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33 突然の襲撃

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 七罪隠れ家。

 ベルゼブブは慌てた様子で闘技場に入り、ルシファーの元へ飛んできた。

「ルシファー様! 大変です! カストル大陸に住む人間の街が全て襲撃されました!」
「詳細は?」
 
 訓練中だったジーク、ベルフェゴールの耳にもその会話が届き、二人は同時に動きを止めた。

「それが……、誰一人逃げられた者はおらず……。街全体が住人と一緒に跡形もなく消え去ったと聞いています。近くに住む獣人の話では、巨大な光の玉が見えたそうで……」
「——誰がやったんだ!?」

 ジークは二人の元へ転移し、ベルゼブブを問い詰める。

「配下に調べさせたが、わからない」
「なぜ、こんなことに……」

 ジークは右手を額に当てた。

「実は……今回の襲撃には、ルシファー様が関わっている、という噂が流れております……」

 ベルゼブブは悔しい表情を浮かべた。
 ジークはすぐにルシファーに飛びかかろうとしたが、ベルフェゴールの鞭に手足を縛られ、空中で逆さ吊り状態にされる。

「離せー!!!」

 ルシファーとは毎日のように顔を合わせ、信頼できる人物の一人になっていたからこそ、ジークの怒りは凄まじかった。

「落ち着け、私は全く関係ない」

 ルシファーは静かに告げた。

「これは、してやられたな……。『巨大な光の玉』は、私がかつて使用していた魔法『明けの明星』を連想する。それが原因で私が犯人だと思われているのだな?」
「……その通りでございます」

 ベルゼブブは悔しさから全身を震わせていた。

「天使の翼を失った今、私には使えない魔法だ。しかし、そんなことは神域の一部の者しか知らないだろう」
「じゃあ、犯人は誰だというんだ!」
「そんな強大な力を持っているのは、十二神の誰かだろう」

 ルシファーは推測を口にした。

「ミカさんはその魔法を使えないのか?」
「使えない。あいつは神光属性が得意ではないからな」


***


 同じ頃、吸血鬼の村にも人間襲撃の情報が届いていた。

 イリヤの家。

 話し合いのためにロディユ、ポセ、ミカエルが集まっていた。
 すでにルシファーと同じ結論に至っており、今は襲撃の意図は何なのかを話し合っているところだ。

「——『双子星の破壊と新世界の創造』をゼウスたちは目論んでいる……。もしかすると、人口が最も多い人間がその破壊の標的になったのではないか?」

 ポセの推測にロディユは愕然とする。

「そんなことって……。勝手すぎるよ!」

 ロディユは怒りで体を震わせていた。
 額の石から魔力が漏れ出るほどに……。

「ロディユ、聖石の力を暴発させるな。冷静になれ!」
「ポセさん!!!」

 ロディユはこの感情をどう発散すればいいかわからず、隣に座っていたポセに抱きつき、声を上げて泣き始めた。
 ロディユを抱きしめるポセの手もまた、怒りを抑えるために震えていた。





 翌日。

 七罪は今回の襲撃に関して無関係であることを全世界に通達した。
 ジークも自国へ一時帰国し、国王に神域の思惑を知らせた。

 しかし、ゼウスとヘラの方が一枚上手だった。

 消滅した人間街の跡地に『希望の塔』という高層の建物が突如出現し、ゼウスから声明が発表された。

『——今回の襲撃事件は、非常に痛ましいものだった。我はあえて襲撃者を断罪しない。代わりに街を完全に復興させ、その者を後悔させるつもりだ。それだけではない。我ら神域は破壊された街だけでなく、不毛と化したカストル大陸の再建にも全力を尽くすことに決めた。この希望の塔はそのためにある。協力したい者は、希望の塔に集まるがよい。我は歓迎するぞ』

 その後、この言葉に感化された多くの者たちが希望の塔に集まった。
 その多くを占めていたのは、ボルックス大地の人間たちだ。

 世界中を味方につけたゼウスに対し、無実の汚名を着せられたルシファー率いる魔人族は、孤立の一途を辿ることに。
 襲撃事件以降、ポセ率いる同盟軍はオリュンポスへ攻め込むきっかけを見つけられず、表立った行動はさらに制限されてしまった。


***


 神域、オリュンポス島神殿。

 人間襲撃事件の前日、アテネはヘラに呼び出されていた。

「アテナ、これからはこの部屋に住みなさい。私たちの守護に専念してもらうためよ。もう世界の監視は必要ないから。いいわね?」
「……はい、母上」

 アテナは抵抗せず、素直に聞き入れたふりをした。

「あなたの好きな本をたくさん用意しているわ。これで暇にはならないでしょう?」
「お気遣い感謝いたします」
「いいのよ。じゃあね」

 ヘラが部屋から出ていった後、アテナは部屋の中央に置かれた円形ベッドに行き、仰向けになった。

 ——オーディンから教えてもらった術を使って、神域から脱出つもりでしたが……先手を取られてしまいましたね。ミネルバ、ポセイドン、ミカエル、あとは頼みましたよ。私はヘラからこの体を守ります。

 アテナはそう心の中で言った後、右手から光の鍵を出した。
 そして、なんのためらいもなくそれを自分の胸に差し込む。
 鍵は溶けるようにアテナの胸の中へ入り、永遠の眠りについた。
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