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ルシューランにて
鉱山3.
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「でもさぁ、こんなに暗いんじゃ町の人たちはどうやって採掘してたんだろうな」
四人の最後尾、僅かに届く明かりと壁の感覚を頼りに歩くカルは、先程から背後が妙に気になって何度も振り返っては三人との距離を積めていた。
「そりゃあ魔鉱石でも持ってきてたんじゃないか」
先頭を行くコーストの声が反響する。
「でも光吸いとられちゃうんだろ?」
「あぁ、そうか。、、皆魔力持ってたとか」
それはさすがにないだろう。
「もしくは光属性の魔鉱石が育つんだ、鉱石の光はこの闇に耐性があるんじゃないか」
「そういうものかなぁ」
「まぁ、そんなこと考えるだけ無駄だ。俺たちだってこのランタンがあるんだ、何かしら方法があったんだろう。それに、明かりの広がり方からしてやっぱこの鉱山は魔法にも作用するんだろ。鉱山より強い光があればいくらでも照らせるんじゃないか」
「そんなのあるか?」
「発力剤ぶっかけるとか?」
コーストの答えにそんなものか、と納得する。正確な答えは誰にもわからないがどうにでも入ってくる方法は考えられそうだ。
「なぁ、これ、地下に潜ってるのか」
再びカルは口を開く。
「そうだな、下がってる。どうした?」
「いや、何でもない」
「ちょっ、カル狭いよ」
カルの体が前を行くサリュとぶつかる。
「そっそうか?」
「さっきから僕の靴蹴ってるの気づいてる?」
サリュの不満げな声。
「えっ、ごめん」
辺りに静けさが満ちる。四人の足音以外何も聞こえない。触れた小石が音をたててどんどんと遠ざかっていくあたり、前方はさらに深く潜っているようだ。
「カル、お前もしかして怖いのか」
しばしの沈黙の後コーストが何気なく問いかけた。
「はぁ?」
声がひっくり返る。
「怒った」
「怖いんだぁ」
「何でそうなるんだよ。違うって、ただ俺は━━━」
「おぉ、これか!」
コーストの叫び。次の瞬間狭かった道が唐突に開けた。
「なんだよ急に、、って、」
カルの言葉が詰まる。目の前にはあれほど暗かった世界に無数の星のように光が散っていた。
「星か、、」
「いや、違うな。魔鉱石だ」
コーストが早足で前へと進み出る。そこはドーム状に掘り出された採掘場らしかった。星のように見えたそれはコーストが言うように魔鉱石であり、暗闇の中、周囲を照らすほどの光はないものの内から力のある光を発している。
「ここだなぁ。町の人たちはここで石を採ってたのか」
そう言いながら近くの壁から半分ほど顔を出しているこぶし大の大きさの魔鉱石に近づいて行く。
「こんなところまで下りてきてたのか」
カルが歩いていくコーストの背を眺めると、その向こう、コーストに隠れた魔鉱石の光が急速に強くなっていくのが見えた。
「えっ、なんで」
カルが呟いた声は反響しながらコーストまで届く。
振り返ったコーストはにやにやとしながら手に持った小さな小瓶を掲げた。
「発力剤。これだけ明るければ怖くないだろう」
「別に怖くなんか」
辺りが魔鉱石の光で照らし出される。原石らしき尖った石が幾つか足元からも突き出していた。
「強がんなって」
「強がってない。怖くなんかなかった」
「別に恥ずかしいことじゃねぇのに」
なぁ、とコーストはサリュに顔を向ける。
「えぇ、そうですね。それにしてもよくそんなもの持ってましたね」
「ん? あぁ、拾ったんだよ。何かの役に立つかもって思ってな」
「思わないだろ、普通」
「それを思っちゃうのが俺の凄いところだな」
ひとりでうんうんと頷く。そして少し離れたところにも移動し、次々と魔鉱石を灯していく。
「これだけ明るけりゃ十分だろう」
発力剤を仕舞おうとするが、、あの瓶、どこかで。首を傾げるカルを不思議そうにサリュは見つめた。
「どうかした」
「、、いや。なんでもない」
「ふーん。じゃあ行こうか。ここにあるのは小さいものばかりだし」
サリュのにやけ顔が鼻につく。
「なんだよ」
「ここからは魔鉱石がありそうだし、カルも怖くないね」
最後は我慢できずに白い歯がのぞく。日頃の仕返しのつもりだろう、さも嬉しそうににこにことカルを見ている。
「怖くねぇし」
「行くって言ってもどこから下りるんだよ」
カルが辺りを見渡す。
「あっ、あそこじゃない?」
サリュの指差す先には一筋の亀裂があった。やはり暗闇が漏れ出すその隙間は、少し狭いが人が入るのには十分な大きさをもつ。
亀裂へとコーストが近づいて行く。
「続いてるぞ」
振り返ったコーストのどこか嬉しそうな顔がカルには理解できなかった。
そこは先程より足元に高低差が多く感じられる場所だった。人々が手前の空間で止まるのもわかる話で、この場所では機械の類いも使えず、線路も敷くことはできないのでトロッコも入ってはこれない。道具、例えば鶴嘴を振り上げようにも自然のままに突き出した壁が邪魔をするだろう。所々鉱物も見られるがやはり小さい。
「しつこい!」
「必死になってるぅ」
コーストの笑いを含んだ声が揺れる。
「最後代わろうか?」
「からかうなよ」
そんな会話を続けながらしばらく歩くと急にコーストが立ち止まった。
「どうかしましたか?」
サリュがリファーナにぶつかって止まる。
「これは、、」
コーストが言葉を詰まらせる。サリュは後ろから前方をのぞき込んだ。
「扉?」
前方の道はそれまでよりさらに狭まり、その先は石の板のようなもので塞がれていた。
「いや、扉というより、、」
どちらかというと石板を嵌め込んだような形で、開く用途を感じさせない。それは人が通ることのないよう道を塞き止めているようだった。
「自然にできたものではないな」
後から穴の形に合わせて取り付けたのは明らかであり、石板には掠れて読めなくなってはいるものの文字のようなものも見てとれる。コーストが後ろを振り返る。その視線はカルへと向けられた。
「どうするよ? 道を塞ぐってことはそれなりの理由があんだろうけど」
コーストに釣られたサリュとリファーナも振り返り、その場の視線がカルに一点に集まる。
「いくよ、決まってるだろ。早く魔鉱石持って帰らないとおばちゃんが心配する」
コーストが頷いた。
「なぁサリュ、先に行って中の様子を見てきてくれないか。このまま狭くなると俺は通れないんでな」
道は徐々に高さを失ってきている。元々亀裂から中を伸ばしただけのようで、言うなれば道ではなく穴だ。自然にできた部分が小さくなるにつれ、人によるところの荒さが出てきている。掘り進めるうちに出てきた疲れからか穴は極端に狭くなっていっていた。
「僕ですか」
「一番素早いからな」
リファーナを除いて一番小さいから。そう言いたいのは何となくわかる。実際のところはカルとコーストがでか過ぎるのだが。
「いいですけど。ランタンを貸していただけますか」
四人の最後尾、僅かに届く明かりと壁の感覚を頼りに歩くカルは、先程から背後が妙に気になって何度も振り返っては三人との距離を積めていた。
「そりゃあ魔鉱石でも持ってきてたんじゃないか」
先頭を行くコーストの声が反響する。
「でも光吸いとられちゃうんだろ?」
「あぁ、そうか。、、皆魔力持ってたとか」
それはさすがにないだろう。
「もしくは光属性の魔鉱石が育つんだ、鉱石の光はこの闇に耐性があるんじゃないか」
「そういうものかなぁ」
「まぁ、そんなこと考えるだけ無駄だ。俺たちだってこのランタンがあるんだ、何かしら方法があったんだろう。それに、明かりの広がり方からしてやっぱこの鉱山は魔法にも作用するんだろ。鉱山より強い光があればいくらでも照らせるんじゃないか」
「そんなのあるか?」
「発力剤ぶっかけるとか?」
コーストの答えにそんなものか、と納得する。正確な答えは誰にもわからないがどうにでも入ってくる方法は考えられそうだ。
「なぁ、これ、地下に潜ってるのか」
再びカルは口を開く。
「そうだな、下がってる。どうした?」
「いや、何でもない」
「ちょっ、カル狭いよ」
カルの体が前を行くサリュとぶつかる。
「そっそうか?」
「さっきから僕の靴蹴ってるの気づいてる?」
サリュの不満げな声。
「えっ、ごめん」
辺りに静けさが満ちる。四人の足音以外何も聞こえない。触れた小石が音をたててどんどんと遠ざかっていくあたり、前方はさらに深く潜っているようだ。
「カル、お前もしかして怖いのか」
しばしの沈黙の後コーストが何気なく問いかけた。
「はぁ?」
声がひっくり返る。
「怒った」
「怖いんだぁ」
「何でそうなるんだよ。違うって、ただ俺は━━━」
「おぉ、これか!」
コーストの叫び。次の瞬間狭かった道が唐突に開けた。
「なんだよ急に、、って、」
カルの言葉が詰まる。目の前にはあれほど暗かった世界に無数の星のように光が散っていた。
「星か、、」
「いや、違うな。魔鉱石だ」
コーストが早足で前へと進み出る。そこはドーム状に掘り出された採掘場らしかった。星のように見えたそれはコーストが言うように魔鉱石であり、暗闇の中、周囲を照らすほどの光はないものの内から力のある光を発している。
「ここだなぁ。町の人たちはここで石を採ってたのか」
そう言いながら近くの壁から半分ほど顔を出しているこぶし大の大きさの魔鉱石に近づいて行く。
「こんなところまで下りてきてたのか」
カルが歩いていくコーストの背を眺めると、その向こう、コーストに隠れた魔鉱石の光が急速に強くなっていくのが見えた。
「えっ、なんで」
カルが呟いた声は反響しながらコーストまで届く。
振り返ったコーストはにやにやとしながら手に持った小さな小瓶を掲げた。
「発力剤。これだけ明るければ怖くないだろう」
「別に怖くなんか」
辺りが魔鉱石の光で照らし出される。原石らしき尖った石が幾つか足元からも突き出していた。
「強がんなって」
「強がってない。怖くなんかなかった」
「別に恥ずかしいことじゃねぇのに」
なぁ、とコーストはサリュに顔を向ける。
「えぇ、そうですね。それにしてもよくそんなもの持ってましたね」
「ん? あぁ、拾ったんだよ。何かの役に立つかもって思ってな」
「思わないだろ、普通」
「それを思っちゃうのが俺の凄いところだな」
ひとりでうんうんと頷く。そして少し離れたところにも移動し、次々と魔鉱石を灯していく。
「これだけ明るけりゃ十分だろう」
発力剤を仕舞おうとするが、、あの瓶、どこかで。首を傾げるカルを不思議そうにサリュは見つめた。
「どうかした」
「、、いや。なんでもない」
「ふーん。じゃあ行こうか。ここにあるのは小さいものばかりだし」
サリュのにやけ顔が鼻につく。
「なんだよ」
「ここからは魔鉱石がありそうだし、カルも怖くないね」
最後は我慢できずに白い歯がのぞく。日頃の仕返しのつもりだろう、さも嬉しそうににこにことカルを見ている。
「怖くねぇし」
「行くって言ってもどこから下りるんだよ」
カルが辺りを見渡す。
「あっ、あそこじゃない?」
サリュの指差す先には一筋の亀裂があった。やはり暗闇が漏れ出すその隙間は、少し狭いが人が入るのには十分な大きさをもつ。
亀裂へとコーストが近づいて行く。
「続いてるぞ」
振り返ったコーストのどこか嬉しそうな顔がカルには理解できなかった。
そこは先程より足元に高低差が多く感じられる場所だった。人々が手前の空間で止まるのもわかる話で、この場所では機械の類いも使えず、線路も敷くことはできないのでトロッコも入ってはこれない。道具、例えば鶴嘴を振り上げようにも自然のままに突き出した壁が邪魔をするだろう。所々鉱物も見られるがやはり小さい。
「しつこい!」
「必死になってるぅ」
コーストの笑いを含んだ声が揺れる。
「最後代わろうか?」
「からかうなよ」
そんな会話を続けながらしばらく歩くと急にコーストが立ち止まった。
「どうかしましたか?」
サリュがリファーナにぶつかって止まる。
「これは、、」
コーストが言葉を詰まらせる。サリュは後ろから前方をのぞき込んだ。
「扉?」
前方の道はそれまでよりさらに狭まり、その先は石の板のようなもので塞がれていた。
「いや、扉というより、、」
どちらかというと石板を嵌め込んだような形で、開く用途を感じさせない。それは人が通ることのないよう道を塞き止めているようだった。
「自然にできたものではないな」
後から穴の形に合わせて取り付けたのは明らかであり、石板には掠れて読めなくなってはいるものの文字のようなものも見てとれる。コーストが後ろを振り返る。その視線はカルへと向けられた。
「どうするよ? 道を塞ぐってことはそれなりの理由があんだろうけど」
コーストに釣られたサリュとリファーナも振り返り、その場の視線がカルに一点に集まる。
「いくよ、決まってるだろ。早く魔鉱石持って帰らないとおばちゃんが心配する」
コーストが頷いた。
「なぁサリュ、先に行って中の様子を見てきてくれないか。このまま狭くなると俺は通れないんでな」
道は徐々に高さを失ってきている。元々亀裂から中を伸ばしただけのようで、言うなれば道ではなく穴だ。自然にできた部分が小さくなるにつれ、人によるところの荒さが出てきている。掘り進めるうちに出てきた疲れからか穴は極端に狭くなっていっていた。
「僕ですか」
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