俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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8 竜峰山2

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 ロディユはマスターエルダーの記憶の世界を傍観していた。

 時は、双子星が誕生する前の時代に遡る。
 場所はカストル。

 そこには一人の男と、その前にひれ伏す白竜がいた。

『——神に昇格した其方に最初の役割を与えよう』
『ありがたき幸せ……』

 男は口角を上げ、白竜を透明の球体に閉じ込めた。

『——ゼウス様!? これは一体!?』
『ふははははっ。其方の最初での仕事だ。我が新しく創造する星の糧となれ!』

 球体の中で白竜は暴れ出し、男——ゼウスはうっとりした表情で眺める。

『ふふっ……我の勝ちだ!』
『その声はっ!?』

 先ほどとは異なる声を発したゼウスに白竜は驚く。

『ようやく気づいたか? そうだ、我はデュポーン。なぜ、お前のような奴が神に昇格するのだ!!!』

 怒りに満ちたデュポーンは叫んだ。

『お前、ゼウス様を食ったのか!?』
『ふははははっ、その通りだ。この神は阿呆だ。我の策に易々と引っかかり、我に食われた。吸収・具現能力を持つ我なら、余すことなくこの力を存分に利用できる! 喜べマスターエルダー、お前が最初の実験台だ!』

 そう吐き捨てたデュポーンは、満面の笑みを浮かべた。

『私は、そう簡単に倒れない——』

 白竜——マスターエルダーはそう呟くと、胸に埋め込まれていた虹の聖石を左手でえぐり取る。
 そして、それを頭上に掲げ、力を解放した——。

『——くっ!』

 石から放たれた強い光があまりにも眩しく、デュポーンは両手で目を覆い隠す。

『聞け、デュポーンよ! いずれお前の悪事は潰えるだろう! 神ゼウス様から頂いたこの力は永遠なり!!!』

 マスターエルダーはそう叫んだ後、虹の聖石は五色の石に分裂し、飛散した。

 そこでマスターエルダーの記憶は途切れた……。


 ロディユの視界は突然、赤色へ変わる。
 それは、赤の聖石に保管された記録映像に変わったことを意味していた。

『——この赤い石はなんだ?』

 赤の聖石は遠くに飛散することなく、デュポーンに拾われていた。
 
『さて、マスターエルダーを生贄にするか……』

 赤の聖石はデュポーンの衣服にしまわれ、景色は見えなくなってしまう。
 しかし、声や周りの音は聞こえる状態だ。

 しばらくして大きな地響きが鳴り響く。
 それは、カストルとボルックスがデュポーンによって合体した音だった。

 地響きが数分ほど続いた後、急に辺りは静まり返る。

『——大成功ね。ふふふっ。デュポーンったら、ゼウスそっくりね……』
『ゼウスの力は我のものだ。そしてお前もだ、ヘラ。今日から我の妻だ』
『ええ、もちろんよ。ゼウスみたいに退屈な男にならないでね。私の新しい夫、


 その後、場所が変わる。
 依然として視界は赤いままだ。

 鏡の前で偽ゼウス——デュポーンは、顔を両手で覆っていた。

『なんだこれは……!?』
『ゼウス、どうしたの?』

 ヘラが駆け込んできた。

『ヘラ……』

 ヘラは口に手を当てる。
 デュポーンの顔や手はヒビだらけで、一部が崩れ落ちていた。
 ヘラはすぐにデュポーンを神力で包み込み、皮膚を元に戻す。

『とりあえず補修はしたわ……』

 ヘラは痛々しい表情を浮かべ、正常に戻ったデュポーンの頬を撫でる。

『とりあえず、だと……?』
『あなたは呪いにかかっているわ。私ですら解除できない呪いよ……』

 デュポーンは舌打ちした。

『くそっ! マスターエルダーか!』
『あなたは私のように永遠に不老不死になるはずだった……。でも、それは叶わない……。私の神力でも、長くて数十年というところね』
『ヘラ……。我を助けてくれ……』

 デュポーンはヘラに抱きつく。
 ヘラは優しく抱きしめ、赤い唇の口角を上げた。

『いいわ。あなたの新しい器となる、生命体を作りましょう。それに、自分の子どもも欲しいわね』
『神は生命創造を禁じられているのではないのか?』
『神界ではね。でもここは神界じゃない——』


 その後、別の景色へ切り替わった。
 赤の聖石はヘラに握られているので、視界は悪い。

『——ゼウス、ポセイドンよ』

 ヘラが抱きかかえていたのは、裸の赤子だった。

『これが、我の体になる予定の子どもだな?』
『そうよ。あなたと私から作り出した生命体にマスターエルダーの一部を取り込ませたわ。あとは、この赤い石を胸に埋め込めば、あなたの呪いが消せる体になると思うの』
『感謝する、ヘラ』
『いいのよ。ずっと生命創造に興味があったもの。こんなふうにいろいろと遊べるって楽しいでしょう?』
『ヘラの楽しそうな姿を見るのが我の喜びだ』
『ふふふっ。器となる生命体だけじゃつまらないから、いろんな種類の生命体を作ってみようと思うの。この双子星で生活させて観察するつもりよ』
『星創造の次に叶えたい夢だったからな、存分に楽しむがいい』


 その言葉を聞き終えると、視界が黄色——黄の聖石の記録に変わった。
 景色はまったく見えず、微かな物音が聞こえるだけだ。

『——ゼウス様、ご用命の黄の石を発見いたしました』
『ガブリエル、よくやった。引き続き、指示した場所で石の探索を続けろ。くれぐれも内密にな』
『畏まりました』

 しばらく間があいた後、ヘラの声が聞こえてくる。

『——ゼウス、ガブリエルが見つけてくれたのね?』
『おお、ヘラ、そうだ。ようやく手に入ったぞ。アフロディテが言ったように、マスターエルダーはいくつかの石を世界にばらまいているようだ』
『——なら、マスターエルダーの残りの石を使って、このを作り変えようかしら——』
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