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47 オリュンポス5
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オリュンポス神殿地下。
ゼウスとアレスの戦いは多様な魔法や武器が行き交い、嵐のように激化していた。
他の神の力を吸収したゼウスは、より多彩な攻撃を仕掛け、弱点属性は全て克服されているようだった。
——仕方ないな……。
現状の攻撃に限界を感じ始めていたアレスは、次の手を打つことに。
アレスは槍を握っていた右手掌から槍全体に赤い血を染み込ませた。
槍がまとっていた炎はより赤みを増し、真紅色の血炎槍が完成する。
同時に左手に血炎を出し、蜘蛛の巣状に広げ、ゼウスを血炎の檻に閉じ込めた。
イリヤはその檻が完全に閉じる前に、遅延発動系の呪いや毒、カウンター系の罠を仕込む。
そして、アレスの血魔術に紛れるように眷属を発生させ、全身を血霧化して自分を分散させた。
——あの2人、旧知の仲だけあるなー。すごいや!
2人の絶妙なコンビネーションにロディユは感心していた。
イリヤはアレスと共闘する喜びを感じながら、久しぶりに再会した時のことを思い出していた——。
『——アレス、まさか同盟軍に入るとは思わなかった。あんなに群れることを嫌っていたのに……』
『数日前まではそのつもりだった。だが、兄者が……』
アレスは最後まで言わなかったが、イリヤは理解していた。
『よかったな。ポセイドンが生きていて』
アレスは目頭を熱くさせ、黙って頷いた。
アレスが神域を追放された原因は、ポセイドンの死が関係していたことをイリヤは知っていた。
『アレス、再び肩を並べられること、嬉しく思うぞ』
アレスは、イリヤの差し出した手を黙って握りしめた。
*
「ふはははっ! アレス、檻があっても何も変わらぬぞ?」
ゼウスは血の檻で拘束されていても余裕で笑っていた。
檻の中に仕込んでいたイリヤとアレス攻撃は、ゼウスの足元・頭・胴・背中を囲むように浮遊している盾が全て受け止めており、いまだにゼウスの完全治癒力を上回るダメージを与えられない。
その上、ゼウスは檻の外にある大量の神器を操ってアレスへ攻撃し、檻の破壊を同時に行っていた。
——さすが、全能と言われるゼウス……。加勢したいけど……我慢しないと。
ロディユは顔に悔しさをにじませ、グッと堪える。
「——お前の防御壁、なかなかに良いものだな。物理攻撃も全属性魔法も防ぐ防御など、このアテナの盾以外にあるとは……。その力、欲しくなってきたぞ」
「何のダメージも受けないその盾やこの部屋の方が恐ろしいと思いますが?」
「この盾はまだ不完全。それより、それはお前の魔法ではないな?」
アレスはゼウスの言葉に一瞬だけ目を泳がせた。
ゼウスはそれを見て、笑みを浮かべる。
「やはりそうか。お前の体のことはよく知っている。そのような潜在能力は有していなかった。術者二人は、どこに隠れているのだ……?」
その言葉に、ロディユは背筋を凍らせた。
「妄言ですね……。僕は下界で数百年も生活していたのですよ? あなたの知らない術をたくさん会得しました」
ゼウスは「我の体は完璧でなければいけないのだ……」と小声で呟き、攻撃の手を止めて目を瞑った。
「変化せよ——」
その言葉で、ゼウスの神器が全て消えた。
代わりに、ゼウスの右手には一つの剣が出現する。
ゼウスはその剣を軽く一振りした。
アレスの血の網は、一瞬で、バラバラに砕け散る。
「負けを認め、我にその力を渡せ」
ゼウスは真っ赤に染まった目をアレスに向けていた。
『アフロディテの剣だ』
アレスは死精霊経由でロディユとイリヤに伝えた。
今まで赤の聖石を見つけられずにいたロディユは、ようやくその場所を特定する。
『赤の聖石はゼウスの胸です』
ロディユの言葉を聞いたアレスは、ロディユが事前に用意していた『クリスタルの欠片』を掌に出現させた。
それは、三種の聖石の力を蓄えた冥界クリスタルを砕いたものだった。
イリヤもロディユの言葉で動き出す。
眷属も霧状に変化させ、砂状化したクリスタルの欠片——『クリスタル砂』を空中に拡散させた。
その砂は、アレスの血剣とイリヤの血霧の表面に吸着していく。
ゼウスは剣を横に一振りし、正面の血霧を振り払った。
しかし、すぐさまその空いた空間は血霧で埋めつくされる。
「無駄なことを……」
ゼウスは額の目でアレスを捉えていた。
体の周りに出現させた大量の赤い玉から、赤い光線を放つ。
まだまだ魔力量に自信があるゼウスは、攻撃を絶え間なく続け、アレスを消耗させるつもりだ。
アレスは、さらに速度と威力が上がったゼウスの攻撃を転移と飛行を組み合わせながら避けていた。
避けきれない攻撃はロディユの防御壁をまとった血炎槍で受け止めるが……。
——くっ……。
血炎槍を覆う防御壁にヒビが入り始めていた。
『防御壁の修復と強化は任せてください!』
ロディユはすぐにヒビを修復し、アレスと自分を囲む防御壁を強化した。
『助かる』
それでもアレスの状況は改善しない。
アレスは回避と防御に集中せざるを得ず、クリスタルを使った攻撃の一手を繰り出せずにいた。
しかしその状況は、イリヤにとって好機だった。
ゼウスの意識がアレスに向いている間に拡散していたクリスタル砂を操作し、ゼウスの周りのクリスタル砂濃度を高くしていく。
まもなくして、その効果は現れた——。
ゼウスは剣の斬撃だけでアレスの槍を破壊した時、笑みではなく、怪訝な表情を浮かべる。
右手に握った剣に違和感を感じたからだ。
ゼウスは剣をよく見ると……、刃こぼれが目に止まる。
『赤い石の恩恵を受けた剣が世界最強』と考えていたゼウスは、驚きで目を見広げた。
アレスはゼウスが動揺を見せた瞬間、手に握っていたクリスタルの欠片を血炎で覆い、一気に発射させた。
ゼウスの額と胸に狙いを定めて。
「くっ」
一瞬反応が遅れたゼウスは、赤い光線と剣でアレスの攻撃に対応するが……。
数個のクリスタルが鎧を貫通し、ゼウスの体に直撃した。
「アレスごときに……」
わずかな傷を負っただけだったが、ゼウスは怒りの表情をにじませる。
デュポーンからゼウスに変身して以降、痛みを伴う傷を負わされたことがなかったため、怒りは相当なものだ。
「おのれー!!! 許さんぞ!!!」
ゼウスの放った赤い光線は、威力・スピードがさらに上昇していた。
アレスは完全に避けきれず、攻撃を大量に受けてしまう。
負傷は免れたが、防御壁に無数のヒビが。
アレスはそれを見て、焦りを募らせる。
——まずい、あいつの力を浪費させるわけにはいかない……。
『——アレスさん、大丈夫。僕が常に結界を補修しているから、気にせずに攻撃に専念してください』
『感謝する……』
アレスの言い方はそっけないものだったが、ロディユは嬉しくて笑みを浮かべていた。
——なぜだ? 我はまだ完璧ではないというのか……?
いまだアレスに傷一つつけられないことに、ゼウスは悔しさをにじませる。
ゼウスの変化を感じ取ったアレスは、攻撃パターンを変えることに。
『ロディユ。すまないが、回避行動は後回しにする。代わりに、クリスタルの攻撃で一気に畳み掛ける』
『わかりました!』
アレスはそう言うと、クリスタルを混ぜた火炎放射をゼウスの周囲に放った。
「くっ……」
ゼウスはその時、体の異変を感じ取っていた。
***
ヘラが創造した星空の部屋。
『——散開!』
背中を合わせて動きを止めていたミカエルたち四人は、ミカエルの掛け声で一気に星空へ散らばった。
星に見えていた光は全てヘラが仕掛けておいたもので、その全てが流れ星のように動き始め、四人を襲う。
ジークは、ヘラ対策で習得していた対神光防御壁をすぐに展開した。
ミカエルは前もって着用していたマントのフードを目深に被り、姿を消す。
そしてブラッドとキャリーは、空に溶け込むように煙幕で体を覆った。
「姿を消しても無駄よ。どうせ、この部屋から出られないのだから。ふふふっ」
ヘラは声を響かせながら、攻撃を続けた。
——あれは……?
必死に逃げていたミカエルは、遠くで流れる一筋の光がありえない角度に曲がる様子を目にした。
——あそこに何かあるのか……?
そこへ移動したミカエルは、何もない空間を剣で切り裂いた。
パリンッ!
その場には、割れた鏡が浮かび上がった。
ミカエルはすぐさまそれを焼き払い、三人に知らせる。
『見えない鏡がある。ヘラが鏡で逃げる可能性があるから破壊を手伝ってくれ。ロディユが来るまで持ちこたえるんだ!』
『わかった!』
『承知した』
『了解よ』
ゼウスとアレスの戦いは多様な魔法や武器が行き交い、嵐のように激化していた。
他の神の力を吸収したゼウスは、より多彩な攻撃を仕掛け、弱点属性は全て克服されているようだった。
——仕方ないな……。
現状の攻撃に限界を感じ始めていたアレスは、次の手を打つことに。
アレスは槍を握っていた右手掌から槍全体に赤い血を染み込ませた。
槍がまとっていた炎はより赤みを増し、真紅色の血炎槍が完成する。
同時に左手に血炎を出し、蜘蛛の巣状に広げ、ゼウスを血炎の檻に閉じ込めた。
イリヤはその檻が完全に閉じる前に、遅延発動系の呪いや毒、カウンター系の罠を仕込む。
そして、アレスの血魔術に紛れるように眷属を発生させ、全身を血霧化して自分を分散させた。
——あの2人、旧知の仲だけあるなー。すごいや!
2人の絶妙なコンビネーションにロディユは感心していた。
イリヤはアレスと共闘する喜びを感じながら、久しぶりに再会した時のことを思い出していた——。
『——アレス、まさか同盟軍に入るとは思わなかった。あんなに群れることを嫌っていたのに……』
『数日前まではそのつもりだった。だが、兄者が……』
アレスは最後まで言わなかったが、イリヤは理解していた。
『よかったな。ポセイドンが生きていて』
アレスは目頭を熱くさせ、黙って頷いた。
アレスが神域を追放された原因は、ポセイドンの死が関係していたことをイリヤは知っていた。
『アレス、再び肩を並べられること、嬉しく思うぞ』
アレスは、イリヤの差し出した手を黙って握りしめた。
*
「ふはははっ! アレス、檻があっても何も変わらぬぞ?」
ゼウスは血の檻で拘束されていても余裕で笑っていた。
檻の中に仕込んでいたイリヤとアレス攻撃は、ゼウスの足元・頭・胴・背中を囲むように浮遊している盾が全て受け止めており、いまだにゼウスの完全治癒力を上回るダメージを与えられない。
その上、ゼウスは檻の外にある大量の神器を操ってアレスへ攻撃し、檻の破壊を同時に行っていた。
——さすが、全能と言われるゼウス……。加勢したいけど……我慢しないと。
ロディユは顔に悔しさをにじませ、グッと堪える。
「——お前の防御壁、なかなかに良いものだな。物理攻撃も全属性魔法も防ぐ防御など、このアテナの盾以外にあるとは……。その力、欲しくなってきたぞ」
「何のダメージも受けないその盾やこの部屋の方が恐ろしいと思いますが?」
「この盾はまだ不完全。それより、それはお前の魔法ではないな?」
アレスはゼウスの言葉に一瞬だけ目を泳がせた。
ゼウスはそれを見て、笑みを浮かべる。
「やはりそうか。お前の体のことはよく知っている。そのような潜在能力は有していなかった。術者二人は、どこに隠れているのだ……?」
その言葉に、ロディユは背筋を凍らせた。
「妄言ですね……。僕は下界で数百年も生活していたのですよ? あなたの知らない術をたくさん会得しました」
ゼウスは「我の体は完璧でなければいけないのだ……」と小声で呟き、攻撃の手を止めて目を瞑った。
「変化せよ——」
その言葉で、ゼウスの神器が全て消えた。
代わりに、ゼウスの右手には一つの剣が出現する。
ゼウスはその剣を軽く一振りした。
アレスの血の網は、一瞬で、バラバラに砕け散る。
「負けを認め、我にその力を渡せ」
ゼウスは真っ赤に染まった目をアレスに向けていた。
『アフロディテの剣だ』
アレスは死精霊経由でロディユとイリヤに伝えた。
今まで赤の聖石を見つけられずにいたロディユは、ようやくその場所を特定する。
『赤の聖石はゼウスの胸です』
ロディユの言葉を聞いたアレスは、ロディユが事前に用意していた『クリスタルの欠片』を掌に出現させた。
それは、三種の聖石の力を蓄えた冥界クリスタルを砕いたものだった。
イリヤもロディユの言葉で動き出す。
眷属も霧状に変化させ、砂状化したクリスタルの欠片——『クリスタル砂』を空中に拡散させた。
その砂は、アレスの血剣とイリヤの血霧の表面に吸着していく。
ゼウスは剣を横に一振りし、正面の血霧を振り払った。
しかし、すぐさまその空いた空間は血霧で埋めつくされる。
「無駄なことを……」
ゼウスは額の目でアレスを捉えていた。
体の周りに出現させた大量の赤い玉から、赤い光線を放つ。
まだまだ魔力量に自信があるゼウスは、攻撃を絶え間なく続け、アレスを消耗させるつもりだ。
アレスは、さらに速度と威力が上がったゼウスの攻撃を転移と飛行を組み合わせながら避けていた。
避けきれない攻撃はロディユの防御壁をまとった血炎槍で受け止めるが……。
——くっ……。
血炎槍を覆う防御壁にヒビが入り始めていた。
『防御壁の修復と強化は任せてください!』
ロディユはすぐにヒビを修復し、アレスと自分を囲む防御壁を強化した。
『助かる』
それでもアレスの状況は改善しない。
アレスは回避と防御に集中せざるを得ず、クリスタルを使った攻撃の一手を繰り出せずにいた。
しかしその状況は、イリヤにとって好機だった。
ゼウスの意識がアレスに向いている間に拡散していたクリスタル砂を操作し、ゼウスの周りのクリスタル砂濃度を高くしていく。
まもなくして、その効果は現れた——。
ゼウスは剣の斬撃だけでアレスの槍を破壊した時、笑みではなく、怪訝な表情を浮かべる。
右手に握った剣に違和感を感じたからだ。
ゼウスは剣をよく見ると……、刃こぼれが目に止まる。
『赤い石の恩恵を受けた剣が世界最強』と考えていたゼウスは、驚きで目を見広げた。
アレスはゼウスが動揺を見せた瞬間、手に握っていたクリスタルの欠片を血炎で覆い、一気に発射させた。
ゼウスの額と胸に狙いを定めて。
「くっ」
一瞬反応が遅れたゼウスは、赤い光線と剣でアレスの攻撃に対応するが……。
数個のクリスタルが鎧を貫通し、ゼウスの体に直撃した。
「アレスごときに……」
わずかな傷を負っただけだったが、ゼウスは怒りの表情をにじませる。
デュポーンからゼウスに変身して以降、痛みを伴う傷を負わされたことがなかったため、怒りは相当なものだ。
「おのれー!!! 許さんぞ!!!」
ゼウスの放った赤い光線は、威力・スピードがさらに上昇していた。
アレスは完全に避けきれず、攻撃を大量に受けてしまう。
負傷は免れたが、防御壁に無数のヒビが。
アレスはそれを見て、焦りを募らせる。
——まずい、あいつの力を浪費させるわけにはいかない……。
『——アレスさん、大丈夫。僕が常に結界を補修しているから、気にせずに攻撃に専念してください』
『感謝する……』
アレスの言い方はそっけないものだったが、ロディユは嬉しくて笑みを浮かべていた。
——なぜだ? 我はまだ完璧ではないというのか……?
いまだアレスに傷一つつけられないことに、ゼウスは悔しさをにじませる。
ゼウスの変化を感じ取ったアレスは、攻撃パターンを変えることに。
『ロディユ。すまないが、回避行動は後回しにする。代わりに、クリスタルの攻撃で一気に畳み掛ける』
『わかりました!』
アレスはそう言うと、クリスタルを混ぜた火炎放射をゼウスの周囲に放った。
「くっ……」
ゼウスはその時、体の異変を感じ取っていた。
***
ヘラが創造した星空の部屋。
『——散開!』
背中を合わせて動きを止めていたミカエルたち四人は、ミカエルの掛け声で一気に星空へ散らばった。
星に見えていた光は全てヘラが仕掛けておいたもので、その全てが流れ星のように動き始め、四人を襲う。
ジークは、ヘラ対策で習得していた対神光防御壁をすぐに展開した。
ミカエルは前もって着用していたマントのフードを目深に被り、姿を消す。
そしてブラッドとキャリーは、空に溶け込むように煙幕で体を覆った。
「姿を消しても無駄よ。どうせ、この部屋から出られないのだから。ふふふっ」
ヘラは声を響かせながら、攻撃を続けた。
——あれは……?
必死に逃げていたミカエルは、遠くで流れる一筋の光がありえない角度に曲がる様子を目にした。
——あそこに何かあるのか……?
そこへ移動したミカエルは、何もない空間を剣で切り裂いた。
パリンッ!
その場には、割れた鏡が浮かび上がった。
ミカエルはすぐさまそれを焼き払い、三人に知らせる。
『見えない鏡がある。ヘラが鏡で逃げる可能性があるから破壊を手伝ってくれ。ロディユが来るまで持ちこたえるんだ!』
『わかった!』
『承知した』
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