聖白薔薇少女 

平坂 静音

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 ちょうど自分が座ったベッドの隣には、新たに入ってきた夕子が無言で座った。ほんの少しだが顔の傷の腫れがましになったように見える。晃子は隣の部屋になったようだ。

 やがて室に入ってきたのはシスター・アグネス。生徒たちが立ちあがる。
ふと、すぐそばの夕子の顔色が変わった気がしたが、美波はあわててシスター・アグネスの方へ向きなおった。

「皆さん、ごきげんよう」

 生徒たちがいっせいに答える。

「ごきげんよう、シスター・アグネス」

 シスター・アグネスは榛色の目を薄暗い電灯のしたで満足そうに細める。笑ってはいるようだが、笑っていないように感じるのは美波だけだろうか。

「皆さんにはここで一ヶ月半、神への特別奉仕に励んでもらいます。学院の掃除、日々の炊事、そして洗濯と、これから一所懸命がんばっていきましょう」

 そこでシスター・アグネスは一呼吸置く。

「なかでも大切なのは洗濯です。なぜ、この仕事が一番大切かわかりますか?」

「罪を洗い清めるからです」
 
 答えたのは緒方裕佳子、レイチェルだ。その答えにシスター・アグネスはにっこりと笑ってはみせるが、どこか空々しいものを美波は感じてしまう。

「そうです。洗濯という仕事をすることによって、皆さんの罪を洗い清めることができるのです。明日から、皆さんが使っているシーツやナイトウェアは勿論、寮のシーツ、カーテンなどもすべて洗濯していきましょう。裏にはそのための洗濯場があります」

 そのあとも生活のこまごまとした規則を説明すると、最後にシスター・アグネスはこう言った。

「皆さん、もうご存知かもしれませんが、二階には罪深き女性たちがいます。彼女たちは罪の子を身ごもっています。その罪を洗い清めるためにも仕事をしなければなりません」

 美波はぎょっとした。

「仲良く協力しあって仕事に励むように」

 妊婦にも労働をしろというのだろうか。

 雪葉の、気力を取り戻したものの、ひどく細くなった顎や首を思いだし、美波は咄嗟に声をあげていた。

「あ、あの、妊娠中の人も仕事するんですか?」

 シスター・アグネスは「あら?」という表情をしてみせた。

「当然ですよ。妊娠中も働く女性はたくさんいますし、家庭の主婦でも、出産直前まで家族の食事を作ったりするのは普通なんですよ。まして、罪深き女性なら、なおのことその罪を清めるために働かなければならないのです」

 相変わらず目は笑っているが、シスター・アグネスのほっそりとした顔からはどこか剣呑なものが感じられ、それ以上何も言えず、美波は黙って引き下がるしかない。
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