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12巻
12-3
「ピュイ」
「うう……わかったよ、起きるよ。でも朝飯を食べるのは太陽が昇ったあとだからな」
ビーは早朝だろうが元気いっぱいに部屋を飛び回る。ビーはもっと寝坊助だったのに、俺が重傷を負ってからグズグズしなくなってしまった。大人の階段を上っているのかしら。反抗期は来ないでくれ。
トルミ村で俺が寝起きしているのは、蒼黒の団の拠点である巨大家屋の一室。小高い丘に建てられたこの屋敷は、エルフ族が建ててくれたエルフ族様式の建築法を基礎とし、増築に増築を重ねた。
現在の外観は俺がリクエストした日本の城、小田原城の天守閣を想像していただきたい。とっても、目立つ。
二階部分に俺とブロライトとスッスの私室があるため、村の全景が一望できる見晴らしなのだ。
それぞれの私室にはベッドと机と椅子、造り付けのクローゼットと棚、トイレと簡易キッチンが備わっている。
俺の部屋の棚にはご当地土産物雑貨コレクション。王都で購入したものや、小人族やオグル族に貰った民芸品、ユグルの戦士ググに貰ったでっかい黄色の宝石などを飾った。
一階部分には土足で入れるクレイの私室と、プニさんの納屋。土足禁止のだだっ広い畳の座敷。畳はほんのりと麦茶の香り。
座敷には囲炉裏があって、ここは村の憩いの場所。一階部分は村の共用スペースにしているため、早朝だろうが深夜だろうが誰かしら滞在している。
最近は鍛冶職人のグルサス親方と雑貨屋店主のジェロム、トルミ村に定住した商人のコルウスのたまり場にもなっていた。主に、酒場が閉店したあとの飲む場として。
地下には広大な地下室があり、転移門がずらりと並んでいる。この地下室から村の端にある食糧庫、そして村人全員を収容できる避難壕へと繋がっているのだ。
「ふああぁぁぁ……まだ眠い」
「ピュイ」
「急ぎたいのはわかるけどさ、だったらボルさんのところに泊まってくれば」
「ピュイピュー!」
「いたっ、痛っ、こら爪切るぞ!」
それは駄目なんだと怒るビーの爪が、寝起きの俺の頭皮を刺激する。刺激どころじゃなくて立派な攻撃なのだが、俺の頭皮は頑丈です。
ビーは朝から晩までビーの親であるボルさん――東の大陸の守護神であり古代竜でもあるヴォルディアスの元へ通っている。
ボルさんのところで何をやっているかは知らないが、古代竜として強くなるために何かをしているらしい。今より成長するための修業をしているが、まったく想像がつかない。
ビーだけではない。クレイ、ブロライト、スッスもそれぞれいない。
プニさんはガレウス湖に帰省中。リベルアリナは北の大陸からまだ戻っていない。
クレイはリザードマンの英雄たちが眠る地下墳墓へ行き、機械人形軍団相手に鍛錬中。
ブロライトはエルフの郷へ帰り、冒険者ランクSのエルフたちを相手に武者修行中。
スッスは故郷のオゼリフ半島に帰り、小人族とオグル相手に技能を磨く訓練中。
彼らは俺が重傷を負ったあの経験が忘れられなく、それぞれ思うことがあったらしい。
常闇のモンスターらとの戦いは俺だけでなく、あの戦いを経験した全員の心的外傷になって今も残っている。
気にしなくていい、なんて俺も気安く言えなかった。頭半分ちぎれた俺の姿なんて、きっと目を覆いたくなるほどグロかった。
だけど彼らは目を逸らさず、懸命に看病をしてくれた。
クレイとブロライトは今よりも強くならねばなるまいと、鍛錬に励むことにしたのだ。今でもじゅうぶん強いんだけども、物足りないらしい。
スッスは蒼黒の団に入ったのだから無様な真似はできないっす! と息巻いて、戦闘民族であるオグルに戦い方を学びに行った。小人族には隠密技能の向上を手伝ってもらい、秘伝の調理法を教えてもらうとか。
それぞれの種族の鍛錬は、それぞれの種族にいる専門家に任せた。俺は俺でトルミ村に残り、開拓の手伝いと魔法の勉強をしている。
「ピュイーッ!」
「はいはい、おはようさん」
魔素水をスープマグ一杯飲み干したビーは、元気よく挨拶をした。
+ + + + +
村の共有食堂で朝食を済ませた俺は、ビーに空間術を施した巾着袋を持たせる。
肩掛け紐がついた小さな巾着袋なんだけども、この巾着袋の中には六畳ほどの空間が広がっているのだ。
俺が最近会得した空間術の一つ、アイテムボックス。
まだ最高で八畳くらいまでしか造れないのだが、それでも重さの変わらない小さな袋にあれこれ入れられるのは便利。時間停止の魔法はまだ勉強中。
今のところ六畳サイズの巾着袋はビー、クレイ、ブロライト、スッスの四人が持っている。
八畳サイズの巾着袋はジェロムに押し付けた。倉庫の代わりにしてくれと言ったら、だからお前はそうやって貴重なものをホイホイとだなあ、なんて愚痴りながら大事そうに受け取ってくれた。ツンデレめ。
アイテムボックスが造れる錬金術師は王都にも数人存在する。しかし、造れても最大が四畳くらいのサイズ。そもそも時間停止機能が備わっているアイテムボックスは、俺の鞄以外には存在しない。
空間拡張の魔法には数千万レイブの価値がある。いくら能天気な俺でもアイテムボックスの貴重さはわかるつもりだ。こっそり造ればいい。
ビーの巾着袋の中にはお昼ごはんが入っている。最近のビーは以前にも増してよく食べるようになり、米で例えれば一食十キロは平気で食べる。肉も野菜も魚も、好き嫌いせずに何でも食べる。そのちっこい身体のどこに吸い込まれているのか知らないが、やたらと食べるようになったのだ。
緑の精霊王の恩恵で農作物がもりもり育つようになったトルミ村にて食料に困ることはない。俺は共有食堂の女将に頼み、ビーの昼飯を作ってもらうようにしたのだ。
一回三千レイブを支払うと言ったら、女将は旦那と息子を巻き込み、食堂で雇っている料理人たちと、ついでに友人の主婦たちまでも巻き込んだようで。
巾着袋には冷えても美味しく食べられる料理がたっぷり。
「それじゃあ気をつけて行ってこい」
「ピュイッ!」
両手を上げて返事をしたビーは、あっという間に空の彼方へ。
ボルさんのところに通うようになってから、日に日に飛ぶ速さが増していく。どんな修業をしているのか、膝を擦りむいて帰ってきたこともあった。
子供とはいえ、古代竜の鱗を傷つけるモンスターが存在するのかと恐怖したが、モンスター相手に怪我を負ったわけではないらしく。
細かいことは教えてくれないんだよな。
ずっこけて擦りむいたならいいけど、何か危ないことをしていないだろうな。
「あああ、やだ、ビーちゃんもう行っちゃったの?」
食堂から走って出てきたのは、宿屋の娘エリィ。共有食堂を手伝っている。
初めて会った時よりも背が高くなり、長く伸びた髪を後ろで一つに結んでいた。
エプロンで手を拭いながら空を見上げたエリィは、また見送れなかったと悔しがった。
「今出かけたところだよ」
「残念っ! 行ってらっしゃいって言いたかったのに」
「アイツ、張りきっているんだよ。昨日なんて暗いうちに出ようとしたんだ。食堂は閉まっているのに」
「まだ朝ごはんを食べられないって言ったんでしょう?」
「そのとおり」
「うふふふっ、ビーちゃんのお願いならいくらでも早起きするのに」
いや、ゆっくり寝てくださいお願いだから。
「そうだ、タケルさんお昼はどうするの?」
「今日は街道整備の続きだから、弁当を頼むよ」
「わかったわ。おにぎりと、卵と、他に何が食べたい?」
「ゴボウと肉の佃煮と青菜の炒め物……さっき食べた干物はどうでしょう」
俺が昼食の献立を言うと、エリィは首からぶら下げていたメモ帳に書きとめる。
何が食べたい? と聞かれ、何でもいい、と答えるヤツは作る人間の手間を考えていないのだ。
前世で同僚だったカワシマくん、そう言って奥さんに叱られたのだと嘆いていたっけ。ちなみに奥さんに何が食べたい? と聞かれて「簡単に冷やし中華でいいよ」と言ったら物理で殴られたそうだ。カワシマくん、冷やし中華は手間がかかる料理なんだよバカタレ。
そんな前世の経験を活かし、俺は何が食べたい? と聞かれたら、具体的に食べたいものを無理のない範囲で言うようにしている。
「あおな、の、いためもの、ひ、も、の。お茶はクク茶? おやつにマヌケスがあるわ」
「ああマヌケス。美味しいよねあれ。それじゃあ、それも頼もうかな」
「くく、ちゃ、まぬ、けす……よし、書けたわ!」
たっぷり時間はかかったが、エリィは俺のリクエストを全て書きとめたらしい。
「字を書くのは楽しい?」
「ええとっても! タケルさんがくれたメモ帳、もう最後まで書いちゃったのよ。これはジェロムさんから買った新しいの」
「表紙が可愛いね」
「うふふっ、エメラちゃんと、アウローラちゃんとお揃いなのよ。ドリュアス様のお花を押し花にしてみたの」
「ドリュッ……そう、きれいにつくれたねー」
「ありがとう!」
弾けるような笑顔を見せてくれたエリィは、真新しいメモ帳を胸に抱いたまま食堂へ戻っていった。
エリィが持っていたメモ帳は、俺がジェロムに頼んで作ってもらったもの。文字を覚えた人たちにプレゼントしているのだ。
トルミ村には学校がある。もともとは識字率を上げるためにクレイが提案したものなのだが、これがすこぶる評判がいい。
文字や計算を学んだり、礼儀作法や言葉遣い、最近では接客なんかも教えているらしい。
学校を利用するのは子供だけではなく、文字を読めない大人や礼儀作法を知りたい大人たちも利用している。
紙はまだまだ貴重なものだが、王都で紙を大量に仕入れることで多少値引きしてもらい、メモ帳製作は手先が器用な人たちに任せ、ジェロムの雑貨屋で扱うことにした。諸経費は全部俺持ち。先行投資ってやつだ。
一冊百レイブ。十枚程度の紙の束だが、これでも破格の値段設定。王都ではたった十枚の紙の束が五千レイブで売られている。
子供たちは大人の手伝いをし、小遣いをもらい、そのお金でメモ帳を買う。
ジェロムにはメモ帳を売るにあたり、条件をつけさせてもらった。
メモ帳は一人で買いに来ること。メモ帳を買うお金はぴったり百レイブであること。子供たちには、メモ帳の表紙に自分で名前を書くことと、メモ帳は大切に扱うことを忠告してもらう。
意地悪で誰かのメモ帳を取り上げたり隠したりすると、メモ帳は二度とあげないし売らない。
そうやって「買い物をする」ことを覚えさせ、貨幣とその価値を覚えさせるのだ。
メモをとることで忘れ物が減り、文字を書くことに慣れる。書ければ読める。文字が読めれば本や専門書などに興味が湧くだろう。
本が読めれば世界が広がる。辺境の田舎村にいながら、広い世界を垣間見ることができるのだ。勇猛果敢な騎士の物語も読めるだろう。王宮に住むお姫様の日常も知れるだろう。
世界が広がれば選択肢が広がる。いつか村を出る者もいるかもしれない。だが、それは決して間違った選択ではない。
才能のある者がその才能を活かせる世界で活躍する。そんな理想的な未来を描いてほしい。
メモ帳を手にした皆は宝物のように扱ってくれた。コポルタたちもカルフェ語を書けるようになるのだと張りきり、コタロとモモタは俺の部屋の扉に俺の名前を書いてくれた。書くというより扉に爪ででっかく名前を彫ってくれた。スッスの名前が一番簡単だったらしい。
「タケル殿、今朝もお早いようで」
俺が感慨深くメモ帳に思いを馳せていると、ネフェルが声をかけてきた。
早朝だろうとピッシリとした姿勢で丁寧に頭を下げてくれたネフェルは、やはり元とはいえ貴族の貫禄がある。
「おはよう、爺さん。ビーに叩き起こされたんだよ」
「ははははっ、それは起きなければならなかったわけですな」
「もうちょっと寝ていたかった……」
ネフェルが遠慮なく笑うと、ネフェルの護衛たちの口角が上がった。
ネフェルの背後にはユグルの翼の護衛戦士が二人。基本的に無口だが、表情は豊かだ。
右側にいるのが白髪のレンシスで、美形。左側にいるのが黒髪のジアンで、美形。ユグルは基本が美形です。
前王の妃を殺害し、爵位を剥奪された大罪人であるネフェルだが、それでも彼を慕ってついてきた元王宮騎士たちだ。トルミ村で護衛なんていらないんだけど、それでも付き従いたいと彼らは言い、ネフェルも望むままにさせているそうだ。
ユグル族の王に仕えていた執務官としての経験を活かし、ネフェルはトルミ村のご意見番のようなことをしている。学校で礼儀作法を教えてくれているのもネフェル。村長とは茶飲み友達。
「まだあの子は目覚めないようだ」
僅かに愁いの表情を見せたネフェルは、宿屋の三階を見上げた。
角の部屋で眠り続けている存在を案じているのだ。
「交代で看病してもらっているけど、まだ」
「そうか。早く元気な姿を見せてもらいたいものだな」
俺は頷くと、三階の角部屋を見上げた。
あの部屋には今、子供がいる。
翼の折れた有翼人種の子供。
幻の天空都市。キヴォトス・デルブロン王国の住人。
突然レインボーシープの小屋に落っこちてきて、ずっと眠ったままなのだ。
どこから落ちてきたのかわからず、ひとまず村で預かることにしたんだけども。
調査で身体の状況を診たら、なんと鑑定不能。子供の魔力量が俺の魔力を凌駕しているわけではないのに、子供の名前も身体の症状もわからなかったのだ。
調査で詳しいことがわからなければ、完全回復薬や魔素水を与えるわけにはいかない。急性魔素中毒に陥るのが怖いため、回復術をかけるのもためらわれた。
おまけにビーが興味本位で子供の翼に触れようとしたら、弾かれたのだ。古代竜の子供であるビーを弾いたのだ。まるで何人たりとも触れるなと拒絶するように。
眠り続ける子供の名前はわからないままなので、皆「あの子」とか「翼の子」と呼んでいる。
神秘のエルフ族すらその存在を忘れかけていた有翼人。古代マデウスで失われたとされた、希少種。
そんな種族の子供が落ちてきたなんて。
子供は昏々と眠っているだけ。水も食べ物も受け付けないのに、痩せることもなく姿はそのまま。美しい純白の翼は片方折れ曲がり、風切り羽根は左右ともに失われていた。
このままでは思うように飛べないでしょう――と、プニさんは哀しそうに呟いた。
「急変したら通信石で俺を呼んで。何ができるかはわからないけど、最悪の場合は炎神を頼る」
「恐れ多いことではあるが、我が尊き神のお言葉をいただく使命は、是非とも我に」
俺の提案に食い気味に立候補したネフェルと、繰り返し深く頷く護衛二人。
最悪の場合になんてならないことを祈るが、未知の種族が相手なのだから念入りに。
ネフェルたち三人を連れ立って向かった先は、村の外に停められた馬車。
馬車は六台。どの馬車にも数人が集い、朝の挨拶や世間話をしている。
もともとのトルミ村の住人が数人と、大きな木づちを背負ったドワーフとリザードマンと獣人がたくさん。護衛のためのエルフが数人と、ユグルが数人。落ち着きなく尻尾を振っているコポルタたち。
「タケル! 何をしていたのだ! 遅いぞ!」
「遅いのだぞ!」
今朝も可愛い王子様たちが、俺の足にしがみついてきた。
すっかりトルミ村に馴染んだ、コタロとモモタだ。
この二人は相変わらずいつも一緒にいる。これでも四六時中俺の傍から離れないということはなくなった。
たまに俺の布団にもぐりこむこともあるが、それは怖さや寂しさからではない。ビーに牽制しているらしいが、ただ俺の布団がでかくて暖かいからだろう。
「遅くはないだろうよ。皆が早いんだ」
なんでこんなに朝からやる気に溢れているの。
これから俺たちが向かう先は、ベラキア大平原に続く街道。山あり川ありの道程だが、でこぼこした砂利道や登山道の整備をする。今日で五日目になるが、なかなか良いペースで整備ができていると思う。
ベルカイムへ続く街道ではなく真反対の道を整備するのは、トルミ村の北西に位置する場所にあるベラキア大平原を開墾し、新たなる村を造る計画があるため。
トルミ村までの街道をドルト街道と呼ぶのだが、新たに造られる街道はトルミ街道と呼ばれるらしい。
「お昼は何なのだ? 何を頼んだ」
「おにぎりある?」
「干物はあるか」
「卵はあるか」
コタロとモモタに続いてお弁当のおかずを聞いてきたのは、ドワーフのアゲートとゴームだ。
ぶっちゃけどっちがアゲートでどっちがゴームなのか、一目ではわからない。二人ともヒゲもじゃで小太りで、同じような格好をしているのだ。ドワーフ全般が同じような見た目なのだけども。
二人は兄弟で、グルサス親方の従兄弟。ドワーフの国であるヴォズラオからグルサス親方を頼ってやってきた。
ドワーフなのに鍛冶が得意ではなく、戦士として戦うことが得意であり、生活魔法も扱える。ベルカイムで親方に用心棒として雇ってもらおうとしたら、親方はトルミ村に移住していた。
それで兄弟ははるばるトルミ村までやってきて、酒と飯が美味いからとそのまま移住。それぞれ冒険者ランクはAというのだから、その腕っぷしは折り紙付き。
「皆には別に昼飯が出るだろう? 俺の弁当を狙うな」
弁当を入れてある鞄を背に隠すが、ドワーフ兄弟と豆柴兄弟は俺の背後に回って鼻をクンクン。鼻を利かせても匂いはしませんよ。
「お前の弁当は汁物だけじゃねぇだろう?」
「そうだそうだ。握り飯に卵をぶっかけたやつ、アレがいい」
街道整備隊には昼飯が出る。俺の鞄に保存された、温かい野菜スープや焼肉丼、おやつに大判焼きもあるのだ。
俺の鞄は時間停止機能があるから、いつでも出来立てほやほや。美味しい昼飯が食べられるというのに、この兄弟は俺の特製弁当を狙う。
皆が腹いっぱい昼飯を食べても、俺は足りないのだ。それはもちろんご相伴に与かりたがる連中がもふもふいるせいで、弁当を用意しているとも言うのだが。
「ラトト鳥の卵はまだまだ貴重なんだからな。俺の卵かけ握り飯は絶対に譲らない」
「タケル、ひとくち食べたいのだ」
「食べたい」
「あげちゃう」
上目遣いで哀しそうに言うんじゃないよ何でも言うこと聞いちゃうだろうが。
ドワーフ兄弟の、ずるいぞ俺らにも食わせろという抗議を無視し、俺はまとわりつく豆柴兄弟を背負って馬車に乗り込んだ。
「うう……わかったよ、起きるよ。でも朝飯を食べるのは太陽が昇ったあとだからな」
ビーは早朝だろうが元気いっぱいに部屋を飛び回る。ビーはもっと寝坊助だったのに、俺が重傷を負ってからグズグズしなくなってしまった。大人の階段を上っているのかしら。反抗期は来ないでくれ。
トルミ村で俺が寝起きしているのは、蒼黒の団の拠点である巨大家屋の一室。小高い丘に建てられたこの屋敷は、エルフ族が建ててくれたエルフ族様式の建築法を基礎とし、増築に増築を重ねた。
現在の外観は俺がリクエストした日本の城、小田原城の天守閣を想像していただきたい。とっても、目立つ。
二階部分に俺とブロライトとスッスの私室があるため、村の全景が一望できる見晴らしなのだ。
それぞれの私室にはベッドと机と椅子、造り付けのクローゼットと棚、トイレと簡易キッチンが備わっている。
俺の部屋の棚にはご当地土産物雑貨コレクション。王都で購入したものや、小人族やオグル族に貰った民芸品、ユグルの戦士ググに貰ったでっかい黄色の宝石などを飾った。
一階部分には土足で入れるクレイの私室と、プニさんの納屋。土足禁止のだだっ広い畳の座敷。畳はほんのりと麦茶の香り。
座敷には囲炉裏があって、ここは村の憩いの場所。一階部分は村の共用スペースにしているため、早朝だろうが深夜だろうが誰かしら滞在している。
最近は鍛冶職人のグルサス親方と雑貨屋店主のジェロム、トルミ村に定住した商人のコルウスのたまり場にもなっていた。主に、酒場が閉店したあとの飲む場として。
地下には広大な地下室があり、転移門がずらりと並んでいる。この地下室から村の端にある食糧庫、そして村人全員を収容できる避難壕へと繋がっているのだ。
「ふああぁぁぁ……まだ眠い」
「ピュイ」
「急ぎたいのはわかるけどさ、だったらボルさんのところに泊まってくれば」
「ピュイピュー!」
「いたっ、痛っ、こら爪切るぞ!」
それは駄目なんだと怒るビーの爪が、寝起きの俺の頭皮を刺激する。刺激どころじゃなくて立派な攻撃なのだが、俺の頭皮は頑丈です。
ビーは朝から晩までビーの親であるボルさん――東の大陸の守護神であり古代竜でもあるヴォルディアスの元へ通っている。
ボルさんのところで何をやっているかは知らないが、古代竜として強くなるために何かをしているらしい。今より成長するための修業をしているが、まったく想像がつかない。
ビーだけではない。クレイ、ブロライト、スッスもそれぞれいない。
プニさんはガレウス湖に帰省中。リベルアリナは北の大陸からまだ戻っていない。
クレイはリザードマンの英雄たちが眠る地下墳墓へ行き、機械人形軍団相手に鍛錬中。
ブロライトはエルフの郷へ帰り、冒険者ランクSのエルフたちを相手に武者修行中。
スッスは故郷のオゼリフ半島に帰り、小人族とオグル相手に技能を磨く訓練中。
彼らは俺が重傷を負ったあの経験が忘れられなく、それぞれ思うことがあったらしい。
常闇のモンスターらとの戦いは俺だけでなく、あの戦いを経験した全員の心的外傷になって今も残っている。
気にしなくていい、なんて俺も気安く言えなかった。頭半分ちぎれた俺の姿なんて、きっと目を覆いたくなるほどグロかった。
だけど彼らは目を逸らさず、懸命に看病をしてくれた。
クレイとブロライトは今よりも強くならねばなるまいと、鍛錬に励むことにしたのだ。今でもじゅうぶん強いんだけども、物足りないらしい。
スッスは蒼黒の団に入ったのだから無様な真似はできないっす! と息巻いて、戦闘民族であるオグルに戦い方を学びに行った。小人族には隠密技能の向上を手伝ってもらい、秘伝の調理法を教えてもらうとか。
それぞれの種族の鍛錬は、それぞれの種族にいる専門家に任せた。俺は俺でトルミ村に残り、開拓の手伝いと魔法の勉強をしている。
「ピュイーッ!」
「はいはい、おはようさん」
魔素水をスープマグ一杯飲み干したビーは、元気よく挨拶をした。
+ + + + +
村の共有食堂で朝食を済ませた俺は、ビーに空間術を施した巾着袋を持たせる。
肩掛け紐がついた小さな巾着袋なんだけども、この巾着袋の中には六畳ほどの空間が広がっているのだ。
俺が最近会得した空間術の一つ、アイテムボックス。
まだ最高で八畳くらいまでしか造れないのだが、それでも重さの変わらない小さな袋にあれこれ入れられるのは便利。時間停止の魔法はまだ勉強中。
今のところ六畳サイズの巾着袋はビー、クレイ、ブロライト、スッスの四人が持っている。
八畳サイズの巾着袋はジェロムに押し付けた。倉庫の代わりにしてくれと言ったら、だからお前はそうやって貴重なものをホイホイとだなあ、なんて愚痴りながら大事そうに受け取ってくれた。ツンデレめ。
アイテムボックスが造れる錬金術師は王都にも数人存在する。しかし、造れても最大が四畳くらいのサイズ。そもそも時間停止機能が備わっているアイテムボックスは、俺の鞄以外には存在しない。
空間拡張の魔法には数千万レイブの価値がある。いくら能天気な俺でもアイテムボックスの貴重さはわかるつもりだ。こっそり造ればいい。
ビーの巾着袋の中にはお昼ごはんが入っている。最近のビーは以前にも増してよく食べるようになり、米で例えれば一食十キロは平気で食べる。肉も野菜も魚も、好き嫌いせずに何でも食べる。そのちっこい身体のどこに吸い込まれているのか知らないが、やたらと食べるようになったのだ。
緑の精霊王の恩恵で農作物がもりもり育つようになったトルミ村にて食料に困ることはない。俺は共有食堂の女将に頼み、ビーの昼飯を作ってもらうようにしたのだ。
一回三千レイブを支払うと言ったら、女将は旦那と息子を巻き込み、食堂で雇っている料理人たちと、ついでに友人の主婦たちまでも巻き込んだようで。
巾着袋には冷えても美味しく食べられる料理がたっぷり。
「それじゃあ気をつけて行ってこい」
「ピュイッ!」
両手を上げて返事をしたビーは、あっという間に空の彼方へ。
ボルさんのところに通うようになってから、日に日に飛ぶ速さが増していく。どんな修業をしているのか、膝を擦りむいて帰ってきたこともあった。
子供とはいえ、古代竜の鱗を傷つけるモンスターが存在するのかと恐怖したが、モンスター相手に怪我を負ったわけではないらしく。
細かいことは教えてくれないんだよな。
ずっこけて擦りむいたならいいけど、何か危ないことをしていないだろうな。
「あああ、やだ、ビーちゃんもう行っちゃったの?」
食堂から走って出てきたのは、宿屋の娘エリィ。共有食堂を手伝っている。
初めて会った時よりも背が高くなり、長く伸びた髪を後ろで一つに結んでいた。
エプロンで手を拭いながら空を見上げたエリィは、また見送れなかったと悔しがった。
「今出かけたところだよ」
「残念っ! 行ってらっしゃいって言いたかったのに」
「アイツ、張りきっているんだよ。昨日なんて暗いうちに出ようとしたんだ。食堂は閉まっているのに」
「まだ朝ごはんを食べられないって言ったんでしょう?」
「そのとおり」
「うふふふっ、ビーちゃんのお願いならいくらでも早起きするのに」
いや、ゆっくり寝てくださいお願いだから。
「そうだ、タケルさんお昼はどうするの?」
「今日は街道整備の続きだから、弁当を頼むよ」
「わかったわ。おにぎりと、卵と、他に何が食べたい?」
「ゴボウと肉の佃煮と青菜の炒め物……さっき食べた干物はどうでしょう」
俺が昼食の献立を言うと、エリィは首からぶら下げていたメモ帳に書きとめる。
何が食べたい? と聞かれ、何でもいい、と答えるヤツは作る人間の手間を考えていないのだ。
前世で同僚だったカワシマくん、そう言って奥さんに叱られたのだと嘆いていたっけ。ちなみに奥さんに何が食べたい? と聞かれて「簡単に冷やし中華でいいよ」と言ったら物理で殴られたそうだ。カワシマくん、冷やし中華は手間がかかる料理なんだよバカタレ。
そんな前世の経験を活かし、俺は何が食べたい? と聞かれたら、具体的に食べたいものを無理のない範囲で言うようにしている。
「あおな、の、いためもの、ひ、も、の。お茶はクク茶? おやつにマヌケスがあるわ」
「ああマヌケス。美味しいよねあれ。それじゃあ、それも頼もうかな」
「くく、ちゃ、まぬ、けす……よし、書けたわ!」
たっぷり時間はかかったが、エリィは俺のリクエストを全て書きとめたらしい。
「字を書くのは楽しい?」
「ええとっても! タケルさんがくれたメモ帳、もう最後まで書いちゃったのよ。これはジェロムさんから買った新しいの」
「表紙が可愛いね」
「うふふっ、エメラちゃんと、アウローラちゃんとお揃いなのよ。ドリュアス様のお花を押し花にしてみたの」
「ドリュッ……そう、きれいにつくれたねー」
「ありがとう!」
弾けるような笑顔を見せてくれたエリィは、真新しいメモ帳を胸に抱いたまま食堂へ戻っていった。
エリィが持っていたメモ帳は、俺がジェロムに頼んで作ってもらったもの。文字を覚えた人たちにプレゼントしているのだ。
トルミ村には学校がある。もともとは識字率を上げるためにクレイが提案したものなのだが、これがすこぶる評判がいい。
文字や計算を学んだり、礼儀作法や言葉遣い、最近では接客なんかも教えているらしい。
学校を利用するのは子供だけではなく、文字を読めない大人や礼儀作法を知りたい大人たちも利用している。
紙はまだまだ貴重なものだが、王都で紙を大量に仕入れることで多少値引きしてもらい、メモ帳製作は手先が器用な人たちに任せ、ジェロムの雑貨屋で扱うことにした。諸経費は全部俺持ち。先行投資ってやつだ。
一冊百レイブ。十枚程度の紙の束だが、これでも破格の値段設定。王都ではたった十枚の紙の束が五千レイブで売られている。
子供たちは大人の手伝いをし、小遣いをもらい、そのお金でメモ帳を買う。
ジェロムにはメモ帳を売るにあたり、条件をつけさせてもらった。
メモ帳は一人で買いに来ること。メモ帳を買うお金はぴったり百レイブであること。子供たちには、メモ帳の表紙に自分で名前を書くことと、メモ帳は大切に扱うことを忠告してもらう。
意地悪で誰かのメモ帳を取り上げたり隠したりすると、メモ帳は二度とあげないし売らない。
そうやって「買い物をする」ことを覚えさせ、貨幣とその価値を覚えさせるのだ。
メモをとることで忘れ物が減り、文字を書くことに慣れる。書ければ読める。文字が読めれば本や専門書などに興味が湧くだろう。
本が読めれば世界が広がる。辺境の田舎村にいながら、広い世界を垣間見ることができるのだ。勇猛果敢な騎士の物語も読めるだろう。王宮に住むお姫様の日常も知れるだろう。
世界が広がれば選択肢が広がる。いつか村を出る者もいるかもしれない。だが、それは決して間違った選択ではない。
才能のある者がその才能を活かせる世界で活躍する。そんな理想的な未来を描いてほしい。
メモ帳を手にした皆は宝物のように扱ってくれた。コポルタたちもカルフェ語を書けるようになるのだと張りきり、コタロとモモタは俺の部屋の扉に俺の名前を書いてくれた。書くというより扉に爪ででっかく名前を彫ってくれた。スッスの名前が一番簡単だったらしい。
「タケル殿、今朝もお早いようで」
俺が感慨深くメモ帳に思いを馳せていると、ネフェルが声をかけてきた。
早朝だろうとピッシリとした姿勢で丁寧に頭を下げてくれたネフェルは、やはり元とはいえ貴族の貫禄がある。
「おはよう、爺さん。ビーに叩き起こされたんだよ」
「ははははっ、それは起きなければならなかったわけですな」
「もうちょっと寝ていたかった……」
ネフェルが遠慮なく笑うと、ネフェルの護衛たちの口角が上がった。
ネフェルの背後にはユグルの翼の護衛戦士が二人。基本的に無口だが、表情は豊かだ。
右側にいるのが白髪のレンシスで、美形。左側にいるのが黒髪のジアンで、美形。ユグルは基本が美形です。
前王の妃を殺害し、爵位を剥奪された大罪人であるネフェルだが、それでも彼を慕ってついてきた元王宮騎士たちだ。トルミ村で護衛なんていらないんだけど、それでも付き従いたいと彼らは言い、ネフェルも望むままにさせているそうだ。
ユグル族の王に仕えていた執務官としての経験を活かし、ネフェルはトルミ村のご意見番のようなことをしている。学校で礼儀作法を教えてくれているのもネフェル。村長とは茶飲み友達。
「まだあの子は目覚めないようだ」
僅かに愁いの表情を見せたネフェルは、宿屋の三階を見上げた。
角の部屋で眠り続けている存在を案じているのだ。
「交代で看病してもらっているけど、まだ」
「そうか。早く元気な姿を見せてもらいたいものだな」
俺は頷くと、三階の角部屋を見上げた。
あの部屋には今、子供がいる。
翼の折れた有翼人種の子供。
幻の天空都市。キヴォトス・デルブロン王国の住人。
突然レインボーシープの小屋に落っこちてきて、ずっと眠ったままなのだ。
どこから落ちてきたのかわからず、ひとまず村で預かることにしたんだけども。
調査で身体の状況を診たら、なんと鑑定不能。子供の魔力量が俺の魔力を凌駕しているわけではないのに、子供の名前も身体の症状もわからなかったのだ。
調査で詳しいことがわからなければ、完全回復薬や魔素水を与えるわけにはいかない。急性魔素中毒に陥るのが怖いため、回復術をかけるのもためらわれた。
おまけにビーが興味本位で子供の翼に触れようとしたら、弾かれたのだ。古代竜の子供であるビーを弾いたのだ。まるで何人たりとも触れるなと拒絶するように。
眠り続ける子供の名前はわからないままなので、皆「あの子」とか「翼の子」と呼んでいる。
神秘のエルフ族すらその存在を忘れかけていた有翼人。古代マデウスで失われたとされた、希少種。
そんな種族の子供が落ちてきたなんて。
子供は昏々と眠っているだけ。水も食べ物も受け付けないのに、痩せることもなく姿はそのまま。美しい純白の翼は片方折れ曲がり、風切り羽根は左右ともに失われていた。
このままでは思うように飛べないでしょう――と、プニさんは哀しそうに呟いた。
「急変したら通信石で俺を呼んで。何ができるかはわからないけど、最悪の場合は炎神を頼る」
「恐れ多いことではあるが、我が尊き神のお言葉をいただく使命は、是非とも我に」
俺の提案に食い気味に立候補したネフェルと、繰り返し深く頷く護衛二人。
最悪の場合になんてならないことを祈るが、未知の種族が相手なのだから念入りに。
ネフェルたち三人を連れ立って向かった先は、村の外に停められた馬車。
馬車は六台。どの馬車にも数人が集い、朝の挨拶や世間話をしている。
もともとのトルミ村の住人が数人と、大きな木づちを背負ったドワーフとリザードマンと獣人がたくさん。護衛のためのエルフが数人と、ユグルが数人。落ち着きなく尻尾を振っているコポルタたち。
「タケル! 何をしていたのだ! 遅いぞ!」
「遅いのだぞ!」
今朝も可愛い王子様たちが、俺の足にしがみついてきた。
すっかりトルミ村に馴染んだ、コタロとモモタだ。
この二人は相変わらずいつも一緒にいる。これでも四六時中俺の傍から離れないということはなくなった。
たまに俺の布団にもぐりこむこともあるが、それは怖さや寂しさからではない。ビーに牽制しているらしいが、ただ俺の布団がでかくて暖かいからだろう。
「遅くはないだろうよ。皆が早いんだ」
なんでこんなに朝からやる気に溢れているの。
これから俺たちが向かう先は、ベラキア大平原に続く街道。山あり川ありの道程だが、でこぼこした砂利道や登山道の整備をする。今日で五日目になるが、なかなか良いペースで整備ができていると思う。
ベルカイムへ続く街道ではなく真反対の道を整備するのは、トルミ村の北西に位置する場所にあるベラキア大平原を開墾し、新たなる村を造る計画があるため。
トルミ村までの街道をドルト街道と呼ぶのだが、新たに造られる街道はトルミ街道と呼ばれるらしい。
「お昼は何なのだ? 何を頼んだ」
「おにぎりある?」
「干物はあるか」
「卵はあるか」
コタロとモモタに続いてお弁当のおかずを聞いてきたのは、ドワーフのアゲートとゴームだ。
ぶっちゃけどっちがアゲートでどっちがゴームなのか、一目ではわからない。二人ともヒゲもじゃで小太りで、同じような格好をしているのだ。ドワーフ全般が同じような見た目なのだけども。
二人は兄弟で、グルサス親方の従兄弟。ドワーフの国であるヴォズラオからグルサス親方を頼ってやってきた。
ドワーフなのに鍛冶が得意ではなく、戦士として戦うことが得意であり、生活魔法も扱える。ベルカイムで親方に用心棒として雇ってもらおうとしたら、親方はトルミ村に移住していた。
それで兄弟ははるばるトルミ村までやってきて、酒と飯が美味いからとそのまま移住。それぞれ冒険者ランクはAというのだから、その腕っぷしは折り紙付き。
「皆には別に昼飯が出るだろう? 俺の弁当を狙うな」
弁当を入れてある鞄を背に隠すが、ドワーフ兄弟と豆柴兄弟は俺の背後に回って鼻をクンクン。鼻を利かせても匂いはしませんよ。
「お前の弁当は汁物だけじゃねぇだろう?」
「そうだそうだ。握り飯に卵をぶっかけたやつ、アレがいい」
街道整備隊には昼飯が出る。俺の鞄に保存された、温かい野菜スープや焼肉丼、おやつに大判焼きもあるのだ。
俺の鞄は時間停止機能があるから、いつでも出来立てほやほや。美味しい昼飯が食べられるというのに、この兄弟は俺の特製弁当を狙う。
皆が腹いっぱい昼飯を食べても、俺は足りないのだ。それはもちろんご相伴に与かりたがる連中がもふもふいるせいで、弁当を用意しているとも言うのだが。
「ラトト鳥の卵はまだまだ貴重なんだからな。俺の卵かけ握り飯は絶対に譲らない」
「タケル、ひとくち食べたいのだ」
「食べたい」
「あげちゃう」
上目遣いで哀しそうに言うんじゃないよ何でも言うこと聞いちゃうだろうが。
ドワーフ兄弟の、ずるいぞ俺らにも食わせろという抗議を無視し、俺はまとわりつく豆柴兄弟を背負って馬車に乗り込んだ。
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