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4巻
4-1
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みんないい子にしていたかな? 俺の名前は神城タケル。
謎の『青年』に、ある日突然ぽっくり殺されてしまい、不思議な惑星「マデウス」へと無理やり転生させられた、善意の一般人だよ!
古代竜の幼生である小さなドラゴンのビーと、元聖竜騎士で元リザードマン、現在は冒険者でドラゴニュートである戦士クレイストンと、残念エルフな男でもあり女でもある両性のブロライト、大食らいで美女で誇り高き馬の神様であるプニさん。
そんな心強い仲間たちとチーム蒼黒の団を結成し、素材採取家として地道に素材採取をする一般人だよ!
……そうだよ。俺はただの一般人のはずなんだよ。それなのに、何がどうしてこうなった。
俺はただ行方不明だというブロライトのお姉さんを探しにエルフの隠れ郷に来ただけなのに、いつの間にやらエルフたちに救い主だと崇められました。ふっしぎー。
……待て待て。救い主ってなんのこと。やめてよしてそんなの面倒くさい。いやいや、ブロライトが助けてくれと言うのなら、助けてあげましょ仲間だし、ってことで手助けをすることになったんだけど。
保守的で頑固なエルフたちの意識改革をする前に、エルフの郷を漂う濃い魔素がどうやって生まれているのかも突き止めなきゃいけないし。そもそもエルフの巫女である、ブロライトの姉リュティカラさんはどこへ行ってしまったのか。
考えることはたくさんあるけれど、まずは一歩を確実に歩かなければならない。
俺には仲間がいる。独りじゃない。
独りの一歩よりも、仲間とともに進む一歩は、きっと明るい明日へと続いているはずだ。
なんつって。
1 浅蘇芳の誘惑
グラン・リオ・エルフ族の郷にあるギルド、「ダイモス」。
冒険者の間では幻のギルドとして名高く、所属冒険者の平均ランクが大陸一であることも有名らしい。
所属冒険者のほとんどがエルフ族だが、数十年に一度くらい他の種族が登録することもある。そのほとんどはドワーフ族。鍛冶職人としての腕を見込み、エルフがわざわざスカウトしてくるのだそうだ。
スカウトをするのは郷で暮らしているエルフではなく、外の世界に出て放浪しているエルフ。保守派のエルフはそんなエルフを多少の侮蔑を込めて「外エルフ」と言うのだから、保守派のエルフを殴りたくなったのは言うまでもない。
そいつらのおかげでドワーフをスカウトできているのに、感謝こそすれ蔑むなんて馬鹿のすることだ。
そういった頭でっかちなエルフたちをも守りたいと言ったブロライトを、俺は尊敬するよ。今まで不潔なエルフだとか言ってごめんなさい。俺の肩で鼻水拭いたのは許してやんないけど。
ともかく俺たちは珍しく協力的なプニさんに感謝しつつ、すぐに行動を開始。気まぐれな神様がせっかく乗り気になってくれたのだから、乗り気のままにギルドへと赴いた。
ギルドにはエルフの郷の周辺情報があるだろうし、俺の知らない素材の情報もあるはずだ。
がちーんがちーんがちーん。
じゅわわわわ……
ああこの音、聞いたことある。
ベルカイムの職人街で毎日のように聞ける騒音。ドワーフの魂が武器に込められる音だ。
郷の一角に設けられた鍛冶場には、数人のドワーフがいた。この鍛冶場ではエルフ専用の武具が造られている。エルフとドワーフは比較的友好な関係を築いているらしく、それぞれがそれぞれの文化を守りつつも極わずかな交流をしていた。
静寂が似合う緑の郷には不釣り合いな音だが、俺はこの音が気に入っている。後であそこの鍛冶場も覗くとしよう。
「こんちはー」
ブロライトに連れてこられたのは、藁ぶきの小屋。ここがエルフ族のギルド「ダイモス」らしい。ベルカイムのギルド「エウロパ」に比べると小さいが、あの独特のギルドの雰囲気はそのままだ。
薄暗い室内にあるのは簡素な受付。ぼんやりとした明かりのランプ。きしむ木の床。冒険者で活気づいているわけではなく、妙に落ち着く静けさがある。受付には綺麗なエルフの女性。
エルフ族は全員と言っていいくらい美男美女揃いなんだけど、この女性には美しさに加えて妖艶さがある。口元のホクロが、清純そうなエルフにはない妖しい色気を感じさせた。ようするに、存在がエロい。
「あらぁ。噂の神の御使いちゃんね?」
その声までも色っぽい。
「神のみつかいちゃんではなくて、俺はタケルって言います。こっちはクレイストン」
「うふふふ。宜しくね? 私はアガラフィリアロベルサーラ。サーラって呼んでちょうだい」
「はあ、どうも」
「いやぁん、可愛いじゃない。噂に聞いていたよりも、ずうっと」
「あはは……」
「オールラウンダー認定者に、栄誉の竜王ちゃん。私、逢いたいと思っていたのよぉん」
エロ女性……いやいや、受付嬢のお姉さま、サーラは豊満な身体をくねくねさせながら会釈。その、いちいち色気を出すのは目の毒なんですけど。露出度の高い服を着ているから、目のやり場にものすごく困ります。胸とか腹とか太ももとか出しすぎなんだよ。破廉恥な。腹壊すぞ。
クレイは壁に貼られた依頼書を平然と見ていた。違う種族に食指が動かないとはいえ、エルフの美女を前にして平然としていられるとはさすが。尊敬しますパイセン。
動揺しているのは俺だけとか。なんだか恥ずかしい。
「ブロライトちゃん、素敵な子じゃないの。やだあ」
「ああ、わたしの大切な仲間じゃ!」
「そうね。うふふふ」
サーラはにっこりと微笑むと、ブロライトの頬を撫でる。
郷の掟に背いたからといってブロライトは郷のエルフ全員から嫌われているわけではない。一部の保守派のエルフやハイエルフたちからよく思われていないだけで、他のエルフたちからは慕われていると言える。
このエロ女性、じゃなくて、サーラもブロライトを慕っているのだろう。
「良かったわ。あなたに素敵な仲間ができて。私、ずうっと心配していたんだからあ」
「サーラには心配をかけてしもうたな。じゃが、わたしはもう大丈夫じゃ!」
「うふ。それでも心配なのよ? あなたがちいちゃなころからそれは変わらないわあ。あらあ、泣いたの? 目が腫れちゃっているじゃなあい」
「これしきのこと、大したことは」
ブロライトの頬を撫でる手がそのままするると瞼に移動。
そうそうブロライトは俺に郷を救ってほしいと言って目を腫らすほど涙を流したのだ。それはさておき、なんだろこの……見ていて恥ずかしくなる光景。ブロライトは男でもあるって言ったから、妖艶な女性とピッタリくっついていてもおかしいわけでは。いやでも目のやり場に困るっていうか、なにその近距離。サーラの胸でけぇやべぇ、なんて感心している場合じゃない。ちょっと誰か突っ込みなさいよ。
「タケル、月夜草の依頼書があるぞ」
あああ、良かったー!
空気を読まない読めないクレイの助けー!
桃色吐息な空間をブチ破り、俺は慌てて壁へと走る。
「何本かな! 何本欲しいのかな!」
「さ、三本の依頼書があるな」
「はい三本ね! あるよー三本! 他にはないかな!」
場を弁えないカップルのイチャコラを見てしまったような気まずさを覚えながら、クレイから依頼書を受け取る。
依頼書には月夜草三本と、他にも何種類かの薬草が書かれていた。知らない素材の依頼もあった。
エウロパでは一枚の依頼書に一つの素材というのが定番なのだが、このギルドでは違うようだ。必要な素材をまとめて一つの依頼として一気に出すらしい。効率はいいな。
「サーラさん、このランクCとDの依頼を受けたいんですけど」
「あらぁ? いいのかしら? せっかくヴィリオ・ラ・イにまで来たのだから、ゆっくりすればいいのにぃ。ブロライトちゃん、タケルちゃんたちに郷を案内してあげたのぉ?」
「タケルはゆっくりすることが苦手なのじゃ! なんでも、タケルはわーかーほーりっくんという病に侵され、働かなくては不安になるそうなのじゃ」
「あらぁ……聞いたことのない病だけれど、気の毒ね」
おいこらブロライト。俺はそんな説明をした覚えはないぞ。
エルフが信仰する神様を探す前にギルドに寄り、周辺の地理情報を仕入れるついでに依頼の受注をすれば、一石二鳥になると言っただけだ。
でもたしかに俺は働かざる者食うべからず、という考えのもと働いていた。働いていないと不安になる、ワーカホリック、つまり仕事中毒気味の日本人。
そりゃラクできるところはとことんラクをするが、せっかく知らない土地、知らないギルドに来られたのだから、遊び呆けているわけにはいかない。
頭の中で自分の行動に伴う損得をはじき出してしまうのは、悪いクセなんだよな。せっかくだから、勿体ないから、って動いてしまう。朝から晩まで仕事仕事残業残業接待接待ノルマノルマノルマノルマの生活を五年以上続けていれば、仕事中毒にもなる。
「でも私は好きよ、貴方みたいな考え方。働く男はだぁいすき」
うふっ。
ウインクがめっちゃ眩しいですサーラさん……
「月夜草はここに三つあるので、これで。後はエプララの葉とリオラの葉もあります。それから」
「うん? キエトの洞に行くのじゃな」
受付の机に鞄から次々と依頼の品を出していると、俺が手にしていた依頼書を見たブロライトが聞いてきた。
「きえとのほら? なにそれ」
「この依頼書にあるネコミミシメジは、キエトの洞の奥に自生するのじゃ。タケルは持っておらんじゃろ?」
「聞いたことのない素材だ」
「すり潰してエプララの葉と混ぜれば傷薬になるのじゃ。そのまま食っても美味い。この素材は、魔素の濃い暗闇に生える、光るキノコの一種なのじゃ」
へえ。食材であり、回復薬でもあるのか。面白い。
エルフの郷の近くにある素材なんて、きっと魔素の含有量が高いはずだ。強すぎる魔素は人体に宜しくないが、そんな厳しい環境であっても自生する草花は生き延びようと独自の進化を遂げる。きっと、俺の想像を超える珍しい素材があるはず。採取して、エウロパのグリットさんに売ろう。
ふとギルドの外に目をやると、プニさんとビーは難しい顔をしていた。プニさんとビーはこの地を守る精霊の王、リベルアリナの気配を探っていたんだが、どうも感じ取れないらしい。
リベルアリナはエルフの守護神のような存在。プニさんほど力は強くないし、神様の序列のなかでは上位でもない。だけど、創世期からグラン・リオ・エルフたちを守り続けてきた、優しくて思いやりのある、大地と緑を司る慈愛の神様。
その気配を一切感じられないというのは、プニさんやビーにとって有り得ないこと。
「ピュピュイ」
「ええ、そうです。リベルアリナの息吹を感じられません。これは、ゆゆしき問題です」
エルフを見守る神様が行方不明。その神様にプニさんから命じてエルフに悪いしきたりをやめるよう警告してもらおうと思ったのに、どこにいるのかわからないとは。
それにブロライトのお姉さんの行方もわからないままだ。ブロライトが過剰に心配していないから、たぶん安全な場所にいるのか、それとも今現在の避難場所をブロライトが把握しているか。
どちらにしろ、こりゃ簡単にはいかないぞ。
「リベルアリナを捕らえるのです。わたくしのじゃがばたそうゆーのために!」
「キエトの洞ならば最深部まで案内することができるぞ!」
「どのようなモンスターが現れても、俺のこの槍で蹴散らしてくれる!」
「ピュイ! ピュイーーィ!」
チーム蒼黒の団、チームメンバー揃っての依頼受注は今回が初めて。
それぞれが高ランクの冒険者と、未知の力を持った神様。
たとえその目的が仕事の後の食事だとしても、危険な場所にも怯まず赴く。
とても心強く、とても頼りになるのだけど。
なんだろう、そのやる気がちょっと不安。
+ + + + +
ギルドでいくつかの依頼を受注し、数日分の旅支度をしてからキエトの洞がある北を目指す。
旅支度と言っても俺の鞄には大量の食材があるから、改めて用意するものはない。
出発前、ついでとばかりに妖艶エルフのサーラさんに聞いておいた。プニさんが欲しがっていた荷馬車はどこで造れるかと。神様が引っ張り、見た目は普通の馬車なのに大勢が乗っても重さも変わらない、そういう特別な魔道具になっている荷馬車。
注文を多くしすぎたから造るのは難しいかなと不安になったが、サーラさんは微笑んで「それ、面白そうじゃなぁい」と言ってくれた。押し付けられた胸の感触が腕に今も残る。とうぶん洗いたくない余韻。
エルフのギルドを通し、エルフの技術を借りて造る馬車。きっと特別なものが造られるに違いない。何より神様であるプニさんが引っ張るのだから、ただの幌馬車だったら蹴られる。
キエトの洞から戻ったら、正式に依頼として発注させてもらおう。
「プニさん、郷から出てしばらくすると大きな湖に出る。その湖の東にキエトの洞があるらしい」
「ぶるるっ、わたくしの出番ですね」
門外不出という地図はブロライトのお兄さんのアーさんが貸してくれた。と、言ってもアーさんが手渡してくれたその場で俺は解読をして覚えてしまう。これで地図を失う心配はなくなる。
やる気まんまんのプニさんは鼻息荒く馬化し、俺たちに「さあ!」と促し背に乗せた。調子に乗って猛スピードにならないよう頼み、森を一気に駆け抜ける。採取をしつつゆっくりと行っても良かったが、善は急げとも言うからな。
巨木に生い茂る葉が太陽の光を遮り辺りが薄暗くなりはじめた頃、プニさんが何かに気づいた。
――魔素が 濃く なりつつある
「ああ、エルフの郷を出たら魔素を抑えていたオレンジダイヤの効き目はなくなる。クレイとブロライト、気分が悪くなったら教えてくれよ」
「承知!」
「わかった!」
プニさんに乗っているうちはその力の恩恵なのか、息苦しさや湿気などは一切感じない。
鬱蒼とした木々を避け、風よりも速く走るプニさんに感動しつつ、今のうちに魔道具を造ってしまう。
取り出したるは、ベルカイムでプニさんが買えとねだったくせに忘れ去られた小瓶。この小瓶にはいつでも力を込められるよう、ミスリル魔鉱石の砂があらかじめ入れてある。この砂入り小瓶に浄化機能をつけよう。
高濃度の魔素のなかでも不自由なく動けるような、いわゆるガスマスクとか防護服のようなもの。毒ガス攻撃や毒霧攻撃も防ぐ。
途中で離れてしまっても、この魔道具があればそれぞれ身を守ることができる。クレイには免疫能力があるが、念には念を。
俺は後悔したくないからな。
――タケル あの洞から 恐ろしいほどの 魔素を感じる
「ブロライト、あそこで間違いない?」
「そうじゃ……しかし、どうも様子がおかしい。なんじゃ、あのおびただしい量のモンスターの死骸は」
森を抜けた先にある広い湖の畔。
太陽の光に反射し輝く水面は穏やかで、濃い緑の森と透明な湖のコントラストがまるで絵画のようだ。絵画に詳しくはないが、そんな感じ。流石エルフの郷の領域内。神秘的な風景だ。
だが美しい湖には不釣り合いの、モンスターや動物の死骸が地面いっぱいに転がっている。最近死んだばかりの躯や、一部白骨、ミイラ化したものもある。手の小指ほどの小さな動物や、巨大なモンスターまで横たわっていた。
こんな光景、はじめて見た。ふつうモンスターの死骸は肉付きで放置されることがない。他のモンスターや動物に捕食されるから、骨だけが残る。それなのに、ここにある死骸はすべて肉付き。
「ドルドベアの死骸もあるぞ。あの重量級モンスターですら……どうなっておるのだ」
「うん? どこにあるのじゃ」
――待て! 我から 降りるでない!
プニさんの背から降りようとしたブロライトに、プニさんの制止が入る。だが、その声はブロライトに届かない。
「ブロライト、たんま!」
「たんま? たんまとは、どういう意味……ッ!?」
慌ててブロライトに声をかけたが、ブロライトの素早い動きを止めることはできなかった。
地面に両足が付いた瞬間、ブロライトの顔が苦しげに歪んだ。
「ぐあっ! ああああっ! ぎゃあああ!」
「ブロライト! 如何したのだ!」
「ピュイイィーーッ!」
突然呻きのたうち回るブロライトに、クレイとビーも続こうとする。
俺はユグドラシルの枝を杖に変え、二人を止めた。
「二人ともそのまま! プニさんの背から降りるんじゃない!」
「何故だタケル! このままではブロライトが!」
「わかってる! 清潔、展開っ!」
ブロライトが苦しむ原因がわからないままだが、辺り一面の空気を浄化する。原因が濃すぎる魔素なのか、死骸から発生している物質なのかは後で調べればいい。
範囲を考えず最大に近い魔力で展開してしまったため、清潔は俺を中心に湖の対岸にまで到達。周辺に落ちていたモンスターらの死骸が塵と消えてしまったのは、不可抗力。清潔って意外と怖い魔法でした。
それと同時にブロライトの悲鳴が収まった。
――うむ もう 大事ないようだ
プニさんの了承を待って俺とクレイは背から降りる。
ブロライトは額に脂汗をかき、整わない呼吸を必死で繰り返していた。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「ブロライト、ゆっくり呼吸をするんだ」
「きゅうに、むねが、くるしく」
「うん、悪かった。たんま、っていうのは、ちょっと待てって意味なんだよ」
「ふふ、ふ、タケルの、郷の、ことば、なのじゃな」
「そうそう、とりあえず……調査」
ブロライトの背に手のひらを当て、今の症状を調べる。
何が原因かわからないまま回復させるわけにはいかない。
【ヴェルヴァレータブロライト ハイエルフ ランクA】
急性魔素中毒症。
急性魔素中毒?
また専門用語が出てきたが、急性っていうのは急になるってことだよな。で、魔素の中毒。高濃度の魔素にあてられたということだろうか。
「クレイ、プニさん、ブロライトは魔素中毒になったようだ」
「なんと!? しかし、いくら高濃度の魔素を吸い込んだとはいえ、ブロライトはハイエルフではないか」
ハイエルフはエルフよりも魔力が高い。そのぶん、魔素の力も多く吸収、消費する。それだけ魔素に対する耐性もあるんだけど、その許容を超えるほどの魔素がこの辺りにあるのかもしれない。
――タケル 魔力の 効果が 消える
「え! それはやばい。また清潔を展開するより、今造ったこれを試してくれ」
「なんだこれは」
小瓶をブロライトとクレイに手渡し、浄化魔道具と説明。
それぞれに起動をさせ、高濃度の魔素から身を守らせた。
光の膜が二人を包み込み、外気から身体が完全に隔離されたのを確認。それからビーをブロライトに手渡した。
「ピュイッ!?」
「タケル、お前はどうするんだ!」
「俺はたぶん大丈夫。ここなんかよりも、ずっと濃い魔素の中にいたことがあるから」
「ピュイィ! ピュイ!」
心配して叫ぶビーをよそに、魔素はあっという間に湧いて出てきた。どこからということはわからない。目に見えないからだ。肌にまとわりつくような嫌な感覚。
ビーはエルフの郷の魔素で具合を悪くしていたから、まだそれほど免疫力が強くないんだろう。
うーん、ちょっと湿気を感じるかな。エルフの郷よりも濃い湿気。梅雨の時期に二日続けて雨が降った後のようだ。不快指数百パーの。
「クレイ、魔素中毒はどうやって治すんだ?」
「うむ。俺も詳しくはわからぬが、清浄な気を吸わせると症状が緩和すると聞いたことがある」
「なるほどな」
「ピュー?」
頷いてはみたものの、よくわからない。ともかく綺麗な空気を吸わせればいいってことだろうか。
浄化魔道具は、悪い空気などを寄せつけない効果がある。このまま時間が経てばブロライトは治るはず。
事実、ブロライトの呼吸は落ち着き、青かった顔色は元に戻りつつあった。
「大丈夫か? ブロライト」
「はあ……急に胸が苦しくなったのじゃ。こう、息が止まって、死ぬかと思うた!」
うん、笑顔で言うことじゃないな。
強烈すぎる魔素はハイエルフをも苦しめるのか。それなら、洞の周りに転がっていた大量のモンスターらもまた、濃い魔素の影響で死んでしまったのかもしれない。やだ怖い。ここら周辺一帯、致死量の魔素がたちこめていたってこと?
古代竜であるボルさんの住処に溜まっていた魔素も、普通の人間なら即死だって言っていたな。
――タケル
「どうしたプニさん」
――あの 洞より 強き魔の 力を 感じる
「あの洞……えっ、今から行くキエトの洞? ええええ」
――身体に 害なす 毒が 溢れている
まじか。目的地が毒まみれって、それどうよ。
そりゃ洞って聞いて、何事もなくるんるん気分で行けるような場所でないことは想像していたが、まさかの毒まみれ。
毒に免疫のあるモンスターは、より凶暴になるんだよな。おまけに濃い魔素も吸い込んで、それでも生き延びているとなると……
これ、絶対にDやCランクの案件じゃないぞ。
「よし! もう大丈夫なようじゃ!」
元気よく飛び起きたブロライトは、手に握りしめていた小瓶をしげしげと見つめた。
俺が渡した小瓶は、持ち主が停止させるまでぼんやりと光を放ち続ける。ミスリル魔鉱石を動力源としているから、七日間連続で使い続けたとしても、停止することはない。
「大量の魔素はキエトの洞から出ているらしい。つまり、あの洞に近づくだけでさっきのブロライトみたいに大変なことになる」
ハイエルフですらもがき苦しむほどの魔素だ。たとえドラゴニュートであるクレイストンに耐性能力があったとしても、試してみようとは言えないし、耐性能力は万能なわけではない。
俺はほら、いろいろと恩恵をもらってるから、どれだけ強い毒や魔素にさらされたとしても大丈夫。
「タケルの造りし魔道具があれば、死に至ることもないのだろう?」
「うん。それは絶対に手放さないようにしてくれ。その魔道具で強い魔素が寄り付かないようにしているから」
「わかった!」
「プニさんは」
――ぶるる……
「ここで人型を取られるのはちょっと怖いな。洞の外で待ってる?」
神様が魔素の影響で死ぬとは思えないけど、どんな影響が出るかわからない。苦しんで暴走してあちこち壊されたら困る。
――お前は 魔素が 目に見えぬで あろう
「そりゃまあそうなんだけど、でもプニさんでかいから……」
背の高い俺すら見上げるほどの巨大馬。キエトの洞がよほど広くない限り、プニさんは入ることができない。入れたとしても、でかいから邪魔。
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