俺のペットは異世界の姫

香月 咲乃

文字の大きさ
24 / 32

24 式神との戦い4

しおりを挟む

『——ご主人様!』

 伊月は自分に向かって駆けてくる式神——銀色の狼を目にした時、胸を高鳴らせた。

 ——あれは、嗣斗様……? いや、式神……まさか、姉上が?

 モモが花奈の体を使って召喚したその式神は、伊月が間違えるほど犬型の嗣斗とそっくりだった。

『ご主人様、お助けいたします!』

 狼型式神は伊月を覆う結界に体当たりした。

『あなたは嗣斗様なのですか?』

 伊月は嗣斗そっくりな式神へ、期待を込めて念話で話しかける。

『それは私の名前でしょうか?』

 その返答に伊月は肩を落とした。

 ——やはり、あのお札だけでは不十分……。

 伊月は嗣斗の一部を吸収させた札を使えば、式神に嗣斗の思念を定着させられるかもしれない、と考えていた。
 しかし、それは成功しなかった。
 その札は式神の主人を定め、式神の形態の参考になっただけで、嗣斗とは全く異なる存在だった。

 ——それでも、嗣斗様とそっくりな式神に会えたのは喜ばしいこと……。

 伊月は目を潤ませる。

『——そうです、あなたの名前は嗣斗。私をこの結界から出してください。中からではどうにもできませんし、妖術も効かないようです』
『この嗣斗、必ずやご主人様をここから開放いたします!』

 嗣斗は何度も体当たりする。

『くっ……椿、結界が……外部から何か圧が……』

 嗣斗が見えない葵は、顔を歪ませながら椿にそう言った。

「そうか、ならば先に始末する」

 椿は右手掌に火の玉を出現させた。

 その直前、伊月の結界が脆くなっていることに気づいた花奈は、モモに指示を出す。

『モモ! 剣で伊月の結界を破壊!』

 モモは花奈の左側から体を半分出し、左腰にぶら下がった短剣を鞘から出して伊月へ向けて放った。

 ミシッ……ミシミシッ……。

 伊月を覆っていた結界にヒビが入った瞬間、嗣斗はそこにもう一度体当たりをした。

 バリンッ!!!

「なに!?」

 突然大きな音を立てて結界が破裂したので、椿は一瞬手を止めてしまった。
 その隙に、小型犬の伊月は嗣斗の背中に乗って花奈から離れるように逃げる。

「逃すか!」

 椿は鬼の形相で伊月に向かって大量の火の玉を放った。
 伊月は急いで体を水で覆い、攻撃を全て無効化する。

「お前はここで滅びろー!!!」

 椿は火の玉を放ちながら伊月へ襲いかかってきた。

『嗣斗、人型になるから、水の衣に具現化して私を覆って!』
『畏まりました!』
 
 伊月が人型になったと同時に、嗣斗は青色の和服へ変化して伊月を覆った。
 伊月は椿の方へ振り返り、長い両袖を剣に変形させ、遅いかかる火の玉を撃ち落としていく。

「お前が私に敵うわけがないだろ!」

 椿はそう言い放ち、大量の火の玉で伊月の視界を奪う。
 そして、右手に握った長剣を勢いよく伊月へ振り下ろした。

 伊月は両手の剣を交わらせた状態で受け止め、跳ね返す。

「そうかしら?」

 伊月は余裕の笑みを浮かべた。





 伊月が椿たちから逃げた頃——。

 花奈は後ろに手を回した状態で立っていた。

『——モモ、私の手の魔法陣をモモの手に転写して』

 花奈は両手掌に魔法陣を出現させていた。

『はーい』

 花奈の背中から出てきたモモは、自分の両手を花奈の両手に押し当てた。

『両手をゆうちゃんの背中に当てて。ゆうちゃんの体内へ入る穴ができるはず』
『うん!』


 その頃、夕翔の体を覆っている葵は花奈を悠然と眺めていた。

 ——この体さえ死守していれば、あなたの体は我らのもの。

 契りを結んだ花奈と夕翔は、離れていても影響し合う状態であるため、それを葵に利用されてしまっていた。
 夕翔の体が乗っ取られている以上、自動的に花奈も葵に乗っ取られていることになるが……。
 現実は葵の思い通りに進んでいなかった。
 花奈がここにくる前に仕掛けた対策——椿と葵がいる場所を含めた広範囲に憑依解除術を発動していたからだ。
 範囲があまりに広いので効果は少しずつしか出ないが、夕翔の乗っ取りが不完全だったことはそれが原因だった。
 そのおかげでモモも消えずに済んでいた。

『ん?』

 葵は背中に違和感を感じた。
 一瞬の出来事だったので、葵は気のせいだと思ってしまうが……。

 その一瞬の間にモモは夕翔の背中に憑依解除術の魔法陣が描かれた両手を当て、夕翔を覆っていた葵にわずかな穴を空ける。
 そして、その隙間からモモは夕翔の中へ入り込んだ。

 この時点で花奈の体の5割が自由に動けるようになる。

 その直後——。

 ——なに!?

 葵は目の前に花奈が突然現れたので、対処しようと夕翔を動かそうとするが……。

 ——動かない!?

 モモは夕翔を中から制御して動かないようにしていた。

 その間に——。
 慌てている葵に憑依解除術を送り込み、花奈は夕翔から切り離す。
 そして、瞬く間に花奈は葵を切り刻んで消滅させた。

「ゆうちゃん!」

 花奈は夕翔に抱きついてキスをした。

「花奈、助かった。ありがとう」
「もう大丈夫だから。ゆうちゃんはここでしばらく待ってて。モモと終わらせてくるから」

 花奈は夕翔を結界で包み込んだ。
 夕翔が葵から解放されたことで、完全に動けるようになっていた。

「気をつけて。あ、そうだ、クッキー」

 夕翔はズボンのポケットに入っていたクッキーの袋を渡す。
 1日入れたままにしていたので、すでにバラバラに砕けていた。

「ありがとう! ちょうど食べやすくなってる」

 花奈は袋を開けて一気に口へ流し込む。
 その間にモモが花奈の体内へ。

「いってくるね!」
「うん!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...