悪魔がくれた体じゃ恋愛は難しすぎる!

香月 咲乃

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 エバは端末機でリリスの過去を読み進んでいる途中、ある一文を見て固まった。

『——エバ・シャーリーが死んだ原因はリリス・ジョーゼルカ』

 エバの脳裏に、死んだ日のことが鮮明に蘇ってきてしまった——。


***


 歴3020年6月12日。

 この日はエバとアダムが恋人になってちょうど4年になる日で、2人はその日に結婚しようと約束していた。 
 しかし、非情にもその日はアダムとリリスが結婚する日へと変わる。
 リリスが親の権力を利用し、アダムと無理やり結婚することになってしまった。


 エバの実家。

 エバは喪失感と憎悪で精神を病み、数日前から帰省していた。

「エバ、ご飯よ……。少しでいいから食べられないかしら?」

 エバの母親は部屋まで朝食を持ってきてくれたが、エバは無言のままベッドに横たわっていた。

「ここに置いておくわね……」

 母親はそのまま静かに部屋を出て行った。

 ——ママごめん、もう生きる意味を失ったの。このまま食べずに死ねるのなら、なんて楽なんだろう。

 しばらくすると、遠くから鐘の音が聞こえた。

 ——今は……何時?

 エバは壁にかけられた時計をおもむろに見る。
 針は11時を指していた。

 ——12時になったら……、アダムがリリスのものになってしまう。

「だめ……」

 エバは家を飛び出し、裸足のまま結婚式会場へ向かった。



 エバが裸足で式場近くをうろうろ彷徨っていると、白馬に引かれた白い馬車が視界に入った。

 ——きっと、あの馬車にアダムが……。

「——アダム! 待って!」

 エバは向かってくる馬車の前に飛び出し、叫んだ。

 エバに驚いた白馬は暴れ出し、御者は制御を失ってしまう。

 周りにいた人の悲鳴が、衝撃音とともに辺りに響き渡った……。

 エバは馬車に跳ね飛ばされ、血だらけで横たわる。

「——エバ! エバ! どうしてっ!」

 白いタキシードを着たアダムは、急いで馬車から降りて駆け寄り、エバを抱き上げ、道の脇へ移動させた。
 エバの白い寝衣は、血で真っ赤に染まっていた。

「エバ、どうして……」

 ——アダムの声が聞けてうれしい。でも、もうアダムの顔が見えない。

「やっ……と、会えた……ね」 
「誰か! 医者を!」

 アダムは泣き叫びながら、エバの出血場所を探す。

「アダムは……なにも……わる……くな……い」

 エバは残っている力を振り絞ってアダムに話しかけた後、血を吐き出した。

「エバ、喋っちゃダメだ。すぐに医者が来てくれるから。もう少し辛抱して……」

 アダムは目に見える出血を魔法で止めようと必死だ。
 周りには魔法を使える者がいないため、止血用の布などを渡すことくらいしかできない。

「——ちょっと、なんなの!!! 私たちの結婚式の邪魔をするなんて!!! アダム!? せっかくの白いタキシードが汚い女で汚れているじゃない!? そんな女は早く捨ててしまいなさい!」

 2人を邪魔する人物——ウエディングドレスを着たリリスは、馬車から降りてくるなりそう言い放った。

「エバ、エバ……もう少し頑張って。愛してる……」

 アダムはリリスの言葉を無視し、エバに声をかけ続けていた。

「アダム! 何をしているの! 早く着替えに戻るわよ!」

 リリスはエバが命の危機にあることを気にもとめていなかった。

「黙れ! 誰か! 早く医者を呼んでくれ!」

 アダムはリリスに憤慨し、再び周りに助けを求めた。

「汚いわ、血だらけじゃない……。アダム、もう手遅れよ! みなさん、医者は必要なくってよ。執事、アダムを早く馬車に乗せて! 結婚式に遅れるわ!」

 執事たちは耳を疑った。
 誰が見ても、それができるような状況ではない。
 アダムは魔法でエバの出血を抑えており、それを妨害すればエバは死んでしまうことは明白だ。

「早く! 医者はまだなのか!」

 アダムは必死に叫んでいた。

「執事! 早くなさい! 早くしないと、あんた達の家族を痛い目に合わすわよ! ジョーゼルカ家に逆らう気?」

 執事たちの顔は真っ青になった。
 逆らえない立場を呪いながら、執事は苦渋の決断をする……。

「ア、アダム様……。誠に心苦しいのですが……」

 2人の執事はアダムの腕を掴み、エバをゆっくり離してその場に寝かせる。

「なにをするんだ!」

 執事たちは暴れるアダムを馬車へ引きずっていった。

「離してくれ! エバー! エバー!!!」


***


 目に涙を浮かべたエバは我に返り、再び端末に目を通す。
 まだ頭の中にアダムの叫び声がこだましていた。

『——アダム・スコットは魔法でエバ・シャーリーの応急処置をしようと必死だったが、リリス・ジョーゼルカとその執事によって妨害された。リリス・ジョーゼルカが妨害しなければ、エバ・シャーリーは助かったと言われている。当時の執事たちはその後、全員がジョーゼルカ家を辞め、エバ・シャーリーの両親へ謝罪に行った。結婚後、すぐに2人が別居状態になったのは、この事件が原因だとされている——』

 ——私のせいで……。パパ、ママ、アダム、執事さん、本当にごめんなさい……。全部私が悪いんだ。

 エバは自分の軽率な行動を悔やんだ。


 その後、エバはアダムの情報を調べ、衝撃的な内容を見つける。

『——2年前、アダム・スコットは突然、エバ・シャーリーの記憶を完全に失ってしまった。そんな状態であってもリリス・ジョーゼルカのことは憎み続け、女性との関わりを避けるようになった』
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