明媚な狐の交換魂

tokoto

文字の大きさ
11 / 12

10

しおりを挟む
 真太郎に見送られ、紺は彼の言っていた方向へと歩き出す。
「お時間をとらせてしまいました。急いでお昼ご飯にしましょう」
そう言った紺は近くの周りより一回り大きい建物に入った。
「ここは?」
続いて暖簾を潜り中に入ると食べ物の良い香りと熱気が肌を撫でた。地面から二段上がったところで人々は数ある囲炉裏を囲み何やら食べているようだ。
「食堂です。大概のものは揃っていますよ。デザートは…わかりませんが」
「いらっしゃいませ。あっ紺さんじゃないですか」
奥から盆にグラスを大量にのせた爽音と同い年くらいの少女が出てきた。
「あぁ、こんにちは」
「トオサナさんたちいらしてますよ。ご案内しましょうか」
「いえ、今日はいいです」
紺は入り口にいる爽音を手招く。
「あっ、お連れの方がいらっしゃるんですね。こちらへどうぞ」
案内されついて行くと竹格子の窓から光の通る明るい場所へと案内された。小さな囲炉裏を囲むように座布団が敷かれている。囲炉裏の縁はテーブルのようになっており鍋物以外も食べられるようだ。
「何が食べたいですか」
席に着くと紺がどこか楽しげに聞いてきた。
「メニューとかは…」
それらしいものはどこにも見当たらない。
「なんでもいいです。食べたいものを言ってみてください」
「なんでも?」
「はい」
「じゃあ…オムライスとか?」
「オムライスですね。ナホバさん、すみません」
紺は近くに控えていた少女に声を掛けた。
「はい、決まりましたか?」
「オムライスを二つ、お願いします」
「はい。すぐにお持ちします」
ナホバは清々しい笑顔を残し立ち去る。
「ね、あったでしょ」
そう言う顔は少し得意気だ。
「オムライスなんてないと思ってました」
「リクエストすればなんでも作ってくれます。店主のレパートリーに存在するものであればですが」
そのレパートリーが特別広いので、そう付け加え紺は窓の方を見た。
「今日は本当に良い天気です」
「そうですね」
「これを食べたらやはりカーペットを探しにいきませんか」
「まだ気にしてたんですか?」
「いえ、そういうわけではないのですが。やはり家はくつろげる場所であるべきだと思います」
「そうですけど…」
そこまでしてもらうのは少し申し訳ない。
 すると紺は誘い方を変えた。
「もし迷惑でなければ、です。一緒にお店を回ってもらえませんか? どうも午後は時間が空いてしまって」
紺は優しい声音で問いかける。
「爽音さんが気に入るものがあれば買いましょう。もちろん無理をして買う必要はありませんし、他の物を買っても構いません」
どうですか? と首を傾げる様子が本当に無防備に優しい。悪いやつに騙されるのではないかと少し心配になりながらも、その優しさを受けとるのはやはり嬉しい。
「じゃあ、そうしましょう。ショッピングを兼ねたお散歩ということで」
紺は嬉しそうに頷いてくれた。なんだか良いことをしたような気分になってふわふわと心が浮いてしまう。
 しばらく待っているとオムライスが二皿運ばれてきた。日の光を受けて輝くとろとろの卵を半分に割るようにケチャップがたっぷりとかけてあり、できたてオムライスは熱気を放っている。
「美味しそう」
「いただきましょうか」
手を合わせて口にいれると卵がふわりとほどけた。ほかほかのチキンライスが口の中を満たし幸せな香りが鼻を抜けていく。
「爽音さん、お顔が。そのまま溶けてしまいそうです」
だって美味しいんだもん。
「紺さんだって人のこと言えませんよ」
尻尾をゆらゆらと揺らし耳をへたりと垂らした姿はそれこそ溶けているも同然だ。
「仕方ありませんね、美味しいんですから」
 どうしようもないと割り切った余裕の笑みに、爽音もうんうんと頷いてまた大きな一口を頬張る。
「そういえば」
先ほどの親子、シュナと真太郎だったか。
「さっき立ち寄った岡崎商店って何のお店なんですか」
「そうですね…お花屋さんでしょうか。植物を取り扱っているお店ですよ」
植物かぁ。あぁ、真太郎が季節のお花とか言っていたか。
「花だけでなく野菜の苗や観葉植物も売っていますし、少しですが苗木なんかもあるはずです」
興味がありますか? と首を傾げる紺はなぜそんな顔をするのか、どこか嬉しそうに見える。
「そうだなぁ…また見てみるのもいいかもしれませんね」
家の前に花を置くのも有りか。おそらく枯らしてしまうが。
「コジュウメさんはあそこに住んでるんですか」
コジュウメの名前が出ると紺は僅かに眉根を寄せた。
「あぁ、いえ。警備隊は集合住宅のようなものがあって。あれの場合も定刻には任務を解かれるのでそれ以降はそこに帰ることになります。まぁ帰っているところなんて滅多に見ませんから、どこぞで野宿でもしているのでしょうが」
最後の一言を呆れた声音で付け足し、つんとした横顔は窓の向こうをちらりと見た。
「コジュウメさんは案内役じゃないんですか」
当然ながら紺の視線の先にコジュウメの姿はない。
「はい、似たようなものですが。警備隊です」
「警備隊って?」
「都の治安維持を目的に配備されています。私のような姿の者は皆都の警備隊と思っていただいて障りありません」
そう言って上目遣いにこれのことだと耳をひくつかせる。…かわいい。わかってやってるのだろうか。だとすると相当あざとい。
「紺さんもですか」
紺は頷く。
「じゃあ案内役というのは?」
「それもまた私の仕事です」
「二つあるってことですか」
「ふぅむ…正確にはそういうことになりますが、警備といってもそのような事態に陥ることもごく稀ですので。案内役が主となります」
「じゃあコジュウメさんも?」
「はい、あれの場合は監督者という形になりますが。皆それぞれにもう一つ二つ仕事を与えられているので多くの者は都で一日を過ごすことが大半かと」
そんなわけでついでに都を見張るという感じになっているらしい。仕事が逆転しているようにも思えるのだが、まぁそれで成り立っているのなら口を挟むことでもない。

 それからも小さな会話を挟みながらパクパクと食べ進めた結果、皿の中身はすぐに空となった。
「ふぅ、ご馳走さまでした」
口の端に付いたケチャップを拭き取り一息つくと、皿を下げに来たナホバに紺は礼を言ってお金のような物を机に置いて立ち上がった。
「行きましょうか」
紺に連れられて 外に出ると彼はさらに道を進んだ。
「あの、ありがとうございました」
振り返った紺は不思議そうな顔をする。
「お金です。出してもらってありがとうございました」
「あぁ、いえ。気にしないでください」
「でも━━」
「美味しかったですね、オムライス」
柔らかな笑みで見つめられる。
「は、はい。すごく」
「よかったですね」
それ以上は何もないよ、そう言いたげな笑顔を向けられて何も言えなくなってしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

透明な貴方

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。  私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。  ククルス公爵家の一人娘。  父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。  複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。 (カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)

処理中です...