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13 冥界
しおりを挟むクレアが戻ってくるまでの間、ロディユとポセは話しながら待っていた。
「——ポセさん、ハデス様に会えると思う?」
「わからん。だが、我がハデスと友なら話を聞いてくれるのではないか? 友が話したいと願っているというのにそれを断るなら、それは友とは呼べない」
「そうだね」
しばらく待っていると、『お待たせ~』と少し機嫌を良くしたクレアが二人の前に現れた。
『ハデス様、今日はたまたま庭園にいらしてとてもご機嫌だったわ。私のお願いをすぐに聞いてくれたの』
「会えるのだな?」
『もちろんよ。そのためには、この通行手形に血を垂らす必要があるわ』
クレアは二人に一つずつ、ネックレスを手渡した。
ネックレスには小さなクリスタルがぶら下がっている。
「少しでいいの?」
『そうよ。クリスタルに少し血をつけるだけよ。ハデス様直々の手形だから、少量の血を失っただけで冥界に入れるの。あなたも昔はそうやって冥界に来ていたでしょ?』
クレアの質問に対して、ポセは身に覚えのない反応を示していた。
『あら、そのことも忘れているのね。一度死ぬって代償が大きいのね……』
クレアは小声でそう呟いた。
ロディユは指先を少し傷つけ、石に赤い血をこすりつける。
すると、クリスタルは赤色へ変化した。
ポセのクリスタルは金色だ。
「あ、僕の眷属も連れて行きたいのだけど……」
『あら、予備にもらっておいて正解だったわね。その子も同じようにして。……そう、それでいいわ。じゃあ、ついてきて』
クレアは二人と一匹の手を引っ張って別空間へ移動し、冥界へ向かった。
*
『——ようこそ、冥界へ』
冥界の門を抜けると、ロディユたちは予想外の明るさに驚いた。
『フフフッ、いい顔をしているわね。綺麗なところでしょ?』
「はい……」
そこは、クリスタルで満ちた世界だった。
地面、建物、植物が全てクリスタル製で、唯一空だけが漆黒の空間だ。
その漆黒の空には無数の青白い光玉が浮かんでおり、クリスタルがその光を反射して冥界全体が明るくなっていた。
ロディユは幻想的な光景に目を奪われる。
『二人とも、私の手を離さないでね。そのまま飛んで移動するから——』
クレアの飛行はまるで自分の体がなくなったかのように軽くなり、フワフワしていた。
ポセの飛行魔法の感覚とは明らかに違っている。
『向こうに見える城が、ハデス様がおられる『冥界宮』よ』
クレアが指差した場所には、クリスタル製の巨大な城が浮かんでいた。
その城の頂上には紫色の球体があり、目のような模様が描かれている。
それに視線を移したロディユは、何もかも見通されているように感じ、ゴクリと喉を鳴らした。
『は~、いつ見ても美しいお城だわ。まるでハデス様みたいに……』
冥界宮の門の前に到着すると、クレアはうっとりした表情で城を見上げていた。
「周りにある花もクリスタルですか? キラキラしてて……美しいですね」
ロディユたちが立っている門の周りには、緑色クリスタルの花が咲いていた。
『フフフッ。ハデス様がお育てになってた花よ。色付いたクリスタル花を培養できるのはハデス様だけなの。この花は、腐食の森に役立つかもしれないとおっしゃってたわね……』
「え? そうなの?」
『それも含めていろいろと聞いてみるといいわ。ハデス様はとてもお優しい神だから……私たち冥界人だけにはね』
クレアは意地悪な笑みをロディユに向けた。
最後の一言でロディユの緊張と不安は一気に膨れ上がる。
『ここから先はあなたたちだけで行きなさい。扉が勝手に開いてくれるから、どんどん進んでいくといいわ』
「ありがとうございました」
「感謝するぞ」
『ここまで世話してあげたんだから、頼むわよ! 坊や!』
「うん、大丈夫。僕に任せておいて」
クレアは手を振りながら下方へ飛んで行った。
「ポセさん、どうしたの? ここに来てからずっと難しい顔をしてるけど……」
ポセは城の上の方をずっと眺めていた。
冥界に来てから浮かない顔をしていたので、ロディユは心配する。
「見覚えがあるような気がしてな……」
「そっか……」
二人が話をしていると、両扉の門がゆっくりと開いた。
「行くぞ」
「うん!」
「キュー!」
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