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13 アレックス王子の提案
しおりを挟む「どういうこと?」
アイリスはイリアの発言に首を傾げた。
「私が……アレックスの婚約者になるはずだったの。でも、一ノ瀬君が好きだから解消して欲しいお願いして……。アレックス専属の魔術師になることを条件に婚約者から外してもらったの。ごめんなさい」
イリアは深く腰をおり、頭を下げた。
「そっか……まあ、結果的に俺のために動いてくれたんだから、謝る必要ないよ。俺が立川さんなら同じことしただろうし……」
「一ノ瀬君……」
イリアは涙をポロポロとこぼす。
アイリスは立ち上がり、イリアの手を握る。
「今は立川さんと両思いなのがわかって嬉しい、っていう感情が大きすぎて、気にならないんだよ。俺バカだから」
イリアはアイリスに抱きついた。
アイリスは優しく包み込む。
「一ノ瀬君はいつも優しすぎなんだよ……」
「そんなことないけどなー。でも、立川さんには特別優しくしてた可能性はあるよ」
「そうなの?」
「だって、好きな子だから。下心ありありだったし」
アイリスは悪戯な笑みを浮かべた。
——アイリスさんだけど……一ノ瀬君そのまんまだね……。そういうところに惹かれたんだよ。
イリアはアイリスに圭人を投影し、自然と笑みを浮かべる。
「ちなみに、この体は解決できる? せめて男になれたら嬉しいな……」
「現状では無理かな……でも、調べてみる」
「俺も手伝っていい?」
「もちろん。そうだ、アレックスに事情を話しに行かない? きっと理解してくれると思うの」
「うん」
アイリスは期待と不安を胸に、アレックスの部屋へ向かった。
***
アレックスの部屋。
アイリスとイリアは同じソファーに、その対面にアレックスが座っていた。
「——アイリス、1週間ぶりだね。元気だった?」
アレックスは爽やかでイケメンすぎる笑顔を振りまいた。
——相変わらずかっこいいな……。なんでイリアさんは俺なんだろう、って不安にさせるくらいのイケメンだなー。
「はい、元気でしたよ。アレックス様はどうでしたか?」
「元気じゃなかったよ。アイリスに会いたくて仕方なかったから」
アレックスは色っぽい表情を見せた。
アイリスは顔を赤くする。
——惚れてまうから……。
アレックスは意地悪な視線をアイリスに送る。
——こいつ、俺の反応を見て楽しんでるよな……。
「アレックス、アイリスさんをからかわないでね」
イリアは、からかうアレックスをたしなめた。
「仕方ないなー。それで? 重要な話ってなんだい?」
「前に話していた異世界の少年のことよ」
アレックスは黙って頷いた。
「ようやく見つけたの」
「へえ、会わせてほしいな」
「もちろん。紹介するわ——」
イリアは隣に座るアイリスの右肩に左手を乗せた。
「アイリスさんが、その少年よ。一ノ瀬圭人くんっていうの」
アレックスは目を見開いた。
「…………ハハハハッ。面白い冗談だね」
「冗談に聞こえた?」
イリアは真剣な眼差しでアレックスを見つめる。
「まあ、イリアは嘘が下手だからね……。だけど、状況は複雑すぎるよ」
「わかってるわ」
「アイリスには自覚はあったのかい?」
「ありました。1ヶ月前くらいにこの体になったのですが、その時から元の世界の記憶は残ってました。自分が男という自覚も当然あります……」
アレックスは舐め回すようにアイリスを観察する。
「ふっ……そういうわけか。だから君は他の女性と雰囲気が違ったんだね。女性っぽさは皆無だったし」
それを聞いたアイリスは苦笑した。
——レベッカ先生、ごめんなさい。俺は何1つ教えを吸収できていなかったようです……。
「アレックス、アイリスさんの婚約のことだけど——」
「——婚約は解消しないよ」
「え!?」
「なんで!?」
イリアとアイリスは驚きの声を上げた。
「2人には特別に教えてあげるよ。僕が結婚に興味がない理由を——」
アイリスは唾をごくりと飲み込んだ。
「——僕は女性じゃなくて、男性が好きだからだよ」
アイリスは目を見広げた。
「アイリスが男性だったら、願ったり叶ったりだよ」
アレックスはアイリスを愛おしそうに見つめた。
イリアはその様子に怪訝な表情を浮かべる。
「僕は女性と体を合わせることに抵抗があるけど、どうしても魔術の才能をもつ子孫を残したいんだよ。アイリスが男性だとわかった途端、僕はその抵抗がなくなった……不思議だね。イリアも魔術の才能をもつ子孫を欲しがってるよね?」
「その通りよ……」
イリアは悔しそうに返事をした。
「でも、ダメよアレックス。私は一ノ瀬君と結ばれたい、と宣言してあなたはそれを受け入れたでしょう? アイリスさんは私と結ばれないとダメなの! アレックスには渡さない!」
アイリスはイリアの発言で顔を真っ赤にする。
——俺が横にいるのに、そんな堂々と言うのか!? まあ、嬉しいけど……。なんか、俺を取り合う状況になってるよな……。
「アイリス……今は圭人と呼ぼうかな。圭人はイリアのこと、どう思ってるの? 正直に言っていいよ」
「はい……、俺は元の世界にいる時からイリアさんのことが好きでした。今でも……」
アイリスは真剣な表情で伝えた。
「なるほど……圭人の気持ちを考慮して譲歩してあげようかな。イリアを僕の第2夫人に迎えることにするよ」
「え!?」
「ちょっと!? アレックス!?」
「圭人はどうせこの体のままなんだろう?」
「今のところは……」
イリアは口ごもる。
「なら、都合がいい。イリアが第2夫人になったら、アイリスと恋仲になることを許してあげるよ。そして、僕は圭人と子供をつくる。もちろん、ハミルトン家の後援は手厚くするよ」
「そんな……」
イリア困惑した。
「圭人は愛するイリアの願いを叶えたいよね? 今はそのために魔術を練習している、とも言えるよね? 婚約を圭人から破棄したら、アルスター家はどうなると思う?」
——脅しか……。でも、俺がアレックスだったら……。きっと、俺の知らないアレックスの事情があるんだろうな。あー……アルスターの家族には情が湧いてるし……。……覚悟を決めるか!
「俺は……イリアさんのためならなんでもしたい、と思っています」
圭人の覚悟にアレックスは満足げに頷いた。
「一ノ瀬君!? 子孫のことはいいの! 他に手があるはずだから……」
「立川さん、今はその可能性がほとんどないでしょ? 俺が男の体になれる可能性もね……だったら、アレックス様の判断は妥当な気がする」
「一ノ瀬君……。元の世界に帰る、という選択肢もあるよ?」
「体はこのままなんだよね?」
「うん……一ノ瀬君の世界で調べたけど、一ノ瀬圭人という存在は消えたから……」
イリアは申し訳なさそうに答えた。
「居場所がない世界に帰っても苦労するだけだよ。この世界に立川さんがいるなら、俺はこの世界に残るよ」
「一ノ瀬君……」
「男らしいね。そいうところ、僕はとても好きだよ」
アレックスは目を細めた。
「じゃあ、2人とも僕の提案を承諾した、ということでいいね?」
「はい」
「……はい」
イリアはアイリスの返事を聞いて仕方なく承諾した。
*
そして1ヶ月後——。
アイリスが第1夫人、イリアが第2夫人としてアレックスと婚姻関係を結び、2人は王宮で暮らすことになった。
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