聖白薔薇少女 

平坂 静音

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「だから、なんでよ」

 〝あなた方〟という言葉が自分を含んでのことだと気づいた夕子が顔色を変えた。しかし二人の驚愕と落胆ぶりには目もくれず、シスター・アグネスは苛々いらいらした声をあげる。

「早くしなさい、後ろがつかえるでしょう」

「で、でも」

「親が何言ったか知らないけれど、あたしは聞いていないって」 

 きつい口調で言う夕子の背後から、先ほどの少女が小声で囁いた。

「とにかくシャワー済ませた方がいいわよ」

 彼女のうしろに並ぶ他の生徒たちの目がけわしくなっていることに気づいた美波は、仕方なく夕子の腕をひっぱった。

「とにかく、シャワー済ませよう」

 夕子は渋々ながらついてくる。

 二人は並んで空いた個室に入った。

 美波は、壁のフックにバスタオルをかけると、赤色の線が入った蛇口のコックをひねる。湯の温度は決定されているらしく調節できないようになっているようだ。おそるおそる手を湯に当ててみると、ちょうど良いぐらいの温度なので、安心して肩にかけた。
 
 半分だけの長さのドアでもかすかなプライヴァシーが保たれるのはありがたい。ホテルの備え付けのようなボディソープの栓を押し、手にとった緑色めいた液体を泡立て、それで首からお腹、下半身と洗う。ややきついが清々すがすがしいソープの香が心地よい。身体の柔らかい美波は手を伸ばして自分の背中を洗うこともできる。家でいつもそうしているように手際よく全身を洗った。

 髪を洗えないのは惜しいが、それでもかなりすっきりした気持ちになってバスタオルを取って身体をふいて外に出る。

 ちょうど夕子も洗い終わったようで、来たときとおなじく並んで外に出ると、そこでは美波よりかやや髪の長い、あのバーバラこと小早川紗江がのんびりとドライヤーで髪をかわかしていた。ジュニア・シスターは毎日髪を洗うことができるのだと思うと、なんとも不快なもやもやしたものが美波の胸にわいてくる。

 となりの夕子も着替えながら悔しそうな目をして紗江を睨んでいる。

 それでもとにかく二人とも着替えを終え、一階にある寮の部屋にもどるべく廊下へ出た。

「まったく、冗談じゃないよ。なんであたしたちは夏休みに帰れないの?」

 夕子がそんなことをぼやいていると、背後から小走りで見知らぬ生徒が駆け寄ってきた。一般の生徒よりやや髪を長くしているところを見ると、彼女もジュニア・シスターか、プレ・ジュニア・シスターというのかもしれない。

「あんたたち、廊下では私語厳禁よ」

「は?」

 目つきの鋭い大柄な生徒は二人を睨みつけると太い手を出した。
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