俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

文字の大きさ
55 / 57

58 神界

しおりを挟む

 神界には何もなかった。
 ただ黄金色の空間が続くだけだ。
 時々、布が風で揺らぐような歪みが見えるだけで、どこを飛んでいるのかさえ分からなかった。

「——何もないだろう?」
「はい」

 ゼウスの問いかけに、ロディユは緊張しながら答えた。
 ロディユは神域と同じような景色を想像していたので、驚きを隠せない。

「神々はこの神界で自分の領域を持っている。そこに入れば、双子星のような景色も存在するだろう。永遠に生きづつける神は基本的に暇であるから、いろんな趣向を凝らしているのだ」
「そうよ! こんな退屈な場所はもうこりごりよ! あなたもね!」

 ゼウスに向かって文句を言ったヘラは、ロディユの結界の中にいた。

「黙れ。お前は我をはめてデュポーンに食わせるなど……」
「でも、無事だったからいいじゃない?」
「そういう問題ではない!」

 ヘラは大声でゼウスに怒鳴られたので黙り込んだ。

「あの……。ゼウス様……?」

 ロディユは知り得ない情報を耳にし、思わず話しかけてしまった。

「何か聞きたいことでもあるのか?」
「はい……。どうやって復活されたのですか?」
「マスターエルダーがデュポーンに呪いをかけてくれたおかげで、完全にはデュポーンに取り込まれなかった。ヘラはそれに気づいていたようで、定期的にデュポーンの体を交換し、我の封印を維持していたようだが……」

 ゼウスはヘラを睨みつけた。
 ヘラは慌てて視線を逸らす。

「力を奪われた我は、どうすることもできなかった。しかし、お前がデュポーンから助けてくれた。感謝する、ロディユ」

 ロディユは虹の聖石を完成させた後、デュポーンを倒す前にその体内からゼウスの魂を見つけ、取り出していた。

「いえ、他の仲間がいなかったら不可能でした」

 ロディユはそう言いながらポセの顔を思い浮かべた。

「——さて、おしゃべりはここまでにしようか。天罰神アラストルの根城だ」

 ゼウスがそう言うと、何もなかった黄金の景色に穴がぽっかりと空く。
 そこを覗き込むと、黒炎で燃えさかる黒い城がそびえ立っていた。

「あの……。もう一つだけ質問をよろしいでしょうか?」
「構わんぞ」
「ヘラが飲み込んだアテナさんは復活できますか?」
「それは天罰神に相談してみる。ついてこい」
「はい」

 ロディユがヘラに視線を向けると、ヘラの顔は真っ青になっていた。

「ゼウス、私は自分の領域へ帰る! 天罰神のところは嫌よ! ねえ、夫婦に戻りましょう?」
「我はお前に何度裏切られていると思っている? もうこりごりだ!」
「なぜ私がこんな目に!」

 ヘラはそう叫びながら両手で顔を覆った。
 ロディユは子どものように駄駄を捏ねるヘラに対して、怒りを抑えこむのに必死だ。

『——アラストル! 我はゼウス! 罪人ヘラの審判を頼む!』

 ゼウスは大きな声を轟かせた。

 すると——。

 城から黒い炎の通路が3人のところまで伸びてきた。
 同時にヘラを閉じ込めていた結界は消え、代わりにヘラの首へ黒い炎の鎖がつけられる。
 両腕と両足も同様に縛り付けられていた。

「はっはっはっ! これで無駄口は聞けなくなるな」

 ゼウスは笑いながらヘラに言った。
 ヘラはその鎖のせいで体が全く動かなくなっていた。

「では、行こうか」
「はい!」

 ロディユは恐る恐る黒い炎の通路へ足を踏み入れた。

「あれ? 熱くない……」

 驚いたロディユは声を漏らした。

「神はこの炎に対して何も感じないのだ」
「そうですか。神になれてよかったです」

 ロディユはホッと息を吐いた。

 3人は通路を抜けると、全身が真っ赤で髪が黒い炎の神——アラストルが鎮座する部屋に入った。

「ゼウス、久しいな」

 アラストルの声は、腹に響く重い声だった。

「ヘラのせいでこの数千年ひどい目にあった。審判を頼む」
「いいだろう」

 アラストルの目から炎が燃え上がる。
 すると、ヘラの体は勝手に動き始め、その場に跪いた。

「お前は道楽で星を創造し、生命を弄んだ。私利私欲にまみれた行いは、神としてあるまじき行為。その上、禁忌とされる神由来の生命創造を犯した。重罪なり!」

 アラストルは、ヘラの罪を口にした。

「汝の刑を言い渡す。神界から一生出ることを禁じ、神の力を剥奪する。そして、向こう一万年、『暗黒の間』に投獄する!」

 声を出せないヘラはひたすらもがき、涙を流していた。

「一つだけ恩赦を与える。生命創造は神界外で行われたこと故、子に罪はない」

 アラストルはそう言うとヘラを炎で包み込み、胸から光の玉を取り出した。
 その光は形を変え、立ち姿の人型へ。
 それは、アテナだった。

 アテナは目を開くと、アラストルが口を開く。

「アテナよ。お前は神ではあるが、神界の者と認められない。ここを出た後、神界の立ち入りを禁じる。ヘラが壊そうとした世界の復活に従事せよ」

 アテナは片膝をつき、胸に手を添える。

「はい。仰せのままに」





 アラストルの審判が終了した後、ロディユ、アテナ、ゼウスは神界の門の外へ移動していた。

「ゼウス様、お力添えを心から感謝いたします」

 ロディユがそう言った後、アテナと二人で深々と頭を下げた。

「ロディユ、お前は本当に神界で暮らさなくていいのか? お前がいた世界よりはよっぽどいい場所だと思うのだが」
「魅力的なお話ですが……。双子星にはやり残したことがたくさんありますので」
「そうか、ではもう言うまい。ロディユとアテナ、亡きマスターエルダーの思いを引き継ぎ、良い世界を再建するがよい」
「「はい」」
「我はヘラの暴走を止められなかったゆえ、後ほど詫びをいれるとしよう——」

 二人はゼウスの言葉を聞いた直後、視界が真っ白になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...