俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

文字の大きさ
12 / 57

11 手がかりを求めて

しおりを挟む

 ロディユとポセは、朝食をとりながら今後のことを話し合っていた。

「——腐食の森近くに冥界への入口があるはずだ。そこは最近の記憶だから覚えているぞ」
「地図上でいうとどのあたり?」
「地図ではわからん。その場所の映像記憶しかないからな」
「じゃあ、どうして腐食の森の近くだとわかったの?」
「冥界から出る時、注意されたのだ。『方向を間違えると、近くの腐食の森に行ってしまう』とな。その場所なら確実に冥界へ行ける気がする」
「それなら腐食の森の場所を地図で検索してみるよ……」
「頼む」

 ポセは待っている間、冥界での記憶を思い出していた。

 
 当時のポセは冥界で生き返ったばかりだった。

『——方向を間違えるな。この指の指す方向を真っ直ぐ進め。さもなくば、腐食の森に行き、冥界に逆戻りだ』

 冥界の出口で灰色の肌・長い黒髪の人物から帰り道の説明を受けていた。

『親切に教えてくれるとは、お前はいいやつだな』
『お前は相変わらず真っ直ぐなやつだな。その心を持っていれば、待ち受けるであろう困難にも負けないだろう』
『はっはっはっ! お前、我のことをよく知っているのだな?』
『はぁ……お前は何もかも忘れてしまっているが、私はお前を忘れたことなど一度もない。そして、これからもな……。しばらくは冥界に戻ってくるなよ、戦闘馬鹿——』





「——ポセさん」

 ロディユの声かけで、ポセは我に返った。

「検索できたよ。とりあえず、その場所に行ってみようか?」
「ああ、そうだな。間違っていればまたここに戻って来ればいいからな」
「うん」

 ロディユはカバンを肩にかけ、立ち上がる。

「では、行くぞ!」

 ロディユは干し肉を食べているアクアをローブの内ポケットに入れ、ポセの左腕に抱きついた。

「いいよ!」

 二人はポセの魔法で目的地へ転移した。





 カストル大陸、サウス砂漠。

 到着した場所は、見渡す限り砂地だった。

「腐食の森から少し離れたところに到着したぞ」
「転移魔法って便利だよね。僕も使えるようになりたいなー」
「ロディユならそのうち使えるようになるのではないか? 練習につきあうぞ」
「本当!?」
「ああ、任せておけ。難しく考える必要はない。明確に行きたい場所を頭に浮かべて、「ふんっ」とやればいいだけだからな」

 ポセは真剣な表情で説明してくれたが、雑すぎる内容にロディユは苦笑した。

「そうなんだ……。練習してみるよ」

 ロディユは適当に返事をした後、腕の通信機から立体地図を拡大表示させた。

「現在地はここ。比較的ボルックス大陸に近い場所だね。南下した先に腐食の森があるよ。猛毒が広がっているから、あまり近づけないと思う。冥界の入り口は今のところ見えないけど、どうやって探すの?」
「ふむ……。もう少し腐食の森へ近づいた方がいいのだが……できるだけ毒に触れないようにしないとな」

 ポセは難しい顔をしていた。

「意外だよ。ポセさんなら、『猛毒上等!』とか言って気にせず進むと思っていたけど」
「毒耐性はある程度持っているが、毒とは直接戦えないからな」
「そういう意味ね……。人間も最新技術を駆使して拡大を止めようと対策してるんだけど、なかなか浄化できないみたい。浄化力をはるかに上回る速さで毒素が生成されるみたいだから。おそらく、その原因は聖石だと思うんだよね」

 ポセは頷く。

「確か、ゲニウスは緑の聖石が腐食の森にあると言っていたな」
「うん。だから冥界へ行った後、腐食の森へ行かなくちゃ」
「そうだな。まずは冥界の入り口を探すぞ」
「うん!」





 腐食の森に近づくにつれ、ロディユは不穏な力の流れを感じるようになっていた。
 アクアも同じように感じ取っているようで、ローブの内ポケットから出てこようとしない。

 ——これが緑の聖石の力なのかな……? 僕の青の聖石とまったく違う禍々しい雰囲気だ。

 しばらく歩き続けると、遠くに森のようなものが見えてきた。
 毒胞子の霧が森を覆っており、その不気味な雰囲気にロディユは顔をしかめる。

「毒胞子がすごく舞ってるね……。どこまで近づけるかな?」
「おそらくあの川の手前までだろう」
「え? 川? 僕には見えないよ?」
「そうか……。冥界に関わったものしか見えないのかもしれないな」

 ポセにははっきりと細い川が見えていた。

「川といっても幻影だったはずだ」
『——フフフッ。正解!』

 背後から女の声が突然聞こえ、ロディユは背筋を凍らせた。
 周りには誰もいなかっただけに恐怖は大きい。

「誰だ! ……ん? 誰もいないぞ?」

 ポセは気にせず振り向いたが、人影すら見えなかった。
 その言葉でロディユの恐怖は倍増し、背後を見ることすらできない。

「ポ、ポセさん? 本当に誰もいないの? でも……声が聞こえたよね?」
「うむ。だが、間違いなくいない」

 ロディユはその返事に震え上がり、体が硬直する。

「僕、こういうの苦手なんだよね……」

 ロディユはポセの右腕をがっしり掴み、震えていた。

『かーわいい~』
「ぎゃーーーーーーー!!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...