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7巻
7-1
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はいどうも!
三度の飯より好きなものは、風呂と寝ること。だけど食うことも大切だよ!
欲望には正直に生きる、素材採取家のタケルです。
異世界マデウスに転生しまして幾星霜……
いや、実際は一年も経っていないんだけども。濃すぎる毎日を送っているから、何年も過ごしている気になるんだよな。
マデウスでは日々何事もなく平穏無事に過ごせる、ということが稀なのだ。
基本的にどこも治安が悪い。
町の外はもちろん、町の中も。素行の悪いやつらが喧嘩しているのは日常風景の一部だし、スリにあって全財産失おうが、強盗にあって殺されようが、全てが自己責任。ぼんやり歩いているほうが悪いよね、という世界。
マデウスに来てすぐ滞在したトルミ村が平和すぎて、そんな物騒なことはないのかな、なんて呑気に考えた時もありました。
毎日を平々凡々に過ごして、会社でロボのようにせこせこと働いて、給与をいただいて細々と生活をしていたあのころ。
戻れたら、とは思う。
連続ドラマの最終回とかシリーズ物の映画の続編とか新作コンビニスイーツに近所にある銭湯のリニューアルオープンなどなど、気になっていることはある。
仲良くしていた友人、同僚、後輩、上司。
逢えたら、とは思う。
だけど、そんな感傷に浸る暇もなく毎日が充実しているのだ。
素材採取家の仕事は多種多様。薬草の採取にうんこ拾い、鉱石の採掘やモンスターの抜け毛採り、未知なる食材を発見したこともある。危険なモンスターと対峙して全力で戦ったこともあった。
この世界では最強に地味な職業、素材採取家。人気のない職業の中でも上位に属する。
だが、俺はこの仕事にやりがいを感じている。地味にこつこつ、最高じゃないか。
一度気に入ったらとことん追求する性格の俺としては、まだ誰も発見してない素材に出逢えたらと――
そんな夢を描いてしまった。
地球にいた時には描きもしなかった夢。ただ働いてそのまま老いていくのだと思っていた。
今は頼りになる相棒と、楽しい仲間たちがいる。
三食たらふく美味いものを食って、温かな温泉で疲れを取り、柔らかい布団で眠る。忙しなくてやかましくて、呆れることのほうが多い日々。
時々逃げ出したくなる時もあるけれど。
俺は、元気に過ごしています。
1 根が深き、陰謀どっぷり、驚きだ
吠えまくっていた子爵サルサールは、王都の競売でデルブロン金貸を随分と吊り上げた金額で落札する羽目となり、全身を激しく震わせ、がくりと両膝を折った。
顔を赤かったり青かったりさせていたが、最後には真っ白になって燃え尽きた。
サルサールを追い詰めたのが、大公閣下、グランツ卿。
この御仁、ただの曾孫可愛い爺様ではない。グランツ卿は現王の後見人。つまり、王様と同じかそれ以上の発言権を有している最高位の貴族。
サルサールは、その大公に対して知らなかったとはいえ無礼な言葉の数々を放った。そんな彼に対し、「極刑に処されても仕方ありませんよね、四肢欠損にして海に沈めましょうか」と言って微笑んだのは、王都の冒険者ギルド「キュレーネ」のギルドマスター。あのちょびヒゲ紳士、紳士の顔をした悪魔かもしれない。
それはともかく、ぐうの音も出ないどころか明日をも知れない身となったサルサールは、ギルドマスターに命じられるまま3100万10レイブの支払いに応じた。大公閣下に無礼な物言いをした件については、厳しく処されるらしい。
震えるサルサールをつまらなそうに鼻で笑ったグランツ卿は――
「暇つぶしにはなったな。また、楽しませてくれ」
そう言い残して去った。3000万もの大金を暇つぶしの道具と言いきったのにはドン引いたが、それにも増してサルサールを見下ろすグランツ卿の姿にはゾッとした。
その目は、道端の石ころを見ているかのようで冷たく、グランツ卿はやはり優しい爺さんじゃないんだなと改めて思う。本来ならば俺のような冒険者が一生逢えない立場の人間。口すら利けない。利いたらいけない相手。
でもまあそれを言えば、俺が拠点としてベルカイムを治めるルセウヴァッハ領主だって伯爵様なわけだし。
そもそも、相手の立場がどうのとか関係ないよな。
貴族だからとか王族だからとか、そんなのは気にしないでおこう。自分と同じ人間というだけ。失礼な真似をしてはならないのは、貴族だけではない。
ご縁だよ。
これは全て、ご縁ですよ。
「タケル、お前の調べたいことは済んだのか?」
競売で競り落とした木製の腕輪の受け取りを済ませた俺に、ドラゴニュートのクレイがひそりとした声で聞いてきた。
俺は鞄の中に腕輪をしまうと、深く頷く。
知りたいことは大体調べることができた。まさかの闇の深さに驚くどころか呆れてしまったが、ともかくサルサールの妙な陰謀は阻止できるだろう。悪いことを考えているやつを一掃することはできなくても、これからやらかそうと企んでいることなら止められる。
国を助けるとか救うとか、そういうこっちゃない。
俺が守りたいのは、俺が王都で世話になっている宿「鮭皮亭」と猫獣人のクミルさん一家と、握り飯弁当。
彼らが平穏に暮らしていくためにも、国は平和でなければならないのだ。
そして夜、鮭皮亭の食堂にて。
夕飯を済ませた俺たちは、今日の勝利を労いあった。
お疲れ様、ありがとう、楽しかった、またやりたいな、などなど。
そんな賑やかな打ち上げ会の中、俺はテーブルの上に競売会場の外で販売した握り飯弁当の売上金を全て並べ、地道にぽちぽちと計算。
この世界にはそろばんのような計算機はあるが、そろばんの使い方は小学校の時に触った程度で既に使い方は忘れた。ああ、表計算ソフトが懐かしい。せめて電卓が欲しかった。
ちなみに、ちょっとした頼みごとをしたため、馬の神様であるプニさんは外出中。ダークキャモルの肉かつ丼五杯で、嬉々として頼みごとを聞いてくれる神様。ちょろい。
「……うん、千食ピッタリの売り上げだ。釣り銭の渡し間違いもない」
まだまだ慣れない貨幣ではあるが、足してかけるくらいならできるようになった。金貨や銀貨といった貨幣をそれぞれ種類別にまとめ、合計金額を出してから総計算。多少の誤差はあるかもしれないと思ったが、まったく漏れもない。
俺の言葉に、クミルさん一家は諸手と尻尾を上げて喜んだ。
「千食! 千食も売れたんだよ、アンタ!」
「すげぇなあ、すげぇことだよなあ、ああ、信じられん……」
「うふふふ、父ちゃんまた泣いてるの?」
「泣いちゃめーよ、父ちゃん」
「にゃーちゃ、めー」
ふわもふ猫一家は飛んだり跳ねたりとそれぞれを称えあった。旦那さんであるユルウさんは真っ先に泣き出し、続いて女将のクミルさんや三姉妹も笑いながらぼろぼろと泣いた。
お弁当販売の臨時バイトをしてくれたギルド受付のエリアとパントも頑張ってくれた。なにせ二人は計算ができるし、失礼な輩には大声で注意することもできる。列の横入りには特に目敏く、卑怯な真似をする人には売りませんからね、ときっぱり断言したらしい。
二人がギルドの職員と知られていたおかげで、難癖をつける者もいなかったという。あとでキュレーネのギルドマスターにお礼を言っておこう。
「エリア、パント、二人ともお疲れさまでした。有難うございました」
俺がそう言って、清々しそうな顔で微笑む二人に深く頭を下げると、彼女たちも同じく頭を深々と下げた。
「いいえいいえ、私たちも楽しかったです!」
「そうですそうです、たいへん勉強になりました!」
マルス大佐たち竜騎士の威光もあったかもしれないが、彼女たちが秩序を保ってくれたおかげで、あれだけ繁盛していても酷いパニックにならずに済んだとマルス大佐から聞いている。
伊達に、日ごろ荒くれ冒険者たちの相手をしているわけではない。ギルド職員すごい。
「お昼に握り飯弁当をいただいたんですけど、これほんっとうに美味しいんですよね。私びっくりしました」
「でも、ギルドから鮭皮亭は少し離れているから、毎日のお昼ご飯に買いに来られないんですよね」
「そうそう、そう思っている方は他にもいらっしゃいました。昼時に届けてもらえれば温かいのが食べられるのに、とのお声もお客様からいただきました」
代わる代わる話してくれる二人に、俺はなるほど良い案を聞いたと頷く。
配達サービスか。ベルカイムでは当たり前に行われていた昼食配達。職人街のドワーフたちは、仕事の片手間に食べられるようなものを食堂に頼んでいた。王都にはそういうサービスはないのだろうか。
握り飯だけではなく、弁当を作って配達する店があったら絶対に流行るだろうな。日替わりで献立を多少変えたら飽きられないだろうし、温かいスープをサービスしたらどうでしょう。
でも鮭皮亭はこれ以上忙しくさせられないから、配達をやるとしても別店舗をどこかに作って新展開したほうがいい。
グランツ卿に相談したら面白そうだと乗ってくれるかもしれない。ふひひ。
「クレイストン、またもやタケルが悪いことを考えておるようじゃ」
「……我らは見守ろう」
「ピュイ」
エルフのブロライトたちは勝手なことを言っているが、ともかくギルドの受付嬢たちに一日の報酬を手渡し、また何かあったらよろしくねと告げて帰宅させた。二人とも是非ともまた手伝わせてほしいと言ってくれたのは嬉しい。
クミルさん一家の三姉妹も今日一日頑張って疲れたらしく、眠そうな目をこすりながらゆっくりと船をこぎはじめていた。
クミルさんに子供たちの寝かしつけを頼み、先に休んでもらう。
それからユルウさんと最終確認。
「人件費と材料費、諸経費と税金分を差し引いても……すごいな、この儲け」
「オコメの仕入れ値がとても安かったので、調味料や握り飯を包んだデンドラの葉のほうが高いくらいでしたよ」
「オコメ様々だな。だけど、今日の人気っぷりで市場価格は跳ね上がるだろうから、安いうちにできるだけ仕入れておいたほうがいい」
「はい、そうしておきます。タケルさんに作っていただいた保存部屋のおかげで、食材を腐らせずに済みますしね」
握り飯弁当の正体がエペペ穀だということは、既に王都じゅうに広まっている。
ただし、エペペ穀をどうやって料理したらああなるのかは企業秘密。ただ煮るだけではリゾットになる。しかし腕のいい料理人ならば、すぐに調理法を見つけるだろう。
ちなみに保存部屋というのは、大量に仕入れたエペペ穀の保存場所に困っていたユルウさんを見かねて、俺が作ったものだ。
台所の裏にあった物置小屋を改造し、その部屋全体に維持の魔石を配置した。扉を開いたら効果は消えるけど、扉を閉じておけば冷蔵庫のような状態となる。食材は腐らせてはなりません。
クレイに言わせてみれば、保存庫などは一部の貴族しか所有できない高級なものらしい。しかも部屋全部が保存庫などとは聞いたことがないと。へえー。そうなんだー。
トルミ村にある宿や俺たちの屋敷にも作ってあるんだけど……余計なことは言わないでおこう。クレイはまた俺の頭を殴るだろうし。
何はともあれ、クミルさんたちなら、この保存庫を上手いこと利用してくれるはず。
ユルウさんとの会話を終えた俺は、考えていたことを皆に言った。
「マルス大佐たちにも何かお礼をしたほうがいいな。現金を渡すより、クレイを一日貸し出すってのはどうだろう」
「おお! それは何よりも喜ぶのではないか?」
「ピュイ!」
「待て、勝手なことを言うな」
「古馴染みも騎士団の宿舎にいるんだろう? 挨拶がてら演習指導? ってやつでもしてくれば如何でしょう?」
「むっ、クレイストンの演習指導ならば、わたしも受けたい」
「演習指導って何をやるのかわかんないけど、ブロライトもこう言っていることだし」
「だから勝手なことを言うなと!」
竜騎士諸君へのお礼はこれで決定。ブロライトも賛成しているから、あとは流されやすいクレイの背中を押すだけ。クレイはなんやかんやとやるんだから抵抗するだけ無駄。
明日は鮭皮亭も一日休み。今日の出張販売のために宿の営業も休止させてしまっているのだ。ちなみに、明後日からは通常営業を開始してもらう。クミルさんたちは久々の休日を楽しんでくれるだろう。俺も市場へ買い物に行きたい。
ユルウさんを休ませたあと、俺たちはクレイの部屋に集まった。
盗聴防止の魔道具を起動させ、鞄の中から紙の束を取り出す。
紙といっても精製された白い紙ではなく、真っ黒の葉。白いペンのインクが滲みにくい木の葉だ。その名もペパルの葉。羊皮紙を買うよりもお手軽なので、俺はこの紙を成形しノート状にして愛用している。
真っ黒の大きな葉に白文字で書くわけだから、ちょっと暗黒魔導書のようだなと思ったのは黙っておく。
ペパルの葉は魔素の濃い森にしか生えない。エルフの郷にはそこかしこにわさわさ生えていたので、まとめてもらってきた。王都では一枚1000レイブという割と高い値段で売られていたけど、知らなかったことにしておこう。
「タケル、これはなんじゃ? 何が書かれてあるのじゃ」
机の上に並べられた黒い葉を見たブロライトは、一枚を手に取った。書かれてある文字を読もうとしても、解読できずに眉根を寄せる。
前世で日本人だった俺が書いたその文字は、もしも紛失してしまっても誰にも解読することはできない。部分的に速記文字で書いてしまうのは、前世の営業職で染みついた癖。
「サルサールの企んでいることと、その関係者と、サルサールの動機などなどを書いた。盗まれることはないと思うけど、万が一を考えて日本語で書いておいたんだ」
「ニホンゴ……もしやタケルの故郷の言語か?」
「そうそう。それじゃあサルサールの企んでいたことを説明するから。えーと、ちょっとややこしいんだけど、サルサールのコラーダ商会はお隣のエポルナ・ルト大陸にあるストルファス帝国所属のエドルート商会ってところと裏で通じていて、エドルート商会の取締役であるクリータス・ウォカリアっていう人はアルツェリオ王国の執政である、ええと、ぱる……ぱりゆ……なんとかって侯爵の同窓生」
「シルト・ティン・パリュライ侯爵だ」
「そう、その侯爵様ね。しると、ていん、ぱ、りゅ、らい、と」
クレイに指摘された部分を斜線で消し、正しい名前を書く。
「クリータスっていう人はその侯爵閣下と、ストルファス帝国の竜騎士養成所で知り合って、それ以来クリータスは侯爵閣下を目の敵にするようになったと」
ストルファス帝国の竜騎士養成所は、生まれや育ちに関係なくやる気があれば誰にでも門戸を開いている。
クリータスは侯爵の素性を知らないまま知り合い、互いに切磋琢磨していった。だけど侯爵のほうが優秀で、容姿にも恵まれていて、クリータスが片思いをしていた女性を侯爵が好きにすらなって……
とまあ、よくある青春時代のお話だ。
クリータスは、そうしたことをずっと根に持っていた。そして侯爵がアルツェリオ王国の王族と知り、更に不満が膨らんでいった。
育ちの良し悪しで成績が決まるわけではないのに、クリータスは優秀な侯爵を逆恨みした。その恨みはなぜかアルツェリオ王国に。
ほんと何でそんなことで恨むんだろうか。アイツは凄いできる奴だな、それじゃあボクも頑張ろう、えいさー、って前向きになれないもの? 俺の成績が悪いのはアイツがいるせいだ、ってどうして思えるんだろう。人のせいにするのは簡単だけど、それじゃ自分自身は成長しないまま。
俺は一旦説明を止めると、鞄の中から魔法瓶とカップを取り出しそれぞれに手渡す。各自手酌でカップにエプル茶を注ぎ、小魚の佃煮と木の実を皿に山盛りにしてつまみに。
ビーが俺の膝の上でぐるぐると忙しなく動きはじめたので、ローブを丸めてかけてやる。ビーはローブにもぐってもぞもぞふみふみと蠢くと、すぐに寝てしまった。
しばらく黙って考えていたブロライトが、小魚を噛みながら聞いてくる。
「待てタケル、なにゆえそのようなことまで知り得たのじゃ」
「んーと、エドルート商会の取締役について詳しそうな人に聞いたんだよ」
「誰じゃ」
「あの競売場にコラーダ商会の幹部の奥方たちが招かれていて、クリータスさんってどういう人? って聞いたら、まあ喋るわ喋るわ。聞いていないことまで教えてくれた。クリータスさんは現在三人の奥さんと八人の子持ちですって。サルサール子爵と半年に一度グラン・リオ大陸の西端にある港町で面会されているようざーますのよ、オホホ、って言っていた」
裕福な家庭の奥方というのは、あまり街中を出歩かない。庶民と肩を並べて歩くなど、はしたないざますという考え。
買い物がしたい時は店の人を屋敷に呼びつける、もしくは使用人に買いに行かせるのが、一般的な貴族のお買い物。
そういうことをする代わりに客を招いて自宅でお茶会を開き、噂話や王宮ゴシップなどに花を咲かせている。これはベルミナントの奥方、ミュリテリアさんに聞いた。ミュリテリアさんは噂話に興味はなく、めったにお茶会を開かないことで有名。
それはともかく、噂話でもいいから何か知っていないかなと声をかけたら、五人の奥方に取り囲まれて延々とお話を聞く羽目になった。収穫はあったが、なかなか止まらない話に思わず軽めの睡眠をかけてしまった。安らかな眠りを貴方に。
香水の匂いがキツくて、俺もビーも耐え難かったのだ。
「そもそもエドルート商会ってのが、ストルファス帝国でも一番大きな商会らしくって、王族とつながりがある由緒正しいところ。そんな大きな後ろ盾がある商会と縁をつないだんだ。有頂天になったサルサールがエドルート商会の言いなりになって、クリータスの積年の恨みを晴らすべく暗躍したというわけ」
これも奥様たちに聞いたというか、一方的に喋ってくれたというか。
初代サルサール子爵は成り上がりらしい。サルサール子爵のおじいさんが優秀で、商会をはじめてどんどん財を蓄えて、財の蓄え方をアルツェリオ王家にも伝授したということで、国家功労者として爵位を授与された。
おじいさんは優秀だったが、その孫は爵位に胡坐をかいて好き放題やってきた。商会を広げたのは凄いとしても、全て強引なやり口。話をしてくれた奥方の中にも、サルサールを強く恨んでいる人がいた。理由は聞かなかったけど。
王都内で子爵位というのは下位貴族になる。いつか上位貴族である伯爵位に上り詰めるのがサルサールの目標だったが、伯爵というのは代々続いている血筋のみであり、成り上がりではいただけない爵位。そもそも領土に与えられた爵位が上がることはない。王宮の晩餐会などに呼ばれるのも伯爵位までであり、子爵と男爵はただの貴族。
そのことは当然サルサールもわかっていただろうが、それでもプライドの高いサルサールは諦めなかった。
俺はひと息つくと、更にこの事件の闇の部分に踏み込む。
「元老院のクルーザース、マイヤーズ、ドノフリオの三人は、サルサールとエドルート商会から賄賂をもらっている。グランツ卿が教えてくれた疑わしき人物名簿そのまま」
元老院の三名はそれぞれ伯爵位だ。
王宮での情報漏洩はこの三名が主。相当私腹を肥やしているようで、あの場でグランツ卿に強い敵意を抱いていたのもこの三人だった。あの競売騒動の際に詳しく調査した結果、もっと恐ろしいことが判明。
前王を殺した側室にイヴェル毒を渡したのが、コラーダ商会を介したエドルート商会だったってこと。
しかも、企んだのは現役の元老の一人。
前王が亡くなったのは十数年も前。そのころからエドルート商会が絡んでいたとなると、サルサールの陰謀というのは考えていたよりも奥が深そうだ。
十数年前、クリータスはエドルート商会に所属していなかった。
――と、なりますと。
アルツェリオ王国をどうにかしちゃいたいと思っている重要人物が、クリータス以外にもいるというわけで。
乗りかかった船ではあるけど、ちょっと面倒くさくなってきた……
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