上 下
26 / 31

26 初夜

しおりを挟む


 アイリスはイリアが待つ寝室に来ていた。

「アイリス様、私は何をすればよろしいでしょうか?」

 アイリスを迎え入れたイリアは部屋着を着ていた。
 しかし、それはあまりにも予想外の格好だったので、アイリスはしばらく絶句する。

「アイリス様? いかがなされましたか?」

 イリアの部屋着は、裸にスケスケの袖なしワンピースだった。
 初めて見る格好だったので、アイリスは慌てる。

「えっと……。なぜそんな服を?」
「お気に召しませんでしたか? 前のイリアが持っていた衣装の中から選んだのですが。まだ披露していない衣装だったので、アイリス様は喜んでくれるかと」

 ——イリアは俺が要求したことを全部受け入れちゃうんじゃ……? それでいいのか……? どう対処すべきだ?

 アイリスが考え込んでいると——。

「前のイリアのパターンから推測すると、まずは唇を合わせるべきでしょうか? その後はベッドに横たわり、服を脱ぐことでアイリス様を喜ばせるようですが——」
「——ちょ!? 待って!!! あの……イリアはどうしたいの? イリアの気持ちを優先したいなー」
「私は、まだ感じたことのない快楽を知りたいです。どうやら、前のイリアは寝室でしかその快楽を得ていないようですので」

 ——マジか……。お言葉に甘えちゃっていいのか? 俺は押し倒してあんなことやこんなことをしたくなってきてるぞ……。自制できるか不安になってきた……。

「——アイリス様の体を触ってもよろしいですか?」
「いやいや、慌てないで……先に話し合おう」
「はい」
「こういうことは誰にでもしたいの?」
「今のところ、そういう感情を抱く方はアイリス様だけです。前の記憶がそうさせている、と考えても良いかもしれません」

 ——感情は引き継げないって言ってたけど……これはどう解釈すればいいんだ?

「俺は愛梨にしていたことを全て、イリアにしてもいいの?」
「構いません。むしろ、同じように扱っていただきたいのです」

 ——その表情……愛梨?

 イリアの顔には、『アイリスを愛おしそうに見つめる愛梨の表情』が見えたような気がした。
 その瞬間、アイリスの自制心は崩壊する。
 アイリスはイリアの唇に自分の唇を押し当てた。

 イリアはその後、口を少し開け、アイリスとのキスを濃密化させる。

 ——もう、止められない……。

 今まで溜め込んでいた寂しさを解放するかのように、アイリスはイリアの唇を貪った。

「あ……アイリス様……立っていられません……」
「わかった。ベッドへ行こう」

 アイリスは魔法でイリアを浮かせ、お姫様抱っこをしてベッドへ連れて行った。

 ベッドで横になった2人は、見つめ合う。
 イリアはまだ息が上がっていた。

「アイリス様、触っていいですか?」
「もちろん」

 イリアは何のためらいもなくアイリスの唇や胸を触る。
 敏感な部分ばかり撫でたり、揉んだり……。

「胸が柔らかいです。私と同じような感触なのに……アイリス様の胸を触る方が何倍も心地いいです」

 イリアはその後も揉み続ける。

「イリアの体、触っていい?」
「はい。私に快楽を教えてください」

 2人は触り合っているうちに息が荒くなる。

「はあ……この感覚が快楽ですか?」

 イリアは目を潤ませながら質問する。

「そうだよ。気持ちいいでしょ?」
「はい……今夜はずっと、アイリス様とこうしていたいです。できれば、今後も」
「いいよ」

 その日は、イリアが満足するまでアイリスは体を預けた。




 
 アレックスの執務室。

「アレックス入るよー」

 アイリスは部屋の扉をノックした後、アレックスの部屋に入ってきた。

「やあ、愛しのアイリス。会いに来てくれて嬉しいよ」
「ごきげんよう、アイリス様」

 アレックスはデスクの椅子に座り、イリアはデスクの前で立っていた。

「イリアもいたんだね」
「はい。昨夜の詳細をアレックス様にお伝えしておりました」
「え!? アレックス!?」

 アイリスは慌ててアレックスの方を見る。
 アレックスはその様子に吹き出す。

「僕は事細かく話すよう強要していないよ。『昨夜はどうだった?』と聞いただけ。よくある軽い挨拶だろう?」
「まあ、そうだね……。でもイリアは詳細って……。イリア……アレックスに何を話したのかな~?」

 アイリスは冷や汗をかきながら聞いてみた。

「最初から最後まで行ったことを全てお伝えしました」
「マジで……」

 アイリスは頭をガクッと下げた。

「ずいぶん楽しんだようだね。今日は僕の番だよ、アイリス」

 少し嫉妬まじりな言い方だったので、アイリスは苦笑する。

「お好きなだけどうぞ、アレックス」
「楽しみだね」

 アレックスは嬉しそうに微笑んだ。

「私は、今日1人で寝室で過ごすのかと思うとなぜか胸が苦しいです」
「イリア、それは寂しさと嫉妬の感情が入り混じっているのかもしれないね」
「なるほど……アレックス様、勉強になります。では、私は報告が終わりましたので、これで失礼いたします。ミラにも同じことを報告に行きますので」

 アイリスは顔を真っ青にした。

「——待って、イリア! ミラさんに詳細はあまり言って欲しくないんだけど……」
「なぜです? アレックス様、アイリス様、ミラには隠し事はしないよう言われていますが?」

 イリアは首を傾げた。

「はははっ。イリアの正直なところがいいね。前のイリアは隠し事ばかりだったから」
「アレックス、笑っている場合? 愛する妻の秘密が第三者に伝えられるんだよ?」
「ミラなら気にしないよ。研究材料として必要な知識だからね。ミラのためだよ?」
「はあ……俺だけ損してない? もう、いいや。どうせ隠そうとしてもしつこくミラさんは聞いてきそうだから」
「では、報告しに行きますね」
「どうぞ……」

 アイリスは沈痛な面持ちでイリアを見送った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,002pt お気に入り:9,840

何でも屋始めました!常にお金がないのでどんなご依頼でも引き受けます!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:18,603pt お気に入り:429

元構造解析研究者の異世界冒険譚

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:11,292

ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,546pt お気に入り:22,205

THE NEW GATE

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:15,439pt お気に入り:20,092

目覚めた公爵令嬢は、悪事を許しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:43,914pt お気に入り:3,318

異世界転生騒動記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,421pt お気に入り:15,863

隠れオタクの俺が転生したら好きなゲームの美少女主人公になっていた件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

処理中です...