目にしたロディユは、思わずため息をつく。
『環境悪化が未だ止まらないカストル大陸のために何ができるだろうか?』
ロディユはその答えを探すため、一年前に孤児院を出てから世界中を旅している。
亡くなる前に告げられた母親の言葉を励みにしながら。
『いつか、あなたは世界を変えるわ。英雄竜マスターエルダーのように。それまではたくさん学びなさい』
——そうだよね、お母さん……頑張るよ。
ロディユは自分を奮い立たせ、市場へ向かった。
*
市場に到着したロディユは、装飾品を見て回っていた。
アクアは食料品を勝手に食べる可能性があるため、予めカバンの中に入ってもらっている。
「——お姉さん、これ買うよ」
ロディユは路面店の台に置かれた革製装飾品——厚手のヘアバンドを指差す。
「それは、銅貨二枚だよ」
「はい」
ロディユはカバンから貨幣が入った小袋を出し、銅貨二枚を手渡した。
「ありがとよ~」
ロディユはその足で裏路地へ向かった。
誰も近くにいないことを十分に確認した後、建物の陰に隠れて額の布を外す。
買ったばかりのヘアバンドを額の石が見えないように当て、しっかりと後頭部で結んだ。
カバンから手鏡を取り出して確認してみる。
——これなら石が見えないな。
厚めの生地のおかげで、石の盛り上がりは気にならない。
ロディユは鏡をカバンに戻し、闘技場へ向かった。
*
闘技場前掲示板。
ロディユが眺めている掲示板には、本日の大会スケジュールが貼られていた。
今日は昼・晩に一回ずつ、計二回行われる予定だ。
簡単なルールや賞金額が書かれている。
『第一部(昼):魔法のみの個人戦(対象種族は人間)。優勝賞金:銀貨三十枚、——。
第二部(夜):制限なしの団体戦(対象種族は人間)。優勝賞金:銀貨百枚、——』
第一部の内容を見て、ロディユは口角を上げた。
魔法力にかなりの自信を持つロディユにとって、都合のいい試合だ。
——三位でも銀貨五枚なら、十分かな。
生活費を稼ぎたいロディユは、すぐに登録へ向かった。
*
大会第一部、予選。
舞台上には、ロディユを含めて十人が立っていた。
ロディユは顔をあまり晒したくないため、大会専用の服——黒いローブ、目以外の顔と頭を覆う白い布を着用している。
しばらくすると、審判員の女性が舞台上に上がってきた。
参加者は説明を聞くため、側による。
「——只今から行われる試合は個人戦ですが、最初の試合だけは全員まとめて戦ってもらいます。誰と対戦してもらっても構いません。四人が残った時点で終了とします。その後の試合は、完全な個人戦です」
参加者は黙って頷いた。
「では、指示があるまで舞台上で待機していてください」
審判員は説明を終えると、舞台側の審判台へ向かった。
ロディユは待っている間、対戦相手の様子を窺う。
——四人一組のチームが二つか……。僕とお兄さんの二人が溢れたみたいだね。僕は上位常連だから一人でも問題ないけど……あのお兄さんは可哀想だな。
『では、第一部の試合を開催します——』
審判員の言葉に、十人がそれぞれ構えた。
『——第一試合、始め!』
男女二人のチームがロディユの方へ、一斉に向かってきた。
四人は手に持っていた杖をロディユに向ける。
軽く笑みを浮かべたロディユは、手足を全く動かさないまま、誰よりも先に魔法を発動。
「うわっ!」
「きゃー!!!」
「ゔっ!」
「なにっ!?」
ロディユに向かってきていたはずの男女四人は、途中で体が浮かび上がり、舞台の外へ勢いよく飛んでいった。
『舞台外は失格~!』
ロディユに敵対していた四人は、審判員から失格を言い渡される。
彼らは何が起こったのか理解できないようで、その場で呆然としていた。
その頃——。
ロディユと同じく単独行動を余儀なくされた青年は、男四人に四方を囲まれていた。
青年は全くその場から動こうとしない。
男たちは諦めたのだろう、と思い、卑しい笑みを浮かべている。
その四人は互いに視線を送って頷き合い、各自の得意属性の魔法——氷・風・土・植物魔法を青年に放った。
その直後、四人は恐怖の表情を浮かべる。
それぞれの目の前には、『大きな氷の拳』が現れたからだ。
突然のことで誰も対処できず……。
強烈な打撃を受け、うめき声とともに舞台外へ飛ばされてしまった。
——へぇ。今日の対戦相手は手応えがありそうだね。
青髪青年の戦いぶりを舞台の隅から眺めていたロディユは、感心していた。
『だ、第一試合、終了!』
終了を宣言した審判員は、予想外の終わり方に驚きを隠しきれない様子だ。
観客も同じように驚きの歓声や落胆の声を上げている。
『早すぎる!!!』
『嘘だー!』
『予想が外れたー!』
『今日はついてないなー!』
観客のほとんどが賭けに外れたのだろう、と思ったロディユは苦笑する。
青年に攻撃を仕掛けた四人チームの中に、少し名の知れた人物がいたからだ。
舞台に上がってきた審判員は、「こっちへ来てください」とロディユと青年を呼び寄せる。
「今回は初戦がすぐに終わりました。すぐに決勝戦を開催しようと思いますが、よろしいですか?」
「僕は構いません」
「我もそれでいい」
審判員は頷くと、その場で観客席へ向かって声を発する。
『お知らせします! 決勝戦は休憩を入れず、このまま開始します!』
観客もそれを予想していたようで、ほとんどが席を離れていなかった。
『では、決勝戦を開始します。……始め!』
先に攻撃を仕掛けてきたのは、青年だった。
先ほどと同様の巨大な氷の拳を出し、ロディユの正面へ勢いよく殴りかかる。
——水属性なら、負ける気がしないよ。
ロディユはその拳が当たる前に霧散させた。
そして発生した水蒸気を利用し、青年の体を氷漬けにする。
——よし! これで動けない。
睡眠魔法も同時発動していたロディユは、そう確信した。
そのすぐ後——。
青年を覆っていた分厚い氷にヒビが入る。
——え!?
ロディユが驚いている間に、その氷は砕け散った。
青年は笑みを浮かべていたので、ロディユは苦笑する。
——余裕ってことね。
青年は舞台上に落ちていた大量の氷の欠片を一度に浮かせ、矢のように放ってきた。
ロディユは青年が放ってきた氷を溶かし、青年の体全体を太い水柱の中に閉じ込める。
その中は空間がないため、呼吸困難になる予定だ。
青年は風魔法で顔から水を払ったり、氷にして破壊しようとするが……。
ロディユは気流と水流を操作し、青年を水で覆い続ける。
——今度こそ、終わりだよ。
ロディユは水柱を一方向に急速回転させ、その中に氷刃を作り出す。
まもなくして、危険を察知した審判員が試合終了のカウントを始めた。
『——3、2、1……試合終了! そこの君、魔法を解除してください!』
ロディユは言われた通りに魔法を消去した。
『優勝者はこちらです!!!』
審判員はロディユを指し示した。
その勝利宣言に観客たちは歓声の声を上げる。
『すげーな!』
『もう終わりかよー』
『もっと見たかったぞー!』
ロディユは勝利宣言を受けても、訝しげな表情を浮かべていた。
青年が無傷だったこからだ。
——この攻撃で傷一つけられなかった人間は、今までいなかった。この人、もしかして人間じゃないのかな……? でも、人間以外は登録できないようになっているはず……。
その間、青年は考え込むロディユを笑顔で見つめていた。
この青年に関わらない方がいい、と考えたロディユは、急いで舞台から降りて出口へ向かった。
「——待ってくれ」
ロディユは背後から、呼び止める男の声を耳にした。
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