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9巻
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みなさん、お元気にしていましたか。
今いちばんやりたいことは、老舗温泉宿での上げ膳据え膳の食っちゃ寝。
贅沢なカニ三昧懐石が食いたい、素材採取家のタケルです。
異世界マデウスに転生しましてね、何不自由なく元気に日々を過ごさせてもらっています。
仕事に不満はない。素材採取をする時は楽しいし、仲間と旅をするのも楽しい。なんやかんやと面倒なこともあるが、概ね満足している。
最近の俺は探査先生や調査先生に頼ることなく、回復薬として使えるエプララの葉っぱやレア素材の月夜草など、様々な素材を探して採取する技を身に着けたのだ。何百何千と採取していれば、嫌でも覚えるわけだけど。
ギルドから、FからBランクまでの依頼を自由に受けられるFBランクという贔屓された立場をいただいていることだし、なるべくギルドに貢献できればなと思ってしまう社畜の性質。
内心は引きこもってぐうたらしたい自分もいるのだ。だがしかし、なんやかんやと騒動に巻き込まれ、あーだこーだので奔走し、気づくといろいろ動き回ってしまう。それに、いつも腹ペコな仲間たちが怪物みたいに腹の虫を豪快に鳴らすおかげで、俺に休日はなかったりする。
街にいる時くらい外食で済ませてほしいのに、俺の作る飯のほうが美味いとかなんとかかんとかおだてやがって! せめて食材の下ごしらえくらい手伝えプニさん! 神様だからって供物を与えられるのが当然だと思うなよ!
俺の愚痴はともかくだ。
ベルカイムにあるギルド「エウロパ」からの依頼でグラン・リオ大陸の西にあるオゼリフ半島へと小人族のスッスの安否を確かめに行った俺たち「蒼黒の団」だったが、そこで暴走した古代狼という古代神のひと柱、オーゼリフに遭遇。
それであらまあ大変、なんとかしなくちゃねと地下墳墓から助っ人を召喚、偉そうな墓守リピと、ドラゴニュートの英雄二人、リンデとレザルのおかげでオーゼリフを宥めることに成功したのだ。
オーゼリフは雄々しい巨大狼からちっこい小型わんこに生まれ変わってしまったが、それはまあいいことよ。
それよりも、俺たちに最大の試練が待ち構えていたんだ。
いや、俺自身の試練と言ってもいいのかもしれない。
誰一人予想しなかった、予想すらできなかった、まさかの俺・誘拐★
はてさて、蒼黒の団はどうなることやら。
誘拐されてしまった俺の運命や如何に!
1 枯れた地と、乾燥肌に魔素不足
古代馬ホーヴヴァルプニルがふと感じたのは、風。
乾いた風。
頬を撫ぜるそれが、救いを求めていた。
古代馬であるホーヴヴァルプニルは神である。マデウスに生けるすべての馬を守護する、尊い神。
だが闘神のように牙を剥くことはない。ただそこにあるものを見守るだけの存在。
なんせ己は馬だ。馬の神。
馬は人に寄り添い人を慈しむ。
数百年ぶりに人の姿を借り、人の子と行動を共にするようになった。
金の人の子――ブロライトはよく笑い、よく食べる子であった。
蒼の人の子――クレイストンは気高い誇りを胸に抱き、弱き者を救う子であった。
そして黒の人の子――タケルは不思議な力を無限に持ち、目を見張るほど美味い飯を作る子であった。
ホーヴヴァルプニルは気に入っていた。数百年ぶりに人の子を愛しんだ。
他者に興味など持たなかった馬の神は、己に新たなる世界を見せる人の子たちを守護しようと決めた。
だがしかし――
「タケッ……ル! どうしたっ! 起きぬか!」
「なにをっ……我らに、なにを、したのじゃっ……!」
地べたに這いつくばり、蒼の人の子と金の人の子が苦しそうに呼ぶ。
漆黒の何かが空間の歪みより現れ、睡眠の魔法を唱えたのだ。
一瞬にしてその場にいた者たちは眠りに落ち、今はホーヴヴァルプニル、蒼の人の子、金の人の子しか抗っていない。
辺りを取り巻く魔素が濃いため、とてつもない強制力が働いている。抗うことで強烈な苦痛を覚えるというのに、蒼の人の子と金の人の子は必死で眠るまいと叫ぶ。
ホーヴヴァルプニルは闘神ではない。ゆえに、魔素の気配を感知することができてもそれを消すことはできないのだ。抗う術を知らないのだ。
漆黒の何かが昏倒してしまった黒の人の子に近づき、声を発する。
「貴様が魔を統べる者……」
黒の人の子は眠ったまま、漆黒の何かに襟首を掴まれた。
「ピュ……ピュピュ……」
今はまだ弱き竜――ビーは、力に抗おうと懸命に戦っていた。だがしかし、この力に抗うは無謀というもの。
この力は人知を超えた力。人の子が扱えるものではない。
「我が力に屈せぬとは、貴様は人ではないな」
漆黒の何かが言う。
身体を取り巻く力に抗えぬまま、ホーヴヴァルプニルはわずかに眉根を寄せた。
「人の子をどうするのです」
漆黒の何かに襟首を掴まれたままの黒の人の子は、深い深い眠りに落ちている。いくら膨大な魔力をその身に持ち、無尽蔵に扱うといってもやはり人の子。蒼の人の子と金の人の子がなんとか抗いえたのは、彼らが不意打ちに抗う術を持っていたからだろう。
「その者はわたくしが守護する人の子。お前にその意味がわかりますか」
古の時より生ける神、古代の名を持つ己の守護を抱く人の子。それを害しようというのなら、喧嘩を売られたのも同じである。
「我が尊き神に捧げるのだ。失われし安寧の時を取り戻すため」
漆黒の何かがそう言って術を唱えると、黒の人の子の身体がゆっくりと宙に浮かぶ。
これはいけない。このままではいけない。
心は強く叫ぶのに、ホーヴヴァルプニルは指一つ動かすことができない。
嫌な、力だ。
この力には覚えがある。
「古代竜……」
すべてを魅了し、すべてを従わせ、すべてを統べる存在。
ホーヴヴァルプニルの呟きは乾いた風に乗り、静かに消えた。
漆黒の何かが歪みの向こうに消え去るまで。
ただ見ているしかなかった。
+ + + + +
――おおっと? この展開は予想していなかったな
――言っておくが、僕ではないよ。お前の言う通り、僕は手を出してはいない
――ふうん。まったく信用できないけど、今回に限ってはそうなんだろうね。君がはるか昔に蒔いた種が、今頃芽吹いただけだろうよ
――どうなるのかな。面白いね
――楽しんでいるんじゃないよ。僕の加護があっても、あの地はいけない。あの地だけは、いけないのに
――見守るしかないのだろう?
――見守るしかないんだ
――見守ろう
+ + + + +
「ぶふぁああっ!!」
目を覚ましたら真っ暗で、顔面に何かがあって息苦しくて、手足をばたばたさせたらそれが地面ぽいものとわかり、えいやっと顔を上げた。
「ぺぺっ、なんだどうした! 何があってどうなったの!」
口に入った砂を吐き出しながらビーを探したが、いない。クレイも、いない。ブロライトも、いない。プニさん……いない。
スッスもオグル族のググも村の皆も、どこにもいない。
それどころか、ここはどこだ。緑あふれる優しい光が注ぐ森で「王様の眉」と呼ばれるオゼリフに自生する苔の採取予定だったのに、どういうことだ。
這いつくばって呆然と辺りを見回す俺の目には、緑が一切ない。乾いた風が乾いた草をいたずらに揺らす、枯渇した大地。ごつごつとした岩がどこまでも続く、不毛の土地。
「あいたたたた……こりゃどっかから落ちたな。腹が痛い」
ゆっくりと上体を起こすと、腹と膝に痛みを覚えた。強く打ちつけたか何かで、鈍い痛みが続く。
……おかしいな。俺の身体はやたらと頑丈だから、高いところから落ちたとしてもそれほど痛みを感じないはず。それなのに、こんなに痛みが続くなんて。
マデウスに来て初めてじゃないか? 何かの衝撃を受けたせいで、身体が痛くて動かすのが辛いだなんて。
灰色の分厚い雲が空を覆い、時折ごろごろと稲光をまとう。天気悪いな。雨が降るのか?
「ビー? おーい、ビー」
ぽっこりお腹の小さなドラゴンを呼ぶが、応えない。
どれだけ離れていようとも、どの方向にビーがいるのかはなんとなくわかるものだけど。
「クレーイ、おっさーん」
蒼い巨体の戦国武士、いつまでも寝ているなとすぐに頭を叩くくせに、あの鋼鉄の拳が飛んでこない。
「ブロライトー? カニ雑炊作るぞー」
やばい。来ないじゃないか。あの食いしん坊エルフ、この言葉で呼べば一瞬で駆けつけるはずなのに。
「プニさーん! サーペントウルフのスパイシーから揚げはどーうでーすかー!」
応えない。
どんな肉だろうとから揚げ大好きな馬の神様が、キノコグミもつけるのですよ、って言ってくれない。
どうしてだ。
どうして。
どうして、誰もいないんだ。
おかしい。明らかに、おかしい。それは理解している。何かが俺にあったか、皆に何かがあったか。
こんな時でも俺の恐怖耐性が――あんまり働いてくれないな。ただ、心臓がすっげぇばくばくいってる。ビーの親であるボルさんに逢った時以来の動揺だ。どういうこっちゃ。
誰もいなくて知らない場所で、たった独りで。
「おーいっ!」
俺の声に応える者は、ない。ただ赤茶けた岩の大地だけが、渇いた風を運ぶだけ。
乾いた風。
そうだ、何か嫌だなと思ったら、この場所が嫌なんだ。
なんて言えばいいんだ? ええっと、息苦しい……いや違うな。エルフの郷ほどの苦しさは感じない。あの時感じた猛烈な湿気はもうごめんだ。
「湿気……」
ふと口に出した言葉に頷く。
湿気だ。ここには湿気を感じられないんだ。
真冬の空気。数日間雨が降っていない、冬の空気。
寒くないけど、あんな感じ。乾燥しているんだ。
「俺が感じる湿気は、つまりが魔素濃度って言っていたな。魔素が濃いぶん、湿気も強く感じると」
濃すぎる魔素が身体に害を及ぼすということは知っている。逆に、魔素がないと生きていけないとも。
「えっ」
湿気を感じられない、ということは。
魔素が、ない??
「えっえっ」
魔素がないということは、俺って死ぬの? いやでも死ぬような苦しさはない。打ちつけた腹と膝はまだじんじんと痛むが、耐えられないわけではない。そのうち消える痛みだ。今すぐに死ぬってわけじゃないだろう。
俺の勘はとても良い。俺がそうじゃないだろうと思ったことは、大体当たる。
よし、落ち着け。今すぐ死ぬわけじゃない。魔素がないってのは驚きだが、ここはマデウス。灰色雲に見え隠れする太陽の影、あの太陽は土星型。空に鳥が一匹も飛んでいないのが気になる程度で、ここはマデウスだ。
「ふーーー……」
どんな時でも慌てるな。クレイが言っていた。慌てて行動しても、悪いほうへ転がるだけ。今すぐに危険が迫っているわけではないのなら、落ち着けと。
びっくりするほど魔素がない場所に転移したか、連れてこられたか。だけど連れてきた人はいない。俺ひとり。皆の安否が気になるが、逆に冒険者経験の浅い俺がいなくなったことのほうが、皆にとって不安だろう。
「そうだ、鞄っ……!」
なかったー!
ちょうど採取に行く用意をしていて、鞄の整理をしていたところだったー! 醤油が切れていたんだー!
「ええっと、ええっと、何か持っているもの、持っているもの」
ほぼすべてを鞄の中に入れて行動しているから、身に着けているものなんてわずか。
すぐに採取ができるよう、グルサス親方特製の採取道具は腰に装着していた。よし、ミスリル魔鉱石で造られたハサミをはじめ、採取道具は万全だ。
いつも着ているローブは……ビーの寝床にしたままだった。涙と鼻水と涎とあれこれで汚くなったローブを着たいとは思わないが、なければないで不安になる。あのローブは優秀だったからな。俺に暑さ寒さをあまり感じさせない、布団にもなるローブ。
ローブはない、と。
「ほかには何か……」
ズボンの後ろポケットに手を突っ込むと、手に当たる硬いもの。
それを掴んで取り出して、喜び勇んで見てみれば。
「これは…………なかったことに」
琥珀石の召喚媒体。
緑の精霊王を呼び出すための魔石だった。
鞄を整理していた時に、プニさんに甘いものが欲しいと強請られて鞄を探り、そういえば最近呼んでいないなとこの石を取り出したんだ。だけどプニさんが一瞬で不機嫌顔になったから、石を隠すためポケットにねじ込んで。
今の状況を説明してもらいたいけど、あれを呼ぶのもなあ。ちょっとなあ。いやだばかんこんなとこ嫌よぷんぷんっ、とか膨れそうで超めんどくさい。
暴れて怒る緑の魔人を想像し、知らずに笑っていた。
そうだ、俺はまだ笑える。
笑える余裕があるんだ。
それなら、きっと大丈夫。
周りに頼れる人は誰もいない。ずっとずっと一緒だった相棒すら、いない。
だけど俺は生きている。
マデウスに来た時に戻っただけだ。場所が違うだけ。鞄とローブがないだけ。
生きているのなら、生き続けないと。
「もーしもーしドーリュアースリベルアーリナー」
琥珀石に向かって小さな声で呼びかける。
限りなく小さな声で呼んでみるが、琥珀石はウンともスンとも言わない。いつもなら手にしただけで淡く光り、早く呼べと震えるのに。
緑の魔人も、呼べない。
何故かはわからないが、この乾いた大地と関連しているのかもしれない。緑がない場所になんか行きたくないわよぅ、とか言いそうだ。
それならポケットに戻すだけ。ただの石に用はない。
わずかな期待があったが、無理なら無理でいい。
さて、お次は。
――……もっと
初めて来た土地だな。なんていうところなんだろう。
そもそもここはアルツェリオ王国内なんだろうか。なんだか空気が違う気がするんだよな。
―――……もっと、よこせ
あれだな。外国の空気を吸ったような気分だ。
海外旅行で飛行機を降りて、空港内で感じたエキゾチックな匂い。肌で感じる、異国情緒。
俺はなんらかの事情で連れてこられたんだな。もしかしたら蒼黒の団全員がバラバラになっているかもしれないが、個々がありえないくらい強いし、サバイバル知識も豊富だ。なんとかなるだろう。
あ!
そうだそうだ!
気づくのが遅かった!
偉大なる探査先生と調査先生にお尋ねすればいいんだった!
いやだなー、なんですぐに気がつかないのかなー、あははー。
「さーてさてさて、いきますよー」
独りになると独り言が増えるが、それは致し方ない。寂しさを紛らわすためなんだから仕方がない。
まずはこの場所を知ろう。特定のものを調査して、それがどこ産になるのか調べればいいんだ。メイドイン何某がわかれば、今いる場所がわかる。
魔力を高めるユグドラシルの杖すらないが、まあいけるだろう。
「そこらへんの岩でいいか。先生、この岩はどこ産ですか。調……ッ」
目の前の岩を目掛けて意識を集中すると、身体じゅうからごっそりと何かが抜け出た。
「うあっ? んごふっ! 痛っ!」
膝から力が抜け落ち、地面に顔面が叩きつけられる。
柔らかな砂地だったから良かったものの、尖った岩の上だったら俺死んでたよ!
それよりなにこれなにこれ、意味がわからない。調査しただけで、全身の魔素が流れ出た!
魔素の流れくらいわかる。俺の血みたいなもんだからな。それが、ぶわっと吸い出されたような。
【トロブセラ溶岩石 ランクF】
トロブセラ火山が噴火したさい飛び出た溶岩。建築素材として使われることがある。聖なる山の血潮とも呼ばれ、魔族にとっては有難い代物。
はいー?
いやいやいやいや、これが溶岩だってことはわかるんだよ! 特徴のあるぽつぽつした赤茶色の岩は、富士山の樹海でよく目にした岩。
分厚い雲に隠れてはいるが、きっと俺の真後ろにあるだろう山が過去に噴火した証。あの山がトロブセラって呼ばれている山なんだな。うんうん。だけど、トロブセラってどこ地方にある山よ!
そんなことよりも!
「ま、ぞく……?」
喋るのも億劫だな。仕事で多忙を極めた年末、三日間徹夜した日の夕方くらいの気だるさがある。頭がクラクラして、一歩も動きたくなくて、だけど洗濯をしないと明日穿くぱんつがない、って日。
岩を調べても場所まではわからないのか。それじゃあ、トロブセラはどこにある山なんですか、って聞かないと。
調査だけでこんなにフラフラになるってことは、やっぱりここら辺には魔素がないということだな。俺自身が蓄えていた魔素がごっそり持っていかれた感覚。ビーの卵を孵化させた時の、あの感覚だ。やだこれ。
魔族って。
魔族って何。
魔族って、まさか魔族? いや魔族がなんなのかよくわかんないんだけど。
魔族って確か、うすらぼんやりと覚えている俺の記憶の彼方によると、確か……北の、ナントカ大陸に住んでいるという?
俺の背中に更なる冷や汗がだらりと流れるのを感じると、髪の毛がもさもさと動き出した。
この感覚は虫か?? 大型ナメクジは平気だが、昆虫は苦手なんだよ。
「くっそ……こんな、時にっ……」
重い腕を上げ、髪を手で払おうとしたら。
「おうっ、おうおうっ、早いところ起きやがれっ」
甲高い声が聞こえた。
「えっ?」
独りなのが心細くて、とうとう幻聴がしはじめたのかなと目をぎゅっと瞑り、ばちっと開く。
「おもてーんだよっ! テメーの頭っ!」
幻聴じゃない。確かに聞こえる。
俺の、頭の、髪の毛の中から。
どうしよう、俺の魂が抜け出て具現化して多重人格はじめました、みたいなことになっていたら。トンデモマデウスなんでもアリだこのやろう。
震える手で頭に触れ、恐る恐る髪の毛を掻き分け――
指先に触れる何か。
その何かはとても冷たくて、硬くて。
「強く掴むなよ! いいな!」
甲高い声がそう叫びながら、俺の、指を、掴み??
俺は、どういうことなのと硬いそれを手のひらに収め、それを眼前に。
「ぷはあっ! やっと話せるぜ!」
俺の手のひらの中にあったものは、鋼鉄のイモムシ。
ちっちゃな手足がついた、大きな目が特徴の。
地下墳墓で留守番をしているはずの、リザードマンの英雄の。
「おうタケルッ! 元気か?」
ヘスタス・ベイルーユの仮の姿――
手のひらに乗る大きさのイモムシには、小さな手足がついている。いくつかの珍しい魔鉱石と魔素水をブレンドさせ加工した特別製のイモムシ。
俺が地下墳墓で強制労働……じゃない、善意の協力のもと機械人形を修復した時のこと。
伝説のドラゴニュートであるリンデルートヴァウムの身体を徹底的に直したさい、墓守であるリピルガンデ・ララに他の壊れた機械人形たちも全部直してくれ、直せるんでしょアンタなら、ほら直しなさいよ早くと頼まれ、全力を出して直してやったのだ。
まずは機械人形の核であるイモムシ電池――俺は鋼鉄イモムシと呼んでいる――を改良。より魔素を取り込み蓄積できるよう、ミスリル魔鉱石と各種鉱石で補強し、本体である機械人形には宝物庫に転がっていた貴重な鉱石らを使い、魔素水をぶちまけて柔軟かつ頑丈に仕上げた。
機械人形は定期的に充電のようなものをし、数時間動かずじっとしていなければならないのだが、急襲されたらどうすんだろと考え、思いついたのが魔素を自動で吸収するこの鋼鉄イモムシだ。しかも省エネ。ほんのわずかな魔素でも吸収して動けるようになれば、鋼鉄イモムシだけでも逃げることができる。
機械人形の核は何よりも大切にしなくてはならない。魂そのものなのだから。そこんところが一番大事なんだからね、と。何故かリピに怒鳴られながら作業したよいおもいで。
応援ありがとうございます!
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