素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒

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18巻

3



完全回復薬を僅かに一滴。

たったそれだけを混ぜた重湯の威力はすさまじく、殿下の身体を蝕んでいた骨粗鬆症と不整脈と気鬱と意識喪失とあと『十日で死ぬかも』の調査結果は覆った。
圧倒的に栄養が足りていない飢餓状態ではあるし、貧血の症状も変わらない。だけども再度調査先生にお伺いを立てると、危険な状態に変わりはないので目を離しては駄目とのこと。
とにもかくにも、殿下の余命は延びた。予断を許さない状況であることは変わりないが、一先ずは安心。

俺が頼んだ通り、プニさんは馬車をどこかの森の奥へと馬車を引いてくれた。
深く薄暗い森はやたらと魔素が濃く、こういう場所はランクAのモンスターが跋扈しているため手練れの冒険者でもあまり寄り付かない。
生えている草木の植生が東の大陸とは異なるのか、見たことのない大木や草花が生い茂っていた。ああああ、あそこのカエデっぽい葉っぱが気になる。そっちのやたら大きなタンポポも気になる。薬効があったりするのかな。食えるのかな。ところかまわず調査したい。
素材採取家の血が騒ぐのを我慢しながら馬車の外に出る。鞄から魔道具を取り出すと、近寄って来たビーが何をしているのと頭を傾げた。可愛い。

「ピュイ?」
「うん? これは、ユグル魔法研究隊(マッド・サイエンティストたち)に試験を頼まれた結界魔道具。冒険者が野営するときに安心して過ごせるよう、クレイが魔法研究隊に頼んで作って貰った品だ」
「ピュゥゥー」

試験的に作った貰った結界魔道具はテントを張る時の固定器具、ペグを真似ている。地面に真っすぐ刺さず、少し内側に傾かせるのが肝。ペグの先端に結界魔石を埋め込んでいるので、そこから結界魔法が放たれるのだ。三つだと三角型の結界になり、四つだと四角型。

結界魔道具が実用化されたら冒険者ギルドや商業ギルドに安価で卸す予定。命に係わる魔道具は生活用品の一つとしたい。ランクDくらいの冒険者が真面目に依頼を受け続けたら購入できる額に設定してもらうのだ。商業ギルドに登録等は魔法研究隊に丸投げた。

「念には念を入れよう。馬車の結界は恐ろしく強いが、ダークスラグみたいな強敵には敵わないかもしれないからな」
「ピュ!」

ビーに頼んで馬車の四方に結界魔道具を置いてもらうと、それを起動。ついでに幻惑の魔法で馬車を隠す。
それにしても何処だ此処は。スッスの故郷、オゼリフ半島のオーゼリフの森に似ているが、神聖さは感じられない。エルフの隠れ郷とも雰囲気が違う。それこそ、サスケがいなくなった今、俺たちに地の利はない。

殿下はしばらく馬車の客室で安静にさせるとして、幻惑の魔法があるとはいえ馬車を野ざらしにしているのは危険な気がする。
帝国の次期皇太子殿下を匿っている時点で蒼黒の団――帝国に入国したのはバイリー商会の商人一派に化けた俺たちだが、殿下の命を狙う連中の敵に回ったわけだ。
蛇が隠れてどうのこうのな連中の正体がわからないため、俺たちは帝国内で好きに動くことができない。
さてさて。
巨大な大木と見慣れない草花に隠されたこの森は何処なのか。

「調査先生、ここは何処でしょうか」




【ストルファス帝国 マールシェベレルダ領 マイユ東の森 最深部】
ランメルト・ププチェリケ・マールシェベレルダ辺境伯(四十二歳)の領地。しかし、最深部は前人未到の地であり、禁忌の森とも呼ばれている。
ストルファス帝国領土の最北に位置する広大な地であるが、都心部はベルカイムに比べて豊かではない。
ププチェリケ辺境伯、愛称プップーはワディランテ・デオスィラゲル・ショペン公爵の友人であり、帝都リンベルグ大学を卒業した学友。



…………愛称プップーとかどうでも宜しいんですけど調査先生。
禁忌の森かあ。物騒な名前ではあるけども、絶体絶命の危機を覚えるわけではないので結界の外に出なければ大丈夫。
それよりもショペン公爵というのはクレイの知古であり、サテル殿下の窮地を知らせてくれた人ではなかろうか。
この地の領主は殿下の味方ということで認識しても良いのかな。プニさんのことだから、俺たちが困るような場所には連れて来ないだろうとは思うけれども。

「ピューピュプッ」

ビーが何かの気配を察する。
俺のうなじもチリチリと嫌な予感をさせているので、まだまだ安心とは言えないのだろう。姿は見えないが、そこかしこからモンスターの気配がする。幻惑の魔法でこちらに気づいていないだけで、一瞬でも隙を見せれば襲い掛かって来るはずだ。
うーん。どうするかな。

結界魔道具と馬車の結界は易々と壊されないだろうが、殿下の看病は不寝番となる。交代で見張りを立てるとしても、瀕死の殿下には申し訳ないがこのままこの場所に留まり続けるわけにはいかない。結界魔道具の魔力充填はこの場所の濃い魔素を吸収すれば良い。幻惑魔法も幻惑魔道具を作るとして。だとしてもだ。

クレイには申し訳ないのだが、俺たちが殿下の傍で看病を続けるのは難しいだろう。
俺たちが帝国に来たのは、商人として商売をするため。そして、サテル殿下の様子をショペン公爵に伺うため。あわよくば殿下を救うためだったのだが、これは既に目的を遂げた。
心配だし不安は常に付きまとうだろう。
だがしかし、殿下と俺たちは行動を共にすることはできないのだ。

「タケル」


馬車の中から出てきたブロライトは、桶に入った水をそこらの藪へと撒いた。
「サテル殿下の呼吸は落ち着いて、今は眠っておられるようじゃ。完全回復薬のおかげじゃな」
「それは良かった」
「クレイストンが付きっきりで離れようとはせぬ」

だろうな。
元主とはいえ命を懸けて守った相手。騎士道なのかクレイ流のサムライ魂なのかはわからんが、ここでサテル殿下を置いて次の行動へと移すことなどできないのだろう。

「クレイも人だったんだなあ」
「何を言うておるのじゃ。クレイストンはああ見えても情に厚い御仁であるぞ?」
「知っているけど、我が子のように心配しているから」
「リザードマンの子はあそこまで痩せ細ることはないからのう。人の子はどの種族よりも弱い存在じゃろう? ゆえに、不安なのじゃろう」

まさか本当にクレイの子供だった説はないよな。うん。クレイの子供だったら調査先生が教えてくれるはずだ。うっかり妙なことを口にしたらクレイのげんこつが落ちる。

「幼少期の成長を見守り、守護していた存在だからかね。実の子供であるギンさんは放置していたっていうのに」
「それは言うてはならぬぞ。わたしも気になるのじゃが、言うてはならぬ」

俺とブロライトは互いに細い目をして遠くを眺めた。
触れてはならないクレイの過去に、クレイの実の子であるギンガさんの存在がある。
ギンさんは親のいない双子のちびっこリザードマンを引き取り、リザードマンの郷で冒険者ギルドの受付としてつつましやかに暮らしている。趣味は釣り。
リザードマンは基本的に海や川に入って手づかみでの漁になるため、わざわざ糸を垂らしてのんびり竿釣りをするリザードマンは変わり者とされているのだが、本人は竿釣りを俺に強く勧めてきた。辛抱強く待つことが少々苦手な俺としては、釣りはあまり得意ではない。雷の魔法でちょちょいっと魚を麻痺させれば、なんて楽な道を選んでしまう。
ギンさんは双子と共に近々トルミ特区にて竿釣り専門店を開店する予定。少しでもクレイの近くでと移住を勧めたのは俺です。

「騎士とは親や家族よりも仕える主のために命を懸けるものじゃ。故に、クレイストンの元騎士としての忠誠心のようなものなのじゃろう、あれは」
「そんなものなのか」

家族がいるのなら、家族も大切にして欲しいとは思うが。そこは前世の知識を持っている俺とマデウスの価値観の違いなのだろう。

「ピュイ」

ビーが落ち着きなく結界の外を警戒している。
ブロライトもモンスターに囲まれていることは気づいているのだろうが、馬車と俺の結界を信じ切っているため警戒はしていない。

「さてさて、どうするか」

パチンと手と手を合わせると、俺は自分の立っている地面をじとりと眺めた。
ここで転移門を設置するのは簡単だが、周辺はビーが警戒を解かないほど強いモンスターがいる。魔素も濃厚。万が一にも結界が解けてしまった場合を想定して、できれば結界門の入り口は隠しておきたい。一応ここは他所様の領地なわけだし。
このまま殿下を馬車に乗せたまま帝都に近づくのも憚れる。何処で魔法を見破られるか、わかったもんじゃない。もしも殿下を保護しているのがバレたら責任を追及されてしまう。
それにいつ何時悪漢が襲ってくるかわからない。

襲ってくるものは正当防衛で蹴散らすだろうが、俺たちは商人として帝都に赴くわけなのでね。そういった問題はできれば抱えておきたくないわけだ。問題に首どころか全身を突っ込んだ状態で今更なのは否めないが。

ベルミナントやグランツ卿に相談するのはお門違い。なんせ国が違う。

それならば俺たちは殿下を信頼できる医療班に任せ、馬車で予定通り帝都を目指すべきだ。そうしてチョピン公爵に面会を願い殿下のことを告げ、できれば帝都にも転移門を設置させていただく。
殿下をトルミ村に運んでしまえば話は早いのだが、話はそう簡単ではない。殿下の容態を思えばトルミ村の治癒魔法師・医師・薬師によるトルミ医療班に任せたほうがクレイも安心できるだろう。だがしかし、一般人や商人ならばともかく、お貴族様で皇族様で次期皇帝陛下様様が相手。後々外交問題とかあれやこれやと面倒なことにならないよう、帝国内で治療をしましたよの大義名分を作りましょう。

面倒なことにならないよう、面倒なことをするのが俺のモットー。

「地上が危険なら地下はどうだろう」
「ピュ?」
「穴を掘って、クレイが通れるくらいの転移門を設置すれば良くない? そうしたら地上への入り口だけに結界を張れば良いから。これだけ深い森の中だ。冒険者もなかなか寄り付かないだろうし、用もないんじゃないかな」

見渡す限り雄々しく生えるの木々や草花。採取家が頻繁に訪れているのなら道が作られているはず。冒険者が野営をした跡も無い。
調査先生が『前人未踏』と言ったのだから、ここは領内でも手つかずの森ということだ。
もしもコルドモールのような巨大モグラがいた場合、その計画も頓挫するのだが。

「プニさんどう思う?」

スッスに貰ったであろうキノコグミが大量に入った桶に顔を突っ込んでいた馬プニさんは、もっちゃもっちゃと口を動かしながら頷いた。

――問題 なかろう

古代馬様が問題ないと言うのならば、信じますよその言葉。

「如何するのじゃタケル」
「ピュピュー?」

魔法で穴を開けることは出来るだろう。こう……掘削機みたいなイメージの、ドリルみたいな風魔法で。イメージ出来るということは、実際に扱える。
だがしかし、そんな魔法をばんばか使って周りのモンスターをヘタに刺激したくない。お肉は有り余るほど馬車の食糧庫にあるし、鞄の中にもある。新大陸の新たなるお肉の味は如何ほどかとは思うがしかし、無益な殺生は致しません。でもそのうち食えるなら食う。

そう。
穴を掘ることに長けた種族がいるじゃないか。
俺は鞄から転移魔法用の魔石を取り出し、足元に埋めた。

「固定」

石が動かないように魔法で固定すると、懐かし……くもないけど、かの故郷を思い浮かべた。
これは仮の転移門として、ひとまず設置するだけ。今は大切な人員を呼ぶための門とする。
転移門に顔を突っ込み、俺は再び鞄を開いて笛を取り出す。そうして、空気を命いっぱい吸い込み笛を思い切り吹いた。

ぴろぴろぴろろろぴーろろぴー

赤と白の縦縞模様のカラスくらいの大きさの鳥、俺が勝手にメデタイ鳥と呼んでいる鳥の鳴き声そっくりに聞こえるその笛の音は、特定の種族を呼び出すための音。独特の音域を発するため、人族には聞こえないのだ。俺とビーは聞こえるのだが、ブロライトには聞こえない。

笛は一回拭けば良い。
笛を鞄にしまうと、俺は転移門から離れて腰を落とした。そうして両手を大きく開いて待機。
光り輝く転移門の向こうから、チャッチャッと独特の足音が聞こえてくる。
一人や二人ではない。
やべ。張り切りすぎて一族全員で来たとか言わないよなこれ。

「タケルーーー!」

転移門から飛び出して来たのは、フル装備をしたコポルタ遊撃隊(誰かが勝手に名付けた)の諸君を引き連れたコタロだった。

「おぶっふ!」

飛び出した勢いのまま俺の腹に頭を突っ込んだコタロ、続いてコタロの側近であるジンタ、遊撃隊の隊員であるゴロベ、ポチタ、シロタ、クロタ、ムギタが続いて俺の上に乗っかった。一族全員で来たわけではないが、遊撃隊精鋭部隊総出で来たな。というかコタロはコポルタ族の王子なんだから、立場というものを考えてだな。きっと考えていないんだろうな。

「コポルタゆうげき隊、呼ばれたから来たのだ! ぼくたちが来たからには、どんな岩でもくだいてしまうのだ! わおーんっ、わんわんっ!」
「わんわんっ!」
「わおーん!」
「ピュプ……」

張り切り尻尾をブン回すコタロを筆頭に、コポルタ遊撃隊は張り切って警戒態勢を取った。

「いや待て。待て待て。お待ちなさい。モンスターと戦うわけじゃないから。頼みたいことがあって呼ばせて貰ったんだ」

さっきのメデタイ鳥笛の音は、コポルタ遊撃隊を呼ぶための魔道具だ。トルミ村へと続く転移門で笛を鳴らせば、あっという間にコポルタ遊撃隊が飛んで来るという仕組み。
戦場で各々独自の考えで行動をする遊撃隊というより、素材を素早く回収する隊なんだけどね。コポルタ族は鋭い爪や牙を持っているが、戦闘に不向きです。
穴を掘るだけなのだから、三、四人くらいで良いんだけども。

「ぼくたちも戦えるのだ」
「おっきなモグラとの戦いの時よりもがんばったよ」
「たくさんいろんなもの集めるよ」
「ピュー……」

やる気があるのは大変宜しいのだが、俺の身体を足蹴にしながら言うんじゃない。ビーが呆れているじゃないか。

「はいはい、よーしよしよし、落ち着いて。これから皆に穴を掘ってもらいたいんだ」
「穴?」
「穴を掘るのか? 得意だぞ!」
「わんわんっ! どこの穴を掘るの?」
「たくさん掘っていいの?」
「あー! スッス! スッス見つけたー! スッス、穴掘りきょうそうだぞ!」
「きょうそうだぞー! わんわんっ!」

落ち着けや。
騒ぎを聞きつけたスッスが馬車から降りてくると、一部のコポルタたちがスッスに突撃。スッスは喜ぶ前にコポルタタックルを受けて吹っ飛んだ。あれは痛い。
俺が助けてもらいたい時に笛を吹くからと言ったのが間違いだったのか? いやそれでもコポルタ族の穴掘り能力は長けているからな。もしも急に穴掘りが必要になった時のためにと思って笛の合図で転移門を渡るよう頼んでいただけなんだけども。

急に穴掘りが必要なことはあるのかと問われれば、モンスターの毒や麻痺に効果がある木の根っ子がありましてね。コタロたちはその根っこを採取するための穴掘りに長けているのだ。
やれやれ予想以上に大勢で来たものだと苦く笑っていたらば。

「おうおうっ、コタロたちが装備を整えて転移門に向かったとなりゃあ、何かあったんだろう? 俺も混ぜろや」
「おうおうっ、何か面倒なモンでも採取すんのか? 丁度暇していたんだ、手伝わせろや」

吹っ飛んだスッスの安否を気遣う前に、転移門からヒゲもじゃの兄弟がぬるりと出てきた。ドワーフのアゲートとゴーム兄弟。

「ストルファス帝国に赴いたと聞いていたが、何用でコポルタを呼んだ」

続いて出てきたのは俺を睨むエルフ族のベルク。トルミ駐在員で弓隊のエルフを数人引き連れている。何で俺を睨むのさ。全ての元凶や問題を俺のせいにするのは止めろ。

「皆の者、大勢でタケルを困らせてはならぬ。さてタケル殿、ここはストルファスなのか?」
「あまりトルミの森と変わりはないようですね」

ユグルの代表ネフェルは翼の戦士イエラを伴い転移門から顔を出す。

「ちょ、ちょっと、なんでこんなに大集合することになった! 転移門はこれで閉じるから! おしまい!」

まさかエルフの執政であるアーさんや、ルセウヴァッハ領の領主ベルミナントまで来ていないだろうなと確認し、トルミ村の転移門の前に装備をきっちりと整えた戦闘狂たちが大勢詰めかけているのに愕然とした。違うんだ。俺はただ、穴掘り名人であるコポルタたちに穴を掘って欲しくて。

これ以上不法入国させるわけにはいかないと、俺は慌てて門を閉じてしまった。
門が閉じる前に大勢のブーイングが聞こえたが、知るか。

「コポルタ族が突然昼餉を投げ出して走り始めたのだ。何事かと慌てるであろう」
「昼飯の最中だったのか。それは申し訳のないことをした」

何故かネフェルに咎められてしまい、俺は頭をかきながら詫びる。

「わんわん、タケルの合図は遠く離れていてもよくきこえるのだ」
「てつだえることがあるならご飯よりだいじだよ」
「ご飯もほしいけど」

帝国ではそろそろ日が暮れる頃。
世界地図を見たことがないからマデウスの地理はよくわかっていないが、西の大陸と東の大陸は経度が違うのかな。軽度が十五度変われば一時間の差があるというし。あくまでも地球での話なので、不思議世界マデウスでは解釈が違うのかもしれないけども。
これは昼飯を御馳走しないとならないかな。穴だけ掘ってさっさと帰れとは言いづらい。

「おう、タケルよ。コポルタを呼んで何をさせるつもりだったんでぇ」

巨大な槌を背負ったアゲートが俺に詰め寄ると、ゴームが顎髭を撫でながら俺を睨む。

「ここは魔素がちぃと濃いぞ。トルミの森奥よりも酷ぇや」
「大物がわんさと取り囲んでいやがるな。おうおうっ、こりゃあ腕が鳴るぞアゲートよ」
「帝国のモンスターはどんなもんなのか、狩り比べといこうやゴームよ」

だから食用肉は事足りているから、狩りをするつもりはないんだって。
トルミ村で消費するのなら構わない……いやいや忘れるな。ここは! 帝国!
わいわいがやがやと馬車の周りでわめく連中をネフェルが咳払い一つで制する。

「皆、静まれ。何用でコポルタに召集をかけたのか問うても良いか?」

人格者が一人でも来てくれたのは幸い。
いや、呼んでいないけど。
トルミ村では目上の言うことは聞きましょうの精神がある。ネフェルはこの場にいる誰よりも最年長――プニさんを除いて――のため、エルフのベルクですら黙った。

「えーと、あまり大勢を巻き込みたくないって言いますかね」
「また面倒ごとを抱え込んだのか」

ベルクに呆れたように言われたが、俺は反論。

「違う。面倒ごとがやってきたんだ。面倒ごとって言うのも失礼だな。この場合、外交問題に発展するかもなので、あまり関わらない方が宜しいかもしれませんよーという」
「お前、エルフに外交を問うのか?」
「おう……」

そうだった。ベルクの言う通り、エルフ族は不可侵の種族。東西南北や他の列島などにエルフ族は点在しているが、どのエルフ族にも手出しは無用というのが世界共通の認識。
つい最近、郷の外に出るようになったくせして。

「何を考えている」
「いえなんでもないです」

ベルクのじっとりとした睨みを無視し、俺はコタロを抱き上げて背中をわしゃわしゃと撫でながらネフェルたちに言った。

「ここはストルファス帝国内だ。だから、蒼黒の団……じゃない、バイリー商会以外は不法入国であることは理解してほしい」
「応よ」
「何を狩ればいい」
「何も狩りません。この、ここの地面を掘って転移門を設置したいんだ」

俺が足で地面を叩くと、アゲートが首を傾げる。

「穴を掘るのか? こんなところに?」
「ここ以外の安全な場所に心当たりがなくてね。なんせここは帝国。誰が敵で誰が味方なのかは魔法でわかるけど、不意打ちされたら大変なことになっちゃう人物が同行しているんだ」

そうして俺は現状を皆に説明した。
帝都に向かっている最中、クレイの元主である皇太子殿下を救ったと。
そして、殿下のお命が危ぶまれているのだと。





******

犬が走る時、「チャッチャッチャッチャ」って聞こえるんですよね。
爪の音なんでしょうね。
今回は文字数多かったぞ。
誤字脱字矛盾点辻褄おかしくても指摘はしないでください。



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