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「あっ、紺ちゃん!」
見ると可愛らしい浴衣を着た少女がツインテールをほわほわと揺らし駆け寄って来ていた。
「こんにちは、シュナさん」
顔見知りのようで紺は親しげに手を振る。
「紺ちゃーぁぁんっ!」
ばふっと紺に飛び込んだシュナは胸に顔を埋める。
紺の大きな手が小柄な頭にのせられる。
「今日どうしたの?」
「彼を届けに来ました」
不思議そうな顔で紺の背後をのぞき込んだシュナは、その姿を目に止めた瞬間興味をなくしたようだった。
「あっ、コジュウメか」
「なんだよその顔は」
「別に」
「はぁ?」
「こわーぁい」
コジュウメが呆れ顔で近づくとシュナは紺に隠れ、その腰に腕を回したまま上目遣いに甘えた声をあげる。そんなシュナの頭を笑顔で撫で付ける辺り、紺にもコジュウメを庇う気はないようだ。
「紺ちゃん遊ぼぉ」
「いいですね。でも、それはまた今度にしましょう」
「どうして?」
「今日はシュナさんにお願いがあってきたんですよ」
シュナは紺の言葉に顔を輝かせる。そんな様子にまた笑みを溢すと、紺はしゃがみ込みシュナと目線を会わせた。
「なぁに?」
「重用なお仕事です。シュナさんだけしか頼めません」
シュナは嬉しそうにうんうんと頷く。
「最近コジュウメが仕事をさぼって困っているんです」
「コジュウメは悪い子だね」
「えぇ、悪いです。だからシュナさんに彼のことを見張っておいてほしいのです」
「どうやって?」
「彼と遊んであげてもらえますか」
「えー、シュナは紺ちゃんと遊びたい」
「コジュウメがかまってもらえなくて泣いていましたよ」
「えー、だって紺ちゃんとがいいんだもん」
「私もシュナさんと遊びたいです。しかし彼を放っておくこともできません」
紺は困ったように眉根を寄せて見せる。そんな顔をじっと見つめ、紺と同じ表情をしたシュナは紺を慰めるように小さな手で優しく頭を撫でた。
「いいよ、シュナが見ててあげる」
「いいんですか?」
「うん。紺ちゃん嬉しい?」
「はい、とても嬉しいです。やはりシュナさんは頼りになります」
「本当に?」
「はい、本当です。シュナさんは優しいですね」
「優しい? シュナ優しい?」
シュナはあわあわと慌てた様子で紺に背を向け走り出す。その姿は店の暖簾の向こうへ消えた。
「なんだよあれ、俺のときと全然違うじゃねぇか」
コジュウメは呆れたと言わんばかりの苦笑いを浮かべている。
「真太郎さんを呼びに行ったのでしょう」
紺はにこにことコジュウメを見る。
「なんだよ」
「少なくとも二週間は安心です。シュナさんも飽きずに遊んでくれるでしょう」
「汚いやつ」
「さぁ、コジュウメ。仕事に戻りなさい」
「はいはい、最初からそのつもりだったよ」
さも怠そうに店に入っていくコジュウメと入れ違いにシュナが若い男の手を引いて出てきた。銀縁の眼鏡を掛けた男はシュナの半歩後ろをにこにことしながら歩いてくる。
「あぁ、真太郎さん。お久し振りです」
紺が声をかけると真太郎と呼ばれた男は親しげに手を振った。
「こんにちは。コジュウメさんを送っていただいたそうで。ありがとうございます」
真太郎は紺に笑顔を向ける。
「いえ、暇そうにしていたものですから」
「ねぇ紺ちゃん、シュナ優しいよね?」
「はい、シュナさんはとても優しいです」
シュナは満面の笑みで真太郎と繋いだ手をぶんぶんと振る。
「ほらぁ、トト聞いた? シュナは優しいのよ」
「そうだね。シュナは良い子だ」
そんなシュナの頭を撫で、同じく頬を緩ませた真太郎を紺は微笑ましく見つめている。
「そうだ。良い子のシュナに頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
「なぁに?」
「おばさんにコジュウメさんの分もお昼ご飯を用意してくれるように頼んでほしいんだけど」
「うん! いいよっ」
勢いよく頷いたシュナは店に駆けて行く。
「もうすっかり親子ですね」
シュナが店に入るのを見届けると紺が口を開いた。
「俺なんかまだまだです」
真太郎は首を振る。
「いえ、シュナさんを岡崎さんにお預けしてよかった。とても素直な子に育っているようですし、元気そうでなによりです」
「シュナは本当に良い子です。最近は店の手伝いもしてくれるようになって。でも俺ももっとしっかりしないと。シュナのトトはもっと強くないと、シュナが満足してくれません」
「そうですね。そう言っていただけると安心します」
紺の言葉ににこりと笑みを返した真太郎は爽音の方へと視線を向けた。
「こちらの方は?」
「あぁ、紹介がまだでしたね。爽音さんです」
「あっ、こんにちは。長谷爽音です」
「こんにちは。すみません自己紹介が遅れました。俺は岡崎商店の真太郎です」
真太郎は朗らかな笑みを浮かべた。優しそうな人だが、どこか頼りない印象を受ける。
「爽音さんは新しくこの町に?」
「はい、昨日」
「昨日ですか。では今は町の探索といったところですか」
「はい。買い物をしようと思って」
「だったらこの先にもたくさんお店がありますよ。…あっ、だから紺さんと?」
「はい、案内をと思いまして」
「そうだったんですか。引き留めてしまってすみません」
「いえ、ついででしたし。ですがお昼がまだなのでそろそろ」
「はい。またいらしてください。季節のお花も用意しておきますから」
「ではまた爽音さんと来ることにします」
微笑みを向けられたので頷いておく。
「お待ちしています」
「ではまた。コジュウメがいますから忙しいときはいつでも使ってください」
見ると可愛らしい浴衣を着た少女がツインテールをほわほわと揺らし駆け寄って来ていた。
「こんにちは、シュナさん」
顔見知りのようで紺は親しげに手を振る。
「紺ちゃーぁぁんっ!」
ばふっと紺に飛び込んだシュナは胸に顔を埋める。
紺の大きな手が小柄な頭にのせられる。
「今日どうしたの?」
「彼を届けに来ました」
不思議そうな顔で紺の背後をのぞき込んだシュナは、その姿を目に止めた瞬間興味をなくしたようだった。
「あっ、コジュウメか」
「なんだよその顔は」
「別に」
「はぁ?」
「こわーぁい」
コジュウメが呆れ顔で近づくとシュナは紺に隠れ、その腰に腕を回したまま上目遣いに甘えた声をあげる。そんなシュナの頭を笑顔で撫で付ける辺り、紺にもコジュウメを庇う気はないようだ。
「紺ちゃん遊ぼぉ」
「いいですね。でも、それはまた今度にしましょう」
「どうして?」
「今日はシュナさんにお願いがあってきたんですよ」
シュナは紺の言葉に顔を輝かせる。そんな様子にまた笑みを溢すと、紺はしゃがみ込みシュナと目線を会わせた。
「なぁに?」
「重用なお仕事です。シュナさんだけしか頼めません」
シュナは嬉しそうにうんうんと頷く。
「最近コジュウメが仕事をさぼって困っているんです」
「コジュウメは悪い子だね」
「えぇ、悪いです。だからシュナさんに彼のことを見張っておいてほしいのです」
「どうやって?」
「彼と遊んであげてもらえますか」
「えー、シュナは紺ちゃんと遊びたい」
「コジュウメがかまってもらえなくて泣いていましたよ」
「えー、だって紺ちゃんとがいいんだもん」
「私もシュナさんと遊びたいです。しかし彼を放っておくこともできません」
紺は困ったように眉根を寄せて見せる。そんな顔をじっと見つめ、紺と同じ表情をしたシュナは紺を慰めるように小さな手で優しく頭を撫でた。
「いいよ、シュナが見ててあげる」
「いいんですか?」
「うん。紺ちゃん嬉しい?」
「はい、とても嬉しいです。やはりシュナさんは頼りになります」
「本当に?」
「はい、本当です。シュナさんは優しいですね」
「優しい? シュナ優しい?」
シュナはあわあわと慌てた様子で紺に背を向け走り出す。その姿は店の暖簾の向こうへ消えた。
「なんだよあれ、俺のときと全然違うじゃねぇか」
コジュウメは呆れたと言わんばかりの苦笑いを浮かべている。
「真太郎さんを呼びに行ったのでしょう」
紺はにこにことコジュウメを見る。
「なんだよ」
「少なくとも二週間は安心です。シュナさんも飽きずに遊んでくれるでしょう」
「汚いやつ」
「さぁ、コジュウメ。仕事に戻りなさい」
「はいはい、最初からそのつもりだったよ」
さも怠そうに店に入っていくコジュウメと入れ違いにシュナが若い男の手を引いて出てきた。銀縁の眼鏡を掛けた男はシュナの半歩後ろをにこにことしながら歩いてくる。
「あぁ、真太郎さん。お久し振りです」
紺が声をかけると真太郎と呼ばれた男は親しげに手を振った。
「こんにちは。コジュウメさんを送っていただいたそうで。ありがとうございます」
真太郎は紺に笑顔を向ける。
「いえ、暇そうにしていたものですから」
「ねぇ紺ちゃん、シュナ優しいよね?」
「はい、シュナさんはとても優しいです」
シュナは満面の笑みで真太郎と繋いだ手をぶんぶんと振る。
「ほらぁ、トト聞いた? シュナは優しいのよ」
「そうだね。シュナは良い子だ」
そんなシュナの頭を撫で、同じく頬を緩ませた真太郎を紺は微笑ましく見つめている。
「そうだ。良い子のシュナに頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
「なぁに?」
「おばさんにコジュウメさんの分もお昼ご飯を用意してくれるように頼んでほしいんだけど」
「うん! いいよっ」
勢いよく頷いたシュナは店に駆けて行く。
「もうすっかり親子ですね」
シュナが店に入るのを見届けると紺が口を開いた。
「俺なんかまだまだです」
真太郎は首を振る。
「いえ、シュナさんを岡崎さんにお預けしてよかった。とても素直な子に育っているようですし、元気そうでなによりです」
「シュナは本当に良い子です。最近は店の手伝いもしてくれるようになって。でも俺ももっとしっかりしないと。シュナのトトはもっと強くないと、シュナが満足してくれません」
「そうですね。そう言っていただけると安心します」
紺の言葉ににこりと笑みを返した真太郎は爽音の方へと視線を向けた。
「こちらの方は?」
「あぁ、紹介がまだでしたね。爽音さんです」
「あっ、こんにちは。長谷爽音です」
「こんにちは。すみません自己紹介が遅れました。俺は岡崎商店の真太郎です」
真太郎は朗らかな笑みを浮かべた。優しそうな人だが、どこか頼りない印象を受ける。
「爽音さんは新しくこの町に?」
「はい、昨日」
「昨日ですか。では今は町の探索といったところですか」
「はい。買い物をしようと思って」
「だったらこの先にもたくさんお店がありますよ。…あっ、だから紺さんと?」
「はい、案内をと思いまして」
「そうだったんですか。引き留めてしまってすみません」
「いえ、ついででしたし。ですがお昼がまだなのでそろそろ」
「はい。またいらしてください。季節のお花も用意しておきますから」
「ではまた爽音さんと来ることにします」
微笑みを向けられたので頷いておく。
「お待ちしています」
「ではまた。コジュウメがいますから忙しいときはいつでも使ってください」
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