俺のペットは異世界の姫

香月 咲乃

文字の大きさ
11 / 32

11 2人の想い

しおりを挟む
 夕翔は時々後ろを確認しながら走り、家までたどり着いた。

「はあ、はあ、はあ……」

 ドアの鍵を閉め、その場にへたり込む。

「ゆうちゃん! 大丈夫!?」

 人型の花奈は慌てて夕翔に駆け寄る。
 家に到着してすぐ、イチは花奈に念話して一部始終を知らせていた。
 襲われた直後に知らせなかったのは、襲った相手を警戒してのことだった。

「花奈……」

 夕翔は花奈の顔を見てホッとしたが、まだ震えは止まらない。

「さっき、イチから事情は聞いた。無事でよかった……」

 花奈は涙目で夕翔に抱きついた。
 夕翔は花奈の温もりで徐々に恐怖を和らげる。

「ゆうちゃん立てる?」
「ごめん……情けないけど、力が入らない……」
「腕回すよ?」
「うん、ごめんな」
「いいの。気にしないで」

 花奈は夕翔を妖術で眠らせ、2階の寝室へ運んだ。





 夕翔の寝室。

 花奈はベッドで眠る夕翔を傍らで見つめていた。

『——イチ、詳細を報告してくれる?』

 花奈は夕翔のペンダントになっているイチに念話した。

『はい、姫様。夕翔様を襲ったのは国王の式神でしょう。この世界の住人に乗り移っていましたから。夕翔様が襲われた原因はイツです』
『イツの場所が知られてしまった原因はわかる?』
『その原因は、夕翔様のために施したイツの結界かと。国王の式神は我々よりも経験が圧倒的に上であるため、我々が見過ごした欠点があると存じます』
『ありうるわね。でも、今のところイツを完全に隠し通すことはできないわ。イツの結界を解除すれば、ゆうちゃんはまた私を女として見てくれなくなる……』
『ですが、それでは夕翔様の身に危険が……』
『姫様、やはり異世界の者との恋愛は難しいかと……。これを機に諦めてはいかがでしょう? 姫様が帰れば、国王様も何もしてこないかと』

 2人の話を聞いていたフウがそう助言した。

『フウ……18年越しにゆうちゃんに会えたんだよ?』

 花奈は悔し涙をこぼす。

「花奈」

 眠っているはずの夕翔が弱々しい声で話しかけてきた。

「ゆうちゃん……」
「泣いてるのか? 俺が襲われたのが自分のせいだって責めてるんじゃないだろうな?」
「私のせいだよ。ゆうちゃんは私といると、これからも危険な目にあう可能性がでてきたの。だから、私は自分の世界に帰らないと——」

 夕翔は起き上がり花奈を抱きしめた。

「そんなこと言うなよ。俺をいっぱい誘惑して好きにさせて、それでさよならはないだろ。俺はもう花奈が好きで好きで仕方ないのに。昔みたいに本気になったんだ」
「ゆうちゃん、記憶を思い出してたの?」
「うん、恥ずかしくて言えなかった。だってあんな子供の俺が本気でプロポースしてたから……」
「でも——」
「——花奈、もう俺の前から消えないで。俺とずっとに一緒にいて」

 2人は体を離し、見つめ合う。

「私、どうしていいかわからない。ゆうちゃんが大切だから」
「俺、花奈が大好きだよ。これからも一緒にいたいんだ」

 そう言うと、夕翔は花奈にキスをした。
 抑え込んでいた気持ちを込めながら。
 花奈は涙を流しながら受け入れ、強く抱きしめ合った。

 その後、式神たちは気を使って部屋から出て行った。

「——ゆうちゃん……あのね、ゆうちゃんの安全をより確実にする方法が2つあるの」
「なに?」
「1つは、ゆうちゃんに妖術を学んでもらうこと。そしてもう1つは……私と体の契約を結ぶこと」
「それって……」
「つまり、体を交わらせて1つになることだよ。それを行うと、私の体はゆうちゃんだけのものだと証明されて、体内の式神は完全に隠せるの」

 ——そう、それは父であっても破棄できない契約。私が死ぬまでは……。

 花奈は心の中で呟いた。

「花奈はずっとこの世界に住むのか?」
「え?」
「今日俺を襲ってきたやつは、花奈を連れ帰ろうとしてるんじゃないか、と思ってるんだ」
「それは……違うよ」
「嘘つけ。そういうとこ下手だよな。素直すぎ」

 花奈は視線を下げる。

「花奈は向こうの世界では必要な人物じゃないのか? 頼むから、正直に言ってくれ。俺には隠し事はするなよ。俺は結婚も覚悟してるんだぞ?」

 花奈はその言葉に胸を熱くする。

「私はね、犬神国っていうところから来たの——」

 花奈は正直に自分がその国の姫であり、次期国王候補に挙がっていることを伝えた。
 国王である父親が勝手に決めた婚約者がいること、父親と義理母との間にある確執など……全てを打ち明けた。

「とんでもない身分だな……。よりによって俺を選ぶなんて、花奈はどうかしてるよ。義理の妹さんも困るんじゃない?」
「さっき言ったけど、ゆうちゃんは嗣斗より保有妖力がかなり高いの。妖術を学べば圧倒的な力の差を見せつけられると思う。最強術者の私が教えればね。もちろん、それだけじゃないよ。私はゆうちゃんしか好きになれなかったの」
「そんなこと言われたら、突き放せないよ」

 夕翔は涙目の花奈を抱きしめる。

「ゆうちゃん、もしかしたら私の世界に行くことも考えてる?」
「ちょっとはな……。だって花奈は貴重な人材みたいだし。それに、すごくいい国王になるだろうな、って思うから。そんな花奈をこの世界に引き止めておくのはダメかなって」
「あまりにも私の世界の者がこの世界に関わってくるなら、そうしてもらうかもしれない。私たちが戻ればすべて収まるから……」
「俺がそう思えたのは花奈のおかげなんだよ」
「え?」
「俺、本当は死んでたのに……花奈のおかげでこうして元気にやってこれた。今の人生は花奈のおかげで維持されてるんだよ。だから、俺は花奈に未来を託してもいいなって。男のくせに頼りないけど……」
「そんなことないよ。私がゆうちゃんを守ってあげる」
「花奈、俺の全部を受け入れてくれる?」
「最初からそのつもりだよ」
「じゃあ、俺と体の契約を結んでくれ」
「うん」

 花奈は嬉し涙を流した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...