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25 イリアの成長
しおりを挟む子供部屋。
アイリスは使用人を退出させた後、イリアをこの部屋に連れてきていた。
「イリア、紹介するよ。こっちが娘のルーナ、こっちが息子のジョシュアだよ」
「はい」
一言返事をしただけだったが、イリアはベッドで眠る2人に見入っていた。
「触ってみて」
「よろしいのですか?」
「もちろん。前のイリアも抱いたりしてたよ」
「その記憶は確かにございます……」
イリアはおそるおそる人差し指でルーナの頬に触った。
「柔らかいでしょ?」
「柔らかい……」
イリアはその触感が気に入ったのか、2人の頬を無表情で交互に触る。
アイリスはその様子がおかしくて笑いをこらえる。
「2人の手を指で触ってみて」
「はい」
イリアはルーナの左手とジョシュアの右手に自分の左右の人差し指を当ててみた。
しばらくすると……。
2人はイリアの人差し指を軽く握る。
イリアは軽く体をビクつかせ、アイリスを見る。
「驚いた?」
「驚き……これは驚き……」
イリアがブツブツと呟いた。
「そうそれが驚きだよ」
イリアは頷いた。
「この双子を見ていて何か思うことはある?」
「過去のイリアの記憶から推測すると、『かわいい』が最適なのでしょうか?」
「そうだね。そのうち、『愛おしい』とか、『もっと触りたい』とか、『抱いてみたい』とか思うようになるよ」
「勉強になります」
イリアはその後、アイリスが声をかけるまでずっと2人を見つめていた。
***
1ヶ月後。
アレックス執務室。
アイリス、アレックス、イリアは夕食後、3人でお茶を飲みながら話をしていた。
アイリスとアレックスは同じソファーに、イリアはテーブルを挟んだ向かい側のソファーに座っていた。
「——イリアったら、暇さえあればルーナとジョシュアの部屋にずっといるんだよ」
アイリスは笑いながらアレックスに言った。
「あの2人は天使だからね。気持ちはわかるよ。僕ももっと会いたいくらいだから」
「はい、ルーナとジョシュアは天使です」
イリアはアレックスの発言に何度も頷く。
「イリアはまだ表情が乏しいけど、感情はしっかり理解できるようになってきているね。ミラが予定よりも早い、と言っていたよ」
イリアは毎日アイリスと行動を共にしていたことで、食の好みや癖など、いろんな個性が育っていた。
今のところ前のイリアと共通点は少ないが、アイリスはイリアのことが可愛くて仕方がなかった。
「今日は、そのことについてミラと話をしたのです。どうやら、『気持ちいい』という感情はまだ得られていないそうです」
「気持ちいい……?」
アイリスは視線を下げて考え始める。
「これはどうかな……」
何かを思いついたアイリスは立ち上がり、イリアの後ろへ行く。
「どう?」
アイリスはイリアの肩を揉んでいるが、イリアはずっと無表情のままだ。
「特になんの感情も湧きません」
「そっかー、肩はこってないか……」
「圭人、僕もいいことを思いついたよ」
アレックスはニコリと2人に笑いかけた。
「アレックス、教えて」
「圭人は今日からまた、1日置きに寝室を行き来したらどうかな?」
「え!? でも……」
アイリスは不安な表情をイリアに向ける。
「とても素晴らしいご提案です、アレックス様。私はずっと考えていました。アイリス様はどうして私と一緒に寝てくれないのかと。前のイリアとは一緒に寝ていたにもかかわらず」
「え!? 嫌じゃないの!?」
アイリスはイリアの発言に驚き、声を張り上げた。
「そういう感情はありません」
「イリアは俺と一緒に寝たいの?」
「はい。私はアイリス様と一緒に寝たいです。アイリス様との営みも問題ありません——」
「——あっ! そ、それ以上は言わなくていいよ。イリアの言いたいことはよくわかった。じゃあ、試しに一緒に寝てみよう」
「はい、よろしくお願いいたします」
「うん……」
アイリスは苦笑しながら返事をした。
その後、イリアを先に寝室へ行かせ、アイリスはアレックスと2人きりで話をしていた。
「——アレックス、なんで急にあんなことを提案したの?」
「ダメだったかい?」
「ちょっと急展開過ぎというか……」
「そうかな? 僕はミラから聞いていたんだよ。イリアが恋愛に興味を持っている、ということをね」
「そうなの?」
「うん。イリアの記憶の中で圭人への感情がとても大きかったようだよ。それがどんな感情なのか、今のイリアはとても興味を示していたんだ。ミラは恥ずかしかったみたいで、圭人には言えなかったんだよ」
アイリスは改めて前のイリアに愛されていたことを実感し、胸が熱くなる。
「そっか……。でも、急ぎすぎじゃない? 俺を拒むんじゃないかって不安なんだよ」
「大丈夫、イリアは圭人を拒まないよ。前とは環境が違うけど、2人の間に愛情が芽生えると僕は自信を持って言える。僕たちもありえないはずだったのに、こういう関係になっただろう?」
「そうだね」
アイリスは照れながら頷いた。
「恋愛は何が起こるかわからないから楽しいんだよ。ちなみにここだけの話だけど……ミラはマシューのことを意識し始めているみたいだよ。まだ自覚はしてないけど」
「本当に!?」
「うん」
アレックスは嬉しそうに頷いた。
「そっかー。なら、あの2人は時間の問題だね」
「そうだね。きっとミラも恋愛の素晴らしさを知って、僕たちみたいに愛し合うようになるよ」
「ミラさんがどう変わるか楽しみだな~」
アイリスがクスクス笑っていると、アレックスはアイリスを抱き寄せた。
「本音は圭人を独り占めにしたいけど……。僕は寛大だから」
アレックスはそう言うと、アイリスにキスをした。
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