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27 合流
しおりを挟むロディユは緊張を表に出さないよう必死に平静を装っていた。
「——ほう、これは本当に良い品です」
机を挟んで対面に座る商談相手の魔人は、右目の鑑定魔眼をキラリと光らせる。
今はロディユから受け取った品——アンラ・マンユの剣を隅々まで調べているところだ。
この剣が取引の品としてふさわしい物であれば、ルシファーに会えることになっている。
しかし、先に行動しているミカエルが優先なので、ロディユたちはあくまでも時間稼ぎにすぎない。
「素晴らしい魔剣だと私も思います。これを売却してくれた者が言うには、竜の角から削り出した魔石が柄にはめ込まれているとか……」
ロディユは、「できるだけ話を長引かせるように」とミカエルから言われていたので、魔剣についての情報を小出しに開示していた。
「確かに……強力な魔力を秘めているようですね……。七罪がお喜びになるのは、間違いないかと——」
ロディユは心の中でホッとする。
「——しかし、この珍しい魔石……。まさかとは思いますが、悪神アンラ・マンユの剣ではないですよね? あの者は武器に執着していましたから、恨みを買うのはちょっと……」
芳しくない状況になりつつある、と感じたジークは警戒を強めた。
基本的には逃げるように言われているが、最悪の場合は商談相手を口止めしてもいい、と許可が出ている。
「——正直に言え」
魔人は自白魔法を発動した。
「私は運よくそれを仕入れただけ。前の持ち主は存じ上げません」
前もって聖石由来の防御壁を張っていたロディユには、効果はなかった。
自白するふりをしながらロディユは落ち着いて誤魔化す。
背後に立っていたジークは、ロディユの冷静な応対に感嘆していた。
「——見せてみろ」
「ルシファー様!?」
剣を持っていた魔人は、すぐ横に突然現れたルシファー、ポセ、ミカエルに驚き、椅子を倒しながら立ち上がった。
ロディユとジークは、予想外の状況に警戒を強める。
「こいつらは信用できる。あとは私に任せろ」
「……は、はい!」
鑑定していた魔人は、頭を下げながらルシファーに剣を渡した後、恐れをなして足早に部屋を出て行った。
ポセはロディユに笑顔を浮かべながら頷くと、ロディユは肩の力を抜いた。
「これが、アンラ・マンユの魔剣ですか?」
「そうだ。しばらく預かってくれ」
「畏まりました」
ルシファーがポセに対して深く頭を下げている様子に、ロディユとジークは目を丸くする。
その上、ミカエルと顔がそっくりだったので驚きは二重だ。
「ルシファー、紹介する。この少年が我の相棒ロディユ。そして、その後ろにいるのがジークだ」
ロディユとジークは軽く頭を下げた。
ルシファーはポセイドンに相応しい人物かどうかを見極めるため、二人の顔を舐め回すように見つめる。
「二人とも信頼できる」
「——左様でございますか……」
ルシファーはロディユに対して、わずかに嫉妬心を芽生えさせていた。
「ジークは変異者として優れている。ジーク、今日からルシファー率いる七罪に鍛えてもらえ」
「——なっ! 唐突だな! がはっ!!!」
ルシファーはジークの目の前に転移し、ジークの腹を殴った。
ポセに対する態度が無礼だ、と判断したためだ。
「口を慎め、ポセイドン様の御前だぞ!」
「ルシファー、早まるな。その者はアンラ・マンユを倒し、ポセさんに認められている。そのような態度もポセさんが許可しておいでだ」
ルシファーは慌ててポセの方を向く。
「ルシファー、我はこのような性格。言葉遣いなど気にせぬ。むしろ、血気盛んな者の態度として喜ばしいことだ」
「左様でございますか……」
ルシファーは困った表情を浮かべた。
ロディユとジークは、ルシファーの極度の低姿勢に度肝を抜かれる。
様子を察していたミカエルは、「後で説明する」と言って、その場はやり過ごすことになった。
「ポセイドン様、私はそろそろ……」
「うむ。頼んだぞ」
「はい」
ルシファーはそう言ってポセイドンに頭を下げた後、ジークの腕を掴んでその場から消えた。
「ロディユ、ご苦労だった。こちらはもう済んだから、さきほどの穴蔵へ戻るぞ!」
「うん!」
*
ロディユ、ポセ、ミカエルは地下空洞に戻るとすぐ、ルシファーとの間に起こったことについて話し合っていた。
ようやくカバンから出してもらえたアクアは、ロディユに撫でてもらっている。
「——アスガルドの支援を得られれば、その他の種族と交渉するつもりだ」
「ポセさん、ジークさんを振り回し過ぎでは? なんの説明もなくルシファーさんに任せるのは可哀想だよ」
「そうか? あの男はあれくらいのこと、気にしないと思うがな」
「この状況を『あれくらい』の一言で片付けるんだね……」
ロディユは無頓着すぎるポセに呆れる。
「ロディユ、そんなに心配せずとも良い。私からルシファーには、すでに事情を説明しておいた。悪評が広がっているルシファーだが、神域にいた時は極みがつくほどポセさんには従順だった。下手なことはしない」
「ミカさんがそういうなら安心ですね。それにしても、魔人は度々問題を起こしていますが、それは神域へ楯突くためですか?」
「魔人は純粋に戦いが好きだ。何か理由をつけてそういう場を設けようとしている。闘技場ができたのも、そんな理由からだ。暴れまわっているのは、魔人の中でも弱い部類のものばかり。七罪にアピールしたいだけだろう」
「ルシファーは無駄な戦いは好まない。常に最良の選択をする賢い男だ」
ミカエルは、ポセの言葉に同意するように頷いだ。
「ルシファーは神域を恨んでいたが、それはずっと抑え込んでいたようだ。神域が世界を監視することで、情勢が安定していることは確かだからな。ルシファーはその気になれば軍を率いて神域へ攻め入ることもできたはずだ。憧れの存在であるルシファーに魔人のほとんどが追従するだろうからな。それをしなかったのは、考えなしに争いを続けると自然が破壊され、不毛な大地の拡大が進むと考えたからだ」
「意外です。ルシファーさんって本当に真面目なんですね」
「はっはっはっ! この双子は真面目すぎることで有名だった」
ミカエルはポセの言葉で眉尻を下げた。
「耳が痛いですね……。まあ、そういうことだ。ルシファーの悪い噂は、取り巻きの七罪だと私は考えている。ルシファーは好きにしろ、という考えだろうな」
「我もその考えに同意見だ。あいつは友人や配下を大切にするやつだ。そいつら守るために自分が矢面に立つ。お前もだがな、ミカエル」
「双子はやはり似てしまうのでしょう」
ミカエルは苦笑いを浮かべる。
ロディユはミカエルの別の一面を見て、親近感を抱き始めていた。
「それで? これから僕たちはどこへ行くの?」
「ルシファーが信頼している吸血鬼の村に潜伏するつもりだ」
「え!?」
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