俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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25 計画実行1

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「——明日、ルシファーが七罪の拠点と思われる館に来ます。最初に仲介役の者と面会する予定ですが、その担当を——ロディユに頼みたい」
「はい!」

 初めてミカエルに名前を呼んでもらったロディユは、認めてもらえたような気がし、元気よく返事をした。

「私はその者とは会いません。姿を隠したままルシファーの居場所を探し、押し入るつもりです。ポセさんはアンラ・マンユを連れ、私と同行していただきます」

 ミカエルはポセに頭を下げた。

「いいだろう」
「ジークはロディユの護衛を頼む。そして、私の合図——この石が光ったら、すぐにロディユを連れて逃げてくれ。面会者が攻撃してくるようなら対処してほしい」

 ミカエルは合図の石をジークに渡した。

「……わかった」

 ジークは素直に了承した。
 ポセよりも信頼に足る人物だと直感したからだ。

「2人とも、そんなに緊張するな。荒事にはならない。目立つといけないからな」

 ポセは異常なほど余裕の笑みを浮かべていた。

「本当に大丈夫なの? 争いごとを好む人種だよ? それも、あの七罪の長なんて……」
「まあ、見てのお楽しみだ」
「うーん……」

 ロディユはポセのすっきりしない答えに不満の声を漏らした。

「目的はなんだ?」

 ジークがミカエルに向かって質問した。

「今回の目的は、魔人を私たちの仲間に引き入れることだ。ルシファーは神レベルの力を持っている上に魔人最強。そして、『七罪』の長でもある」
「ちょっと待て……。お前たちの敵は誰なんだ……?」

 ジークは怪訝な表情を浮かべる。

「ゼウスとヘラだよ」

 ロディユはジークの問いかけに笑顔で答えた。

「笑って言える人物ではないぞ!? 最高神だぞ!? 勝算はあるのか?」
「だから、こうして準備を進めているんだよ。詳細は後で話すけど、切り札はあるから大丈夫」

 ロディユは内心不安だったが、そんな感情を表には出さず、自信ありげに答えた。

「冗談だろ……」

 ジークは呆れていた。

「私は少しこの場を離れますが、すぐに戻ります」

 ミカエルはそう言うと、ポセの耳に顔を近づけて小声で話しかける。

「そちらの進捗はどうなっているのですか?」
「地上にあるものは全て集めた。残り二つは神域だ」
「……畏まりました。あの方にお伝えしておきます」
「頼んだ。慎重にな」





 四人は隠し洞窟に来ていた。
 ミカエル、ポセ、拘束されたアンラ・マンユは、姿を消した状態だ。
 アクアはいつも通りカバンの中で大人しくしてもらっている。

 予定の時間になり、ロディユは隠し扉があると思われる壁に液体——面会が許可された者だけが持つ魔法薬をふりかけた。
 魔法薬が壁に染み渡った後、そのシミは長方形の形に。
 そして、それは実在の扉に変わり、内側へゆっくりと開いた。

「——お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 扉の先にいた魔人は、清潔感のある紳士的な人物だった。
 胸に手を添えて頭を下げている。

「失礼します」

 ロディユが最初に入り、ジークは少し間を開けて後に続く。
 二人の間には姿を消したミカエルとアンラ・マンユを縦に抱えたポセがおり、素早く通り抜けて奥へ駆けていった。

「では、例のものは……あちらの部屋で拝見させていただきます」

 ロディユとジークは面会部屋へ通された後、商談に入った。



 

 ミカエルとポセは、ある部屋の扉の前に来ていた。
 ミカエルが扉の取っ手に手を触れた瞬間、扉が奥へ勝手に開く。

「——ノックもせずに入るのか? ミカエル」

 部屋の中から男の声が響いた。
 ミカエルは焦りもせず、透明化の魔法を解除した。

 バタンッ!

 ミカエルが入室した直後、扉はルシファーの魔法によって勢いよく閉じられた。

 広い部屋の中央には、長いテーブルが一つ。
 その奥に、ミカエルと顔が瓜二つの男が一人座っていた。
 ——彼がルシファーだ。

「一人で迎えてくれたこと、感謝する。双子の弟よ」

 ミカエルはルシファーに向かってそう告げた。
 それを聞いた男は、失笑する。

「ふっ……弟だと? 偽りだらけの神域に私の家族はいない。こんな物をよこして、私をうまくおびき寄せたつもりか?」

 ルシファーは黒い布に包まれた『ミカエルの髪の束、かつて天使だった時のルシファーの羽一枚』をテーブルの上に放り投げた。
 ミカエルはその場から動かず、冷静にルシファーを見つめている。

「聞け、ルシファー。私はもはや神域の天使ではない」

 ルシファーは目を細めた。

「ほう……。お前もようやくあの神域に見切りをつけたのか?」
「神域は、もはや正常に機能していない。ゼウスとヘラはこの世界を崩壊させるつもりだ。それを阻止するため、私に力を貸してはくれまいか?」

 ルシファーは冷笑し、無言を貫く。

「ガブリエルは神の命令で私を殺そうとした。そして、それが失敗してガブリエルは殺された……」

 ミカエルの顔には、悲しみの表情が浮かんでいた。
 ルシファーは一瞬ガブリエルの名前に反応を示したが、表情は冷たいままだ。

「神域の揉め事など知るか。お前たちが何かしくじっただけだろう?」

 ルシファーとガブリエルは、かつての親友だった。
 少しでも心が動いてくれれば、とミカエルはその情報を伝えたのだが……。
 無駄だったようだ。

「私は何もしていない。天使が人間を襲ったという情報を得て、調べていただけだ」
「だからといって、私には何の関係もない。そんな腐りきった神域は、もはやいらない。私が潰してやる」

 ルシファーは目を細めた。

「それなら……、私と共に戦ってくれまいか?」

 ミカエルは頭を下げたが、ルシファーは失笑した。

「失望したぞ、ミカエル。お前一人が加勢しても何の意味もない。昔のお前なら、力づくで私……魔人たちを屈服させる度量があると思っていたが?」
「——そんな時間はない!」

 ミカエルは語気を強めた。
 ルシファーは眉を顰める。

「ミカエル、何を焦っている? そんなに神域からの粛清が怖いのか?」
「粛清など……私が気にするわけがない。私はお前と違って常に冷静だからな」

 ミカエルはその後、ルシファーの心を揺さぶる話題を話し始めた。
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