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45 オリュンポス3
しおりを挟むオリュンポス神殿地下。
そこは建物の中であるはずなのに、外にいるような雰囲気だった。
草花が生い茂る広大な土地、雲が点在する青空、心地よい風——。
誰もが息を呑むような美しい光景が広がっていた。
そこに足を踏み入れたアレス隊の3人は、そんな美しい景色を楽しむ余裕はなかった。
視線の先にいる一人の男が原因だ。
「——アレス久しぶりだな。一人で来たその勇気を褒めてつかわす」
ゼウスは1人用の椅子に深く座って足を組み、笑みを浮かべていた。
ロディユとイリヤはロディユの防御壁で、アレスは自分自身の魔法で身を隠していたが、アレスだけがゼウスに見つかってしまった。
——よし、作戦通りだ。ゼウスはこの場での戦いは一対一、と思い込んでくれたはず……。
アレスはそう思いながら口角を上げた。
「姿を隠していても無駄でしたか。その新しい額の魔眼のおかげですか、父上?」
アレスが言及した額の目は、黄の聖石だった。
アレスの背中に乗っていたロディユも気づいていたが、もう1つの石——赤の聖石がまだ見つからない。
——赤の聖石はどこだ……? ゼウスの体内にあることは確かなのに……。
「今日は何しに来た? 神域から追放したはずだが?」
「もちろん、目的は一つです。あなたを倒すために参上したのですよ、父上」
アレスは不敵な笑みを浮かべた。
「はっはっはっ! おかしなことを言う。だが、相手をしてやろう。新しい力を試す良い機会だ——」
ゼウスはそう言った後、指をパチンと鳴らした。
すると、景色は一変する。
空は星が無数に点在する夜空に変わり、広い闘技場の中央にアレスたちは立っていた。
「闘技場ですか……。わざわざ、戦いやすい場所に変更していただき感謝いたします」
アレスは手に大きな槍を出現させ、構えた。
「お前は私の体には不適合だった。下界に行けば、見合う体に変化すると期待していたが……不良品は何をしても無駄なようだな。速やかに処分させてもらう」
「その不良品に倒されるのは、さぞかし悔しいでしょうね」
昔のアレスは冒涜されればすぐに逆上する性格だったが、今は笑顔を浮かべたままだ。
神域とは真逆の世界——卑劣な者が溢れかえる世界にいたアレスにとって、ゼウスの言葉はなにも影響しない。
「なるほど……神であった頃の性格は捨ててきたか。では、存分にいたぶってやろう」
ゼウスは瞬時に黄金の鎧を全身にまとった。
そして、植物がゼウスの足元から湧き出るように伸び、大量の強靭な蔓がアレスを襲う。
——デメテルの技か……。ここに来る前にやはり食われていたようだな。だが、植物は俺の火と相性抜群だ。
そう考えたアレスは槍先に炎をまとわせ、難なく切り裂いた。
すぐに蔓の攻撃パターンが変わった。
蔓から無数に色とりどりの花が咲き、花びらが舞い散る。
ロディユが背中でその美しい光景に見とれていると——。
花びらはすぐに鋭い矢へ変化した。
同時に拡散していた毒花粉と一緒にアレスを襲う。
アレスはすぐに自分を囲むように炎を広範囲に広げ、それを焼き払った。
——すごい、一瞬だ……。
ロディユはアレスの対応力・瞬発力の高さに感嘆する。
しかし、安堵する暇はない。
アレスが植物を焼き払った直後、アレスの背後に神聖剣が複数本出現し、襲いかかってきた。
——そんな卑怯な手は見え透いてる。
それを察知していたアレスは、自分を覆っていた防御壁でそれを跳ね返し、上へ飛び上がる。
そして、下へ向けて炎を放ち、闘技場全体を炎の海に変えた。
跳ね返された神聖剣は、炎の海の中から勢いよく飛び出してきた。
アレスはすぐさまそれらを爆散させ、自分よりも上空へ移動していたゼウスを見上げる。
ゼウスは十二神の武器——ゼウスの笏、ヘラの鏡、ポセイドンの矛、アテナの盾、アポロンの杖、デメテルの立琴、アルテミスの弓、アフロディテの剣、アレスの槍、ヘパイストスの金槌、ヘルメスの長剣、ヘスティアーの小剣を自分の前に浮かせ、アレスに照準を合わせていた。
「ヘパイストスは、神器を一つしか作らないはずでしたよね?」
「我が命ずればなんとでもなるのだ。『増えろ』」
ゼウスはそう言葉を発すると、十二神の武器は十倍に増えた。
「俺の武器よ、具現化せよ!」
そのアレスの言葉に応じて、アレスの前にゼウスと約同数の赤い剣が出現した。
呪文のように聞こえたアレスの言葉は、離れた場所で隠れているイリヤに向けられたものだった。
赤い剣の九割はイリヤの血の剣で、残りは、吸血鬼の力を獲得したアレスのものだ。
「ほう……。成長ぶりをみせてもらおう」
向かってくるアレスの攻撃を眺めながら、ゼウスは笑みを浮かべた。
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