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11 2人の想い
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夕翔は時々後ろを確認しながら走り、家までたどり着いた。
「はあ、はあ、はあ……」
ドアの鍵を閉め、その場にへたり込む。
「ゆうちゃん! 大丈夫!?」
人型の花奈は慌てて夕翔に駆け寄る。
家に到着してすぐ、イチは花奈に念話して一部始終を知らせていた。
襲われた直後に知らせなかったのは、襲った相手を警戒してのことだった。
「花奈……」
夕翔は花奈の顔を見てホッとしたが、まだ震えは止まらない。
「さっき、イチから事情は聞いた。無事でよかった……」
花奈は涙目で夕翔に抱きついた。
夕翔は花奈の温もりで徐々に恐怖を和らげる。
「ゆうちゃん立てる?」
「ごめん……情けないけど、力が入らない……」
「腕回すよ?」
「うん、ごめんな」
「いいの。気にしないで」
花奈は夕翔を妖術で眠らせ、2階の寝室へ運んだ。
*
夕翔の寝室。
花奈はベッドで眠る夕翔を傍らで見つめていた。
『——イチ、詳細を報告してくれる?』
花奈は夕翔のペンダントになっているイチに念話した。
『はい、姫様。夕翔様を襲ったのは国王の式神でしょう。この世界の住人に乗り移っていましたから。夕翔様が襲われた原因はイツです』
『イツの場所が知られてしまった原因はわかる?』
『その原因は、夕翔様のために施したイツの結界かと。国王の式神は我々よりも経験が圧倒的に上であるため、我々が見過ごした欠点があると存じます』
『ありうるわね。でも、今のところイツを完全に隠し通すことはできないわ。イツの結界を解除すれば、ゆうちゃんはまた私を女として見てくれなくなる……』
『ですが、それでは夕翔様の身に危険が……』
『姫様、やはり異世界の者との恋愛は難しいかと……。これを機に諦めてはいかがでしょう? 姫様が帰れば、国王様も何もしてこないかと』
2人の話を聞いていたフウがそう助言した。
『フウ……18年越しにゆうちゃんに会えたんだよ?』
花奈は悔し涙をこぼす。
「花奈」
眠っているはずの夕翔が弱々しい声で話しかけてきた。
「ゆうちゃん……」
「泣いてるのか? 俺が襲われたのが自分のせいだって責めてるんじゃないだろうな?」
「私のせいだよ。ゆうちゃんは私といると、これからも危険な目にあう可能性がでてきたの。だから、私は自分の世界に帰らないと——」
夕翔は起き上がり花奈を抱きしめた。
「そんなこと言うなよ。俺をいっぱい誘惑して好きにさせて、それでさよならはないだろ。俺はもう花奈が好きで好きで仕方ないのに。昔みたいに本気になったんだ」
「ゆうちゃん、記憶を思い出してたの?」
「うん、恥ずかしくて言えなかった。だってあんな子供の俺が本気でプロポースしてたから……」
「でも——」
「——花奈、もう俺の前から消えないで。俺とずっとに一緒にいて」
2人は体を離し、見つめ合う。
「私、どうしていいかわからない。ゆうちゃんが大切だから」
「俺、花奈が大好きだよ。これからも一緒にいたいんだ」
そう言うと、夕翔は花奈にキスをした。
抑え込んでいた気持ちを込めながら。
花奈は涙を流しながら受け入れ、強く抱きしめ合った。
その後、式神たちは気を使って部屋から出て行った。
「——ゆうちゃん……あのね、ゆうちゃんの安全をより確実にする方法が2つあるの」
「なに?」
「1つは、ゆうちゃんに妖術を学んでもらうこと。そしてもう1つは……私と体の契約を結ぶこと」
「それって……」
「つまり、体を交わらせて1つになることだよ。それを行うと、私の体はゆうちゃんだけのものだと証明されて、体内の式神は完全に隠せるの」
——そう、それは父であっても破棄できない契約。私が死ぬまでは……。
花奈は心の中で呟いた。
「花奈はずっとこの世界に住むのか?」
「え?」
「今日俺を襲ってきたやつは、花奈を連れ帰ろうとしてるんじゃないか、と思ってるんだ」
「それは……違うよ」
「嘘つけ。そういうとこ下手だよな。素直すぎ」
花奈は視線を下げる。
「花奈は向こうの世界では必要な人物じゃないのか? 頼むから、正直に言ってくれ。俺には隠し事はするなよ。俺は結婚も覚悟してるんだぞ?」
花奈はその言葉に胸を熱くする。
「私はね、犬神国っていうところから来たの——」
花奈は正直に自分がその国の姫であり、次期国王候補に挙がっていることを伝えた。
国王である父親が勝手に決めた婚約者がいること、父親と義理母との間にある確執など……全てを打ち明けた。
「とんでもない身分だな……。よりによって俺を選ぶなんて、花奈はどうかしてるよ。義理の妹さんも困るんじゃない?」
「さっき言ったけど、ゆうちゃんは嗣斗より保有妖力がかなり高いの。妖術を学べば圧倒的な力の差を見せつけられると思う。最強術者の私が教えればね。もちろん、それだけじゃないよ。私はゆうちゃんしか好きになれなかったの」
「そんなこと言われたら、突き放せないよ」
夕翔は涙目の花奈を抱きしめる。
「ゆうちゃん、もしかしたら私の世界に行くことも考えてる?」
「ちょっとはな……。だって花奈は貴重な人材みたいだし。それに、すごくいい国王になるだろうな、って思うから。そんな花奈をこの世界に引き止めておくのはダメかなって」
「あまりにも私の世界の者がこの世界に関わってくるなら、そうしてもらうかもしれない。私たちが戻ればすべて収まるから……」
「俺がそう思えたのは花奈のおかげなんだよ」
「え?」
「俺、本当は死んでたのに……花奈のおかげでこうして元気にやってこれた。今の人生は花奈のおかげで維持されてるんだよ。だから、俺は花奈に未来を託してもいいなって。男のくせに頼りないけど……」
「そんなことないよ。私がゆうちゃんを守ってあげる」
「花奈、俺の全部を受け入れてくれる?」
「最初からそのつもりだよ」
「じゃあ、俺と体の契約を結んでくれ」
「うん」
花奈は嬉し涙を流した。
「はあ、はあ、はあ……」
ドアの鍵を閉め、その場にへたり込む。
「ゆうちゃん! 大丈夫!?」
人型の花奈は慌てて夕翔に駆け寄る。
家に到着してすぐ、イチは花奈に念話して一部始終を知らせていた。
襲われた直後に知らせなかったのは、襲った相手を警戒してのことだった。
「花奈……」
夕翔は花奈の顔を見てホッとしたが、まだ震えは止まらない。
「さっき、イチから事情は聞いた。無事でよかった……」
花奈は涙目で夕翔に抱きついた。
夕翔は花奈の温もりで徐々に恐怖を和らげる。
「ゆうちゃん立てる?」
「ごめん……情けないけど、力が入らない……」
「腕回すよ?」
「うん、ごめんな」
「いいの。気にしないで」
花奈は夕翔を妖術で眠らせ、2階の寝室へ運んだ。
*
夕翔の寝室。
花奈はベッドで眠る夕翔を傍らで見つめていた。
『——イチ、詳細を報告してくれる?』
花奈は夕翔のペンダントになっているイチに念話した。
『はい、姫様。夕翔様を襲ったのは国王の式神でしょう。この世界の住人に乗り移っていましたから。夕翔様が襲われた原因はイツです』
『イツの場所が知られてしまった原因はわかる?』
『その原因は、夕翔様のために施したイツの結界かと。国王の式神は我々よりも経験が圧倒的に上であるため、我々が見過ごした欠点があると存じます』
『ありうるわね。でも、今のところイツを完全に隠し通すことはできないわ。イツの結界を解除すれば、ゆうちゃんはまた私を女として見てくれなくなる……』
『ですが、それでは夕翔様の身に危険が……』
『姫様、やはり異世界の者との恋愛は難しいかと……。これを機に諦めてはいかがでしょう? 姫様が帰れば、国王様も何もしてこないかと』
2人の話を聞いていたフウがそう助言した。
『フウ……18年越しにゆうちゃんに会えたんだよ?』
花奈は悔し涙をこぼす。
「花奈」
眠っているはずの夕翔が弱々しい声で話しかけてきた。
「ゆうちゃん……」
「泣いてるのか? 俺が襲われたのが自分のせいだって責めてるんじゃないだろうな?」
「私のせいだよ。ゆうちゃんは私といると、これからも危険な目にあう可能性がでてきたの。だから、私は自分の世界に帰らないと——」
夕翔は起き上がり花奈を抱きしめた。
「そんなこと言うなよ。俺をいっぱい誘惑して好きにさせて、それでさよならはないだろ。俺はもう花奈が好きで好きで仕方ないのに。昔みたいに本気になったんだ」
「ゆうちゃん、記憶を思い出してたの?」
「うん、恥ずかしくて言えなかった。だってあんな子供の俺が本気でプロポースしてたから……」
「でも——」
「——花奈、もう俺の前から消えないで。俺とずっとに一緒にいて」
2人は体を離し、見つめ合う。
「私、どうしていいかわからない。ゆうちゃんが大切だから」
「俺、花奈が大好きだよ。これからも一緒にいたいんだ」
そう言うと、夕翔は花奈にキスをした。
抑え込んでいた気持ちを込めながら。
花奈は涙を流しながら受け入れ、強く抱きしめ合った。
その後、式神たちは気を使って部屋から出て行った。
「——ゆうちゃん……あのね、ゆうちゃんの安全をより確実にする方法が2つあるの」
「なに?」
「1つは、ゆうちゃんに妖術を学んでもらうこと。そしてもう1つは……私と体の契約を結ぶこと」
「それって……」
「つまり、体を交わらせて1つになることだよ。それを行うと、私の体はゆうちゃんだけのものだと証明されて、体内の式神は完全に隠せるの」
——そう、それは父であっても破棄できない契約。私が死ぬまでは……。
花奈は心の中で呟いた。
「花奈はずっとこの世界に住むのか?」
「え?」
「今日俺を襲ってきたやつは、花奈を連れ帰ろうとしてるんじゃないか、と思ってるんだ」
「それは……違うよ」
「嘘つけ。そういうとこ下手だよな。素直すぎ」
花奈は視線を下げる。
「花奈は向こうの世界では必要な人物じゃないのか? 頼むから、正直に言ってくれ。俺には隠し事はするなよ。俺は結婚も覚悟してるんだぞ?」
花奈はその言葉に胸を熱くする。
「私はね、犬神国っていうところから来たの——」
花奈は正直に自分がその国の姫であり、次期国王候補に挙がっていることを伝えた。
国王である父親が勝手に決めた婚約者がいること、父親と義理母との間にある確執など……全てを打ち明けた。
「とんでもない身分だな……。よりによって俺を選ぶなんて、花奈はどうかしてるよ。義理の妹さんも困るんじゃない?」
「さっき言ったけど、ゆうちゃんは嗣斗より保有妖力がかなり高いの。妖術を学べば圧倒的な力の差を見せつけられると思う。最強術者の私が教えればね。もちろん、それだけじゃないよ。私はゆうちゃんしか好きになれなかったの」
「そんなこと言われたら、突き放せないよ」
夕翔は涙目の花奈を抱きしめる。
「ゆうちゃん、もしかしたら私の世界に行くことも考えてる?」
「ちょっとはな……。だって花奈は貴重な人材みたいだし。それに、すごくいい国王になるだろうな、って思うから。そんな花奈をこの世界に引き止めておくのはダメかなって」
「あまりにも私の世界の者がこの世界に関わってくるなら、そうしてもらうかもしれない。私たちが戻ればすべて収まるから……」
「俺がそう思えたのは花奈のおかげなんだよ」
「え?」
「俺、本当は死んでたのに……花奈のおかげでこうして元気にやってこれた。今の人生は花奈のおかげで維持されてるんだよ。だから、俺は花奈に未来を託してもいいなって。男のくせに頼りないけど……」
「そんなことないよ。私がゆうちゃんを守ってあげる」
「花奈、俺の全部を受け入れてくれる?」
「最初からそのつもりだよ」
「じゃあ、俺と体の契約を結んでくれ」
「うん」
花奈は嬉し涙を流した。
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