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11 手がかりを求めて

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 ロディユとポセは、朝食をとりながら今後のことを話し合っていた。

「——腐食の森近くに冥界への入口があるはずだ。そこは最近の記憶だから覚えているぞ」
「地図上でいうとどのあたり?」
「地図ではわからん。その場所の映像記憶しかないからな」
「じゃあ、どうして腐食の森の近くだとわかったの?」
「冥界から出る時、注意されたのだ。『方向を間違えると、近くの腐食の森に行ってしまう』とな。その場所なら確実に冥界へ行ける気がする」
「それなら腐食の森の場所を地図で検索してみるよ……」
「頼む」

 ポセは待っている間、冥界での記憶を思い出していた。

 
 当時のポセは冥界で生き返ったばかりだった。

『——方向を間違えるな。この指の指す方向を真っ直ぐ進め。さもなくば、腐食の森に行き、冥界に逆戻りだ』

 冥界の出口で灰色の肌・長い黒髪の人物から帰り道の説明を受けていた。

『親切に教えてくれるとは、お前はいいやつだな』
『お前は相変わらず真っ直ぐなやつだな。その心を持っていれば、待ち受けるであろう困難にも負けないだろう』
『はっはっはっ! お前、我のことをよく知っているのだな?』
『はぁ……お前は何もかも忘れてしまっているが、私はお前を忘れたことなど一度もない。そして、これからもな……。しばらくは冥界に戻ってくるなよ、戦闘馬鹿——』





「——ポセさん」

 ロディユの声かけで、ポセは我に返った。

「検索できたよ。とりあえず、その場所に行ってみようか?」
「ああ、そうだな。間違っていればまたここに戻って来ればいいからな」
「うん」

 ロディユはカバンを肩にかけ、立ち上がる。

「では、行くぞ!」

 ロディユは干し肉を食べているアクアをローブの内ポケットに入れ、ポセの左腕に抱きついた。

「いいよ!」

 二人はポセの魔法で目的地へ転移した。





 カストル大陸、サウス砂漠。

 到着した場所は、見渡す限り砂地だった。

「腐食の森から少し離れたところに到着したぞ」
「転移魔法って便利だよね。僕も使えるようになりたいなー」
「ロディユならそのうち使えるようになるのではないか? 練習につきあうぞ」
「本当!?」
「ああ、任せておけ。難しく考える必要はない。明確に行きたい場所を頭に浮かべて、「ふんっ」とやればいいだけだからな」

 ポセは真剣な表情で説明してくれたが、雑すぎる内容にロディユは苦笑した。

「そうなんだ……。練習してみるよ」

 ロディユは適当に返事をした後、腕の通信機から立体地図を拡大表示させた。

「現在地はここ。比較的ボルックス大陸に近い場所だね。南下した先に腐食の森があるよ。猛毒が広がっているから、あまり近づけないと思う。冥界の入り口は今のところ見えないけど、どうやって探すの?」
「ふむ……。もう少し腐食の森へ近づいた方がいいのだが……できるだけ毒に触れないようにしないとな」

 ポセは難しい顔をしていた。

「意外だよ。ポセさんなら、『猛毒上等!』とか言って気にせず進むと思っていたけど」
「毒耐性はある程度持っているが、毒とは直接戦えないからな」
「そういう意味ね……。人間も最新技術を駆使して拡大を止めようと対策してるんだけど、なかなか浄化できないみたい。浄化力をはるかに上回る速さで毒素が生成されるみたいだから。おそらく、その原因は聖石だと思うんだよね」

 ポセは頷く。

「確か、ゲニウスは緑の聖石が腐食の森にあると言っていたな」
「うん。だから冥界へ行った後、腐食の森へ行かなくちゃ」
「そうだな。まずは冥界の入り口を探すぞ」
「うん!」





 腐食の森に近づくにつれ、ロディユは不穏な力の流れを感じるようになっていた。
 アクアも同じように感じ取っているようで、ローブの内ポケットから出てこようとしない。

 ——これが緑の聖石の力なのかな……? 僕の青の聖石とまったく違う禍々しい雰囲気だ。

 しばらく歩き続けると、遠くに森のようなものが見えてきた。
 毒胞子の霧が森を覆っており、その不気味な雰囲気にロディユは顔をしかめる。

「毒胞子がすごく舞ってるね……。どこまで近づけるかな?」
「おそらくあの川の手前までだろう」
「え? 川? 僕には見えないよ?」
「そうか……。冥界に関わったものしか見えないのかもしれないな」

 ポセにははっきりと細い川が見えていた。

「川といっても幻影だったはずだ」
『——フフフッ。正解!』

 背後から女の声が突然聞こえ、ロディユは背筋を凍らせた。
 周りには誰もいなかっただけに恐怖は大きい。

「誰だ! ……ん? 誰もいないぞ?」

 ポセは気にせず振り向いたが、人影すら見えなかった。
 その言葉でロディユの恐怖は倍増し、背後を見ることすらできない。

「ポ、ポセさん? 本当に誰もいないの? でも……声が聞こえたよね?」
「うむ。だが、間違いなくいない」

 ロディユはその返事に震え上がり、体が硬直する。

「僕、こういうの苦手なんだよね……」

 ロディユはポセの右腕をがっしり掴み、震えていた。

『かーわいい~』
「ぎゃーーーーーーー!!!」
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