俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

文字の大きさ
56 / 57

59 帰還

しおりを挟む

 双子星に帰還したロディユとアテナは、植物園のような場所に移動していた。
 木々はなぎ倒され、建物の残骸がいたるところに転がっている。

「ここは……?」
「おそらく、オリュンポスでしょう。下に私が住んでいた浮遊島が見えますから」

 アテナは、かつて自分が住んでいた浮遊島を指差しながら答えた。

「アテナさん、お身体の具合は?」
「ふふっ」
「どうかされました!?」
「いえ……ごめんなさいね。そんな呼ばれ方をするのは初めてなので」
「あ! アテナ様! 馴れ馴れしくして、申し訳ありません!」

 ロディユは平謝りした。

「ふふふっ、お気になさらず。好きなように呼んでいただいて構いません。なにせ私の命の恩人ですから。体は心配いりませんよ。ヘラに乗っ取られないよう、自分の体を封印して眠っていただけですので」

 ロディユはそれを聞いてホッと息をついた。

「よかったです。ポセさんもミカさんも心配していましたから」

 アテナは口に手を当て、再びクスッと笑う。

「ふふふっ。ポセイドンとミカエルがそんなふうに呼ばれているなんて、とても微笑ましいですわ。ミカエルはちゃんと仲良くできていましたか? 真面目すぎて融通がきかないところがあるので」

 ロディユもつられて笑みを浮かべる。

「最初はポセさんに対しての態度が気に食わなかったみたいで、怒られちゃいました……」
「ふふふっ。ミカエルらしいわ」

 ロディユはクスクス笑うアテナに見とれてしまっていた。
 アテナと目が合った瞬間、顔が熱くなるのを感じる。

「そ、そうだ! 同盟軍……僕の仲間のところに行きませんか? ポセさんもミカさんもいますから!」
「ええ、是非!」


***


 同盟軍総司令本部。

 そこにはポセ以外の各部隊隊長、第三部隊が集まっていた。
 最初にロディユに気づいたイリヤは慌てて駆け寄り、思い切り抱きしめた。

「ロディユ! また会えて嬉しいぞ!」
「僕もです、イリヤさん!」

 ミカエルはアテナの姿を見るなり、涙を溢れさせていた。
 アテナはミカエルを優しく抱きしめ、二人は再会を喜び合う。

 その様子を見ていた周りの者たちは、ホッとした表情を浮かべていた。

「イリヤさん、全て終わらせてきました。アテナさんもこの通り無事です! それで……ポセさんは?」
「えーっと……」

 イリヤは表情を暗くし、口ごもる。
 周りにいる全員が悲しい表情を浮かべていた。

「——私から説明する」

 ルシファーがそう言いながらロディユの前に移動してきた。

「ルシファーさんが?」
「ポセイドン様は竜峰山におられる。実は、奈落の王が——」

 ルシファーは途中言葉を詰まらせながら、ロディユに経緯を説明した。

「僕がもっと早く戻ってくれば……」

 ロディユは動揺し、首を横に振り続ける。
 横で聞いていたアテナは冷静なままだ。

「ロディユ、あのバカ兄者に会いに行ってこい。直接文句を言いってくればいい」

 アレスは後ろからそう声をかけ、ロディユの背中を叩いた。

「アレスさん……僕、ポセさんに会いに行ってきます!」


***

 
 竜峰山。

 ロディユは転移魔法で大きな扉の前に移動していた。
 マスターエルダーの力を獲得した今のロディユは、竜峰山を探す必要はない。

「ロディユが参上した! ゲニウス、中へ入れてくれ!」

 その言葉に応答して両扉はゆっくりと開いた。
 ロディユは待ちきれず、開ききる前に中へ駆けて行った。

「——ロディユ!」

 ポセが足元の虫を避けながら、ロディユに近寄ってきた。
 その姿は初めて会った時のように体が縮んでいた。

「ポセさん! ……この虫どうしたの!?」

 ロディユは部屋の床や天井を埋め尽くす虫の大群を見て、顔を真っ青にする。

「我の友の友だ。つまりは、我の友だ」
「……ん?」

 ロディユはさらに困惑していた。

「紹介する。向こうにいる人物はアバドン。元奈落の王だ」
「そっか……」

 ロディユはアポセが指し示す場所を見て苦笑した。
 そこには全身虫に覆われたアバドンが立っており、姿は全く見えない。

「ここでゲニウスと共に暮らすことになった。部屋も広くなっただろう? それぞれの個室も用意してもらった」
「そっか、よかったね……と、言いたいところだけど……。なんでこんなことになったんだよ!」

 ロディユは楽しそうに話すポセに、腹を立てていた。

「怒っているのか?」
「当たり前だよ! 僕に相談してくれなかった!」

 ロディユは拗ねた表情を浮かべていた。

「すまなかった。時間がなくてな……。ゲニウスに相談した結果、これが最善の道だった。同盟軍総司令として、犠牲は最小限にしたかったのだ」
「わかってるよ……。ポセさんが死ななかっただけ、良かった」

 ロディユは涙を浮かべながら、ポセに抱きつく。

「ロディユも無事で何よりだ。元気な顔が見れて嬉しいぞ。我はもうここから出られないが、寂しくはない。ゲニウスとアバドンはいい奴らだからな」

 ポセは座った状態で目を瞑っているゲニウスに視線を送る。

「今は力を蓄えるために眠っている。声をかけても起きない」
「そっか」
「それにしても、いい外見になった。その角はなかなかいいぞ!」
「ありがとう。でも、アクアと分離したらたぶん元の姿に戻ると思う」

 ロディユはそう言った後、心の中で「アクア」と呼びかけた。
 すると、ロディユの体全体が縮小し始める。
 それと同時に尻尾や翼が消え、額の角は縮んでいく。
 最終的に虹の聖石は、額に埋め込まれたような状態へ変化した。

 アクアがロディユの横に現れ、ポセの胸に飛びつく。

「キュー!」
「アクア! お前も元気そうでなによりだ!」
「キュー!」

 ポセはアクアを腕に抱え、首のフサフサした毛を優しく指で触る。

「そうだ、報告することが。アテナさんは無事だったよ!」
「本当か!? 良かった! ロディユ、感謝するぞ!」
「助けてくれたのは、本物のゼウス様と天罰神だけどね」
「でも、そうなるようにしてくれたのはロディユだろ? だから、感謝の言葉を言わせてくれ」

 ポセはロディユの頭に優しく手を置いた。

「まだどうなるかわからないけど、僕は双子星の再建に取り組もうと思う」
「そうか。姉上や同盟軍の者が手伝ってくれるはずだ。オーディンやルシファーには、すでにそうするよう私から伝えてある。争いが消えることはないかもしれんが、できるだけなくなるように動いてもらうつもりだ」
「うん」
「お前はマスターエルダーの力がある。正しく使えば、きっとお前の願いは叶えられる」
「うん……。ポセさん、またここに会いにきていい? いっぱい相談したいことが出てくるから……」

 ロディユは目に涙を浮かべながらそう言った。

「もちろん構わない。だが、気遣っているだけなら無理に来る必要はない。まずは再建に集中してほしい」
「僕はただ、ポセさんに会いたいだけ。だから、会いにくるよ!」

 ロディユはポセに再び抱きついた。
 ポセは抱き上げ、ロディユをしっかり抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...