乙女ゲームの女主人公になった男の恋愛事情

香月 咲乃

文字の大きさ
25 / 31

25 イリアの成長

しおりを挟む

 子供部屋。

 アイリスは使用人を退出させた後、イリアをこの部屋に連れてきていた。

「イリア、紹介するよ。こっちが娘のルーナ、こっちが息子のジョシュアだよ」
「はい」

 一言返事をしただけだったが、イリアはベッドで眠る2人に見入っていた。

「触ってみて」
「よろしいのですか?」
「もちろん。前のイリアも抱いたりしてたよ」
「その記憶は確かにございます……」

 イリアはおそるおそる人差し指でルーナの頬に触った。

「柔らかいでしょ?」
「柔らかい……」

 イリアはその触感が気に入ったのか、2人の頬を無表情で交互に触る。
 アイリスはその様子がおかしくて笑いをこらえる。

「2人の手を指で触ってみて」
「はい」

 イリアはルーナの左手とジョシュアの右手に自分の左右の人差し指を当ててみた。
 しばらくすると……。
 2人はイリアの人差し指を軽く握る。
 イリアは軽く体をビクつかせ、アイリスを見る。

「驚いた?」
「驚き……これは驚き……」

 イリアがブツブツと呟いた。

「そうそれが驚きだよ」

 イリアは頷いた。

「この双子を見ていて何か思うことはある?」
「過去のイリアの記憶から推測すると、『かわいい』が最適なのでしょうか?」
「そうだね。そのうち、『愛おしい』とか、『もっと触りたい』とか、『抱いてみたい』とか思うようになるよ」
「勉強になります」

 イリアはその後、アイリスが声をかけるまでずっと2人を見つめていた。


***


 1ヶ月後。
 アレックス執務室。

 アイリス、アレックス、イリアは夕食後、3人でお茶を飲みながら話をしていた。
 アイリスとアレックスは同じソファーに、イリアはテーブルを挟んだ向かい側のソファーに座っていた。

「——イリアったら、暇さえあればルーナとジョシュアの部屋にずっといるんだよ」

 アイリスは笑いながらアレックスに言った。

「あの2人は天使だからね。気持ちはわかるよ。僕ももっと会いたいくらいだから」
「はい、ルーナとジョシュアは天使です」

 イリアはアレックスの発言に何度も頷く。

「イリアはまだ表情が乏しいけど、感情はしっかり理解できるようになってきているね。ミラが予定よりも早い、と言っていたよ」

 イリアは毎日アイリスと行動を共にしていたことで、食の好みや癖など、いろんな個性が育っていた。
 今のところ前のイリアと共通点は少ないが、アイリスはイリアのことが可愛くて仕方がなかった。

「今日は、そのことについてミラと話をしたのです。どうやら、『気持ちいい』という感情はまだ得られていないそうです」
「気持ちいい……?」

 アイリスは視線を下げて考え始める。

「これはどうかな……」

 何かを思いついたアイリスは立ち上がり、イリアの後ろへ行く。

「どう?」

 アイリスはイリアの肩を揉んでいるが、イリアはずっと無表情のままだ。

「特になんの感情も湧きません」
「そっかー、肩はこってないか……」
「圭人、僕もいいことを思いついたよ」

 アレックスはニコリと2人に笑いかけた。

「アレックス、教えて」
「圭人は今日からまた、1日置きに寝室を行き来したらどうかな?」
「え!? でも……」

 アイリスは不安な表情をイリアに向ける。

「とても素晴らしいご提案です、アレックス様。私はずっと考えていました。アイリス様はどうして私と一緒に寝てくれないのかと。前のイリアとは一緒に寝ていたにもかかわらず」
「え!? 嫌じゃないの!?」

 アイリスはイリアの発言に驚き、声を張り上げた。

「そういう感情はありません」
「イリアは俺と一緒に寝たいの?」
「はい。私はアイリス様と一緒に寝たいです。アイリス様との営みも問題ありません——」
「——あっ! そ、それ以上は言わなくていいよ。イリアの言いたいことはよくわかった。じゃあ、試しに一緒に寝てみよう」
「はい、よろしくお願いいたします」
「うん……」

 アイリスは苦笑しながら返事をした。

 その後、イリアを先に寝室へ行かせ、アイリスはアレックスと2人きりで話をしていた。

「——アレックス、なんで急にあんなことを提案したの?」
「ダメだったかい?」
「ちょっと急展開過ぎというか……」
「そうかな? 僕はミラから聞いていたんだよ。イリアが恋愛に興味を持っている、ということをね」
「そうなの?」
「うん。イリアの記憶の中で圭人への感情がとても大きかったようだよ。それがどんな感情なのか、今のイリアはとても興味を示していたんだ。ミラは恥ずかしかったみたいで、圭人には言えなかったんだよ」

 アイリスは改めて前のイリアに愛されていたことを実感し、胸が熱くなる。

「そっか……。でも、急ぎすぎじゃない? 俺を拒むんじゃないかって不安なんだよ」
「大丈夫、イリアは圭人を拒まないよ。前とは環境が違うけど、2人の間に愛情が芽生えると僕は自信を持って言える。僕たちもありえないはずだったのに、こういう関係になっただろう?」
「そうだね」

 アイリスは照れながら頷いた。

「恋愛は何が起こるかわからないから楽しいんだよ。ちなみにここだけの話だけど……ミラはマシューのことを意識し始めているみたいだよ。まだ自覚はしてないけど」
「本当に!?」
「うん」

 アレックスは嬉しそうに頷いた。

「そっかー。なら、あの2人は時間の問題だね」
「そうだね。きっとミラも恋愛の素晴らしさを知って、僕たちみたいに愛し合うようになるよ」
「ミラさんがどう変わるか楽しみだな~」

 アイリスがクスクス笑っていると、アレックスはアイリスを抱き寄せた。

「本音は圭人を独り占めにしたいけど……。僕は寛大だから」

 アレックスはそう言うと、アイリスにキスをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...