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15巻
15-1
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朝食を食べ終わると昼食に何を食べるか考え、昼食を食べ終わると夕食に何を食べるか考えるのは普通のことだと思っていました。夕食を食べ終わったら? そりゃ翌朝何を食うのか考えますよ。考えますよね。考えませんか? 考えないの? えぇ……
基本的に屋台の食べ歩きや外食が好きな素材採取家のタケルです。皆さんお元気ですか? 健康であることは何よりの贅沢だと思います。
自炊が多いのはたくさん食べる我儘な仲間のせい。良いんですよ、たくさん食べるのは良いことです。たくさん動きますからね。
蒼黒の団は一人一人の戦闘技術が恐ろしく高い。なんせランクS冒険者を二人も抱えている冒険者チームだ。しかし、基本的に所属団員の性格は大雑把であると自負している。
クレイは食材に関しては必要なものを必要なだけ買えば良いと言う。魔法の鞄に入れておけば腐らないしね。
ブロライトは食費が足りなければ森でパープルボーン(やたらと獰猛なランクBのダチョウ)を狩れば良かろう? と言う。パープルボーンの尾羽は紫のラメ入りでやたらと派手。状態が良ければ一本十五万レイブで売却できる。貴族や貴族向けの芝居を興行する劇団員が好んで購入する人気商品なので、肉も骨も美味しく食べられるのだから文句は言うまい。
プニさんは食いたいものがあればふらっと消えてふらっと帰ってコレが美味いと聞いた、コレを食わせろと命じるだけ。時と場所と空気を一切読んでくれないので、そこに相手に対する気遣いは存在しない。
ビーは可愛いのでたくさん食べなさい。
うん。
改めて仲間の性格を考えてみると、俺は大雑把で適当な性格でもなかったかもしれない。
食材購入は相変わらずどんぶり勘定ではあるけども。
戦闘能力が素晴らしかろうと腹が満たされなければ能力は半減する。思考能力を鈍らせるのは魔法だけではなく、空腹だ。魔法は防ぐことができる。しかし、腹は空いたら空きっぱなしなのだ。空いた腹に気を取られて集中できない、それだけで命取りになるのだ。
戦うのも神経を使うのも感覚を研ぎ澄ませるのも、全ての資本は肉体。
肉体が疲弊していれば精神も摩耗する。
しつこいようだが、俺は何度だって言う。生きることは食うことであって、食うことは生きることなのだ。
食事に関しては金に糸目は付けないのがモットーの蒼黒の団なので、調味料は樽でまとめ買いし、食材もいつ何時腹を空かせた種族に出会うかわからないため、大量に保存するようにしている。
俺はストック癖があるというかストック魔というか、在庫が切れるのが怖い恐怖症持ち。これは前世からの性格なので直せないし、直すつもりもない。
在庫が切れるのが怖い食材は、特に醤油とごぼうと米。調味料次第でなんとかなるとは思えない食材は、買い込んでおかないと不安なのだ。
だがしかし、スッスという有能な仲間に恵まれた蒼黒の団の食卓は更に豊かなものへと変わった。ほんと、ほんっとうに、スッスが加入してくれて良かった。スッスのような細やかな気遣いができる人はマデウス――アルツェリオ王国内では珍しいのではないだろうか。要職に従事している人たちはともかく。
大量の在庫を抱える癖のある俺に代わり、スッスは食品や調味料の在庫管理をしてくれた。ギルド職員として働いていた時も物品の在庫管理は行っていたらしく、面倒ではないし得意だからと胸を張って引き受けてくれたのだ。
それと同時に無駄に在庫を増やしすぎるのもよくないっすよ、と叱られてしまった俺。
朝市で店のもの根こそぎ買う癖はやめるようにしました。
腹を空かせた種族によくよく遭遇する我ら蒼黒の団だが、今回の旅先は未知の世界である大空。
幻の種族が住まう幻の国、キヴォトス・デルブロン王国。
太古の昔に滅び、名残の品は、古代遺物の一つともされ、ラティオの黄金で作られたデルブロン金貨は今なおその輝きを失わない。
物語や御伽噺の世界だと考えられていた国。
ところがどっこい幻のはずの国は空飛ぶ島でマデウスの空を飛んでいた。
密やかにアルツェリオ王国のマティアシュ領エステヴァン家と交易を続けていたらしいので、きっと腹が空いて困っているような国ではないだろう。
そもそもの目的は有翼人であるルカルゥと、その相棒で守護聖獣のザバを送り届けることだ。
トルミ村で盛大なお別れ会をし、皆に暖かく見送ってもらったルカルゥだが、故郷である国に帰って来たというのに嬉しそうではないのが気になる。
怪しげな空飛ぶ馬車で突如現れた地上からの団体を迎えてくれた、ルカルゥの保護者っぽい猛禽類の顔をした有翼人のファドラナーガ。
彼は言った。ルカルゥは神の子供だと。
普通なら神様の子供? 次世代の神様なの? わわっ、恐れ多い子を相手にしていたんだぁ! ――と、焦るだろう。
だがしかし、俺としては「どの神様?」って思ったわけだ。
ほら、マデウスって神様があちこちにいるから。しょっちゅう出会っているし、何ならトルミ村を自分好みの花畑に変えている精霊王がいて、馬車引いているのが馬の神様で、俺の頭の上で大欠伸かましている竜も神様候補なわけですよ。
大地を守る東の古代竜ヴォルディアス、生きとし生けるものの魂を見守る北の古代竜リウドデイルス、オゼリフ半島を守護する古代狼オーゼリフ。オーゼリフに至っては毎日リド村で子供たちと走り回って遊んでいます。
鳥に関する神様かなあ、ちょっと格の高い古代神かなあ、実は精霊だったりして、なんていろいろと考えてはみたものの想像がつかない。
有翼人たちが創世神を崇めているとはザバから聞いていない。何かしらの神様を崇めているらしいが、俺たちが未だ見ぬ神なのだろう。
ルカルゥが神の子供だとしても、俺たちとルカルゥとの関係性は変わらない。畏まった態度で会話をしようものなら、ルカルゥは拗ねてしまうだろうし、ザバは早口で文句をまくしたてるだろう。
さてはて、ルカルゥとザバを送り届けることに成功した我ら蒼黒の団だが、何かしらの騒動が待ち受けているだろうことは想像するに容易い。
俺を見守っているんだか監視しているんだか、「青年」が素直に俺たちの旅路を見守るとは思えないんだよな。
厄介事になんやかんやと巻き込まれるのが俺たちなので、今回の空飛ぶ島でどんな問題があるのか怖さもある。
だがしかし、見たことのない光景、見たことのない動植物に俺の興奮が止まらない。
とりあえずあの昆布らしき木? は採取させてもらおう。許可もらえるかな。
それからクラルゾイド! 導きの羅針盤の動力源として使われていた、魔力を通しやすい真っ赤な魔石。あれ欲しいよなあ。ザバ曰く、それほど珍しい魔石ではないそうだからいくつか買えたらなと思っている。
俺の最終目標はキヴォトス・デルブロン王国との交易。交易と言っても、地上に興味のある有翼人を募ってトルミ特区においでませ計画なんだけども。
やはり有翼人しか持っていない技術とか風習とかおばあちゃんの知恵袋的なものとか、教えてもらえたら良いなと思うわけでして。
そんでもって、転移門を置かせてもらえればルカルゥとザバはいつでもトルミ村に来られますよという魂胆……いや、計画です。
何事も平和にね。穏便にね。
誰もかれもが幸せになれる世の中になれば良いなとは思うけども、そう簡単に物事は進まないことも知っている。
だから俺ができる精一杯のことをやりたい。
1 ユムナの不安
「ルカちゃんとザバちゃんは元気にしているかしら」
遠い遠い空の向こうを眺めながら、ユムナはふと息を吐いた。
言葉を発することはないが表情が豊かなルカルゥと、朝から晩まで延々と喋り続けるお喋りな守護聖獣ザバ。
両極端で相反する二人ではあるが、ルカルゥとザバはとても良い相棒だ。
ルカルゥの考えていること、言いたいことを全て理解するザバは、まるでルカルゥの心と言葉そのもの。多少誇張されたザバなりの解釈もあったのだろうが、ルカルゥはザバの言葉を一度も否定することはなかった。
生まれてからずっと空飛ぶ島で生活していたため、地上での生活が楽しくて仕方がないのですことよとザバはグネグネと興奮しながら言っていたのが印象深い。
ルカルゥは何をするにも笑顔でいたのを思い出す。
「ユムナちゃん、ふたりにはタケル兄ちゃんがいっしょにいるんだよ? 兄ちゃんたちはとっても強いぼうけんしゃだから、心配しなくてもだいじょうぶだって」
収穫した人参の葉っぱだけを切り、束を麻紐でまとめてくくったモモタは、ユムナが背負っていた背負子に葉っぱの束を入れる。
「そうよね。きっと大丈夫よね。わたしも大丈夫だっておもうのだけど、すこしだけ不安になるの」
人参畑の畝に生えていた小さな草をつまんだユムナは、土を手で払ってから口に入れて咀嚼した。少しだけ甘く、歯ごたえのある美味い草にユムナは自然と微笑む。
そこらへんに生えている草を美味しく食べられるユムナを羨ましがりつつ、モモタは熱中症防止のために村民に配られている塩と蜂蜜味の飴を口に入れる。口内に広がるあまじょっぱい味を堪能していると、この飴を考案してくれたタケルを思い出した。
「ユムナちゃん不安なの? どうしてだろうね」
「わからないの。ルカちゃんがなにかをしたらダメなのだけれど、なにをしたらダメなのかじょうずに説明できないの」
「不安っていうのは怖いっていうのに繋がっているってあにうえが言っていたよ。ユムナちゃんはルカちゃんたちが何かをするのが怖いの?」
「ああ……そうだわ。そうねモモちゃん。わたし、怖いのよきっと。わたしがおもうわたしの不安がよくわからないっていうのはとても怖いわ」
「そうだね。怖いよね。でもね、困ったことがあるなら誰かにお話しすると良いよってあにうえが言っていたんだ。ユムナちゃんも誰かにお話ししたらどうかな」
「うまく説明することができないのだけれど、良いのかしら」
「みんな優しいから大丈夫だよ」
「それなら、ネフェルのお爺様ならわかるかしら。わたしが怖いっておもう気持ち」
「そうだね。ネフェル爺に聞いてみればわかるかもしれないね。それからおじいにも聞いてみよう。おじいは色んなことをたくさん知っているから、もしかしたらユムナちゃんの不安もわかるかもしれないよ」
青く澄んだ空にゆるりと流れる雲を二人で眺め、ユムナとモモタは互いに顔を見合わせて深く頷いた。
ユムナの背負子に残りの人参の葉っぱの束を詰め込むと、モモタは大きな人参を両脇に抱えて立ち上がる。
今の時間のネフェルはユグルの地下魔法研究所にいるはず。様々な実験を行う魔法研究所に子供は近づいてはならないと言われているため、まずは木工細工工房にいるだろうレオポルンを探し、午後になったら蒼黒の団の拠点にある広間で寛ぐネフェルを探そう。
幼い二人の相談を快く聞いてくれる大人はトルミ村にたくさんいる。もしもレオポルンとネフェルの都合が悪かったら、グランツの爺様やアージェン様もいるのだ。
「ねえユムナちゃん」
「なにかしらモモちゃん」
「すこし考えたんだけどね、僕はおもうんだ。ユムナちゃんの不安はタケル兄ちゃんたちがなんとかしてくれるよ。今は遠くはなれているけど、ルカちゃんとザバにはタケル兄ちゃんたちがいっしょにいるんだから」
モモタが抱えていた不安も怖いのも心配なのも、蒼黒の団は消し飛ばしてしまった。
今は毎日が明るくて、優しくて、心地よい。
モモタはユムナと繋ぐ手に力を込める。
「ユムナちゃんもタケル兄ちゃんたちがいっぱい元気をくれたでしょう? だから、きっとユムナちゃんの不安なのも怖いのも、タケル兄ちゃんたちがけっとばしてくれるよ」
トルミ村に来たばかりの不安そうなユムナの姿をモモタは覚えている。
暗い場所から広い場所に移り、花と緑と土の匂いをめいっぱい吸い込み、そしてふと感じた見知らぬ人の視線。
大きな背丈の人が皆揃ってアルナブ族を凝視していたのだ。
それは二足歩行の愛らしいうさぎが突然現れたのだから驚くしかなかった村人たちの視線なのだが、ユムナたちはそんな事情を知らない。
小さく震えて、怯えて、だけど空の広さと花の香りが嬉しくて、感情がぐちゃぐちゃになったあの時。
後々にモモタがコタロから聞いた話なのだが、コタロは怯えながらも喜びに涙を流すアルナブ族を見ていた。
アルナブ族がトルミ村に来たのは夜もとっぷり暮れた頃。村全体の落ち着かない雰囲気にコタロは目が覚めてしまったのだ。
タケルが不在の時は、必ずタケルの私室に潜り込んでタケルの寝床で寝ている兄弟。コタロはモモタを起こさないよう静かに床を離れ、密やかに行われたアルナブ族たちの移動風景を窓から眺めた。
見たことのない種族がブロライトと手を繋いで村の食堂に向かっている。一人や二人ではなく、何百人も。もしかしたらコポルタ族よりも多いかもしれない。村の大人たちも数人食堂に入っていった。
ブロライトが共にいるということは、蒼黒の団が彼らを連れてきたということ。
コタロは自分たちも蒼黒の団によってトルミ村に連れてきてもらった記憶を思い出した。
トルミ村の優しい雰囲気に心も身体も健やかになった兄弟だが、それでも辛く苦しかった記憶を払拭できるわけがない。
ただ、タケルは焦らなくて良いと言っていた。怖いと思う心から逃げる必要はない。時間をかけてゆっくりと受け止めて、過去にこんなことがあったのだと思い出せるくらいにしよう。
たくさん食べて、寝て、遊んで、仕事の手伝いがしたければ好きな手伝いを選んでやれば良いのだから。
そんな話を兄であるコタロから聞いたモモタは、共に行動することが多いユムナの不安を一つでも取り除いてあげられたらと考えていた。
「うふふふ、そうね。モモちゃんがそう言うのなら、わたしの不安もけっとばしてもらいましょう」
「ばーんって、どかーんって、遠くまでけっとばしてくれるよ!」
「それはたのしみだわ!」
二人は尻尾をふりふり、飛び跳ねながら木工細工工房を目指すのだった。
2 アルコフェドラの照り焼き
空飛ぶ島がありました。
青く広い空に浮かぶ白い雲の中に。
ぽかりと悠々と、雄大な姿を晒した島。
俺の中の空飛ぶ島のイメージというのは、ガリバー旅行記の空飛ぶ島であるラピュータ。もしくは、巨大ロボット兵がぴゅーぴゅー飛んでいる有名なあのお話。
エルフの郷にあるような巨大な樹があってさ。朽ちた城がかつての栄華を彷彿とさせる外観を想像していたんだけども。
「おっきな珊瑚だ」
「ピュ?」
「あの真っ赤な塔が見えるだろう? あれ、珊瑚だと思うんだ」
「ピュピュ」
島の中央に聳え立つ独特の形をした真紅の塔。
あれが島のシンボルのようなものなのかなと思って凝視していたら、塔のような超巨大珊瑚だった。ごつごつしていて、枝のようなものがいくつも生えていて、窓のようなものがぽこぽこ開いていて。
前世で見た世界の海中動画にあった映像の珊瑚そのまま。
島を覆い隠すほどのカラフルな森が巨大な塔を取り囲んでいる。独特な色彩は地上では決して見られない光景だ。あれもきっと珊瑚なのだろう。風に揺らめく昆布のようなもずくのような海藻に見えるものもある。
海の中ではないのに、島のあちこちで生えまくっている海藻。果たしてあれで出汁が取れるかどうか、なんて真剣に考えてしまう。海ぶどうないかな。
あれが空飛ぶ島、キヴォトス・デルブロン王国。
地上では幻とされ、御伽噺の一つとされている有翼人が住まう地。
ヘスタスがぶち壊した聖堂ってどこかなと必死で探すが、ここからは珊瑚の森と赤い塔しか見えない。
そうだよ。
聖堂ぶち壊した犯人の知人なんですワタシ、って言わないとならないんだよ。
ザバは島が制御不能になったと言ったが、島は穏やかに飛んでいる。思った方向に行けなくなったのかな。どちらにせよ、島がぐらんぐらん揺れ続けて困るようなことになっていなくて良かった。本当に良かった。
誰に問い、誰に詫びれば良いのか考えないと。
本来ならルカルゥを引き渡す時に言えば良かったのだが、あの空気の中聖堂壊したんですけど、なんて言えない。言っていたら捕らえられていた。
壊れた聖堂の様子を見て、修復できそうならピカピカに直させていただく。無論、理由も説明するし詫びもする。戦犯であるヘスタスを連れてこいと言うのならあのイモムシを喜んで連れてこよう。抵抗は許さん。ヘスタスの全面的な弁護をさせていただくよ。
島全体を覆うような巨大な球状の魔法が見える。俺が展開する結界のようなものだろう。隠すというより、島を完全に消すような魔法だ。
この魔法が今見えているのは俺と、ブロライトと、プニさん。あとビーも。
魔法自体を隠す魔法も混じっているな。俺にあの魔法が使えるかと問われれば、かなりだいぶすごく難しいけどたぶんできる。たぶん。
魔法を隠す魔法。隠匿の魔法とも違う。あれは俺より魔力ある人がいたら、見抜ける魔法だからな。
まるで光学迷彩や保護色のようだな、なんて感心してしまう。
「凄いな」
「うん? 何がだ」
「島全体を覆い隠す魔法が俺には見えているんだ。あの空のてっぺんから、島の底までおっきく、まるい魔法」
「結界魔法か」
「隠匿と、魔法そのものを隠す魔法。かなり高度な魔法」
「その魔法がかけられている故に、あの島は隠れ続けることが可能なのか」
「たぶんね」
馬車の上から声をかけてくるクレイに空を指さして魔法の説明をしていると、黙って馬車を引いていたプニさんが一声。
――小賢しい
「ぶるるっ」
プニさんは煩わしいものを払い取るように首を振ると、強烈な風が吹いた。
「ピョッ!?」
「うわぶっ? プニさん何するの!」
馬車は僅かにも揺れなかったが、御者台に座っていた俺は風をもろに受けた。
隊列を組んで馬車を警戒していた有翼人たちも、突然の突風に慌てる。
だが風は一瞬のことで、何故急に風を吹かせたのかと思えば。
「なんっ……!」
クレイが驚いた声を上げそうになったが、ブロライトに口を塞がれていた。ばちって音がしたから痛いぞあれは。
驚きに声を上げなかったスッスは優秀。しかし、目と口が開きっぱなしになっているのは駄目でしょう。
クレイとスッスが驚いているのは、島を覆う結界がプニさんの風によって露わになったからだ。
しかし有翼人たちは特に動揺もせず、瞬時に隊列を組み直した。
プニさんの加護なのか悪戯なのか、それともプニさんが嫌う誰かへの嫌がらせなのか。
魔法を隠す魔法がクレイとスッスにも見えるようになった。同じ光景を共有できるのはありがたい。
トルミ村に滞在しているユグルの魔法研究隊がこの光景を見たら、あの魔法は何だどうなっているんだようし研究だ真似しろ真似しろ解析しろ解体しろと鼻息荒く目の色を変えるはずだ。
島全体を包む魔法は、魔道具か何かで魔力を維持し続けている。動力源はなんだろう。
「恐ろしいほどに強い魔法じゃな。タケルは真似できそうか?」
クレイの口から手を放したブロライトは、馬車の上から顔だけを出して言う。
俺はうーんと考え、できるだろうけど構築するのが面倒というか、あんなでっかいもの覆い隠す根性がないというか、ともかく無理だと答えた。
「ユグルの誰かはできるかもしれない。でも、ありゃ膨大な魔力が必要になる。魔素水で例えるとクレイのカップ四杯分でひと月保てば良いくらい魔力を使う」
「そんなに強い魔法なのか」
「膨大な魔力を惜しげもなく使い続けているから、きっと術者の技ではないと思う。魔道具……古代遺物の何か凄いやつならできるかもしれない」
「ほほう、古代遺物……見せてもらえるかのう。兄上への土産話にしたい」
いやそれは無理じゃないかな。
お国の最重要機密だろうから、他種族には見せられないだろう。
「ピュピューピュ、ピューィ?」
お次はビーからの質問。
島のあちこちに生えている、ウネウネした植物が気になるようだ。
「あれはきっと海藻だな。あそこにあるのは昆布だよ」
「ピュイプ」
「そう。ダヌシェで買うだろう? かっちかちの、濃い緑色の木の皮みたいなやつ」
「ピュイ!」
「あの鮮やかな色をした森は、おそらく珊瑚。珊瑚は海の中にある植物……動物だったかな。産卵していたから動物なんだろうけどマデウスの珊瑚はわからない。俺の故郷では色とりどりの珊瑚が海の中にあったんだ」
「ピュゥーイ」
独特な形をした家々が見えてきた。アルツェリオ王国ともエルフの郷とも違う、キヴォトス・デルブロン王国独特の建築様式。巨大巻貝っぽい家もある! なにあれ!
この島には樹木が生えていない。精霊王リベルアリナが嫌いそうな環境だ。海藻は藻類だから植物ではないが、ヤツの領域なのだろうか。それともマデウスでは海藻も植物扱い? ヤツに聞いてみたい気もするけど、いろいろと面倒なことになりそうだから絶対に呼ばないでおこう。
あの家は珊瑚で作られているのだろうか。木がないのにどうやって? 珊瑚って硬いの?
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