俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃

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57 オリュンポス7

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「——やっと片付いたようだな。待ちくたびれたぞ」

 ハデスは突然現れたロディユたちに驚きもせずにそう言った。

「ハデス、ベルセポネは?」
「すでに処理済みだ。問題ない」

 ハデスは表情一つ変えないままアレスの質問に答えた。
 奈落で問題が起きている可能性があることをあえて口にしなかった。

「それで? ここにいない奴らはどんな状況だ?」
「四人は同じ部屋にいるようだ。そこにヘラはいない」

 ハデスの質問にイリヤが答えた。

「ヘラのところへは僕が一人で行きます」

 イリヤはロディユの言葉を聞いて驚きの表情を浮かべた。

「ヘラの居場所がわかるのか?」
「はい。同じ神同士だからなのか、場所がわかるんです。皆さんは他の四人と合流してください。その後は引き上げてもらって結構です。僕のことは気にしないでください」
「オリュンポスを異空間に閉じ込めておかなくていいのか?」

 ハデスは怪訝な表情を浮かべる。

「問題ありません」
「わかった。では、我々は行く」
「はい」
「——ちょっと待ってくれ」

 イリヤはロディユを抱きしめた。

「後は……任せたぞ。俺の弟、ロディユ」
「弟と言ってもらえてとても嬉しいです。僕も兄ように慕っていましたから……。イリヤさん、元気で」

 イリヤは泣くのを堪えながらゆっくりと離れ、背を向けて目をこする。
 ロディユはハデスとアレスに視線を向け、深々と礼をした。

「短い間でしたが、ありがとうございました!」

 ロディユは力強い声でそう言った後、その場から消えた。


***


「ふふふふふっ……」

 ヘラはベッドに腰掛け、目の前に浮かぶ映像を見ながら微笑んでいた。
 それにはミカエルたちが星空の空間で戦っている姿が映っている。
 ミカエルが鏡を割り始める前から、ヘラはすでにこの部屋へ退避していた。

「あら、ここは立ち入り禁止なのだけど……?」

 ヘラは背後に突然現れたロディユに顔を向け、そう告げた。

「申し訳ありません。アテナさんを探しておりまして。どこにいるか、ご存知でしょうか?」

 ロディユは穏やかな表情で質問した。

「あら、アテナはもう私の中よ。いい体に育ったから、おいしくいただいたわ」

 ヘラはわざと舌なめずりをして微笑んだ。

「そうですか……。でも、完全には自分のものにできていないようですね。だから、今は動けないのでしょう?」

 ヘラは目を細める。

「そういうこと……。あなた、完全な神なのね——」

 ヘラはそう言った後、すぐにその場から消えた。

 しかし、驚きの表情を浮かべながらすぐに姿を現す。

「部屋から出られない!?」
「ここはすでに僕の結界の中ですから、出られませんよ。中途半端な体のあなたにできることは何もありません」

 焦りの表情を浮かべるヘラにロディユは冷たく言い放った。

 ロディユがヘラに気付かれずに結界を張れたのは、イリヤから教えてもらった血魔術を応用したからだ。
 この部屋にロディユが転移直後、霧状に分散させた結界を作り出し、ヘラとの会話で注意を逸らしながら結界を完成させた。

「どういうこと!?」
「今は時間が惜しいですから、説明を省きます」
「やめて!!!」

 ロディユはヘラを囲んだ結界と共に、その場から消えた。





 神界の門。

 その門は、虹色の空に浮かぶ黄金の雲の上にあった。
 巨大な黄金の門の前には、黄金色の巨大な像が一体ポツンと立っていた。

 ロディユはヘラを連れてその門に近づくと、黄金像が口を開いた。

「何用だ?」

 ロディユはその像に一礼をした後、説明を始める。

「はじめまして。僕はロディユという新米の神です。僕がいた世界でヘラが目に余る行為をしていたので、神界に戻ってもらおうと連れてきました」
「ふむ……」

 門番は、ヘラへ視線を移す。

「出して! 私は何も悪いことはしていないわ! こいつの嘘よ! 結界から解放して!」

 ヘラは結界を中から叩き割ろうと、必死にもがいていた。

「証拠はあるのか?」
「——我が説明しよう」

 門番の質問に答えたのは、ロディユとは別の声だった。
 ロディユの角から、小さな黄金の光がこぼれ落ちる。
 それが雲の上に落ちる瞬間、一人の男性となって姿を現した。

「ゼウス様!?」

 門番は慌てた声を出し、片膝をついて頭を下げる。
 ロディユも同じ体勢を急いでとった。

「面をあげよ」

 門番とロディユは、膝をついたまま顔をゼウスに向けた。

「この者の言う通りだ。ヘラは罰を受けなくてはならない。天罰神のところへ連れて行く。中へ入れてくれ」
「畏まりました!」

 門番は急いで立ち上がり、手に持っていた大きな鍵を門の穴に通す。
 すると、中から黄金の光が漏れだしながら両扉が開いた。
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