メメント・モリ

山田輝

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メメント・モリ

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 ある日の呉方くれかたのことである。私は仕事帰りのみちで、
「ああああああああぁぁぁ!!!」
と思わず叫んでしまいたくなるような、もの凄い便意に襲われた。便意とは、"人間が大便をしたいと思う感覚"のことである。つまり、私は 至極しごくうんこしたい。良かった、私の大腸は今日も正常に機能しているようである。違う違う、はやくかわや(江戸時代のトイレの呼び名)に行かなければ、漏らしてしまう!!! ひとつ確認ーーー、私は成人している。成人してまで、ガキの塗り絵のようにパンツを茶色でぐちゃぐちゃに染めたんじゃ、メンツが立たないだろう。成人の権利剥奪である。

 と、そうこうしている内にセブンイレブンが見えた。これでようやく、うんこ出来る。少々危なかったが、大したことない闘いだった。私は、ここまで多くコンビニエンスストアを点在させるほどに発展した日本経済に感謝し、合掌をしながら、セブンイレブンの自動ドアをくぐり抜けた。
「さあ、セブンイレブン。俺をいい気分にさせてくれ」
この手のコンビニのトイレは、従業員に声を掛けてから使用するのがマナーだが、この緊急事態時においては、事後報告でも許されると思い、トイレへ直行した。さて、トイレの前に来てみたが、扉にこのような張り紙がされていた。
「新型コ○ナウイルス感染拡大防止のため、トイレの使用をご遠慮頂いております」 
「ーーーはあ!?!?!?!?!?」
思わず声が出てしまい、うんこが1cm進んだ。
「じゃあ、ここの従業員はどこでうんこしてんだよぅ!?!?!?」
この展開には、イスラム教創始者であるマホメットもビックリである。私は、合掌しながら入ってきた自動ドアを、今度は両手中指を突き立てて、出ていった。

 それにしても、人はこのような状況であればあるほど、色々と思考するものである。きっと走馬灯も、同じ原理である。私は一度も小説を書いたことがないが、今は小説のひとつでも執筆出来そうなほど、IQが高まっている。私と同じような体験をした人も少なくはないだろう。そもそも、"それ"の名称を考えればわかることである。"うんこ"、"うんち"、"大便"、など多くの名称を"それ"はもつ。人間は、ものやことに名称をつけることで、それを始めて認識するのだと、哲学だか、言語学だかの授業で習ったが、この名称の多さは、日本人がいかに"それ"について理解が深いのかを表していると言えよう! それにしても、このバカうんこは、私の自由意志とは関係なく、飛ぶ鳥を落とす勢いで出てこようとする。頭にきた私はエイっと、お尻を叩いてやった。そしたら、またうんこが1cm進んでしまった。
「ああああああああぁぁぁ!!!」
ケツだけに、墓穴を掘った。

 そうしていると、今度は衣料品店が見えてきた。そこには、改装されたばかりで綺麗なトイレがあり、以前利用したこともあるので、昨今の状況下であってもトイレを使用出来る裏付けも取れていた。何とかうんこの猛攻に耐えながら、日が落ちるのと同じスピードで歩き、漸くトイレへ辿り着いた。
「やっとうんこが出来る!!!」
急いでパンツを下ろしたら、そこはガキの塗り絵のように茶色でぐちゃぐちゃになっていた。
「ああああああああぁぁぁ!!! やっちまった!!!」
とりあえず、うんこモリモリ、おしっこチャーチャーして、困惑していると、異変に気付いた。よく見ると、パンツに付いているものは茶色じゃないぞーーー?じっくり見てみると、ほのかにピンク色をしていた。そして、形状も明らかにおかしい。どこかスライム状なのである。
「これは、ーーー脳みそ???」
ひどく気持ち悪くなった私は、顔面をアバターのように真っ青にし、失神した。

 目が覚めると、病室のベッドに仰向けになっていた。身体を起こすと、椅子に腰を掛けていた医師の先生が口を開いた。
「良かった、お目覚めですね。実は、あなた、○○の衣料品店の近くで、うんこ漏らして失神していたんですよ。そして、気付いた通行人の方が病院に連絡をくれ、今、というカタチです。成人しておいて、うんこ漏らすなんて、ダッサいですね」
「ハハッ、全くです。でも悪いことばかりではありませんよ。倒れているところを助けてもらえるなんて、確かに私のパンツはうんこ付きですが、私自身は運の尽きではなかったようですね」
「ワハハッ! これは上手いですね」
私と医師の先生は、高らかに笑った。窓ガラスから見えた空は、とうに日が暮れており、真っ茶色であった。


※この物語は、"結果"ではなく、人間の、便意を催した際における、思考の変移の"過程"を楽しむためのものである。
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