14 / 210
四
しおりを挟む
夕子が呆れたように言うのにかまわず裕佳子はつづけた。
「ちなみに私は二年青薔薇組です」
「わたしたちは?」
気をひかれた美波は訊いてみた。
「……それは、今日中にはシスターから報告があると思います。学院についてですが……」
石の廊下に初夏の光がさしこみ、三人の影がゆれる。
行き交う数人の生徒たちや、中年のシスターをぼんやり眺めながら、美波は聞くともなしに裕佳子の話を聞いていた。
「当学院は、キリスト教の理念にのっとり婦女子の教育を促進する目的で来日したパトリック・ジョナサン氏によって創立されました」
隣を歩く夕子は、まったく興味がないというふうだ。
「ジョナサン氏の考えでは、勉強だではなく、教養を積み、かつ労働も学ばなければ真の人間にはなれないということで」
パンフレットの文言を丸暗記したような説明を、それでも美波は一応聞いていた。
「我が学院では、働くことの尊さを学ぶために、生徒にも労働奉仕を」
「労働奉仕って、なにすんのよ?」
ぶっきらぼうに訊く夕子に眉をひそめつつも、裕佳子は説明をつづける。
「平日の放課後の教室の清掃、週一度の調理実習、さらに週末の作業です」
教室の清掃ぐらいなら当たり前だが、調理実習というのが気になって美波は何をするのか訊いてみた。
「週一度、金曜日の夕食は生徒たちで作るのです」
「うわー」 さも嫌そうに夕子が小さな顔をしかめる。
「これは料理の勉強にもなり、栄養学を学ぶこともでき」
「そ、それで、週末の作業というのは?」
そっちが気になって口早に問う美波に、裕佳子は奇妙な目を向けた。
「それはおいおい説明します。この渡り廊下から向こうは寮であり、私たちのホームです。私たちはこれから友人となり家族として過ごすことになり、寮においてはファーストネームで呼ぶことになっています。私はこれから先、寮内ではあなたたちのことを、美波、夕子と呼ぶことになります」
「えー、と、じゃ、わたしたちもレイチェルさんのことを本名で呼ぶんですか?」
裕佳子に引きずられるように丁寧な口調になって美波は訊いてみた。
「いえ、私はジュニア・シスターなので、寮においてもレイチェルと呼んでください」
けっ……! と夕子の吐きだすような内心のわめきが聞こえそうだ。
渡り廊下を歩くと、広々とした石床の左右両側には緑の芝生が見え、遠目にベンチでくつろいでいる生徒たちが見える。
「ちなみに私は二年青薔薇組です」
「わたしたちは?」
気をひかれた美波は訊いてみた。
「……それは、今日中にはシスターから報告があると思います。学院についてですが……」
石の廊下に初夏の光がさしこみ、三人の影がゆれる。
行き交う数人の生徒たちや、中年のシスターをぼんやり眺めながら、美波は聞くともなしに裕佳子の話を聞いていた。
「当学院は、キリスト教の理念にのっとり婦女子の教育を促進する目的で来日したパトリック・ジョナサン氏によって創立されました」
隣を歩く夕子は、まったく興味がないというふうだ。
「ジョナサン氏の考えでは、勉強だではなく、教養を積み、かつ労働も学ばなければ真の人間にはなれないということで」
パンフレットの文言を丸暗記したような説明を、それでも美波は一応聞いていた。
「我が学院では、働くことの尊さを学ぶために、生徒にも労働奉仕を」
「労働奉仕って、なにすんのよ?」
ぶっきらぼうに訊く夕子に眉をひそめつつも、裕佳子は説明をつづける。
「平日の放課後の教室の清掃、週一度の調理実習、さらに週末の作業です」
教室の清掃ぐらいなら当たり前だが、調理実習というのが気になって美波は何をするのか訊いてみた。
「週一度、金曜日の夕食は生徒たちで作るのです」
「うわー」 さも嫌そうに夕子が小さな顔をしかめる。
「これは料理の勉強にもなり、栄養学を学ぶこともでき」
「そ、それで、週末の作業というのは?」
そっちが気になって口早に問う美波に、裕佳子は奇妙な目を向けた。
「それはおいおい説明します。この渡り廊下から向こうは寮であり、私たちのホームです。私たちはこれから友人となり家族として過ごすことになり、寮においてはファーストネームで呼ぶことになっています。私はこれから先、寮内ではあなたたちのことを、美波、夕子と呼ぶことになります」
「えー、と、じゃ、わたしたちもレイチェルさんのことを本名で呼ぶんですか?」
裕佳子に引きずられるように丁寧な口調になって美波は訊いてみた。
「いえ、私はジュニア・シスターなので、寮においてもレイチェルと呼んでください」
けっ……! と夕子の吐きだすような内心のわめきが聞こえそうだ。
渡り廊下を歩くと、広々とした石床の左右両側には緑の芝生が見え、遠目にベンチでくつろいでいる生徒たちが見える。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる