人生1万年時代

田中

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第一章:始まりの大地 ― グランエメルダの記憶

静かな孤立と、「ものづくり」の扉

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測定試験の翌週から、学院の空気がほんのわずかに、けれど確かに変わっていた。

誰かがあからさまに態度を変えるわけではない。ただ、僕が教室に入ると一瞬だけ空気が淀み、隣の席が空きがちになる。
目を合わせるのを避けられるようになった。

教師たちの反応も、似たようなものだった。

「マトカ君、君の術式解析は……少し“高度”すぎるね。今回は一般例に添って構築してくれるかな」
「教科書に沿った構文を使ってくれ。生徒に混乱が生じる」

彼らは丁寧な言葉で“異常さ”に蓋をする。
理屈に合っていても、許されない範囲がある。ここはそういう場所だ。

シェルだけは相変わらず話しかけてくれたが、彼はとても繊細な子だった。
数回、他の生徒に僕と一緒にいることで気まずそうな視線を向けられた後、彼の歩幅は自然と僕から少しだけ離れていった。

それを責める気にはならなかった。
僕が自分で選んだ距離だった。

そんなある日、僕はふとしたきっかけで、学院の南塔にある「魔道具製作室」に迷い込んだ。

授業の空き時間、学院構内を散歩していて、風の流れに導かれるように辿り着いたその部屋は、他のどの教室よりも静かだった。

歯車の回転音。ガラス器具がぶつかる微かな音。
木材を削る匂いと、火薬の匂いが混じる空気。

「入っていいぞ。ドアを開けた時点で、興味があるんだろ?」

部屋の奥から、低い声がした。

振り返ると、鋭い灰色の目をした青年がいた。肩口までの銀髪を後ろで束ね、焦げた作業着にエプロン姿。彼の周囲には浮遊する魔道具の試作パーツがいくつも浮かんでいた。

「あなたは……?」

「テオル・ラント。魔道具工房の補助教官だ。君、タクミア・マトカだろう」

「……ご存じなんですか」

「教員室で噂になってた。“妙に落ち着いてて、制御が異常に静かなやつ”ってな。ああ、悪い意味じゃない」
彼は人の良さそうな笑みを浮かべながら、そう答えた。

僕は、彼の言葉に少しだけ肩の力を抜いた。

テオル教官は、作業中の金属板に小さな魔力回路を彫っていた。
手元のペン型の魔導具が、魔力の粒を撫でるように軌跡を描いていく。

「興味あるなら、やってみるか? これは初歩のエネルギー転送回路だ。焦がすなよ」

そう言って手渡されたのは、まだ未加工の金属板と古びた刻印ペン。
僕は席に着き、教本を読まずに、手を動かした。

回路の線を繋ぎ、力の流れを意識し、精度を保ちながら彫り進めていく。

……そのとき、久しぶりに“気を張らなくて良い”温かい空間を感じた。
“僕は、ここにいてもいいかもしれない”と思えるくらい居心地が良かった。


その日から、僕は空き時間の多くを南塔の工房で過ごすようになった。
彼は僕の心情を察してか、詮索してこない。正確な技術と静かな手仕事だけが、評価された。

テオル教官は口数は少ないが、質問すれば的確に答えをくれる人だった。

「君の制御は“音がしない”んだ。魔力ってのは、流せば必ず摩擦音や空気振動が出る。だが、君はまるで“息を止めた水”のように扱う」

「……それは、変なんでしょうか」

「いや、むしろ理想だ。が、そこが他の奴らには気味悪く映るんだろうな」

彼の言葉に、僕は小さく笑った。
正直にそう言ってくれる人が、学院にひとりでもいるだけで、救われるような気がした。
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