俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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18 腐食の森3

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 危険を察知した毒胞子は、すぐに森の主の足元を囲むように分厚い壁を作り始めた。

『応用力が高いわね~。嫌になっちゃう!』

 クレアはポセのすぐ横でぼやいた。

「だが、我の判断は間違っていないと証明したぞ!」

『クレア、がんばれー』
『クレアならできるー』

 側で見守る死精霊たちが応援の言葉を囁いた。

『ちょっと、あんたたち! 少しは手伝いなさいよ!』
『えー、おいらは弱いから』
『うん、うん、おいらは何もできない』
『もう!』

 呑気な死精霊たちに対して、クレアは苛立っていた。

「ポセさん、今から矛の補強を始めるよ。その強化矛で毒胞子の壁と防御壁を取り払った直後、僕と同時に攻撃する。いいね?」
「いいぞ!」

 ロディユはポセの背中に描いた魔法陣の上に、赤いクリスタルの花を三つ置いた。
 魔力を流し込み、魔法陣を起動させる——。
 赤い光を帯びた魔法陣は、何本もの赤い紐状の物を伸ばし始めた。
 それはまるで蔓植物が木にまとわりつくように、ポセの背中から腕へ、腕から矛の先端へ伸び、ポセと矛を強化していく。
 それが矛の先端にたどり着くと、赤い炎が矛の刃を覆った。

「強化完了だよ!」

 ポセはロディユの声で勢いよく矛を振り回し、どんどん毒胞子の壁を傷つけていく。
 そして、徐々にヒビが入り始める。

「ポセさん、これならいける!」
「おう!」

 ポセは矛の先端を大きくヒビが入った部分へ思いきり突き刺した。

 そこから燃え広がり、防御壁はボロボロと崩れ始める。

『ヴォーーーー!!!』

 森の主は怒りの声を上げ、腐食砲を目の前のポセへ向けて放った。
 ポセは転移して瞬時に回避し、森の主の背中へ回り込む。

「ロディユ、同時攻撃だ!」
「うん!」

 ロディユは右手に赤いクリスタルの花を握り、魔力をその手に集約していた。

 ポセの矛は崩れ落ちた防御壁を抜け、森の主の腹へ突っ込む。

 ロディユはそのタイミングに合わせ、青い魔力砲を右手から森の主の腹へ向けて放った。

 その魔力砲に押し込まれたクリスタルの赤い花は、森の主の腹で燃え上がる。
 そして、そのまま緑の聖石を押し出しながら、二人の攻撃は森の主の体を貫通した。

 動きが遅い森の主は、後ろを振り返ろうとするが——。
 体が赤い炎に包まれ、一瞬で灰と化してしまった。

 その後、腐食の森は幻影だったかのように忽然と消え、森の主の灰とともに一瞬で消滅した。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 一気に大量の魔力を放出したロディユは、肩を上下させながら息をしていた。

「よくやった、ロディユ」
「ポセさんの方こそ……」

 二人は右手の拳を合わせ、勝利を噛み締めた。

『二人とも! やったじゃない!』

 クレアは飛び込むように二人に抱きついた。

「冷たいぞ! 触るな!」

 あまりの冷たさに、ポセはクレアの頭を鷲掴みにして放り投げる。

『ちょっと! レディに対して酷いじゃない! 手伝ってあげたのに、その態度はなんなのよ!?』
「冷たすぎると言ったのだ! 少しは気を使え! 死ぬかと思ったぞ!」
『死ぬわけないでしょ!』

 二人が言い合っている間、ロディユはポセの背中から下り、森の主が所持していた緑の聖石を拾いに行く。

「ようやく一つ目……」

 ロディユはそれを右手で握りしめ、砂地に戻った場所を眺めた。


***


 神域、第一浮遊島。

 ウリエルは薄暗い部屋の隅置かれた水鏡へ跪いていた。

「——報告いたします。腐食の森が突然、消滅しました。すでに緑の石は持ち去られたようです」
『報告、ご苦労。紫の石に注視せよ』

 水鏡の中から、男の声がそう告げた。

「畏まりました。ゼウス様」
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