カレー

山田輝

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カレー

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 サクサクサクサクーーーー。

 トントントントンーーーー。

 モスッ、モスッーー。ススッ、ススッーー。

 何を切っているかは定かではない。そんな包丁の音が、リビングまでこだましてくる。リズミカルな音は、否応なしに僕の食欲を駆り立てる。

 パチッ、ボッ! トットットットットーー。

 コンロに火が点いたらしい。そしてすぐに、

 ジュジュジュジュジュジュジュッーー。

 ジュジュジュッ、ジュジュッジュジュッ。

 ゴトッ!

 ジュジュージュジュージュジュージュジュー。

 具材を炒める音が、一斉に聞こえてきた。今夜の夕飯のドラムが部屋の中に鳴り響いている。

「美味しそうだね、今夜は生姜焼き? チンジャオロース? うーん、生姜焼きとみた! 」

「ブー、ハズレ。今夜はカレーだよ」

 背を向けるエプロン姿の妻は、こちらを振り返らずに答えた。そして、

「カレーかー! たまにはいいなあ!」

 なんてことを言いながら、僕は彼女を見ている。すると、穏やかな時間が流れるこの空間に、5才の息子が乱入してきた。ユーモラスな音と、フワッとくる野菜の香りに口説かれて来たのだろう。すぐに妻の元まで、駆けて行った。

「ママー、なに作ってるの?」

「ママはねー、カレーを作ってるんだよ」

「やったー! カレーだ! パパ、カレーだって!!」

「え! そうなの!? やったね、嬉しいなあ」

 彼は我が愛妻にひっつきながら、逐一料理の過程を報告してくる。まだまだ母親のことが大好きなんだなあ。四六時中、ベッタリして離れないときだってあるくらいだ。

 コトコトコトコトーーーー。

 お! いよいよカレー作りも大詰めに差し掛かったらしい。

「こーら。もう出来上がるから、席に座っといて」

「えーー。もっとギューしときたいよ」

「危ないから」

 妻も妻で、息子のメロメロ攻撃には、かなりの耐性がついている。そりゃ、産まれて5年なんだもの。当たり前かもしれない。ひっついている息子の額には、玉のような汗が滲んでいた。こんな夏場にキッチンでハグなんて、間違ってもするものではないな。

「ほら、ママも暑がってるよ。こっちで待っとこうよ」

 そう言って、僕はキッチンから息子を退場させた。まったく、なんと平和な夏の暮れだろう。

 まもなく、妻は僕と息子に大盛りのカレーを運んできたーー。

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