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ルシューランにて
カルの一日2.
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座り直してフォークを握る。
「、、うまい! なんだよこれ!!」
まろやかな味が舌にとろけた。
「美味しいよね、ここの料理。少し他の宿よりも高いけれど、これなら納得だ」
甘じょっぱさに少し酸味が入った濃厚なソースに卵を絡めゆっくりと喉を潜らせる。その味はけして気取ったものではなく、どこまでも優しい、包み込む暖かさをもった味だった。
「なんか、ほっとする味だな」
言ってから急に恥ずかしくなった。青年はまじまじとこちらを見つめている。
「いや、これは、そのっ。懐かしいというか何というか━━━」
「そうだね」
俺の言葉に青年は笑った。雪のように溶けてしまいそうな柔らかな笑みで。嫌な気はしなかった。ただそのけして嘘ではないだろう笑顔の裏に、やはり冷めたい何かはあった。その何かに、笑い返すことが躊躇われた。
青年は徐にフードを脱いだ。
「それで、リプラーのことだけど」
白い髪が顔を出す。
「あぁ、うん。いいのか?」
「なにが?」
視線をたどった青年は納得したように口を開いた。
「あぁ、うん。もうばれちゃったし。他に誰もいないわけだしね」
「なんで、隠してるんだ」
サリュのことを思い浮かべた。あいつもだ。出会ったときからローブでその髪の色を隠していた。あいつは稀少な黒髪を煙たがられる存在として受け入れていた。そうやってここまできたのだと笑っていた。
「んー、危ないから。かな」
「危ない?」
「前に、何回かナイフをもった人たちに追いかけられたことがあって。試しに髪を隠してみたらめっきり回数が減ってね」
髪を狙われるのか。無理もない話だ。白い髪は迷信が付きまとう。特に青年のような純白は。不死の薬だのといった噂が流れている。高く売れる場合もあるのだろう。
「それからはずっとかな」
言葉のトーンが話の重みと噛み合わない。あいかわらず飯の話が続いているかのような口調で喋り続ける。それはどうもシリアスさに欠けた。
「俺が悪いヤツだったらどうするんだよ」
もちろんそんなつもりはないが。出会ったばかりの相手に無条件に弱味を見せる青年が少しばかり心配になった。
「大丈夫だよ」
「なんでだよ」
「君が僕を売ろうとしたとして、おそらく買われてしまうのは君の方だからさ。その赤い髪、怪しいヤツが寄ってきちゃうよ」
「、、、おい、お前━━━━」
「それで、何を教えてあげられるかな、、君は何を知っているの?」
「━━っ」
遮られた言葉は口の中で消える。嫌な予感は心に押し込んだ。
改めて、考えると。リプラーについて何を知っているのか。何も知らないに等しいが。
「名前、くらいかな。あと、触れたらヤバいんだろ」
青年はどこか残念そうに頷く。
「そっか。ちゃんと知っているのか」
「なんだよ」
「それだけ知っているならみすみす殺られに行くということはなさそうだね」
「死ぬのか?!」
そういう可能性もなくはないだろうとは思っていたが、実際に耳にするとちょっとくるな。
すると青年は慌てて手を振った。
「ごめん。言葉が悪かったね。もちろん厄介なんだけれど。死んでしまうというのは、、、まだ聞いたことがない事実だね」
「どういうことだよ」
「わからないんだよ。まだ、誰も。もし、死んでしまった人がいたのだとしてもね。取り込まれたら伝える人だっていなくなる」
「取り込まれる」
オウムのように繰り返した。それは、死ぬということなのか。あの黒い影が手を伸ばすように伸びるところを想像し身震いする。
「うん。取り込まれる。僕も実際には見たことがないけれど、聞いた話ではリプラーは動くものを取り込むらしい」
「動くもの?」
「、、、ここでは遠いね」
話はひとまず止められたようだ。すでに食べ終えた様子の青年は席を立ちこちらへ近づいてきた。
「座ってもいいかな」
「あぁ、もちろん」
正面に腰掛けた青年は頬杖を付く。垂れた横髪が窓からの光を受けて白銀に煌めいた。
「、、なぁ、あんたはさ。その。実際にリプラーを見たことあるのかよ」
きょとんとした顔が俺を見た。
「あるよ」
さも当然だと言わんばかりの表情に戸惑いを覚える。
「君だってあるんでしょ。だからそんなに気にしているんだ。旅先で見慣れないものを見たから、不安になって情報を集めだした」
「なんだよ」
「君は変なことを聞く人だ。と、思ってね」
「いや、それは」
ただ想像できなかったから。髪の色のせいだろうか。それともその三日月型に笑う青く澄んだ瞳か。こんなにも儚げな青年がひとりで町の外を出歩くのは危険な気がした。ましてリプラーから逃げるだなんて。俗世の風に吹かれただけでも淡く消えてしまいそうなのに。その汚れた服だけが青年が外から来たことの唯一の証明とも言えた。
「なんか、違和感があってさ」
「なに」
首をかしげる仕草に白い髪がまた揺れる。
「気を、悪くしないでほしいんだけど。あんたが一人旅ってのは、何か違う気がすんだよ」
弱そう。とはさすがに言えない。
「なるほど」
小さく呟いた青年は頭を支えていた左手を俺の方へと差し出した。その掌はなにか意味を持つのか上を向いている。
「言い忘れていたよ」
青年の手に僅かに力が入った。
「僕は」
青年の手から舞い上がった空気がフワッと二人の髪を揺らす。
━━━━━力を持つ者━━━━━━
そう言ったのか。その声が本当に聞こえたのかどうかすらわからない。目の前の光景に気を取られ、それどころではなかった。
「火が、、」
声を出すだけで精一杯だった。青年の手の中で明々と燃える赤い炎。中心で黄色い核が揺らめく。こちらまで熱が伝わってきて頬をじんわりと暖めた。、、、偽物じゃ、ない。
「ま、ほう、か?」
満足げに微笑む青年の顔が炎越しに映る。彼は頷いた。煌々と照らされた白い肌が赤く染まっていた。
魔法。それを体内で生成する特別な能力をもった人々がこの世界には存在するという。魔法は通常、魔鉱石などの魔術系材質の力を借りて起術する。それらの材料は組み合わせや形質の問題で構成が非常に複雑であることや入手困難な場合も多く、買おうとすれば値が張ることも少なくない。どうしても魔法を扱うには面倒な作業が付きまとうのだ。そのため、日常の生活で魔法を見かけることはごく限られた場合でしかない。
しかし彼らはそんなものを必要とせずに体外への放出が可能になった特別な体を持つ。一度に使うことができる魔力の量は使い手によって変わってくるが、そのほとんどが魔鉱石から得られる魔力を優に越えてくる。実際、手の中で燃えるそれが放つ熱は明らかに普通のものに比べ強い力を持っていた。
「だから大丈夫ってか。、、なるほどな」
初めて見たな。まさか本当に魔術師がいるなんて。
「それで、戦ったのか」
青年は首をかしげながらふっと手の力を解いた。炎がその手から姿を消した。
「リプラーとだよ。その力を使ったのか」
青年の口の端が上がった。
「何がおかしいんだよ」
「戦うだなんて、君は勇敢だね。そんなことじゃ命がいくつあっても足りないよ」
「でも、」
見たことがあるって。
「僕は見たことがあるだけだよ。人が逃げているところを。結局はリプラーの方が他の標的を見つけたみたいで取り込む前に消えちゃったんだけど」
少し残念そうに彼は呟く。その言いぐさに少し抵抗を覚えた。つまり彼は、襲われた人々を見捨てようとしたのだ。なぜか、少しの喪失感が心に生まれる。
少し冷めたスープに口をつけた。
「、、おいしい」
感情的な頭に少し冷静さを取り戻し、彼の行動が理解できないものでもないことを理解した。どんなものかもわからない相手と戦いたいヤツなんてそうそういない。
「取り込む。さっきもそう言ってたよな」
再び出てきた言葉は、やはり受け入れがたい感覚が伴っていた。
「そう。人、犬、猫。小鳥や蝶だって、動くものは全て。まぁ、そうはいっても聞いた話だから確信は持てないけれど」
「そうか。他には? 他になにか知ってることはないのか」
「そうだね。あとは、、」
青年はゆっくりと言葉を導きだし並べていく。
「形かな」
「形?」
「そう、形。彼らは色々な姿を持っている。固形だったり液体だったり。平面だったりすることもある。動物の姿をしていることもあるし、ときには人の姿をしていることもある」
「そんな、、」
それでは見分けがつかない。
「どんな姿であれ、真っ黒な動くものを見つけたらリプラーだと思って間違いないと思う」
「黒い物体、、」
記憶の中のリプラーを呼び起こす。あの黒さは異常だ。影さえ見分けがつかない吸い込まれるような黒。気味が悪い色。考えるだけで鳥肌がたつ。
「それくらいかな。あまり僕も知らないんだ」
ごめんよ、と青年は小さな声で謝った。
「十分だ。ありがとな、すごく助かるよ」
青年がフードを深くかぶり席を立つ。彼の顔は半分ほど隠れ、ほとんど表情が見えない。
「僕はもう行くよ」
「あぁ、悪かったな時間とらせちゃって」
首を振った青年は最後にいたずらに微笑んで口の端を指差して見せた。
「ここ、付いてる」
「えっ、」
恥ずかしさに視線を外し、急いで口を拭う。
━━━━━気を付けてね。君の存在は悪人を吸い寄せる━━━━━
「━━━お前、、えっ、」
顔を上げるとそこに青年の姿はなかった。周りを見渡してもどこにも見当たらない。消えた、、のか。
残った言葉だけが異様に頭に反響している。
太陽が雲に隠れ辺りが暗くなる。カルを取り巻く周囲の温度が急に下がったような寒気がした。
あいつは、、、俺のことを知っている。
嫌な予感は当たっていたようだ。
「、、うまい! なんだよこれ!!」
まろやかな味が舌にとろけた。
「美味しいよね、ここの料理。少し他の宿よりも高いけれど、これなら納得だ」
甘じょっぱさに少し酸味が入った濃厚なソースに卵を絡めゆっくりと喉を潜らせる。その味はけして気取ったものではなく、どこまでも優しい、包み込む暖かさをもった味だった。
「なんか、ほっとする味だな」
言ってから急に恥ずかしくなった。青年はまじまじとこちらを見つめている。
「いや、これは、そのっ。懐かしいというか何というか━━━」
「そうだね」
俺の言葉に青年は笑った。雪のように溶けてしまいそうな柔らかな笑みで。嫌な気はしなかった。ただそのけして嘘ではないだろう笑顔の裏に、やはり冷めたい何かはあった。その何かに、笑い返すことが躊躇われた。
青年は徐にフードを脱いだ。
「それで、リプラーのことだけど」
白い髪が顔を出す。
「あぁ、うん。いいのか?」
「なにが?」
視線をたどった青年は納得したように口を開いた。
「あぁ、うん。もうばれちゃったし。他に誰もいないわけだしね」
「なんで、隠してるんだ」
サリュのことを思い浮かべた。あいつもだ。出会ったときからローブでその髪の色を隠していた。あいつは稀少な黒髪を煙たがられる存在として受け入れていた。そうやってここまできたのだと笑っていた。
「んー、危ないから。かな」
「危ない?」
「前に、何回かナイフをもった人たちに追いかけられたことがあって。試しに髪を隠してみたらめっきり回数が減ってね」
髪を狙われるのか。無理もない話だ。白い髪は迷信が付きまとう。特に青年のような純白は。不死の薬だのといった噂が流れている。高く売れる場合もあるのだろう。
「それからはずっとかな」
言葉のトーンが話の重みと噛み合わない。あいかわらず飯の話が続いているかのような口調で喋り続ける。それはどうもシリアスさに欠けた。
「俺が悪いヤツだったらどうするんだよ」
もちろんそんなつもりはないが。出会ったばかりの相手に無条件に弱味を見せる青年が少しばかり心配になった。
「大丈夫だよ」
「なんでだよ」
「君が僕を売ろうとしたとして、おそらく買われてしまうのは君の方だからさ。その赤い髪、怪しいヤツが寄ってきちゃうよ」
「、、、おい、お前━━━━」
「それで、何を教えてあげられるかな、、君は何を知っているの?」
「━━っ」
遮られた言葉は口の中で消える。嫌な予感は心に押し込んだ。
改めて、考えると。リプラーについて何を知っているのか。何も知らないに等しいが。
「名前、くらいかな。あと、触れたらヤバいんだろ」
青年はどこか残念そうに頷く。
「そっか。ちゃんと知っているのか」
「なんだよ」
「それだけ知っているならみすみす殺られに行くということはなさそうだね」
「死ぬのか?!」
そういう可能性もなくはないだろうとは思っていたが、実際に耳にするとちょっとくるな。
すると青年は慌てて手を振った。
「ごめん。言葉が悪かったね。もちろん厄介なんだけれど。死んでしまうというのは、、、まだ聞いたことがない事実だね」
「どういうことだよ」
「わからないんだよ。まだ、誰も。もし、死んでしまった人がいたのだとしてもね。取り込まれたら伝える人だっていなくなる」
「取り込まれる」
オウムのように繰り返した。それは、死ぬということなのか。あの黒い影が手を伸ばすように伸びるところを想像し身震いする。
「うん。取り込まれる。僕も実際には見たことがないけれど、聞いた話ではリプラーは動くものを取り込むらしい」
「動くもの?」
「、、、ここでは遠いね」
話はひとまず止められたようだ。すでに食べ終えた様子の青年は席を立ちこちらへ近づいてきた。
「座ってもいいかな」
「あぁ、もちろん」
正面に腰掛けた青年は頬杖を付く。垂れた横髪が窓からの光を受けて白銀に煌めいた。
「、、なぁ、あんたはさ。その。実際にリプラーを見たことあるのかよ」
きょとんとした顔が俺を見た。
「あるよ」
さも当然だと言わんばかりの表情に戸惑いを覚える。
「君だってあるんでしょ。だからそんなに気にしているんだ。旅先で見慣れないものを見たから、不安になって情報を集めだした」
「なんだよ」
「君は変なことを聞く人だ。と、思ってね」
「いや、それは」
ただ想像できなかったから。髪の色のせいだろうか。それともその三日月型に笑う青く澄んだ瞳か。こんなにも儚げな青年がひとりで町の外を出歩くのは危険な気がした。ましてリプラーから逃げるだなんて。俗世の風に吹かれただけでも淡く消えてしまいそうなのに。その汚れた服だけが青年が外から来たことの唯一の証明とも言えた。
「なんか、違和感があってさ」
「なに」
首をかしげる仕草に白い髪がまた揺れる。
「気を、悪くしないでほしいんだけど。あんたが一人旅ってのは、何か違う気がすんだよ」
弱そう。とはさすがに言えない。
「なるほど」
小さく呟いた青年は頭を支えていた左手を俺の方へと差し出した。その掌はなにか意味を持つのか上を向いている。
「言い忘れていたよ」
青年の手に僅かに力が入った。
「僕は」
青年の手から舞い上がった空気がフワッと二人の髪を揺らす。
━━━━━力を持つ者━━━━━━
そう言ったのか。その声が本当に聞こえたのかどうかすらわからない。目の前の光景に気を取られ、それどころではなかった。
「火が、、」
声を出すだけで精一杯だった。青年の手の中で明々と燃える赤い炎。中心で黄色い核が揺らめく。こちらまで熱が伝わってきて頬をじんわりと暖めた。、、、偽物じゃ、ない。
「ま、ほう、か?」
満足げに微笑む青年の顔が炎越しに映る。彼は頷いた。煌々と照らされた白い肌が赤く染まっていた。
魔法。それを体内で生成する特別な能力をもった人々がこの世界には存在するという。魔法は通常、魔鉱石などの魔術系材質の力を借りて起術する。それらの材料は組み合わせや形質の問題で構成が非常に複雑であることや入手困難な場合も多く、買おうとすれば値が張ることも少なくない。どうしても魔法を扱うには面倒な作業が付きまとうのだ。そのため、日常の生活で魔法を見かけることはごく限られた場合でしかない。
しかし彼らはそんなものを必要とせずに体外への放出が可能になった特別な体を持つ。一度に使うことができる魔力の量は使い手によって変わってくるが、そのほとんどが魔鉱石から得られる魔力を優に越えてくる。実際、手の中で燃えるそれが放つ熱は明らかに普通のものに比べ強い力を持っていた。
「だから大丈夫ってか。、、なるほどな」
初めて見たな。まさか本当に魔術師がいるなんて。
「それで、戦ったのか」
青年は首をかしげながらふっと手の力を解いた。炎がその手から姿を消した。
「リプラーとだよ。その力を使ったのか」
青年の口の端が上がった。
「何がおかしいんだよ」
「戦うだなんて、君は勇敢だね。そんなことじゃ命がいくつあっても足りないよ」
「でも、」
見たことがあるって。
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感情的な頭に少し冷静さを取り戻し、彼の行動が理解できないものでもないことを理解した。どんなものかもわからない相手と戦いたいヤツなんてそうそういない。
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「そうだね。あとは、、」
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「形かな」
「形?」
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「そんな、、」
それでは見分けがつかない。
「どんな姿であれ、真っ黒な動くものを見つけたらリプラーだと思って間違いないと思う」
「黒い物体、、」
記憶の中のリプラーを呼び起こす。あの黒さは異常だ。影さえ見分けがつかない吸い込まれるような黒。気味が悪い色。考えるだけで鳥肌がたつ。
「それくらいかな。あまり僕も知らないんだ」
ごめんよ、と青年は小さな声で謝った。
「十分だ。ありがとな、すごく助かるよ」
青年がフードを深くかぶり席を立つ。彼の顔は半分ほど隠れ、ほとんど表情が見えない。
「僕はもう行くよ」
「あぁ、悪かったな時間とらせちゃって」
首を振った青年は最後にいたずらに微笑んで口の端を指差して見せた。
「ここ、付いてる」
「えっ、」
恥ずかしさに視線を外し、急いで口を拭う。
━━━━━気を付けてね。君の存在は悪人を吸い寄せる━━━━━
「━━━お前、、えっ、」
顔を上げるとそこに青年の姿はなかった。周りを見渡してもどこにも見当たらない。消えた、、のか。
残った言葉だけが異様に頭に反響している。
太陽が雲に隠れ辺りが暗くなる。カルを取り巻く周囲の温度が急に下がったような寒気がした。
あいつは、、、俺のことを知っている。
嫌な予感は当たっていたようだ。
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