【完結・R18】結婚の約束なんてどうかなかったことにして

堀川ぼり

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初恋の人

3-9.虚しいだけの行為だ※

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 どれだけ必死で叫んでも、ダニスの寝室まで助けにきてくれる人なんて誰もいない。
 服を脱がされベッドに押さえつけられた状態で、ここから逃げることもできそうになかった。

「やだ、やっ、待って、怖いです、っひ」
「ああ、怖いよね。でもごめん。うまく笑ってあげられないや」
「うぁっ……、や、指やだ……いれないで、やっ……ひぅ」

 どれだけ押して抵抗しても、ダニスのすることを止めることができない。ただ腕を掴んで悲鳴を漏らすことしかできず、リーシャの膣内に長い指が根本まで捩じ込まれた。

「あっ、あ……ん」

 リーシャの瞳にまたじわりと涙の膜が張る。
 いつもと同じ人に触られているはずなのに、どうしてこんなにも違うように感じるのだろうか。
 相手はダニスなのに、知らない人に襲われているみたいだ。まだ指の一本しか入っていないのにいつもよりも苦しくて、少しだけ痛みも伴う。

「や、いやです、くるしっ……」
「うん。痛くないように気を付けてあげたいけど、ごめんね。余裕ない。逃げないで」
「あっ、おねがいします、待って……やっ、助けて……!」
「誰に助けを求めてるの? ここには俺しかいないし、もう無理なのに」

 リーシャを見下ろす目が怖い。
 美人の真顔は怒っているように見えるというけれど、実際にダニスは怒っているのだろう。

(私は、一体どこから間違えてしまったんだろう)

 勇気を出して真実を伝えたつもりなのだ。好きな人を騙して側にいるのは嫌で、自分の恋心は押し込めて話をした。
 説明の仕方やタイミングが違ったら、もう少し怒らせずに済んだのだろうか。そんなことも分からない。
 ダニスがずっと想っていた人と幸せになれるならその方がいいと、そう思っただけなのだ。こんな顔をさせたいなんて思っていない。

「あっ、あぁ……っひ、ぅ、んあっ」
 
 ナカに埋まる指がまた一本増やされ、膣内を広げるように内壁を押す。
 陰核も同時に弄られ、その刺激に思わずリーシャの腰が跳ねた。

「だめ、っだめ、そこ一緒にするのだめです、っやぁ、あっ」
「ちゃんと気持ち良くなれるように触るから。力抜いて」
「ぅあ……っは、んや、やだ、あっ、や、もっ……ぅあ、あぁっ、んっ……イク……」

 びくりと身体が痙攣し、腰が浮くのと同時に頭の中が真っ白になる。
 普段から慣らされた身体は簡単に快楽を拾ってしまい、こんなにも乱暴な前戯で達してしまうのかと思うと、情けなくてまたぼろりと涙が溢れた。

「あ、うっ……ふっ」
「気持ち良くてイッただけだよ? なんで泣くの」
「だ、って……私こんな、指だけでいいみたいで、なんで……イッちゃうの、へんで……」
「変じゃない。俺に触られて気持ち良くなって、俺にだけ縋ってくれるの気分いいよ」

 言いながら体勢が変わり、開かされた脚の間にダニスの身体が入り込む。
 硬くなった陰茎で入り口を撫でられ、逃げようとした瞬間に腰を掴まれ固定された。
 このまま簡単に奥まで挿れられてしまう。だってもう、何回も同じことをダニスとしてきたのだ。

「あ、待って……ダニス様、やっ」
「待たないよ。こんなに濡れてるんだからもう入るでしょ」

 こんな時までダニスはずっと無表情で、ギラギラとした瞳に映る欲の色だけがよく知ったものと同じだった。
 いつものように柔らかく笑ってくれる顔が見たいのに、これから先、もう一生あんな表情は向けてくれないのかもしれない。

「あっ、も、だめです、ほんと……私じゃないんです、違う。違うの、約束してない、っだから……」
「知ってるよ。リーシャが約束した相手は俺じゃない」
「あ、や……」
「でもそんな子供の頃の話を、いまさら持ち出されても困るんだよね」
「っは……あ、ああぁっ」

 無理やり脚を開かされ、ダニスの性器がそこに押し付けられる。泥濘に沈んでいく熱が硬くて、ぐぷりと音を立てながら挿入されたソレが、奥まで一気にリーシャの膣内を進んでいった。
 自分の口から勝手に出る悲鳴が耳障りだ。
 指とは比べ物にならない質量に、達したばかりのリーシャの身体は過剰に反応してしまう。

「あー……すごい声。挿れただけでイッたの?」
「っや、ぁ……動くのだめ、だめですっ、んぁっ、あぁっ」
「ほら、俺とこんなにいやらしいことしてるんだよ? リーシャは俺と婚約してるんだから、子供の頃に他の奴と交わした約束なんて無効でしょ?」
「あっ、や、ああっ、ひぅっ、ンッ」

 ダニスが動く度に腰が跳ねる。
 酷いことをされているはずなのに気持ち良くて、もっと欲しいとねだるようにお腹の奥が疼いた。油断したらすぐに絶頂を迎えてしまい、何度イッてるのか自分でももう分からない。

「顔、こっちに向けて」
「あ……や、んっ……はぁ」
「舌、だして。いつもみたいに」

 動けなくて、まともに息もさせてもらえない。絡む舌がいやらしい音を立て、鼓膜からも犯されている気分になる。

「魔力、随分と減ってるね。使いすぎた?」
「うっ……おねが、それ、もうやっ、あっ……」
「こんなになってでも、俺と結婚しなくていい証拠探しに行きたかったんだ?」
「ちぁっ、うっ……あっ、や、奥だめ、やっ、イク、いくぅ……ンンッ」
「ああ、でもちょうどいいか。魔法で防御とか転移されたら少し厄介だったけど、これじゃあもう何もできなさそう」
「やっ、ああぁっ……!」

 いつまでも続けられるストロークに意識が飛びそうになる。
 全然優しくない行為は暴力的に気持ち良くて、いつもとは違う人に抱かれているみたいだった。
 こんな触り方は知らないし、行為についていくのに必死で頭が回らない。なにも分からなくて、怖くて、頭の中がぐちゃぐちゃで気持ち悪い。

「ひぐ、っあ、あぁ、はげし……っい、やだ、壊れちゃう、っひぅ、ん」
「壊れるようなことしないよ。大丈夫、俺のこと好きでいて」
「は……やっ、あ、んんっ……」

 好きでいても意味なんかないのだから、これ以上虚しい気持ちを抱えていたくない。
 もっと簡単に消える気持ちならよかったのに、どうしてこんなに好きになってから、ダニスの初恋の相手が自分じゃないと気付いてしまったんだろう。
 ダニスがプロポーズをしたという女の子になりたい。ずっと気付かないままで、ダニスに想われているって勘違いを続けてられたらよかったのに。

「うっ……こんな、だ、大丈夫じゃない、です……」
「ねえ、お願いだからもう大人しく聞いて」
「んっ……あ、やだ、だってもう、こんなの全然……同じ気持ちじゃないと、ぜんぶ虚しいだけで、っぐ……!」

 最後まで言い切る前に口を塞がれ、冷たい目で見下ろされる。
 最奥を潰すように深くまで押し付けられ、細められたダニスの瞳に影が落ちた。

「ああ、うん。勝手に言ってれば? 俺は全然、虚しいなんて思ってない」
「ひぐっ……!」

 腰を掴まれ身体を固定される。シーツに手をついて逃げようと踠くが、ダニスとの距離が開くことはなかった。
 掴まれた場所が痛い。今まではちゃんと手加減されていたのだと、この状態になってようやく気付く。

「やだ、なに、っひあ、あっ、やだ……やっ、離して」
「駄目。逃げないで」
「っは、っんん……! え、あ……? や、こわっ、あ、こわい、です、なに……」
「ああ、これ? 奥でそのまま出したいなって思って」

 恐怖でひゅっと喉がなる。
 伝わる熱がいつもと違って、恐怖で呼吸が浅くなった。信じられないくらい深いところまで、ダニスの熱で埋められている。

「あっ、待って……やだ、待ってください、っひぅ」
「すぐ済むから我慢して、ね? 大丈夫だから」
「ちがっ、ねぇ……! だめ、だめです、ちがうの、お願い、っあ、わたしちがう、っんぁ、だめ、やめて」
「違わないよ。諦めて。今さら無理だから」
「あっ、あ、やっ……だめ、またくる、やっ、出すのだめ、ちがうの……っや、イッちゃ、ンンンッ……!」

 熱っぽく、低い吐息が吐かれるのを耳元で感じた。もうすぐだと思った時にはもう遅く、その瞬間に熱いものがお腹の中で広がっていく。

「あ、出て……でてるの、ナカ……」
「はっ、あー……こら。逃げないで。まだ終わってないよ」

 塗り込むように動かれると、ぐちゅ、とか、ぐぽっとかいういやらしい音が下腹部で鳴る。
 入り切らなかった体液が溢れ、お尻の方までゆっくりと垂れていった。

「も、やだ……ごめんなさい。ぅあ、やだ、許して」
「許すとか許さないとかじゃないんだ。絶対に俺から逃げられないようにしてる。ねぇ、もう大人しく諦めて」

 諦めて、どうでもよくなって、それこそただ子供を作るためにこんなことをしているんだろうか。
 未だになにが起こっているのかよく分からない。
 こんなことに、一体なんの意味があるんだろう。

「……婚約、辞めたいなんてもう言わない?」
「な、なんで…….? も、違うって……」
「なに、まだ足りなかった? リーシャが分かってくれるまで同じことするよ」

 繋がったままのそこをゆるゆると動かされ、恐怖でひっと悲鳴が漏れる。
 これ以上続けられたら、もう本当にどこか壊れておかしくなってしまう。

「あっ……! も、待って……ちが、だめっ……ぅ、いやです。こんな気持ちで私、こんなのできなっ、やっ、なんで……」
「なんでって言われても、最初から隙が出来たら全力で奪うつもりだったよ。リーシャが俺のこと好きだって言ってくれたから優しくできただけ。靡いてくれる気配がなかったら、どこかでこうしてたと思う」
「は……」

 本当に、何を言ってるんだろうか、この人は。
 リーシャを見下ろす瞳が冷たくて、優しさを微塵も感じられない。

「手に入るならもういい。嫌われても拒まれても、いなくなられるよりマシかな」
「やめっ、……ひっ」
「もう諦めて。今さら嫌がられても無理。君は俺と結婚するんだよ、絶対」

 リーシャの耳元に寄せられた唇が、脳に直接吹き込むように言葉を紡ぐ。
 低い声に身体がびくりと震えて、怖くて声を出すことすらできなかった。

「君はもう俺のなんだよ」
「は……」
「他の奴との結婚の約束なんて、全部なかったことにして」

 淡々と下された命令に、リーシャの中で何かが壊れる。じわりと浮かんで流れた涙が、ぐしゃぐしゃになったシーツを濡らした。

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