俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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20 謎の女1

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「——ポセさん、本当なの?」
「間違いない。さあ、立っていないで座れ」
「失礼いたします」

 2人に声をかけてきた女は深々と頭を下げ、席についた。
 ちょうど光が当たらない位置に座ったので、ロディユからはフードで隠した顔を窺い知れない。

「詳しい説明は街を出てからにする。今は腹ごしらえだ。お前も遠慮なく食べるといい」
「感謝いたします。ポ——」
「——ポセだ。今後はそう呼んでくれ。あと、我の前に座っている少年はロディユだ。信用できる賢い子だから、安心してくれ」
「畏まりました、ポセ様。では、私のことはミカと……」

 女は再び頭を下げた。

「よし、遠慮なく食べろ!」

 ポセは真っ先に手を伸ばし、口いっぱいに肉を詰め込んだ。
 隣の女は膝に手を置いたままで食べる様子はない。
 ロディユはその女が気になり、食事どころではなくなっていた。

「なんだ? 二人とも食べないのか? 我が全部食べてしまうぞ?」
「僕は皿に取り分けた分だけでいいよ」
「私は……昨日食事をいたしましたので、今日は……」

 ポセは思い出したように頷く。

「そうか、ミカはあまり食べなくても良いのだったな。羨ましい体だ」

 ロディユは今がチャンスだと思い、思い切ってミカに話しかけてみる。

「あ、あの……ミカさんは何か好きな食べ物はありますか? 後で食材調達をする予定なので、ついでにミカさんの分も買いますが……?」
「賞金があるから遠慮せずに言えよ」
「お気遣い感謝いたします。ですが、自分用の食材はすでに用意していますので」
「そうですか……」

 弾まない会話に、ロディユは居心地の悪さを感じていた。





 ポセが内密に話がしたいということで、デイアブロから少し離れた岩山へ向かっていた。

「——ポセ様、私にそのカバンをお預けください!」
「重さなど感じない。必要ないぞ!」
「いけません! 貴方様ともあろうお方が……」

 そんなやりとりが食材調達後からずっと続いていた。
 先頭を歩いていたロディユは、呆れ顔を浮かべている。
 平行線の会話に疲れたポセは立ち止まり、ミカに鋭い視線を送った。

「ミカ、いい加減にしてくれ! お前のそのような態度は目立つのだ。我の立場も考えてくれ!」

 ミカは、わずかに体をビクつかせる。 

「ですが……」
「命令だ!」
「……畏まりました」

 ミカはその場で膝を立てると、胸に手を添えて深々と頭を下げた。

「ミカ……その仰々しい振る舞いも控えてくれ。お前も素性を明かしたくないのだろう?」
「ですが……」
「命令だ」
「……畏まりました」

 ミカは同じ体勢で深々と頭を下げた。
 未だにフードを被っているので、ロディユからは表情を読み取れない。

「——あそこで話をするぞ」

 三人は岩山に到着すると、そこにある大きな穴の中へ入り、輪をつくるように座った。
 アクアはようやくカバンから出してもらい、遅れて食事を始める。

「ミカ、顔を出してくれ」
「……畏まりました」

 ミカは頭を下げた後、フードと角を外した。
 ロディユは外れた角を見て目を丸くする。

「ミカは……天使軍総司令、ミカエルだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ……。なんで……?」

 頭が真っ白になったロディユは、適切な質問が浮かばなかった。

「ミカの保護は緊急の頼みだったから詳細を聞かされていない。説明してくれないか?」
「……しかし」

 ミカはロディユに訝しげな視線を送る。

「信用できないか? だが、我が保証する。ロディユはマスターエルダーに選ばれた人間だ」
「なっ!? それは、どういうことでしょうか!?」
「ちょっと! ポセさん!?」

 ポセはとぼけた顔で、「言わない方がよかったか?」とロディユに聞き返した。

「ポセさんは本当に食欲と戦闘だけだね……。慎重に情報は開示しないと」
「おい、貴様!」

 ミカは体を震わせ、ロディユの胸ぐらを掴んだ。

「えっ!?」
「貴様、先ほどからポセ様に対する無礼、許さんぞ!」

 ミカは顔を赤くし、激高していた。

「ミカ! よせ! 無礼を働いているのはお前だ!」
「キュー! キュー! キュー!」

 アクアも抗議をするように鳴き叫んでいた。

「しかし、ポセ様!」
「ロディユを離せ! 命令だ!」
「……畏まりました」

 ミカは渋々ロディユから手を離した。

「これ以降ロディユを丁重に扱え! それに、我を呼ぶときに『様』をつけるな!」
「……畏まりました」

 頭を深々と下げるミカを見ながら、ロディユは口を開いた。

「ゴホッ……。ミカさん、説明をお願いします」
「わかった」
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