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59 帰還

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 双子星に帰還したロディユとアテナは、植物園のような場所に移動していた。
 木々はなぎ倒され、建物の残骸がいたるところに転がっている。

「ここは……?」
「おそらく、オリュンポスでしょう。下に私が住んでいた浮遊島が見えますから」

 アテナは、かつて自分が住んでいた浮遊島を指差しながら答えた。

「アテナさん、お身体の具合は?」
「ふふっ」
「どうかされました!?」
「いえ……ごめんなさいね。そんな呼ばれ方をするのは初めてなので」
「あ! アテナ様! 馴れ馴れしくして、申し訳ありません!」

 ロディユは平謝りした。

「ふふふっ、お気になさらず。好きなように呼んでいただいて構いません。なにせ私の命の恩人ですから。体は心配いりませんよ。ヘラに乗っ取られないよう、自分の体を封印して眠っていただけですので」

 ロディユはそれを聞いてホッと息をついた。

「よかったです。ポセさんもミカさんも心配していましたから」

 アテナは口に手を当て、再びクスッと笑う。

「ふふふっ。ポセイドンとミカエルがそんなふうに呼ばれているなんて、とても微笑ましいですわ。ミカエルはちゃんと仲良くできていましたか? 真面目すぎて融通がきかないところがあるので」

 ロディユもつられて笑みを浮かべる。

「最初はポセさんに対しての態度が気に食わなかったみたいで、怒られちゃいました……」
「ふふふっ。ミカエルらしいわ」

 ロディユはクスクス笑うアテナに見とれてしまっていた。
 アテナと目が合った瞬間、顔が熱くなるのを感じる。

「そ、そうだ! 同盟軍……僕の仲間のところに行きませんか? ポセさんもミカさんもいますから!」
「ええ、是非!」


***


 同盟軍総司令本部。

 そこにはポセ以外の各部隊隊長、第三部隊が集まっていた。
 最初にロディユに気づいたイリヤは慌てて駆け寄り、思い切り抱きしめた。

「ロディユ! また会えて嬉しいぞ!」
「僕もです、イリヤさん!」

 ミカエルはアテナの姿を見るなり、涙を溢れさせていた。
 アテナはミカエルを優しく抱きしめ、二人は再会を喜び合う。

 その様子を見ていた周りの者たちは、ホッとした表情を浮かべていた。

「イリヤさん、全て終わらせてきました。アテナさんもこの通り無事です! それで……ポセさんは?」
「えーっと……」

 イリヤは表情を暗くし、口ごもる。
 周りにいる全員が悲しい表情を浮かべていた。

「——私から説明する」

 ルシファーがそう言いながらロディユの前に移動してきた。

「ルシファーさんが?」
「ポセイドン様は竜峰山におられる。実は、奈落の王が——」

 ルシファーは途中言葉を詰まらせながら、ロディユに経緯を説明した。

「僕がもっと早く戻ってくれば……」

 ロディユは動揺し、首を横に振り続ける。
 横で聞いていたアテナは冷静なままだ。

「ロディユ、あのバカ兄者に会いに行ってこい。直接文句を言いってくればいい」

 アレスは後ろからそう声をかけ、ロディユの背中を叩いた。

「アレスさん……僕、ポセさんに会いに行ってきます!」


***

 
 竜峰山。

 ロディユは転移魔法で大きな扉の前に移動していた。
 マスターエルダーの力を獲得した今のロディユは、竜峰山を探す必要はない。

「ロディユが参上した! ゲニウス、中へ入れてくれ!」

 その言葉に応答して両扉はゆっくりと開いた。
 ロディユは待ちきれず、開ききる前に中へ駆けて行った。

「——ロディユ!」

 ポセが足元の虫を避けながら、ロディユに近寄ってきた。
 その姿は初めて会った時のように体が縮んでいた。

「ポセさん! ……この虫どうしたの!?」

 ロディユは部屋の床や天井を埋め尽くす虫の大群を見て、顔を真っ青にする。

「我の友の友だ。つまりは、我の友だ」
「……ん?」

 ロディユはさらに困惑していた。

「紹介する。向こうにいる人物はアバドン。元奈落の王だ」
「そっか……」

 ロディユはアポセが指し示す場所を見て苦笑した。
 そこには全身虫に覆われたアバドンが立っており、姿は全く見えない。

「ここでゲニウスと共に暮らすことになった。部屋も広くなっただろう? それぞれの個室も用意してもらった」
「そっか、よかったね……と、言いたいところだけど……。なんでこんなことになったんだよ!」

 ロディユは楽しそうに話すポセに、腹を立てていた。

「怒っているのか?」
「当たり前だよ! 僕に相談してくれなかった!」

 ロディユは拗ねた表情を浮かべていた。

「すまなかった。時間がなくてな……。ゲニウスに相談した結果、これが最善の道だった。同盟軍総司令として、犠牲は最小限にしたかったのだ」
「わかってるよ……。ポセさんが死ななかっただけ、良かった」

 ロディユは涙を浮かべながら、ポセに抱きつく。

「ロディユも無事で何よりだ。元気な顔が見れて嬉しいぞ。我はもうここから出られないが、寂しくはない。ゲニウスとアバドンはいい奴らだからな」

 ポセは座った状態で目を瞑っているゲニウスに視線を送る。

「今は力を蓄えるために眠っている。声をかけても起きない」
「そっか」
「それにしても、いい外見になった。その角はなかなかいいぞ!」
「ありがとう。でも、アクアと分離したらたぶん元の姿に戻ると思う」

 ロディユはそう言った後、心の中で「アクア」と呼びかけた。
 すると、ロディユの体全体が縮小し始める。
 それと同時に尻尾や翼が消え、額の角は縮んでいく。
 最終的に虹の聖石は、額に埋め込まれたような状態へ変化した。

 アクアがロディユの横に現れ、ポセの胸に飛びつく。

「キュー!」
「アクア! お前も元気そうでなによりだ!」
「キュー!」

 ポセはアクアを腕に抱え、首のフサフサした毛を優しく指で触る。

「そうだ、報告することが。アテナさんは無事だったよ!」
「本当か!? 良かった! ロディユ、感謝するぞ!」
「助けてくれたのは、本物のゼウス様と天罰神だけどね」
「でも、そうなるようにしてくれたのはロディユだろ? だから、感謝の言葉を言わせてくれ」

 ポセはロディユの頭に優しく手を置いた。

「まだどうなるかわからないけど、僕は双子星の再建に取り組もうと思う」
「そうか。姉上や同盟軍の者が手伝ってくれるはずだ。オーディンやルシファーには、すでにそうするよう私から伝えてある。争いが消えることはないかもしれんが、できるだけなくなるように動いてもらうつもりだ」
「うん」
「お前はマスターエルダーの力がある。正しく使えば、きっとお前の願いは叶えられる」
「うん……。ポセさん、またここに会いにきていい? いっぱい相談したいことが出てくるから……」

 ロディユは目に涙を浮かべながらそう言った。

「もちろん構わない。だが、気遣っているだけなら無理に来る必要はない。まずは再建に集中してほしい」
「僕はただ、ポセさんに会いたいだけ。だから、会いにくるよ!」

 ロディユはポセに再び抱きついた。
 ポセは抱き上げ、ロディユをしっかり抱きしめた。
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