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60 再建へ向けて

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 ロディユが竜峰山を訪れている間、双子星では——。

 双子星の空が突然、黄金色に染まった。
 夜だったボルックス大陸、常闇のカストル大陸の両方で大騒ぎに。
 誰もが世界の終わりだ、と思ってしまうほどの異常さだった。

『——双子星の生命達よ聞け。我は神ゼウス』

 世界中の混乱は、ゼウスの声が世界中に響き渡った瞬間、静まり返った。
 そして、世界中の誰もが真の神の言葉だと確信する。
 身体中を揺さぶる声、それから溢れ出る威光——真の神を証明するには十分すぎるものだった。
 明らかに偽ゼウス——デュポーンのそれとは違っていた。

『双子星を滅ぼそうとしたヘラの悪行はすでに断罪し、神界から出られぬようにした。今後、双子星の再建にはマスターエルダーの生まれ変わり——神ロディユ、我の娘——神アテナが我の代わりとなって尽力する。彼らは信用に値する神だ。安心して平和な世界を皆で作り上げてくれ』

 ゼウスがそう言い終えた後、ゆっくりと空から光が消えた。

 この出来事のおかげで世界は神を再び信じられるようになり、明るい未来を想像する手助けとなった。





 戦争終結後、同盟軍は解体された。
 代わりに再建に向けた新たな集団『双子星連合』が組織された。
 その初代連合会長にはアテナが就任し、ロディユは連合副会長に。
 ミカエル、イリヤはその補佐官に任命された。
 また、その関連組織として『和平軍』が編成され、総司令にオーディンが就任。
 和平軍治安維持部隊隊長にはルシファーが任命され、七罪もその部隊に参加することになった。
 
 連合が最初に取り組んだことは、神域組織の解体だ。
 ヘラに操作されて生き残った神や天使は正常に戻り、希望者だけをオーディンが指揮する和平軍に加わらせた。
 それ以外は、他の種族と同じように地上に住むことになった。

 神域の解体により、日光がオリュンポスで意図的に操作されていたことが判明した。
 日光制御魔法陣を破壊したことで、念願の光がカストル大陸にも届くように。
 すでに不毛の土地だった場所には浮遊島の肥沃な土や清浄な水を移動させ、大地の清浄化を目指すことになった。
 ボルックス大陸から移住してきた人々が中心になってそれに尽力し、多くの天使や神たちも過ちを悔い改めるため、すすんでその事業に参加した。

 カストル大陸の土地開発に付随して、消滅した街の跡地に新たな街が誕生した。
 そこは種族関係なくいろんな者たちを受け入れる方針だったため、平和を象徴する街となった。

 ブラッドとキャリーは、新たに建国された吸血鬼の国へ移住した。
 身を隠して暮らしていた吸血鬼たちは、ようやく安全で自由な生活を取り戻すことになった。

 そして、ジークは自国へ戻り、婚約者と結婚。
 後に国王となった。

 冥界は、ハデスが戻ると混乱はすぐに収まった。
 希望の塔で魂と体が分離されてしまった者たちを正常な体に戻すため、日々、忙しくしている。


***


 数百年後。

 ロディユとアテナは夫婦になっていた。
 二人の住まいは、唯一残された小さな浮遊島。
 普通に地上で暮らしたい、という思いはあったが、会う者全てが二人をお袈裟に崇めるので、気が引けて諦めることになってしまった。


 浮遊島、ロディユとアテナの屋敷。

 書斎の扉を勢いよく開けたアテナは、ロディユに声をかける。
 老化しないアテナは変わらず美しい容姿を保っていた。

「ロディユ、そろそろカストル大陸の収穫祭が始まるわよ?」
「待って、もう少しで終わるから。この書類を今日中に読み終えないと」

 書類が山積みのデスクに座っていたロディユは、疲れた表情をアテナに向けた。
 青年期で老化が止まったロディユの額には、埋め込まれた虹の聖石が今でも輝いている。
 
「キュー!」

 変わらず愛らしい姿のアクアは、急かすためにロディユの後頭部を尻尾で突き始めた。

「アクア! そんなことすると余計に遅れるだろ?」
「仕方ないわね。手伝うわ」

 アテナはロディユを後ろから優しく抱きつき、頬にキスをした。

「ありがとう。でも、そんなことされたら——」
「——キャッ!」

 ロディユはアテナの腕を引っ張り、膝の上に座らせた。
 アテナは少し頬を赤くしている。

「ちょっとだけ遅れて行こうよ」

 ロディユはそう言うと、アテナと唇を交わした。


 END

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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