49 / 57
48 罠
しおりを挟む
第一部隊待機場所、指揮官控え天幕。
ルシファーは死精霊経由でポセに戦況報告をしていた。
「——無事に第一の作戦を終了いたしました」
『ご苦労、すみやかに第二の作戦へ移行してくれ。巨大砲が放たれる前にな』
「畏まりました、ポセイドン様」
側にいたメフィストフェレスは、これから何が起こるか知っていたため口角を上げた。
「では、少しだけ外に出てくる」
「ここで御身の勇姿を堪能させていただきます」
メフィストフェレスは胸に手を添え、恭しく礼をする。
ルシファーは軽く頷いた後、結界の外へ転移した。
転移したルシファーの視線の先には希望の塔のみが建っていた。
周りには、誰一人残っていない。
ルシファーは胸の前で手を合わせた。
その手を徐々に離していき、黒い球体を出現させる。
離れれば離れるほど、その球体はどんどん大きくなっていく……。
ルシファーは両手掌の上に黒い球体をのせ、頭上に掲げた。
そして球体はどんどん拡大し、希望の塔の半分の大きさにまで膨らむと——。
その巨大な球体は、突然消えた。
直後、辺り一帯の闇と光が反転。
暗黒の空に光が広がる。
そして、空の光が失われた。
同時に、希望の塔は跡形もなく消え去る。
希望の塔以外は無傷の状態だった。
この攻撃の間、不気味なほど静寂に包まれていた。
「——これがルシファー様の『宵の明星』……。美しい。この静寂がたまらなく美しい!」
瞬きせずに様子を眺めていたメフィストフェレスは、うっとりとした表情を浮かべていた。
*
同盟軍総司令本部。
冥界の門番・ヘカテーからポセへ、死精霊を経由して緊急の連絡が入った。
それは、ルシファーが希望の塔を破壊したすぐ後のことだった。
『——冥界門番のヘカテーと申します。ハデス様と連絡が取れないため、ポセイドン様に急ぎお伝えしたいことが……』
「なんだ?」
ヘカテーの声は明らかに動揺していた。
『私にしか開けられないはずの奈落の門が……、勝手に開いたのです……。私には閉じる方法がわかりません!』
「どういうことだ?」
『門が開いた後、その鍵穴が消えてしまったのです!』
***
冥界。
地下の奈落から上部の冥界へ、奈落の虫が大量に溢れ出していた。
地を這う細長い虫、大きな羽音を立てる虫、ぴょんぴょんと飛ぶ虫など……大小さまざまだ。
見たことのない虫たちに冥界人たちは怯え、慌てふためいていた。
「——ヘカテー様!」
奈落門前で呆然と立ち尽くしていたヘカテーに、ダニエルが虫を払いながら駆け寄ってきた。
「ダニエル……もうおしまいだ。門が開いてしまった……」
「こちらから閉じられないのですか?」
「無理だ。見てみろ……。門が開いた時、鍵穴が消えてしまったのだ」
「そんな……」
ダニエルの顔は恐怖の色に染まっていた。
体を震わせながらも、「まだ何かできることはある」と自分に言い聞かせ、目に力を込める。
「ヘカテー様、今、あなたが冥界を引っ張っていかなければならないはずです! ハデス様が「頼りにしている」と、おっしゃってくださったではありませんか!」
「そうだが……」
「いい加減にしてください! まだ冥界の門は閉じられたままです!」
意気消沈するヘカテーに、ダニエルは語気を強めた。
ヘカテーはその言葉にハッとする。
「ダニエルの言う通りだ。奈落の王は、目を覚ましたばかりだ。すぐには動き出せない。栄養源となってしまう冥界人を逃がさないと……」
「そうです!」
「同盟軍に至急、救援を求めろ! そして、冥界人を冥界宮の『異界の間へ』避難させろ!」
「はい!」
ダニエルは、いつものヘカテーの強い語気に勢いよく返事をした。
***
同盟軍総司令本部。
ポセは、オーディンとルシファーだけに奈落の情報を伝え、各自の待機場所から死精霊を経由して話し合いをしていた。
「——ルシファー、調査結果を教えてくれ」
『畏まりました。希望の塔の地中深くを調べたところ、塔と双子星のコアが繋がっていた形跡がありました。どうやら希望の塔は囮だったようです。戦うきっかけを作りさえすれば、『コアと繋がった希望の塔を破壊してくれる』とゼウスとヘラは目論んでいたのでしょう』
『コアはおそらく、奈落の門を開けるための鍵だったのだろう。コアを作り出したゼウスしか知り得ない情報だ』
ルシファーの説明を聞いたオーディンは、悔しそうに答えた。
『ゼウスとヘラは、世界終焉の一つの手段として、奈落の門を我々に開かせたのでしょう。我々はあの二人の余興に付き合わされただけなのですよ……』
二人の会話にポセが口を開く。
「悔やんでもしかたないだろう。ルシファーが人選した奈落対策部隊をすでに送り込んだ。冥界人は避難中だ。奈落の門を閉じる方法は、ハデスしか知らないようだ」
『ハデスが冥界から出ることも、ゼウスとヘラは計算にいれていたということか……』
オーディンはそう言った後、深いため息をついた。
「奈落の王か……戦ってみたくなってきたな」
『ポセイドン、お前はアレス以上に戦闘馬鹿じゃないのか?』
オーディンは、ポセの声を発する死精霊に苦言を呈した。
「まあ、我とアレスは似た者同士だからな」
『そういえば……。ポセイドン、ゲニウスには会えないのか? マスターエルダーの末裔なら、何か奈落の門に関する情報を持っているのではないか?』
ポセは眉間にしわを寄せる。
「ゲニウスの召喚は、ロディユにしかできないのだ……」
『竜峰山へ行けないのか?』
「そうか! 我がもう一度竜峰山へ行けばよいのか。いい案だ! 試してみる価値はあるぞ!」
『では、頼んだぞ。我々は『奈落の王との交渉』または、『戦闘』の二方向から戦略を練っておく』
「了解した。では、しばらく同盟軍を頼んだ」
『任せておけ』
『畏まりました』
ルシファーは死精霊経由でポセに戦況報告をしていた。
「——無事に第一の作戦を終了いたしました」
『ご苦労、すみやかに第二の作戦へ移行してくれ。巨大砲が放たれる前にな』
「畏まりました、ポセイドン様」
側にいたメフィストフェレスは、これから何が起こるか知っていたため口角を上げた。
「では、少しだけ外に出てくる」
「ここで御身の勇姿を堪能させていただきます」
メフィストフェレスは胸に手を添え、恭しく礼をする。
ルシファーは軽く頷いた後、結界の外へ転移した。
転移したルシファーの視線の先には希望の塔のみが建っていた。
周りには、誰一人残っていない。
ルシファーは胸の前で手を合わせた。
その手を徐々に離していき、黒い球体を出現させる。
離れれば離れるほど、その球体はどんどん大きくなっていく……。
ルシファーは両手掌の上に黒い球体をのせ、頭上に掲げた。
そして球体はどんどん拡大し、希望の塔の半分の大きさにまで膨らむと——。
その巨大な球体は、突然消えた。
直後、辺り一帯の闇と光が反転。
暗黒の空に光が広がる。
そして、空の光が失われた。
同時に、希望の塔は跡形もなく消え去る。
希望の塔以外は無傷の状態だった。
この攻撃の間、不気味なほど静寂に包まれていた。
「——これがルシファー様の『宵の明星』……。美しい。この静寂がたまらなく美しい!」
瞬きせずに様子を眺めていたメフィストフェレスは、うっとりとした表情を浮かべていた。
*
同盟軍総司令本部。
冥界の門番・ヘカテーからポセへ、死精霊を経由して緊急の連絡が入った。
それは、ルシファーが希望の塔を破壊したすぐ後のことだった。
『——冥界門番のヘカテーと申します。ハデス様と連絡が取れないため、ポセイドン様に急ぎお伝えしたいことが……』
「なんだ?」
ヘカテーの声は明らかに動揺していた。
『私にしか開けられないはずの奈落の門が……、勝手に開いたのです……。私には閉じる方法がわかりません!』
「どういうことだ?」
『門が開いた後、その鍵穴が消えてしまったのです!』
***
冥界。
地下の奈落から上部の冥界へ、奈落の虫が大量に溢れ出していた。
地を這う細長い虫、大きな羽音を立てる虫、ぴょんぴょんと飛ぶ虫など……大小さまざまだ。
見たことのない虫たちに冥界人たちは怯え、慌てふためいていた。
「——ヘカテー様!」
奈落門前で呆然と立ち尽くしていたヘカテーに、ダニエルが虫を払いながら駆け寄ってきた。
「ダニエル……もうおしまいだ。門が開いてしまった……」
「こちらから閉じられないのですか?」
「無理だ。見てみろ……。門が開いた時、鍵穴が消えてしまったのだ」
「そんな……」
ダニエルの顔は恐怖の色に染まっていた。
体を震わせながらも、「まだ何かできることはある」と自分に言い聞かせ、目に力を込める。
「ヘカテー様、今、あなたが冥界を引っ張っていかなければならないはずです! ハデス様が「頼りにしている」と、おっしゃってくださったではありませんか!」
「そうだが……」
「いい加減にしてください! まだ冥界の門は閉じられたままです!」
意気消沈するヘカテーに、ダニエルは語気を強めた。
ヘカテーはその言葉にハッとする。
「ダニエルの言う通りだ。奈落の王は、目を覚ましたばかりだ。すぐには動き出せない。栄養源となってしまう冥界人を逃がさないと……」
「そうです!」
「同盟軍に至急、救援を求めろ! そして、冥界人を冥界宮の『異界の間へ』避難させろ!」
「はい!」
ダニエルは、いつものヘカテーの強い語気に勢いよく返事をした。
***
同盟軍総司令本部。
ポセは、オーディンとルシファーだけに奈落の情報を伝え、各自の待機場所から死精霊を経由して話し合いをしていた。
「——ルシファー、調査結果を教えてくれ」
『畏まりました。希望の塔の地中深くを調べたところ、塔と双子星のコアが繋がっていた形跡がありました。どうやら希望の塔は囮だったようです。戦うきっかけを作りさえすれば、『コアと繋がった希望の塔を破壊してくれる』とゼウスとヘラは目論んでいたのでしょう』
『コアはおそらく、奈落の門を開けるための鍵だったのだろう。コアを作り出したゼウスしか知り得ない情報だ』
ルシファーの説明を聞いたオーディンは、悔しそうに答えた。
『ゼウスとヘラは、世界終焉の一つの手段として、奈落の門を我々に開かせたのでしょう。我々はあの二人の余興に付き合わされただけなのですよ……』
二人の会話にポセが口を開く。
「悔やんでもしかたないだろう。ルシファーが人選した奈落対策部隊をすでに送り込んだ。冥界人は避難中だ。奈落の門を閉じる方法は、ハデスしか知らないようだ」
『ハデスが冥界から出ることも、ゼウスとヘラは計算にいれていたということか……』
オーディンはそう言った後、深いため息をついた。
「奈落の王か……戦ってみたくなってきたな」
『ポセイドン、お前はアレス以上に戦闘馬鹿じゃないのか?』
オーディンは、ポセの声を発する死精霊に苦言を呈した。
「まあ、我とアレスは似た者同士だからな」
『そういえば……。ポセイドン、ゲニウスには会えないのか? マスターエルダーの末裔なら、何か奈落の門に関する情報を持っているのではないか?』
ポセは眉間にしわを寄せる。
「ゲニウスの召喚は、ロディユにしかできないのだ……」
『竜峰山へ行けないのか?』
「そうか! 我がもう一度竜峰山へ行けばよいのか。いい案だ! 試してみる価値はあるぞ!」
『では、頼んだぞ。我々は『奈落の王との交渉』または、『戦闘』の二方向から戦略を練っておく』
「了解した。では、しばらく同盟軍を頼んだ」
『任せておけ』
『畏まりました』
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる