【完結・R18】結婚の約束なんてどうかなかったことにして

堀川ぼり

文字の大きさ
15 / 30
初恋の人

3-2.明日の約束※

しおりを挟む
 どうしてこんなにも駆け足で話が進んでいるのか分からない。婚約パーティーのドレスを仕立てるためにやって来た仕立て屋を前に、リーシャはぼんやりとそんなことを思った。
 あの日、ダニスが部屋を出てから数分後。着替えを持ってきてくれた使用人にまずは入浴をと勧められ、リーシャはバスルームに連行された。言われるがままに風呂に入れられ着替えを終えると、その時点で随分と時間が経ってしまったらしい。
 食堂に行くとすでに国王陛下と話を終えたダニスに迎えられ、そこで告げられたのが「一ヶ月後に婚約パーティーを開くことになったから」の一言である。
 招待する人の都合や準備を考えると、一ヶ月後というのはかなりギリギリのスケジュールだ。しかし、その話をした翌日に仕立て屋を呼びつける辺り、婚約パーティーの件は冗談などではないのだろう。
 ここまでの出来事を思い返しながら、はぁ、とリーシャは息を落とした。

「ふふ、ダニス殿下の選んだお色、リーシャ様にとてもお似合いです。完成次第すぐにお届けにあがりますので、楽しみにしていてくださいね」

 眼鏡をかけた背の高い女性が、デザイン画とサイズ表をまとめながらそう口にする。この国で一番人気の仕立て屋である彼女――アンネは、ただでさえ忙しいのに、何よりも優先してリーシャのドレスを仕立ててくれるらしいのだ。
 ゆとりのあるスケジュールであればこんなに慌ただしく準備を進める必要なんてないのに、急に決まった婚約パーティーのために忙しくさせてしまうことを申し訳なく思ってしまう。

「本当にありがとうございます。急な依頼なのに、こんなに色々と協力してくださって」
「あらあら、私から立候補したんですよ? まさかあのダニス殿下の恋が実ってご結婚だなんて、そんなの是非その場を飾るのに一役買いたいですもの」

 うふふと笑って言うアンネは、お世辞などではなく本心からそう言ってくれているのだろう。そのことにリーシャは少しだけ安心するが、同時に気恥ずかしくもなった。
 王家お抱えの仕立て屋に所属している彼女は、ダニスのことを昔から知っているらしい。
 ダニスとの婚約が決まってから、子供時代のダニスを知る人に、リーシャは今のようなことを何度も言われている。
 このまま誰とも結婚をしないと思っていた、とか。あまりにも進展しないから好きな相手がいるなんて作り話だと思っていた、とか。そういう類の話だ。
 昔からの顔見知りである人達の中では、幼い頃からダニスは好きな女の子を想って待っているというのが、周知のことであったらしい。
 アンネも幼い頃のダニスを知るうちの一人なのだ。あの時の女の子とまさか本当に結ばれるなんて……と、そんなことを口にしていた。

「さてさて、それでは私は店に戻りますので、ダニス殿下にもどうぞよろしくお伝えください。ご依頼のドレス、来週には仕上げますので、またその時に」

 抱えていた荷物を大きなトランクに詰め終えたアンネが、長いエプロンドレスを揺らしてリーシャに一礼する。
 ありがとうと何度目かになるお礼を伝え、急いで帰っていくアンネの背中をリーシャは部屋から見送った。


*****


 婚約の話をしてからニ週間。
 これまでおこなってきた政務に加え、婚約パーティーの準備も進めなくてはいけないダニスは今まで以上に忙しい。
 そんな中でも、夜はこれまでと同じように時間を空けてくれている。二人でゆっくりと過ごして話ができるこの時間が、リーシャは一日で一番好きだった。

「……少し眠そうだね。今日はしない方がいい?」
「あ、その、今日は少しやることが多くて……でも、ダニス様ほど忙しくはないし元気なので、もう少しだけこうやっていたいです」

 シャツの裾を掴みながら伝えると、リーシャの額にダニスが優しく口付ける。
 最近はソファではなく、こうやって寝室のベッドの上で過ごす時間の方が多くなった。
 婚約しているのだから、リーシャが部屋に戻る必要はないのだ。今ではダニスの部屋で共に就寝することが当たり前になったし、朝早くから動く予定がなければ、同じ時間に起きて一緒に食事をする。
 眠りにつく前に求められたら断る理由もなく、もう何度も体を重ねた。
 ――今夜も、きっとそうなるのだろう。

「んっ……あ」
「それじゃあ少しだけ触ろうか。リーシャが気持ち良くなったらそのまま寝よう」
「あっ、あ、そこ、指でおすの……っや、んん」

 耳元に唇が寄せられ、直接触れるダニスの息にゾクゾクと肌が粟立つ。
 浅いところをダニスの指でナカから擦られ、同時に陰核を虐められるとそれだけで簡単に声が出てしまった。
 ちゅっちゅと耳元で立てられるリップ音と、自分の脚の間から聞こえる粘着質な水の音。リーシャが弱いところなんてとっくにダニスに知られていて、快いところだけを触られると気持ち良くて腰が浮く。
 自分からも擦り付けるように動かしてしまい、意地悪く陰核を引っ掻かれたところでリーシャは一度達してしまった。

「ん、んっ……!」
「あー……可愛い。指で触るの、気持ち良かった?」
「あ、ダニス様……もう……」
「リーシャがイッたから、今日はもうおしまい。今夜は早めに寝て、また明日気持ち良いことしよう?」

 行為を始めるのもやめるのも、ダニスが決めることなのだ。
 欲しくて欲しくて堪らないけれど、こういう言い方をされたら明日まで挿れてくれないことを、リーシャはもう知っている。 
 しかしそれは、裏を返せば明日は絶対に挿れてくれるという意味でもあった。

「……っはい」

 体に残る熱を持て余して、明日ダニスに触れてもらうことを待ち望んで目を閉じる。
 我慢を強いられる夜はダニスのことで頭がいっぱいになって、おやすみのキスをされるだけでもいつも以上に気持ちが良かった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

処理中です...