26 / 57
25 計画実行1
しおりを挟む「——明日、ルシファーが七罪の拠点と思われる館に来ます。最初に仲介役の者と面会する予定ですが、その担当を——ロディユに頼みたい」
「はい!」
初めてミカエルに名前を呼んでもらったロディユは、認めてもらえたような気がし、元気よく返事をした。
「私はその者とは会いません。姿を隠したままルシファーの居場所を探し、押し入るつもりです。ポセさんはアンラ・マンユを連れ、私と同行していただきます」
ミカエルはポセに頭を下げた。
「いいだろう」
「ジークはロディユの護衛を頼む。そして、私の合図——この石が光ったら、すぐにロディユを連れて逃げてくれ。面会者が攻撃してくるようなら対処してほしい」
ミカエルは合図の石をジークに渡した。
「……わかった」
ジークは素直に了承した。
ポセよりも信頼に足る人物だと直感したからだ。
「2人とも、そんなに緊張するな。荒事にはならない。目立つといけないからな」
ポセは異常なほど余裕の笑みを浮かべていた。
「本当に大丈夫なの? 争いごとを好む人種だよ? それも、あの七罪の長なんて……」
「まあ、見てのお楽しみだ」
「うーん……」
ロディユはポセのすっきりしない答えに不満の声を漏らした。
「目的はなんだ?」
ジークがミカエルに向かって質問した。
「今回の目的は、魔人を私たちの仲間に引き入れることだ。ルシファーは神レベルの力を持っている上に魔人最強。そして、『七罪』の長でもある」
「ちょっと待て……。お前たちの敵は誰なんだ……?」
ジークは怪訝な表情を浮かべる。
「ゼウスとヘラだよ」
ロディユはジークの問いかけに笑顔で答えた。
「笑って言える人物ではないぞ!? 最高神だぞ!? 勝算はあるのか?」
「だから、こうして準備を進めているんだよ。詳細は後で話すけど、切り札はあるから大丈夫」
ロディユは内心不安だったが、そんな感情を表には出さず、自信ありげに答えた。
「冗談だろ……」
ジークは呆れていた。
「私は少しこの場を離れますが、すぐに戻ります」
ミカエルはそう言うと、ポセの耳に顔を近づけて小声で話しかける。
「そちらの進捗はどうなっているのですか?」
「地上にあるものは全て集めた。残り二つは神域だ」
「……畏まりました。あの方にお伝えしておきます」
「頼んだ。慎重にな」
*
四人は隠し洞窟に来ていた。
ミカエル、ポセ、拘束されたアンラ・マンユは、姿を消した状態だ。
アクアはいつも通りカバンの中で大人しくしてもらっている。
予定の時間になり、ロディユは隠し扉があると思われる壁に液体——面会が許可された者だけが持つ魔法薬をふりかけた。
魔法薬が壁に染み渡った後、そのシミは長方形の形に。
そして、それは実在の扉に変わり、内側へゆっくりと開いた。
「——お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
扉の先にいた魔人は、清潔感のある紳士的な人物だった。
胸に手を添えて頭を下げている。
「失礼します」
ロディユが最初に入り、ジークは少し間を開けて後に続く。
二人の間には姿を消したミカエルとアンラ・マンユを縦に抱えたポセがおり、素早く通り抜けて奥へ駆けていった。
「では、例のものは……あちらの部屋で拝見させていただきます」
ロディユとジークは面会部屋へ通された後、商談に入った。
*
ミカエルとポセは、ある部屋の扉の前に来ていた。
ミカエルが扉の取っ手に手を触れた瞬間、扉が奥へ勝手に開く。
「——ノックもせずに入るのか? ミカエル」
部屋の中から男の声が響いた。
ミカエルは焦りもせず、透明化の魔法を解除した。
バタンッ!
ミカエルが入室した直後、扉はルシファーの魔法によって勢いよく閉じられた。
広い部屋の中央には、長いテーブルが一つ。
その奥に、ミカエルと顔が瓜二つの男が一人座っていた。
——彼がルシファーだ。
「一人で迎えてくれたこと、感謝する。双子の弟よ」
ミカエルはルシファーに向かってそう告げた。
それを聞いた男は、失笑する。
「ふっ……弟だと? 偽りだらけの神域に私の家族はいない。こんな物をよこして、私をうまくおびき寄せたつもりか?」
ルシファーは黒い布に包まれた『ミカエルの髪の束、かつて天使だった時のルシファーの羽一枚』をテーブルの上に放り投げた。
ミカエルはその場から動かず、冷静にルシファーを見つめている。
「聞け、ルシファー。私はもはや神域の天使ではない」
ルシファーは目を細めた。
「ほう……。お前もようやくあの神域に見切りをつけたのか?」
「神域は、もはや正常に機能していない。ゼウスとヘラはこの世界を崩壊させるつもりだ。それを阻止するため、私に力を貸してはくれまいか?」
ルシファーは冷笑し、無言を貫く。
「ガブリエルは神の命令で私を殺そうとした。そして、それが失敗してガブリエルは殺された……」
ミカエルの顔には、悲しみの表情が浮かんでいた。
ルシファーは一瞬ガブリエルの名前に反応を示したが、表情は冷たいままだ。
「神域の揉め事など知るか。お前たちが何かしくじっただけだろう?」
ルシファーとガブリエルは、かつての親友だった。
少しでも心が動いてくれれば、とミカエルはその情報を伝えたのだが……。
無駄だったようだ。
「私は何もしていない。天使が人間を襲ったという情報を得て、調べていただけだ」
「だからといって、私には何の関係もない。そんな腐りきった神域は、もはやいらない。私が潰してやる」
ルシファーは目を細めた。
「それなら……、私と共に戦ってくれまいか?」
ミカエルは頭を下げたが、ルシファーは失笑した。
「失望したぞ、ミカエル。お前一人が加勢しても何の意味もない。昔のお前なら、力づくで私……魔人たちを屈服させる度量があると思っていたが?」
「——そんな時間はない!」
ミカエルは語気を強めた。
ルシファーは眉を顰める。
「ミカエル、何を焦っている? そんなに神域からの粛清が怖いのか?」
「粛清など……私が気にするわけがない。私はお前と違って常に冷静だからな」
ミカエルはその後、ルシファーの心を揺さぶる話題を話し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる