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プロローグ
始まりの声
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次に目に映ったのはどこまでも広がる涼しげな空だった。
音もなく、重さもなく、温度さえない。
僕はそこに、“在る”ことだけを許されていた。
肉体は感じなかったが、意識だけは確かに存在していた。
思考は静かに流れていて、そこには不安も、喜びも、なかった。
ただひとつ、確かに言えるのは——
僕は、死んだのだ。
そのことに、どこか納得している自分がいた。
理不尽でも、劇的でもない。
ただ、現実として、“幕が降りた”のだと。
どれだけ彷徨っていたかわからない。
何の前兆もなく、突然
何もないはずのその空間に、“波紋”が走った。
ー声だった。
言語ではない。けれど、意味を感じる。
耳ではなく、“内側”に直接、響いてくるような——
「君は、よく生きたね」
静かで、優しくて、どこか寂しさを孕んだ響きだった。
「穏やかに、静かに。波を立てず、世界を慈しんだ」
「本当は……苦しかったはずなのに」
僕は、その声に“答えよう”とは思わなかった。
答えられないのだ。言葉はここに存在しない。
でも、思考だけは伝わっているようだった。
——別に、苦しいとは思ってなかった。
ただ、そういう風にしか、生きられなかったんだ。
誰かに愛されるためとかじゃなく。
自分がそうで在ることを、選び続けたかっただけで。
その答えに、声は少しだけ微笑むように応えた。
「……では、次はどう生きたい?」
次?
その言葉に、心が揺れた。
何かが、深いところから、浮かび上がってくるようだった。
「もう一度、生きるのか?」という問い。
「どうして僕に?」という疑問。
そして同時に、ひとつの確信が胸に満ちていく。
——この“声”は、僕のすべてを知っている。
生まれた瞬間から、死に至るまでの、あらゆる瞬間を。
その心の動きすら、記憶している。
だからこそ、問うてくるのだ。
「君は、“長く”生きられるだろう」
……長く?
「この先の世界では、時の流れも、肉体も、限りではなくなる」
「君の魂は、それに耐えうる。むしろ、望んでいたようにも見えた」
そうだろうか?
僕は——
本当に、“永く生きること”を、望んでいたのか。
答えは、出なかった。
けれど、どこかで納得するような静けさが胸にあった。
やがて、声が最後にもう一言だけ、告げた。
「この世界のことは、まだ何も知らなくていい」
「ただ、歩いていきなさい。長い時間の先でーーーまた会おう」
……また、会う?
そう思った瞬間、視界の奥に、光が差し込んできた。
音が、熱が、重力が、世界に戻ってきた。
何かに包まれていた。柔らかく、湿っていて、優しい。
その中で、全身を圧縮されるような感覚。
骨が、肉が、再構成されていく。
目の奥が焼けるように熱い。
やがて——光が、弾けた。
「……産声を、上げました!」
「無事です!母子ともに……!」
喧騒。熱。
柔らかい腕に抱かれる感覚。
でも、どこか懐かしい。
ああ、これは、“世界”の感触だ。
僕はまた、生まれたのだ。
別の名を持ち、別の体で、別の時間を生きることになる。
——タクミア・マトカ。
それが、俺の、いや、僕の新しい名前だった。
音もなく、重さもなく、温度さえない。
僕はそこに、“在る”ことだけを許されていた。
肉体は感じなかったが、意識だけは確かに存在していた。
思考は静かに流れていて、そこには不安も、喜びも、なかった。
ただひとつ、確かに言えるのは——
僕は、死んだのだ。
そのことに、どこか納得している自分がいた。
理不尽でも、劇的でもない。
ただ、現実として、“幕が降りた”のだと。
どれだけ彷徨っていたかわからない。
何の前兆もなく、突然
何もないはずのその空間に、“波紋”が走った。
ー声だった。
言語ではない。けれど、意味を感じる。
耳ではなく、“内側”に直接、響いてくるような——
「君は、よく生きたね」
静かで、優しくて、どこか寂しさを孕んだ響きだった。
「穏やかに、静かに。波を立てず、世界を慈しんだ」
「本当は……苦しかったはずなのに」
僕は、その声に“答えよう”とは思わなかった。
答えられないのだ。言葉はここに存在しない。
でも、思考だけは伝わっているようだった。
——別に、苦しいとは思ってなかった。
ただ、そういう風にしか、生きられなかったんだ。
誰かに愛されるためとかじゃなく。
自分がそうで在ることを、選び続けたかっただけで。
その答えに、声は少しだけ微笑むように応えた。
「……では、次はどう生きたい?」
次?
その言葉に、心が揺れた。
何かが、深いところから、浮かび上がってくるようだった。
「もう一度、生きるのか?」という問い。
「どうして僕に?」という疑問。
そして同時に、ひとつの確信が胸に満ちていく。
——この“声”は、僕のすべてを知っている。
生まれた瞬間から、死に至るまでの、あらゆる瞬間を。
その心の動きすら、記憶している。
だからこそ、問うてくるのだ。
「君は、“長く”生きられるだろう」
……長く?
「この先の世界では、時の流れも、肉体も、限りではなくなる」
「君の魂は、それに耐えうる。むしろ、望んでいたようにも見えた」
そうだろうか?
僕は——
本当に、“永く生きること”を、望んでいたのか。
答えは、出なかった。
けれど、どこかで納得するような静けさが胸にあった。
やがて、声が最後にもう一言だけ、告げた。
「この世界のことは、まだ何も知らなくていい」
「ただ、歩いていきなさい。長い時間の先でーーーまた会おう」
……また、会う?
そう思った瞬間、視界の奥に、光が差し込んできた。
音が、熱が、重力が、世界に戻ってきた。
何かに包まれていた。柔らかく、湿っていて、優しい。
その中で、全身を圧縮されるような感覚。
骨が、肉が、再構成されていく。
目の奥が焼けるように熱い。
やがて——光が、弾けた。
「……産声を、上げました!」
「無事です!母子ともに……!」
喧騒。熱。
柔らかい腕に抱かれる感覚。
でも、どこか懐かしい。
ああ、これは、“世界”の感触だ。
僕はまた、生まれたのだ。
別の名を持ち、別の体で、別の時間を生きることになる。
——タクミア・マトカ。
それが、俺の、いや、僕の新しい名前だった。
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