聖白薔薇少女 

平坂 静音

文字の大きさ
30 / 210

しおりを挟む
「それ以上取られたらどうなるの?」

 そっちが気になって美波はたずねていた。

「八枚取られたら奉仕作業。十枚取られたら、特別室のある別館行きよ。で、そこで特別奉仕という仕事をさせられるの。そうなったら夏休みもなくなっちゃうわよ」

 話の内容もさることながら、さらに気になるのは夏季休暇がないということだ。

「わ、わたしたちは今からもう夏休みは帰れないって決まっているらしいのよ」

 晃子は一瞬、怪訝そうな顔をした。

「……私がここへ来てからも、休暇に帰れないって決まっていた生徒がいたけど……。噂では、そういうのは特例っていうのか、事情がある生徒よ」

 目をぱちぱちさせながら晃子は困ったように薄茶色の眉をひそめる。その下の瞳もおなじくあわい茶色で、首をかすかにかしげる様子は人形のように可愛いらしい

「あの……あなたたち、何か事情があるの?」

 とまどいながら訊く晃子に夕子が怒ったように言う。

「べつにないけど」

「多分……わたしたち来た時期が中途半端だからじゃない?」 

 美波の言葉に晃子はほっとしたような顔になった。うまい説明を見つけてやることができ安堵しているのだ。

「あ、そうかも。夏休みに入るまでもうすぐだものね。とにかく気をつけて。廊下では私語厳禁よ。それと、他の生徒の部屋へ行くのも駄目よ」

「え? そうなの?」

 晃子とはもう少し話したいし親しくなれそうだが、彼女の部屋に行くのも駄目だという。

 ドラマなどで見る寮生活ではよく友人同士誰かの部屋にあつまってお菓子を食べながらお喋りする場面があるが、そういうこともこの学院ではいっさいないらしい。

「十時過ぎには外出も禁止よ。廊下も歩いては駄目よ」

「十時過ぎてトイレに行きたくなったらどうすんの?」 と夕子が訊くと、

「こっそり行く子もいるけれど、見つかったら注意されるわね。カードを用意しておいてね。見つかったとき出すカードがなければ、さらに厳しく罰せられるから」

 これには二人とも仰天した。

「そ、そんなことまで駄目なの?」

「いくらなんでもひど過ぎじゃん!」

「だから、寝る前にはなるべく水分を取らないようにしているのよ」

 晃子は苦笑いしたが、その笑いにはどこか痛々しいものがある。

「こ、こんなの人間の生活じゃないじゃん!」

 怒る夕子を見る晃子の目にはどこか柔らかいものがある。

 一足さきに成長、というか老成した者が持つことのできる智恵の光かもしれないが、そこにやどるのは諦観ていかんだ。

「仕方なわいよ。卒業するまでの辛抱よ。それにもうすぐ夏休みだし」
 
と言ってから、その夏休みを得られない二人に悪いと思ったのか、また困ったように眉を寄せ苦笑いする。

「じゃ、行くね。宿題しないと。あ、宿題忘れたらそれも罰になるから気をつけて」

 幸い、まだ今日は宿題がない。

 晃子が去っていったあとの物置の薄暗がりのなかで二人は同時に溜息をついた。

「なんか、本当にとんでもない所に来ちゃったわね……」

 疲れたように言う美波に、夕子は低くつぶやいた。

「絶対、辞める。……逃げてやる」

 入ったばかりだから、もう少し我慢しなさいよ、とは美波はもう言えないでいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...