俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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46 オリュンポス4

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 罠の転移魔法陣に引っかかってしまったミカエルとジークは、全面鏡張りの広い部屋に移動していた。

「——あら、ミカエルだけかと思っていたけど……」

 二人に声をかけたのはアテナだった。

「アテナ様!」

 ミカエルはすぐさまその場で片膝をつき、胸に手を当てて頭を下げる。
 ジークも真似て同じような姿勢になった。

 それを見たアテナは笑みを浮かべ、ミカエルに近づく。

「ご苦労さま」

 アテナはミカエルの肩に手を触れようと手を伸ばす。

 その瞬間——。

 ミカエルは鞘から大剣を抜き取り、伸ばしていたアテナの右腕を切り落とした。

「——貴様、何者だ!」
「ふふふふっ。今のは、痛かったわ……」

 アテナは黄金の血を滴らせながら、床に落ちた右腕を左手で拾い上げた。
 そして、その腕をつなげると——。
 アテナの血はすぐにとまり、傷口が一瞬で消えてしまった。

「なっ!?」

 再生の早さにジークは目を見広げた。

「ミカエル、こんなことしていいの~?」

 アテナから発せられる声が変わった。

「この体は本物のアテナよ? 正確にいうと、私が乗っ取った体だと言った方がいいかしら? ふふふっ」

『あれがヘラか?』
『そうだ』

 死精霊経由のジークの質問にミカエルは答えた。

「我が主人の体から出て行け!」

 ミカエルはヘラに向かってそう叫んだ後、十枚の翼を広げて一気に力を解放した。
 翼の枚数が二枚増えたことにより、ミカエルの力はさらに増加していた。
 その二枚はルシファーのもので、双子だからこそ移植が可能だった。

『ミカさん、本当にいいんだな?』
『構わん。計画を実行する』

 ミカエルはジークの質問に対して、なんの迷いもなく答えた。

『——私が自分を制御できなくなった場合、躊躇せずに私を殺しなさい。それは、腹心のあなたにしか頼めないこと』

 ミカエルは、アテナから命じられた言葉を思い出す。

 ——最も敬愛する主人がそう願うならば、忠実な配下は必ず成し遂げなければならない。

 ミカエルは自分にそう言い聞かせる。

 ジークも獲得した異能力を解放した。
 背中からは翼が八枚、頭からは四本の角が生え、顔以外の皮膚は竜の鱗で覆われている。

 禍々しい黒い闘気を帯びるジークを目にしたヘラは、目を細めた。

「お前、変異者か……。面白い。その体も欲しくなってきた」

 ヘラはそう言うと、左の神聖眼を光らた。

 ヘラがジークに気を取られている間に、ミカエルは大剣をその場で勢いよく振り下ろした。
 大剣から出た炎の嵐がヘラを襲う。

「あらあら、ミカエルらしくない卑怯なやり方ね」

 ヘラはクスクス笑いながら鏡を自分の前に出現させ、炎を全てを跳ね返した。

 それを予想していたミカエルは、すぐに横へ回避する。
 その炎は部屋を覆う鏡の壁に当たり、黒いススで汚れてしまった。

 ——よし、これならいける!

 汚れた鏡を見たミカエルは何かを確信し、その後も同じようにヘラに向けての炎攻撃と回避を繰り返した。

 一方のジークは——。
 隙を狙ってヘラの背後に転移し、剣で攻撃していた。

「人間のくせに転移魔法も使えるなんて」

 ヘラはそう言いながら、背後に出現させていたアテナの盾でジークの剣を軽く受け止めていた。

「洗脳するつもりだったけど……。効果がないみたいね。二人とも殺してから体をもらうわ」

 ヘラは神聖眼による洗脳術を発動していたが、二人はロディユの防御壁によって防いでいた。

「ふふふっ、これは耐えられるかしら?」

 ヘラは盾と鏡から大量の光線を放った。

 ミカエルとジークはそれを回避するが——。
 避けた光線は鏡でできた床や壁に反射して強度を増し、何度も二人に襲いかかってきた。
 それでも、二人は背中を合わせた状態で光を避け続け、避けられないものは剣で切り裂いて無害化していく。

 ヘラは切り裂かれる光線を見て、眉間にしわを寄せた。
 反射後の光線の威力は、ヘラが思っているほど上昇していなかったからだ。
 それは、ミカエルの炎攻撃で鏡が汚されたことが原因だった。

『——遅くなった!』

 ミカエルとジークの耳を覆う死精霊から、ブラッドの声が響いた。
 直後、壁の小さな隙間から血霧が吹き出す。
 それは次第に二体の人型を形作り、ブラッドとキャリーへ変化した。

 敵が増えて部が悪いと考えたヘラは、すぐに目の前に浮いていた鏡へ逃げ込み、その鏡ごと消えてしまった。

『みんな、注意しろ! 鏡のどこからでも攻撃してくるぞ! ヘラの攻撃は防御壁を貫通する恐れがあるから気をつけろ!』
『それなら、我輩が撹乱してみましょうぞ』

 ミカエルの助言に対し、ブラッドは天井、床、壁全体を黒い妖煙で覆った。

『ふむ……これはまずい展開ですな……』

 しかしその後すぐ、ブラッドは顔を曇らせながらぼやいた。

 四人が安心したのは束の間だった。
 この鏡の部屋は、星々が無数にきらめく空間に変化していた。
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