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3 青い髪の青年
しおりを挟むロディユを呼び止めたのは、対戦したばかりの青い髪の青年だった。
先ほどの試合に不信感を抱いていたロディユは、怪訝な表情を浮かべる。
「何か用ですか?」
「すまん。賞金を受け取りに行くよう言われたのだが、どこへ行けばいいかわからなくてな……」
青年は後頭部を右手でさすりながら、困った表情を浮かべていた。
ロディユは拍子抜けする。
「出口のすぐ側ですよ。僕も取りに行こうと思っていたので、ついてきてください」
「うむ。助かる」
賞金受け取り窓口に着くと、ロディユが先に参加証と引き換えに賞金を受け取る。
そして、青年がそれに続いた。
ロディユは黙ってそこから離れ、市場へ向かおうとするが……。
「——ちょっと待ってくれ」
再び青年に呼び止められてしまった。
「まだ何か……? 僕はこの後、用事があるのですが」
迷惑そうな視線を送るロディユに対して、青年は笑顔を返す。
——胡散臭い人だな……。
「急いでいるところ悪いな。まだ聞きたいことがあるのだ。実は、人探しをしていてな……」
「人探し?」と言いながら、ロディユは首を傾げた。
「我はジークという名の人間を探している。お前がそうではないか? 今まで出会った人間の中で一番強い」
「え? 違うけど……」
不可解な質問に、ロディユは怪訝な表情を浮かべた。
「ふむ……」
青年は困った表情を浮かべ、顎をさすりながら考え込む。
ロディユはどこかで聞いたことのある名前だな、と視線を上げながら考えていると……ふと何かを思い出した。
「あ、確か……。僕が知っているジークって人は、『ゲルマ』という国の軍人だった気がするよ」
青年はそれを聞いて、肩を落とす。
「その情報は得ている。すでにその国に行ったのだが、今は武者修行の旅に出ているらしくてな。ボルックス大陸にある人間の街を全て回ったのだが、見つからなかった」
「武者修行なら、人間の街には行かないと思うけど? ジークは人間で一番強いって評判だから。魔人とか……より強い種族がいるような場所にいるんじゃない?」
「なるほど……。お前は賢いのだな! 助かった。我は魔人の街へ行ってみるぞ!」
「じゃあ、頑張ってね」
「感謝する!」
青年は笑みを浮かべながらその場を離れた。
——厄介ごとに巻き込まれなくてよかった……。
ロディユはその背中を見送りながら、安堵のため息をつく。
カバンを開け、アクアの様子を見ると……。
「キューキュー!」
アクアはカバンの中から顔を出し、早く出してくれと催促していた。
「ごめんな。市場で買い物をした後、自由にしていいから」
不満を漏らすアクアを軽く撫で、干し肉を一枚渡した。
——あれ?
ロディユは先ほどの青年がまだ近くにいることに気づき、何気なく見やる。
青年は道に迷っているのか、闘技場前広場をうろうろしていた。
そんなところに、怪しげな人物が青年へ近寄っていく……。
——あの人、大丈夫かな? 騙されそうな感じの人だったよなー。
心配になったロディユはカバンの蓋を閉じ、その二人の方へ向かった。
*
『——ジークという人間を探しているのだ』
『その情報ならありますよ。先に情報量として、銀貨一枚を頂きたいのですが……』
ロディユは近くで聞き耳を立てていると、こんな話が聞こえてきた。
——やっぱり。悪徳情報屋に捕まってる。仕方ないな……。
青年は賞金の入った袋から銀貨一枚を出し、手渡そうとしていた。
「——それ、情報量としては高すぎるよね?」
ロディユはそう言いながら二人に近寄っていくと、情報屋は慌ててその場から逃げ出した。
「なぜ邪魔をした? 情報がもらえなかったぞ……」
青年は落胆の表情を浮かべていた。
「お兄さん、気づいてないの? 騙されそうになってたんだよ」
「なに!? そうなのか!? 全くそうは思わなかったぞ?」
青年の無垢な反応にロディユは苦笑する。
「人を信じすぎだよ。疑って行動した方がいいと思うよ?」
「そんなものなのか? 今まで、我の周りに嘘をつくような者はいなかったぞ?」
「そうなんだ……。顔を隠しているような人には、気をつけたほうがいいよ」
「……お前に対しても気をつけたほうがいいのか?」
ロディユは顔を白い布で隠したままだったので、青年は疑いの目を向けた。
やれやれと首を振りながら、ロディユは仕方なく顔を覆っていた布を下げる。
「僕は騙すつもりはないよ。怪しい人はお金を要求してくることが多いから、そんな時は注意したほうがいいかな」
「そうか、いい助言をもらった。感謝する」
青年はニコリと笑いかけた。
青年の世間知らずな反応にロディユは再び苦笑する。
「キュー!」
「あ!?」
突然、アクアがカバンから飛び出し、青年の頭に飛び乗った。
カバンの蓋がしっかり閉まっていなかったようだ。
「アクア、カバンに戻れ!」
「キュー! キュー!」
アクアはロディユに対して反抗の声を出し、青年の頭にしがみつく。
「……この生き物はなんだ?」
青年は視線を上に向けながら、右手でアクアを触った。
「僕の友達だよ。名前はアクア」
「キュー、キュー!」
アクアはその後、あっさり青年の手に捕まり、ロディユに引き渡される。
「ありがとう」
「気にするな」
「キュー! キュー!」
アクアはロディユの手から逃げようと、必死にもがく。
「ほら、中に入ったら干し肉をあげるよ~」
ロディユの誘導作戦に引っかからず、アクアはなおも抵抗を続けた。
「あっ!」
ロディユの掴みがわずかに緩んだ瞬間、アクアは急いで逃げ出し、青年の頭へ避難した。
「アクア、どうしたんだ? カバンが嫌なのか? ほら、肩に乗ってていいから」
「キュー!」
アクアは鋭い視線をロディユに向けた。
「本当にどうしたんだ……?」
ロディユは困っていると、青年はアクアをもう一度掴みとり、ロディユの肩に乗せる。
しかし、すぐにアクアは青年の頭に戻ってしまった。
その後も青年の手を借りてカバンに入れようとするが、暴れて逃げ出す。
そのやりとりが、何度も、何度も、続いた……。
「——なんでだよ……」
ロディユは疲れた表情を浮かべていた。
青年も困った顔で頭にいるアクアを指で軽く突く。
アクアは楽しそうにそれと戯れていた。
「はぁ……。お兄さん、これからの予定を聞いてもいい?」
「市場と食堂へ行くつもりだ」
「僕もついていっていい? アクアが僕のところに戻るまででいいから」
「それは名案だ! いろいろ教えてもたい。市場での買い物の仕方などを。魔法カバンというものが欲しいのだ!」
青年は喜んで了承した。
「いいよ。アクアは市場の食物を盗み食いする可能性があるから、それを阻止してくれる?」
「構わんぞ!」
「ありがとう」
「そうだ、お前の名を教えてくれ。我は『ポセ』だ」
「僕はロディユ。よろしくね、ポセさん」
「では、さっそく市場へ案内を頼む!」
「じゃあ、行こっか」
ロディユたちは市場へ向かった。
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