【本編完結・R18】苦手だった元婚約者にドロドロに甘やかされています

堀川ぼり

文字の大きさ
17 / 34

居候の条件

しおりを挟む

  本当に、こんなに丁寧にもてなしてくれなくても構わない。

「あの、昨日はバタバタしててちゃんと話せてなかったから、これからどういう風に生活すればいいかとか、今からちゃんと教えてもらっていい?」

 お客さんじゃないのだから、迷惑にならないように自分のことくらいはちゃんとする。
 住む場所がなくなったとか私物が燃えて駄目になってしまったことなんて、本来なら結人には何の関係も無いことだ。同情して助けてくれるのは有難いけれど、その気持ちに甘えて寄生していいわけがない。

 家事全般を担う事が住まわせる条件だと言うならそれで構わないし、どこまで踏み込んでいいのかというルールは、最初の内にしっかりと決めてもらった方がいい。
 気まずい空気に気付かないフリをして話題を変えると、何かを考えるようにしばし黙っていた結人がゆっくりと口を開く。
 てっきり、どのレベルまで家事を任せようとか、生活費は何割ずつ負担するかなどを考えているのだと思っていた。
 それなのに結人が口にしたのは、私が思っていたのとは全く違う内容だった。
 
「好きとか付き合おうとか、もう俺からは極力言わないようにする。大丈夫になったら和音の方から教えて」
「へ……」
「少し時間が空いたとしても、その時の俺の気持ちが分からないとか悩む必要ないから。何をしたら和音の気持ちが動くか分からないし、また付き合えると思ったらすぐに言ってよ」

 一体何を言っているんだろうと、口にするより先に顔に出てしまっていたらしい。
 何を言われても「分かった」と受け入れるつもりだったのに、私の口から漏れたのは「は……?」という戸惑いの疑問符だけである。
 
「流石にキス以上のこと試すなんて出来ないし、和音が付き合ってもいいって思ったら教えてよ。俺から毎日質問したりしないから、和音のタイミングでいい」
「えっと……好きって言わないっていうのは……?」
「強迫されてるみたいで嫌でしょ? 毎日好きとか言っても変にプレッシャー与えるなら虚しいだけだし、付き合う気がないのにそんなの聞かされても俺のこと嫌になるだけだと思うから。言わないって言ったの、別に和音に気を使ってるわけじゃないよ。そんな顔しないで」
「う、うん……?」
「和音がしてもいいって言ってくれたから、寝る前にキスとか普通にすると思う。それも嫌だったらちゃんと拒んで。言ってくれないと分からないから」

 キスをした流れを無理に変えようとしたから、何か勘違いさせてしまったのかもしれない。
 とりあえず今度は誤解されないようにちゃんと細かく伝えようと、恐る恐る口を開いた。

「あ、その……それは分かったけど、何時までに毎日のご飯用意して欲しいとか、私がどこまで家の事に手を出していいのかとか、そういうこと教えてもらいたいなって……」
「え? あー……あんまり細かいこと決めるつもりなかったんだけど、最初から色々と分担しておいた方が和音はやりやすい?」
「へ……?」
「学生の時も半分一緒に住んでる状態だったけど、細かくルール決めたりしなかったよね? ああいう感じでいいと思ってた」

 学生の時はそうだったかもしれないけれど、今とあの頃では時間の使い方が全然違う。
 結人が忙しいことは知っているし、私だって学生の時のように自由に時間を使えるわけではない。
 当時の私達が細かいルールを決めていなかったのは、私が結人の家にいる時のほとんどの時間、結人が一緒にいたからだと思う。
 食事を作るのは私が担当することが多かった気がするけれど、買い物や食器の片付けは結人も一緒にしていたし、どこまで掃除していいかとか家賃の負担をどうするかなんて事前に確認する必要もなかった。
 そもそも一緒に住んでいたわけではないし、当時の私はまだ実家に部屋があったのだ。
 大学に近くて通うのに便利ではあったけれど、あそこは決して私の家じゃない。結人に呼ばれて通っていただけの場所だ。
 まあ、呼び出される頻度が多かったし、そのまま泊まりになることがほとんどだったせいで、半分は一緒に住んでいるような状態だったけれど。

「あの頃と今じゃ状況が違うし、結人の部屋を使わせてもらってる状態になるわけだから適当にするのは良くないかなって……。その、住まわせる条件とか、して欲しくないこととかあったら先に言って欲しくて」
「条件?」
「食事はどうするかとか、掃除は頼みたいけど寝室には入らないで欲しいとか、そういう感じの……」
「ああ、帰るのが遅くなる時だけ事前に連絡欲しいかな。俺も何かある時は早めに連絡するから、和音もそうして」
「え……そ、それだけ?」
「うん。あとは生活しながら、何か必要であればルール作ろうか」

 そんなわけにはいかないと訴えても、話せば話すほどに私に都合の良い条件ばかりが並んでいくから、だんだんと何も言えなくなってしまう。

 家賃は要らないし、用意されても受け取らない。
 明日和音がご飯作ってくれるなら、明後日は俺が作るね。多分早めに帰れるから。
 ああ、カード渡しておくから、必要なもの買う時は使って。
 
 何かをすると言ってみても、結局は結人が損をするような提案で上乗せされてしまって、何も返せる気がしない。
 結人が嫌がらない限り、一通りのことはするつもりでいる。だけど私が考えていること全てを任せてはくれないのだろうなと、容易に想像がついてしまう。

「ねえ、和音」

 一人でぐるぐると考えている最中。名前を呼ばれて顔を上げると、結人の手が私の頬に触れる。
 結人の表情から何をするつもりなのか分かってしまい、緊張で小さく息を吸った。

「本当、嫌だったらちゃんと言ってよ」
「……あの、ほんとに嫌な時は嫌って言う、けど……」

 一度重なった唇が、数秒触れてそのまま離れた。
 やっぱり全く嫌だとは思えなくて、普通に触れてくれるようになったことを安心しているような気さえする。

 ああ、そうか。私が出来る結人が一番嬉しいことって、もしかしてこれなのかな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーンにも投稿しています》

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。 傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。 そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。 フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら? 「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」 ーーどうやら、かなり愛されていたようです? ※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱 ※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

処理中です...