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真太郎に見送られ、紺は彼の言っていた方向へと歩き出す。
「お時間をとらせてしまいました。急いでお昼ご飯にしましょう」
そう言った紺は近くの周りより一回り大きい建物に入った。
「ここは?」
続いて暖簾を潜り中に入ると食べ物の良い香りと熱気が肌を撫でた。地面から二段上がったところで人々は数ある囲炉裏を囲み何やら食べているようだ。
「食堂です。大概のものは揃っていますよ。デザートは…わかりませんが」
「いらっしゃいませ。あっ紺さんじゃないですか」
奥から盆にグラスを大量にのせた爽音と同い年くらいの少女が出てきた。
「あぁ、こんにちは」
「トオサナさんたちいらしてますよ。ご案内しましょうか」
「いえ、今日はいいです」
紺は入り口にいる爽音を手招く。
「あっ、お連れの方がいらっしゃるんですね。こちらへどうぞ」
案内されついて行くと竹格子の窓から光の通る明るい場所へと案内された。小さな囲炉裏を囲むように座布団が敷かれている。囲炉裏の縁はテーブルのようになっており鍋物以外も食べられるようだ。
「何が食べたいですか」
席に着くと紺がどこか楽しげに聞いてきた。
「メニューとかは…」
それらしいものはどこにも見当たらない。
「なんでもいいです。食べたいものを言ってみてください」
「なんでも?」
「はい」
「じゃあ…オムライスとか?」
「オムライスですね。ナホバさん、すみません」
紺は近くに控えていた少女に声を掛けた。
「はい、決まりましたか?」
「オムライスを二つ、お願いします」
「はい。すぐにお持ちします」
ナホバは清々しい笑顔を残し立ち去る。
「ね、あったでしょ」
そう言う顔は少し得意気だ。
「オムライスなんてないと思ってました」
「リクエストすればなんでも作ってくれます。店主のレパートリーに存在するものであればですが」
そのレパートリーが特別広いので、そう付け加え紺は窓の方を見た。
「今日は本当に良い天気です」
「そうですね」
「これを食べたらやはりカーペットを探しにいきませんか」
「まだ気にしてたんですか?」
「いえ、そういうわけではないのですが。やはり家はくつろげる場所であるべきだと思います」
「そうですけど…」
そこまでしてもらうのは少し申し訳ない。
すると紺は誘い方を変えた。
「もし迷惑でなければ、です。一緒にお店を回ってもらえませんか? どうも午後は時間が空いてしまって」
紺は優しい声音で問いかける。
「爽音さんが気に入るものがあれば買いましょう。もちろん無理をして買う必要はありませんし、他の物を買っても構いません」
どうですか? と首を傾げる様子が本当に無防備に優しい。悪いやつに騙されるのではないかと少し心配になりながらも、その優しさを受けとるのはやはり嬉しい。
「じゃあ、そうしましょう。ショッピングを兼ねたお散歩ということで」
紺は嬉しそうに頷いてくれた。なんだか良いことをしたような気分になってふわふわと心が浮いてしまう。
しばらく待っているとオムライスが二皿運ばれてきた。日の光を受けて輝くとろとろの卵を半分に割るようにケチャップがたっぷりとかけてあり、できたてオムライスは熱気を放っている。
「美味しそう」
「いただきましょうか」
手を合わせて口にいれると卵がふわりとほどけた。ほかほかのチキンライスが口の中を満たし幸せな香りが鼻を抜けていく。
「爽音さん、お顔が。そのまま溶けてしまいそうです」
だって美味しいんだもん。
「紺さんだって人のこと言えませんよ」
尻尾をゆらゆらと揺らし耳をへたりと垂らした姿はそれこそ溶けているも同然だ。
「仕方ありませんね、美味しいんですから」
どうしようもないと割り切った余裕の笑みに、爽音もうんうんと頷いてまた大きな一口を頬張る。
「そういえば」
先ほどの親子、シュナと真太郎だったか。
「さっき立ち寄った岡崎商店って何のお店なんですか」
「そうですね…お花屋さんでしょうか。植物を取り扱っているお店ですよ」
植物かぁ。あぁ、真太郎が季節のお花とか言っていたか。
「花だけでなく野菜の苗や観葉植物も売っていますし、少しですが苗木なんかもあるはずです」
興味がありますか? と首を傾げる紺はなぜそんな顔をするのか、どこか嬉しそうに見える。
「そうだなぁ…また見てみるのもいいかもしれませんね」
家の前に花を置くのも有りか。おそらく枯らしてしまうが。
「コジュウメさんはあそこに住んでるんですか」
コジュウメの名前が出ると紺は僅かに眉根を寄せた。
「あぁ、いえ。警備隊は集合住宅のようなものがあって。あれの場合も定刻には任務を解かれるのでそれ以降はそこに帰ることになります。まぁ帰っているところなんて滅多に見ませんから、どこぞで野宿でもしているのでしょうが」
最後の一言を呆れた声音で付け足し、つんとした横顔は窓の向こうをちらりと見た。
「コジュウメさんは案内役じゃないんですか」
当然ながら紺の視線の先にコジュウメの姿はない。
「はい、似たようなものですが。警備隊です」
「警備隊って?」
「都の治安維持を目的に配備されています。私のような姿の者は皆都の警備隊と思っていただいて障りありません」
そう言って上目遣いにこれのことだと耳をひくつかせる。…かわいい。わかってやってるのだろうか。だとすると相当あざとい。
「紺さんもですか」
紺は頷く。
「じゃあ案内役というのは?」
「それもまた私の仕事です」
「二つあるってことですか」
「ふぅむ…正確にはそういうことになりますが、警備といってもそのような事態に陥ることもごく稀ですので。案内役が主となります」
「じゃあコジュウメさんも?」
「はい、あれの場合は監督者という形になりますが。皆それぞれにもう一つ二つ仕事を与えられているので多くの者は都で一日を過ごすことが大半かと」
そんなわけでついでに都を見張るという感じになっているらしい。仕事が逆転しているようにも思えるのだが、まぁそれで成り立っているのなら口を挟むことでもない。
それからも小さな会話を挟みながらパクパクと食べ進めた結果、皿の中身はすぐに空となった。
「ふぅ、ご馳走さまでした」
口の端に付いたケチャップを拭き取り一息つくと、皿を下げに来たナホバに紺は礼を言ってお金のような物を机に置いて立ち上がった。
「行きましょうか」
紺に連れられて 外に出ると彼はさらに道を進んだ。
「あの、ありがとうございました」
振り返った紺は不思議そうな顔をする。
「お金です。出してもらってありがとうございました」
「あぁ、いえ。気にしないでください」
「でも━━」
「美味しかったですね、オムライス」
柔らかな笑みで見つめられる。
「は、はい。すごく」
「よかったですね」
それ以上は何もないよ、そう言いたげな笑顔を向けられて何も言えなくなってしまう。
「お時間をとらせてしまいました。急いでお昼ご飯にしましょう」
そう言った紺は近くの周りより一回り大きい建物に入った。
「ここは?」
続いて暖簾を潜り中に入ると食べ物の良い香りと熱気が肌を撫でた。地面から二段上がったところで人々は数ある囲炉裏を囲み何やら食べているようだ。
「食堂です。大概のものは揃っていますよ。デザートは…わかりませんが」
「いらっしゃいませ。あっ紺さんじゃないですか」
奥から盆にグラスを大量にのせた爽音と同い年くらいの少女が出てきた。
「あぁ、こんにちは」
「トオサナさんたちいらしてますよ。ご案内しましょうか」
「いえ、今日はいいです」
紺は入り口にいる爽音を手招く。
「あっ、お連れの方がいらっしゃるんですね。こちらへどうぞ」
案内されついて行くと竹格子の窓から光の通る明るい場所へと案内された。小さな囲炉裏を囲むように座布団が敷かれている。囲炉裏の縁はテーブルのようになっており鍋物以外も食べられるようだ。
「何が食べたいですか」
席に着くと紺がどこか楽しげに聞いてきた。
「メニューとかは…」
それらしいものはどこにも見当たらない。
「なんでもいいです。食べたいものを言ってみてください」
「なんでも?」
「はい」
「じゃあ…オムライスとか?」
「オムライスですね。ナホバさん、すみません」
紺は近くに控えていた少女に声を掛けた。
「はい、決まりましたか?」
「オムライスを二つ、お願いします」
「はい。すぐにお持ちします」
ナホバは清々しい笑顔を残し立ち去る。
「ね、あったでしょ」
そう言う顔は少し得意気だ。
「オムライスなんてないと思ってました」
「リクエストすればなんでも作ってくれます。店主のレパートリーに存在するものであればですが」
そのレパートリーが特別広いので、そう付け加え紺は窓の方を見た。
「今日は本当に良い天気です」
「そうですね」
「これを食べたらやはりカーペットを探しにいきませんか」
「まだ気にしてたんですか?」
「いえ、そういうわけではないのですが。やはり家はくつろげる場所であるべきだと思います」
「そうですけど…」
そこまでしてもらうのは少し申し訳ない。
すると紺は誘い方を変えた。
「もし迷惑でなければ、です。一緒にお店を回ってもらえませんか? どうも午後は時間が空いてしまって」
紺は優しい声音で問いかける。
「爽音さんが気に入るものがあれば買いましょう。もちろん無理をして買う必要はありませんし、他の物を買っても構いません」
どうですか? と首を傾げる様子が本当に無防備に優しい。悪いやつに騙されるのではないかと少し心配になりながらも、その優しさを受けとるのはやはり嬉しい。
「じゃあ、そうしましょう。ショッピングを兼ねたお散歩ということで」
紺は嬉しそうに頷いてくれた。なんだか良いことをしたような気分になってふわふわと心が浮いてしまう。
しばらく待っているとオムライスが二皿運ばれてきた。日の光を受けて輝くとろとろの卵を半分に割るようにケチャップがたっぷりとかけてあり、できたてオムライスは熱気を放っている。
「美味しそう」
「いただきましょうか」
手を合わせて口にいれると卵がふわりとほどけた。ほかほかのチキンライスが口の中を満たし幸せな香りが鼻を抜けていく。
「爽音さん、お顔が。そのまま溶けてしまいそうです」
だって美味しいんだもん。
「紺さんだって人のこと言えませんよ」
尻尾をゆらゆらと揺らし耳をへたりと垂らした姿はそれこそ溶けているも同然だ。
「仕方ありませんね、美味しいんですから」
どうしようもないと割り切った余裕の笑みに、爽音もうんうんと頷いてまた大きな一口を頬張る。
「そういえば」
先ほどの親子、シュナと真太郎だったか。
「さっき立ち寄った岡崎商店って何のお店なんですか」
「そうですね…お花屋さんでしょうか。植物を取り扱っているお店ですよ」
植物かぁ。あぁ、真太郎が季節のお花とか言っていたか。
「花だけでなく野菜の苗や観葉植物も売っていますし、少しですが苗木なんかもあるはずです」
興味がありますか? と首を傾げる紺はなぜそんな顔をするのか、どこか嬉しそうに見える。
「そうだなぁ…また見てみるのもいいかもしれませんね」
家の前に花を置くのも有りか。おそらく枯らしてしまうが。
「コジュウメさんはあそこに住んでるんですか」
コジュウメの名前が出ると紺は僅かに眉根を寄せた。
「あぁ、いえ。警備隊は集合住宅のようなものがあって。あれの場合も定刻には任務を解かれるのでそれ以降はそこに帰ることになります。まぁ帰っているところなんて滅多に見ませんから、どこぞで野宿でもしているのでしょうが」
最後の一言を呆れた声音で付け足し、つんとした横顔は窓の向こうをちらりと見た。
「コジュウメさんは案内役じゃないんですか」
当然ながら紺の視線の先にコジュウメの姿はない。
「はい、似たようなものですが。警備隊です」
「警備隊って?」
「都の治安維持を目的に配備されています。私のような姿の者は皆都の警備隊と思っていただいて障りありません」
そう言って上目遣いにこれのことだと耳をひくつかせる。…かわいい。わかってやってるのだろうか。だとすると相当あざとい。
「紺さんもですか」
紺は頷く。
「じゃあ案内役というのは?」
「それもまた私の仕事です」
「二つあるってことですか」
「ふぅむ…正確にはそういうことになりますが、警備といってもそのような事態に陥ることもごく稀ですので。案内役が主となります」
「じゃあコジュウメさんも?」
「はい、あれの場合は監督者という形になりますが。皆それぞれにもう一つ二つ仕事を与えられているので多くの者は都で一日を過ごすことが大半かと」
そんなわけでついでに都を見張るという感じになっているらしい。仕事が逆転しているようにも思えるのだが、まぁそれで成り立っているのなら口を挟むことでもない。
それからも小さな会話を挟みながらパクパクと食べ進めた結果、皿の中身はすぐに空となった。
「ふぅ、ご馳走さまでした」
口の端に付いたケチャップを拭き取り一息つくと、皿を下げに来たナホバに紺は礼を言ってお金のような物を机に置いて立ち上がった。
「行きましょうか」
紺に連れられて 外に出ると彼はさらに道を進んだ。
「あの、ありがとうございました」
振り返った紺は不思議そうな顔をする。
「お金です。出してもらってありがとうございました」
「あぁ、いえ。気にしないでください」
「でも━━」
「美味しかったですね、オムライス」
柔らかな笑みで見つめられる。
「は、はい。すごく」
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