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24 式神との戦い4
しおりを挟む『——ご主人様!』
伊月は自分に向かって駆けてくる式神——銀色の狼を目にした時、胸を高鳴らせた。
——あれは、嗣斗様……? いや、式神……まさか、姉上が?
モモが花奈の体を使って召喚したその式神は、伊月が間違えるほど犬型の嗣斗とそっくりだった。
『ご主人様、お助けいたします!』
狼型式神は伊月を覆う結界に体当たりした。
『あなたは嗣斗様なのですか?』
伊月は嗣斗そっくりな式神へ、期待を込めて念話で話しかける。
『それは私の名前でしょうか?』
その返答に伊月は肩を落とした。
——やはり、あのお札だけでは不十分……。
伊月は嗣斗の一部を吸収させた札を使えば、式神に嗣斗の思念を定着させられるかもしれない、と考えていた。
しかし、それは成功しなかった。
その札は式神の主人を定め、式神の形態の参考になっただけで、嗣斗とは全く異なる存在だった。
——それでも、嗣斗様とそっくりな式神に会えたのは喜ばしいこと……。
伊月は目を潤ませる。
『——そうです、あなたの名前は嗣斗。私をこの結界から出してください。中からではどうにもできませんし、妖術も効かないようです』
『この嗣斗、必ずやご主人様をここから開放いたします!』
嗣斗は何度も体当たりする。
『くっ……椿、結界が……外部から何か圧が……』
嗣斗が見えない葵は、顔を歪ませながら椿にそう言った。
「そうか、ならば先に始末する」
椿は右手掌に火の玉を出現させた。
その直前、伊月の結界が脆くなっていることに気づいた花奈は、モモに指示を出す。
『モモ! 剣で伊月の結界を破壊!』
モモは花奈の左側から体を半分出し、左腰にぶら下がった短剣を鞘から出して伊月へ向けて放った。
ミシッ……ミシミシッ……。
伊月を覆っていた結界にヒビが入った瞬間、嗣斗はそこにもう一度体当たりをした。
バリンッ!!!
「なに!?」
突然大きな音を立てて結界が破裂したので、椿は一瞬手を止めてしまった。
その隙に、小型犬の伊月は嗣斗の背中に乗って花奈から離れるように逃げる。
「逃すか!」
椿は鬼の形相で伊月に向かって大量の火の玉を放った。
伊月は急いで体を水で覆い、攻撃を全て無効化する。
「お前はここで滅びろー!!!」
椿は火の玉を放ちながら伊月へ襲いかかってきた。
『嗣斗、人型になるから、水の衣に具現化して私を覆って!』
『畏まりました!』
伊月が人型になったと同時に、嗣斗は青色の和服へ変化して伊月を覆った。
伊月は椿の方へ振り返り、長い両袖を剣に変形させ、遅いかかる火の玉を撃ち落としていく。
「お前が私に敵うわけがないだろ!」
椿はそう言い放ち、大量の火の玉で伊月の視界を奪う。
そして、右手に握った長剣を勢いよく伊月へ振り下ろした。
伊月は両手の剣を交わらせた状態で受け止め、跳ね返す。
「そうかしら?」
伊月は余裕の笑みを浮かべた。
*
伊月が椿たちから逃げた頃——。
花奈は後ろに手を回した状態で立っていた。
『——モモ、私の手の魔法陣をモモの手に転写して』
花奈は両手掌に魔法陣を出現させていた。
『はーい』
花奈の背中から出てきたモモは、自分の両手を花奈の両手に押し当てた。
『両手をゆうちゃんの背中に当てて。ゆうちゃんの体内へ入る穴ができるはず』
『うん!』
その頃、夕翔の体を覆っている葵は花奈を悠然と眺めていた。
——この体さえ死守していれば、あなたの体は我らのもの。
契りを結んだ花奈と夕翔は、離れていても影響し合う状態であるため、それを葵に利用されてしまっていた。
夕翔の体が乗っ取られている以上、自動的に花奈も葵に乗っ取られていることになるが……。
現実は葵の思い通りに進んでいなかった。
花奈がここにくる前に仕掛けた対策——椿と葵がいる場所を含めた広範囲に憑依解除術を発動していたからだ。
範囲があまりに広いので効果は少しずつしか出ないが、夕翔の乗っ取りが不完全だったことはそれが原因だった。
そのおかげでモモも消えずに済んでいた。
『ん?』
葵は背中に違和感を感じた。
一瞬の出来事だったので、葵は気のせいだと思ってしまうが……。
その一瞬の間にモモは夕翔の背中に憑依解除術の魔法陣が描かれた両手を当て、夕翔を覆っていた葵にわずかな穴を空ける。
そして、その隙間からモモは夕翔の中へ入り込んだ。
この時点で花奈の体の5割が自由に動けるようになる。
その直後——。
——なに!?
葵は目の前に花奈が突然現れたので、対処しようと夕翔を動かそうとするが……。
——動かない!?
モモは夕翔を中から制御して動かないようにしていた。
その間に——。
慌てている葵に憑依解除術を送り込み、花奈は夕翔から切り離す。
そして、瞬く間に花奈は葵を切り刻んで消滅させた。
「ゆうちゃん!」
花奈は夕翔に抱きついてキスをした。
「花奈、助かった。ありがとう」
「もう大丈夫だから。ゆうちゃんはここでしばらく待ってて。モモと終わらせてくるから」
花奈は夕翔を結界で包み込んだ。
夕翔が葵から解放されたことで、完全に動けるようになっていた。
「気をつけて。あ、そうだ、クッキー」
夕翔はズボンのポケットに入っていたクッキーの袋を渡す。
1日入れたままにしていたので、すでにバラバラに砕けていた。
「ありがとう! ちょうど食べやすくなってる」
花奈は袋を開けて一気に口へ流し込む。
その間にモモが花奈の体内へ。
「いってくるね!」
「うん!」
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